第五章 遺跡と聖霊と勇者

第52話 会談

 家庭教師に魔道具で使う魔術の紋様を習っていると、コールの魔術が届いた。

『これから。迎えに行く。いつもの場所で待つ』

 龍族であった。

 僕はまだ、体内の魔力の固体かが終わっていない。だが、呼ばれたのは理由があるはずだ。

 僕はテーブルの呼び鈴の魔道具を鳴らした。

「どうしました?」

 家庭教師のギードにいわれた。

「龍族からコールの魔術が届きました。正門で大騒ぎになるので行かないとなりません」

「龍族?」

 ギードは理解できないようだった。

 ドアがノックされてドアが開いた。

「失礼します」

 メイドのノーラが部屋に入ってきた。

「龍族からコールがあった。至急、導師に伝えて」

「はい」

 ノーラは答えると部屋から出ていった。

「どういうことですか?」

 家庭教師のギードは説明して欲しいらしい。

「僕が龍族に呼ばれたから士爵になった話は聞いてないですか?」

「いえ。知りません」

 ギードの表情は真面目なままだった。

「僕は龍族が心配するような魔道具を作るらしいのです。なので、その未来に心配しているのです」

「なぜ。龍族がわかるんですか?」

「龍族は未来を視れる力があるからです。そのため、定期的に確認したいようです」

「本当ですか?」

「ええ。詳しいことは導師に確認してください」

 入り口のドアからツカツカと歩く足音が聞こえた。

 ノックもなくドアが開いた。

「シオン。行けるな?」

 導師はドアを開けると同時にいった。

「はい」

 僕は席を立った。

「どういうことですか?」

 ギードは導師に質問した。

「悪いが急用だ。説明は後だ」

 そういう導師のもとに僕は駆けた。そして、そのまま家の廊下を歩き、玄関から出た。

「飛べるな?」

 導師にきかれた。

「はい」

 僕はフローティングの魔術で宙に浮かんだ。

「では、行こうか」

 僕は先に飛ぶ導師の後について飛んだ。


 正門では騒ぎになっている。

 龍族が三頭もいれば怖いだろう。だが、何回もあると慣れて見学に来る人がいるらしい。

 正門に近づいて龍を見物していた。

 導師は衛兵の前に降り立った。僕も続いて降りた。

「ザンドラ・フォン・ランプレヒト公爵だ。龍族との面会に来た」

 衛兵は導師の前に立つと姿勢を正した。

「お聞きしています。龍族が来られたら素直に通すようにいわれています」

「なら、通っていいか?」

「はい。どうぞ」

 衛兵は道を開けた。

 僕は導師に付いていく。そして、龍族の足元まで来た。

『今回も二人でいいのか?』

 先頭の龍にきかれた。

『宰相を待つ時間がもったいない。それに見世物になっているのも、申し訳なく思う。なので、二人でいい』

 導師はコールの魔術で答えた。

『なら、行こう』

 僕と導師は龍の手に包まれて運ばれた。


 いつもの空に浮く浮島に降ろされた。前回と同じように長老と会うようだ。

 速足で歩く導師に遅れないように小走りで走った。

 いつもの広場に着いた。そこには白い姿の長老を始め、何頭もの龍が並んでいた。

 僕と導師は龍に囲まれるかのような場所で止まった。

『ようこそ来なさった。今回呼んだのは小さき子の魔力の塊のことだ。進み具合を教えておくれ』

 長老は用件を簡潔にいった。

「シオン」

 導師は僕の背中を押した。

『まだ、固体にはできていませんが、流体に粘度がでてきました。ですが、まだ時間はかかります』

 僕は素直に答えた。

『そうか。進んでいるようだね。安心した。小さき子は忙しい様子なので心配していた』

 長老は穏やかな気配を放っていた。

『申し訳ありません。貴族としての勤めがあるのです。シオンの負担になっていますが、やめられないのです』

 導師はいった。

『人間とはかくも忙しいものだな。もう少し、マナを感じてゆっくり生きられぬのかな?』

『人族の寿命は短いのです。なので、龍族から見ると余計にそう見えると思います』

『確かに、我々から見たら人族の寿命は短い。だが、いくつもの積み重ねで大きなことをしている。それには頭が下がるが本質を忘れないで欲しい。小さき子は積み重ねてきたものを一瞬で消してしまう。それだけの力を体内にためている。優先順位を間違えないで欲しい』

『わかっています。ですが、今と将来を生きるのに必要な教育や付き合いなのです。それはやがてシオンを守る力となります』

『ふむ。個の力では生きられぬというのかな?』

『はい。私たち、人族が群れる理由です。人は龍よりも弱いのです。自然界では弱者と思っています』

『だが、人族は地に満ちている。弱いとは思わない』

『それは過大評価と思います』

『小さき子よ。今より早く固体化できるかな?』

 長老は僕にきいた。

『時間があっても難しいです。根を詰めて修行しても進みはあまり変わりません。それどころか偏差という病気になる確率が高くなります。修行は毎日の積み重ねが力となります。なので、欲しいのは時間でなく、期間です』

『うむ。わかった。人族の生活を見ても龍族には理解できない。任せるしかないな』

 僕は他の龍を見る。皆は賛成なのかうなずいていた。

『ちょっとお待ちください』

 賛成でない龍がいたようだ。

『僕はもうブレスを習得しました。なので、人族と共に魔力の塊を消してみせます』

 前に見た幼い龍がいった。

 会議の場がガヤガヤとうるさくなった。

 龍族の皆は笑っている。その場はもう会議の場ではなくなっていた。

『人族との話し合いは終わった。余計な手出しは無用だぞ』

 長老はいった。

『ですが、心配事は早くに消すのに悪いことはありません』

 長老はため息を吐いた。

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