第35話 戦略級魔術
「……戦略兵器ができたら、怒りますか?」
僕は導師にきいた。
「今なら許す。というか、全力を出せ。全てを出さないと死ぬぞ」
「わかりました」
僕はズボンのポケットに手を入れた。そして、鉄の玉を握る。
二つ握ると転移の魔法で飛ばした。
エネルギーは質量と光の速さの二乗で表せる。もし、光の速さより速い速度で物体がぶつかった時、無限ともいえるエネルギーが放出されるはずだ。
その光速より速く物体をぶつける方法がある。転移の魔法だ。二つの物質をぶつかるように同時に転移した時、二つの物質は光よりも速くぶつかる。転移の魔法では物体を押しのけて現れる。二つが押しのけて現れるのを利用すれば莫大のエネルギー得れるはずだ。
それを証明するかのように、遠くの空には太陽のように光った。そして、ドスンと音をして爆風を起こす。その爆風はきのこ雲を作った。
有翼族は太陽が現れたかのような巨大な火球の中に消えていった。
実験は成功らしい。だが、今は戦っている最中だ。喜んでいるヒマはない。
『何をした!』
有翼族の女は怒鳴った。
『人族を下に見た罰だ。おぬしの
龍族の長老は穏やかにいった。
『認めん。認めんぞ。私、自らがほふってやる』
有翼族の女は僕に向かって手を振るった。
そこには大きな火球が現れた。
僕は有翼族の女に指を指す。すると、指先から太いプラズマが走った。プラズマの魔術だがオリジナルなので名前はない。
それは火の玉を消して有翼族の女に迫った。
しかし、攻撃は避けられたようだ。カウンターを避けるとは思いもしなかった。
『有翼族の女子よ。人族の力はわかっただろう。素直に退け』
龍族の長老はいった。
有翼族の女は苦々し気に僕を見ている。しかし、逃げることも戦うこともしなかった。
そこに落雷が落ちた。
いや、それは有翼族の男だった。雷をまとって現れたようだ。
有翼族の女は空から落ちてきた。その体は肩から切られて二つになっていた。
有翼族の男は剣を収めると龍族に向き直った。
『族の者が失礼を働いた。これで許して欲しい』
有翼族の男は龍族の長老に頭を下げた。
空には仲間と思う有翼族が集まっていた。
『一番迷惑をかけられたのは人族だ。私が許しても人族が許すとは思わんが?』
『そうか。わかった』
いきなり現れた有翼族の男は片ひざを着き頭を下げた。
『私の
男はあやまるだけだった。言い訳をする気はないようだ。
『今回の件はどういういきさつだ?』
導師は怒っていた。
『人族が爆弾を抱えている。それを排除するのは我々の使命だと、先ほどの女は仲間を
『有翼族は私たちを、人族をどう思っているんだ?』
『他の種族と変わらない。人族が己の愚かさで滅びるなら仕方ないと考えている。だが、力を貸したい仲間もいる』
『それで、今後も今回みたいな騒動になるのか?』
『今後はないといいたいが、わからない。我々も色々な考え方を持つので保証はできん。だが、今回のように愚かな行動をするのなら断罪する』
導師はため息をついた。そして、言葉を飛ばす。
『なら、早めにそうしてくれ。死んでからでは遅いからな』
『わかり申した』
男は立ち上がると、僕を見る。何かいいたそうだが口は閉じていた。
『失礼する』
有翼族の男は空に飛んでいった。
僕は有翼族が浮かぶために使う魔力の流れを見ていた。
有翼族は魔力のあつかいに長けているようだった。
『小さき子とその母よ。危険は去った。だが、小さき子の使った魔術が気になる。小さな魔力で大きな力を振るった。私には理解ができない』
導師は僕を見る。
理由は僕が話さなければならいようだ。
『えーと。物理法則なので、理解できないかと。光に速さがあると知っていますか?』
『知らんな。光に速さがあるのかい? 想像もできない』
『はい。なので、理解できないかと……』
『ふーむ。だが、あのような魔法を作られると身の危険を感じる。龍族でも危機感を感じるぞ』
『シオン。やり方を教えてくれ。私で試す』
導師はコールの魔術でいった。
僕は導師に鉄の玉を渡した。そして、説明した。
「やり方はわかる。だが、その法則は理解できないな。その前に光に対する考え方が違い過ぎる」
わかっていたが、導師でも無理があったようだ。
導師が何度やっても何も起きなかった。
『シオンしかわからない概念のようだ。その概念が私たちの世界で力になっている。この魔術はシオンしか使えないだろう』
導師はいった。
『それなら、よい。だが、あの力は強すぎる』
僕は前世の核爆弾を思い出した。これ一つ持つだけで、外交は強気に出れるだろう。それだけ、危ない魔術でもあった。
『それで、どうする? おぬしの長に報告が必要だろう。何と話す?』
長老はいった。
導師は考えていた。だが、なかなか答えは出てこなかった。そして、僕を見てあきらめたような顔をした。
『素直に報告する。シオンが戦略級魔術を作ったと。それを危惧して龍族に呼ばれたという』
『ふむ。有翼族の話はどうする?』
『龍族と同じで、危惧した有翼族が早まったと話す』
『それでよいのか? 小さき子は息苦しいことになるだろう?』
『シオンは爵位を持つので仕方ないかと。必要なら私が何とかする』
『ふむ。わかった。それで、お土産は前と一緒でいいのかな?』
龍族の長老は落ちているうろこを念動力で持ち上げた。
僕は空間魔術で倉庫から箱を出した。
導師は僕を冷ややかな目で僕を見ていた。こんな時にも土産をもらうのかといいたいようだ。
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