第50話 光と影
導師が作ったゲートで家に帰ってきた。
最初に僕たちを見たのは門番だった。普段は外を向いているが異様な気配を感じて門の中を見たようだ。
門番はコールの魔術で執事を呼んだようだ。
玄関から執事があわてて出てきた。
「お早いお帰りですね」
執事は焦りながら身なりを正した。
「ああ。トラブルがあった。それで、残してきたノーラと荷物がある。それを運んでくれ。臨時で手伝いを雇っても構わないから」
導師は答えた。
「はい。わかりました」
「お前がいない間は私に任せろ。ノーラを頼む」
そういうと導師は僕の手を引っ張って中に入った。
導師は僕の手を離さずにリビングにいった。そして、僕の手を離してソファーに座った。
導師はコールの魔術を使った。
お茶を催促したようだ。
「何をしている。隣に座れ」
僕は導師の横に座った。
「今回はすまなかったな。あのように貴族を使い捨てにするとは思わなかった。……いや、私の浅慮でお前を危険にさらした。すまない」
貴族を使い捨てとは何のことかわからない。だが、誘拐された一件と関係があるようだ。
「いえ、父と会えましたから。相変わらず、元気そうでした。でも、敵同士になりました」
僕はそういいながら、父を捨て切ることはできなった。
「そうか。お前の父はお前を捨てたのだな?」
「わかりません。ですが、切り離せないのは同じです。僕を売っておきながら、自分の子と認識しています。僕には父が理解できません」
「そうだな。人の心は理屈で動いていない。お前が父親につながりを感じているのは仕方ないのだろう」
「……はい。導師の養子になったのに切り離せません。申し訳ありません」
僕はそういってから再び、父とのつながりは切れていないと感じていた。
「それを含めて養子にした。気に病むな」
「はい。でも、決着がつきそうです。父は僕を殺すといいました。僕も父を殺さなければなりません。そうでないと、他人を巻き込みます」
導師は僕の方に身を寄せた。そして、僕を抱え込む。
「その仕事は私に任せろ。お前には笑っていて欲しい。無駄に手を汚すことはない」
「ですが、僕の問題です。導師に全部を任せるほど、厚かましくありません」
「我が子の問題だ。親の手をわずらわせるのは子供の仕事だ。気にするな。お前は大人の知識はあるが、まだまだ子供だ。心は育っていない」
「……はい。情けないけど……」
「なら、甘えてくれ。そうでないと親として心配だ」
「……はい」
僕は導師に寄りかかった。
僕のダンスとカリーヌの無詠唱の練習にジスランの屋敷に訪れた。
練習はお茶の次なので、静かに紅茶を飲んでいる。
このゆったりした時間だけが、気を休める貴重な時間だった。
「そういえば、伯爵家が一つ消えたの知っている? 何でも人をさらったらしいわ」
カリーヌは思い出したかのようにいった。
「ええ、聞いているわ。子供一人さらうのに貴族の力を使ったらしいって」
レティシアは答えた。
「うん。それで、バランスが崩れているんですって。王位継承権にも関わってきたみたいよ」
「子供一人で、何でそうなるの?」
レティシアの疑問は当然だった。僕でも理解できない。
「何でも、第一継承者が力を持ち過ぎたのが問題らしいわ。戦略級魔術師が傘下に現れたかららしいの」
カリーヌはいった。
戦略級魔術師といえば、僕しか知らない。他にもそのような大規模魔術を使う人のウワサは聞かなかった。
「それなら、地位が盤石になっただけでしょう? 争う必要なんてないでしょう? 第一王子なんだから」
レティシアは答えた。
「でも、第二継承者の王子と第三継承者の王子が手を結んだらしいわ。それで、第一継承者の王子より影響力が強くなったらしいの」
カリーヌの言葉にレティシアはあからさまに嫌な顔をする。
「それって、私たちの家にも火の粉が降りかかるの?」
レティシアの私たちの範囲には導師の家も入っているのかわからない。だが、僕が誘拐された理由の一つかもしれない。
「ええ。息子を誘拐された貴族もいるらしいわ。そういえば、シオンは以前、誘拐されたのよね」
カリーヌにきかれた。
「ええ。二度目ですけど」
僕は何も考えず紅茶を楽しんでいた。
「え?」
カリーヌとレティシアの言葉が止まった。
「……二度目って、また誘拐されたの?」
レティシアにいわれた。
「え? 変なことをいいました?」
僕はきき返した。
「シオンはあれからまた誘拐されたの?」
カリーヌは確認するようにきいてきた。
僕は余計なことをいったのをいったようだ。だが、もう遅い。素直に答えるだけだった。
「……はい。睡眠薬を盛られました」
「お父様ー」
カリーヌはテラスから家の中に走って行った。
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