第43話 聖剣

 騎士団長に合って聖剣を見せてもらえる日になった。

 騎士団長は忙しいようだ。与えられた時間は少なかった。

 しかし、片手で数えるような数少ない聖剣を見れる人は少ない。僕が見れるのは公爵の特権だろう。

 僕は導師と共に登城した。

 導師は衛兵にいって、案内してくれる騎士を呼んでもらった。そして、その騎士についていって騎士団長の下に歩いていった。

 練習なのか、騎士たちが木刀で打ち合いをしていた。それ以外の人も素振りや打ち込みなどをしている。

「ここで、お待ちください」

 ここまで案内した騎士は一人の男の下に駆けていった。 

 そして、戻って来ると一人の男を連れて来た。

 男は堂々としている。鎧で隠れていない腕は太く体格に恵まれていた。

 導師の前に来ると、男はひざを着いた。

「ランプレヒト公爵様。ようこそ、お出でくださいました。ロルダン・ペルニーアと申します。むさくるしい場所ですが、ご容赦ようしゃしてください」

「いや。こっちが無理をいったんだ。感謝しかない」

「そういっていただけると、助かります」

 僕は導師が偉いことを思い出した。

「何だ。顔に何かついているか?」

 僕は顔を振って否定した。

「さっそくだが、聖剣を見せてくれないか? シオンが興味があるようでな」

「はい。こちらになります」

 男ははいている剣を両手で持った。

「抜いてもらえんか?」

 男はうなずくと剣を抜いて刀身を見せた。

 一見すると、良い剣なのはわかる。だが、聖剣というには普通に見えた。

「導師。聖剣て人格があるんですか? 触る相手を選ぶとか」

 僕は導師にきいた。

「初めて聞くな? ペルニーア騎士団長。どうなのだ?」

「誰でも触れますが、持ち主を選びます。人によって特殊な技が出ますので」

「どんな技なんだ?」

「一振りで五つの剣筋が走ります。もちろん、切った相手は六つに分かれます」

「ほう。それはすごいな。相手は防ぎきれんな」

「はい。ですが、この技を何十回も使うと体がだるくなります」

「魔力切れか?」

「わかりません。それに、私には魔術の才がないので魔術は使えません」

「シオン。どう思う?」

 導師にきかれた。

「聖剣に魔力を流して調べないとわからないです。少なくとも、技を見てみないと」

 導師はうなずいた。

「聖剣に魔力を流させてくれないか?」

 騎士団長は苦い顔をした。

「申し訳ありません。王に下賜かしされてから大事にしています。実験はして欲しくありません」

「それは悪いことをきいた。その代り、技の方を見せてくれ。聖剣の力を見てみたい」

「それなら、喜んで」

 騎士団長は剣をさやに収めてから剣をはいた。そして、立ち上がると、一本の立っている丸太の前に行った。

 そして、剣を抜くと木刀に向かって構えた。

「はあっ!」

 騎士団長は大木に向かって剣を振った。

 剣の後を追うように剣筋が五本も走った。そして、丸太をバラバラにした。丸太は幾つにも切られて原形をとどめていなかった。

「いかかでしょう?」

 騎士団長はいった。

「うむ。見事だ」

 導師は手を叩いた。

 僕の目から見て五本の剣筋は魔術に似ていた。

「導師。あれって魔術ですよね?」

 僕はきいた。

「そうか? 聖剣が起こす奇跡とされているぞ」

「でも、聖剣は騎士団長から魔力を吸い出しましたよ」

 僕の目では腕から魔力が聖剣に流れるのが見えた。

「本当か? なら、魔道具と同じ理屈で動いているのか?」

「僕の推理ならそうなりますけど、魔力を流して確かめないとわかりません」

 騎士団長はこちらに来た。

「ペルニーア騎士団長。魔力を吸われた気配はないか? 魔道具を触った時みたいに」

「わかりません。剣を振るう時は無心なので」

「そうか……。シオンが剣を振ったらできると思うか?」

「この子がですか?」

「ああ。魔術に似ているといったんだ。だから、魔術師でも同じことをできるかもしれない」

 騎士団長は苦笑いをした。

「剣を振るには筋肉が足りません。持つだけで精一杯かと」

 騎士団長の笑顔には嫌味はなかった。

「まあ、そうだな。最後にこの子に聖剣を握らせてくれんか。記念にな」

「それは喜んで」

 騎士団長は剣を前に出した。

 僕は聖剣の柄を握った。魔力が吸われる感覚があった。

「危ない!」

 僕は急いで手を離した。

 二人はきょとんとしていた。

 僕は剣の鞘を指さした。

 そこには切れた跡があった。

「え?」

 騎士団長は驚いていた。

「どういうことだ? シオン」

 導師はいった。

「魔力を吸われました。さやの傷は聖剣が僕の魔力を使って作った傷かと」

「聖剣に選ばれたのか?」

 騎士団長はいった。

「聖剣に人格がないのなら、相性のよい魔力だったと思います。僕は剣術は習ってませんから」

「なるほど。聖剣は精神感応金属なのは知っている。だが、剣を作るの過程には紋様を刻むことはないはずだ」

 導師は考えながらいった。

「紋様って、魔道具のですか?」

「ああ。だが、魔道具と同じと考えると理由がつく。剣を鍛える過程で紋様が偶然に刻まれる。それなら、聖剣が普通の剣と違う理由になる」

「導師」

 僕は騎士団長に目線で示した。

「聖剣が魔道具と同じ? 考えられん。いや。だるくなるのは魔力切れだ。あの技も魔術なら理由がつく。だが、しかし……」

 騎士団長は考え込んで、目はどこも見ていなかった。

「ペルニーア騎士団長。すまん。私の考えは魔術師としての推測にしか過ぎん。何でも魔術で考える。私の悪いクセだ。気にしないで欲しい」

「あっ。はい」

 騎士団長は顔を上げた。

「私は可能性をいったに過ぎない。だから、気にしないでくれ。魔術で解析しても、聖剣なのは変わりがない。だから、騎士らしく誇りを持ってくれ」

「はい。王の剣と盾なのは自負しています」

「ああ。それでいい。小難しいことを考えるのが、私の仕事だ。それは推論が多くを占めている。だから、気にしないでくれ」

 導師は騎士団長の肩を叩いた。

「すまんな。ちょっとした好奇心で、貴君の仕事の邪魔をした。今日はありがとう」

 導師は帰り道に体を向けた。

 僕は導師の後を追った。

 僕は逃げるかのように歩いている導師を見た。

「あれって、やっぱり、魔術ですかね?」

 導師は苦い顔をする。

「お前も、そう確信したか?」

「おそらくとしかいいたくないです。ロマンがありません」

「まあ、そうだな。聖剣より魔剣の数が多い理由はわかった気がする。都合のいい紋様を刻まれる確率は低いからな」

「僕の杖も紋様を刻めば同じことができますか?」

「できるが、聖剣のようにいわれないな。聖剣は作る過程でできた偶然の産物だ。それが伝説を作っている。後付けでは無理だな」

「でも、後付けでつけられるのなら、したいです」

「なら、魔道具の紋様の勉強が必要だな。家庭教師にいっておこう」

 僕は内心で喜んだ。

 自習ではすぐに眠くなって覚えられない。電子回路を習うのと一緒で難しいからだ。

 それに僕は自分で習うより、教えてくれる方が楽だからだ。

 聖剣は解析できなかったが、思わぬ収穫はあった。

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