第34話 有翼族

 急に龍族の誰かからコールが入った。

 僕は意識を切り替えた。

『どうしたんですか?』

有翼族ゆうよくぞくがお前の存在に気が付いた。街を出て迎えにいった龍と共に来い』

『わかりました』

 僕は部屋を出て導師の下に向かった。

 ノックもせずに書斎の部屋を開けた。

 導師は驚いていた。

「導師。僕の存在を有翼族は気付いたようです。それで、龍族から来るよにとコールが来ました」

「そうか。急いで街の外に出よう。馬車がないからスケートボードで行くぞ」

 導師は部屋を出るとホールに出る。

 そこにはノーラがいた。

「どうなさったんですか?」

「龍族から連絡があった。来た客には今日は帰らないと追い返してくれ」

 導師は指示を出すと玄関を開けた。

 導師は空間魔術で空間からスケートボードを出した。

 僕も同じように出した。

 導師はボードに乗ると浮上した。

 ボードはリミッターを外してあるので、地上すれすれでなく高く浮上できた。

 家々の屋根の上を飛び越える。そして、正門にたどり着いた。

 正門では人々が集まっている。そして、騒がしかった。

 その門からは龍の足が見えた。正門の外には龍族のお迎えがいた。

 僕たちは正門前の門番の近くに降りた。

「龍族に呼ばれた者だ。シオン・ブフマイヤーとその後見人であるザンドラ・フォン・ランプレヒトだ」

 導師は門番にいった。

 導師は門番と二、三話すと正門を通った。

 僕は導師の後を追って城外に出た。


『よく来た。時間がないからすぐに手に乗ってくれ』

 龍は急かした。

 だが、出された手は一つだった。

『保護者の席はないのか?』

 導師は龍にコールの魔術を飛ばした。

『事情が入り組んでいる。保護者の席はない』

『シオンは子供だ。まだ、目を離せない』

『それでもだ。では、連れて行く』

『私も行くぞ』

 導師はボードに乗った。

『私たちに任せて欲しい。種族間の問題に人族を入れたくない』

『シオンは人族だ。なら、私にも関係がある』

『私たちがこの子供を殺すかもしれない。人族が生きるために』

『なら、なおさらだ。連れていけ』

 龍は沈黙した。そして、背後の仲間を見た。顔を向けられた龍はうなずいていた。

『わかった。連れて行く。だが、保護者だけだ。国の関係者には遠慮してもらう』

『なら、さっさと連れていけ。宰相の馬車が来ている』

 龍は導師も連れて浮島へと飛んだ。


 浮島は静かだった。静まり返っていると感じた。

 導師は貴族らしく足音を立てて島の中央に歩く。僕もそれに習って進んでいった。

 龍族の会合をした広間では先客がいた。

 人族の女と姿は似ているが、背中から白い羽が生えていた。

 有翼族だろう。本で知った天使のような絵と同じようなかっこうをしていた。

 龍族は騒がしいが、有翼族は一人でその中にいた。

 有翼族は振り返った。

『あら、遅かったわね。では、死んで』

 有翼族の女は手を振るった。

 それは魔術が日常であり当たり前に発生させている動きだった。

 僕はそれにみほれた。防御も何も忘れて魔力の流れと動きにくぎ付けになった。

 気付いたら、目の前に大きな火の弾が飛んでくる。避けることもできない。

 しかし、導師が水の障壁ではばんだ。

『どういうことだ?』

 導師はそこにいる皆にコールを飛ばした。

 有翼族は広間に立っていた。

『その子供は爆弾でしかない。人族の存続のために消しに来ただけだ。感謝はされども、避難されるいわれはない』

『勝手に決めないで欲しいな。こいつは生きている。物のようにいうな』

『愛情は持っているようだ。しかし、他の人族が知ったら、忌み嫌われるのはわかっているだろう?』

『ああ。だが、こいつは生きようとしている。それを阻むなら、私は有翼族だろうが人族だろうが敵になる』

『ご立派。だから、私が汚れ仕事をしようとしているんだ。邪魔して欲しくないな』

『独善は悪だと習わなかったのか?』

 導師は不快そうにいった。

『私が間違えているというのか?』

 有翼族の女は攻撃的な顔をした。

『お前の話には一理ある。だが、感情が抜けている。それでは、人族は理解できない』

『私たちのエサのくせして生意気な』

 有翼族は人族の感情の時に出るエネルギーを食べている。

 嬉しいや愛おしい、感謝などのポジティブな感情は美味しいらしい。その反対の感情である、憎しみや恐れ、絶望を好む有翼族もいる。どちらにしても、人族に関りがあった。

『ただのおやつだろ? 有翼族ならマナだけで生きていけるはずだ。お前たちのデザートのために死なす気はない』

 導師はいった。

『なら、その子供と一緒に消えるか?』

『消える気もない。それに、こいつの問題は日に日に改善されている。今、手を出す方が危険だ。それぐらいわからないのか?』

『答えはわかった。その子供と一緒に消えろ』

 有翼族の女は手を振るった。

 振るった先には風の魔術である振動弾が何十発も出ていた。

 僕はマネて手を振るう。そこにはブレイクブレットの弾が何十発も飛んでいた。

 空中で魔術が衝突して、風が巻いて踊った。

 その乱気流の中、有翼族の女は上に飛んだ。

『来たれ』

 有翼族の女は叫んで、手のひらから光る魔術を頭上に飛ばした。

 遠くの雲の上から翼の生えた人々が現れた。

『龍族の長よ。その子を殺すなら見逃そう。だが、殺さなければ滅んでもらう』

 有翼族の女は宣言した。

 僕は魔術を放つか考える。だが、いきなりの本番だ。上手くできるかわからない。それに、放とうとしているのは戦略級魔術。王都一つは消せるはずだ。

 僕は導師を見る。

「何だ? 龍族が敵になったら逃げるぞ」

「はい。わかっています」

 龍族は長老を中心に話し合っていた。

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