第36話 責任

 龍族の島から正門に送ってもらった。

 そこには宰相がいた。それも、怒っている。

 特に置いてけぼりにされたことに怒っているようだ。

 馬車の中では、宰相にはことの詳細をきかれた。

 終始、導師が説明していた。僕はうなずくだけだった。そして、そのまま城に行った。

 今回は謁見の間には直行せずに応接室に通された。そして、宰相と話をする。宰相は僕を見て難しい顔をしていた。

 戦略級魔術など一人の人間が持つのは怖い。だから、危険視されたようだ。

「お前は王に誓えるか? 民草のために働くと」

 宰相は真剣な顔で真直ぐに見られた。

 それは貴族として振舞えということらしい。それに逃げることはできない。逃げたら暗殺される可能性がある。理由は簡単だ。危険人物を野放しにできないからだ。

「僕は生きたいのでしたがいます。ですが、政治や戦争には使わないでください」

 僕はこの国で生きていくにはうなずくしかなかった。だが、せめてもの抵抗はした。

「わかった。その条件をのむ。だから、その誓いは命を懸けて守ってくれ」

 宰相の言葉は重かった。

 戦略級魔術を持つ重みが背中にのしかかる。

 僕が魔術を使うだけで大事になる可能性が高い。決闘など申し込んだら、関係ない貴族は城から逃げ出すのが容易に想像できる。もし、他国に旅をするとしたら、逃亡と考えられて暗殺される可能性がある。そして、下手な冗談は命を縮める。もう、以前のように何も考えずに振舞うことはできなくなった。

 その後は謁見の間で王に会った。そして、あらかじめ決めていたやり取りをして退室した。

「ランプレヒト公爵。貴君はこれでよかったのか?」

 宰相は別れ際に導師にきいた。

 導師は苦笑いをする。

「ええ。覚悟はしています。それに退屈をしなくてすむでしょう? 毎日が新鮮ですよ」

「私は胃が痛くなる。もう少し、静かにしてくれ」

「できたら、しています。ですが、また近い内に龍族の島に行くと思います。カンでしかないですけど」

「その時は同行させてくれ。今回みたいに仲間外れにされたくない」

「はい。緊急時でなければ待ちます」

「ああ、そうしてくれ」

 僕たちは宰相と別れて城を後にした。


 僕は一週間後に登城しなければならない。

 理由は男爵の爵位を受けることになったからだ。

「士爵になったばかりですよ。何で出世しているんですか?」

 ノーラは泣き言をいいながら、僕の服を作るために採寸していた。

「仕方ないだろう。戦略級魔術師だ。国にしばりつけなければ安心できない。そのための爵位だ」

「まだ、六歳ですよ。服を作っても、次に着れるかわかりません」

 ノーラには高い服を一回しか着ないのに不満のようだ。

「お下がりをもらってもいいが、男爵の叙任式だ。一生にあるかないかだ。贅沢をしても怒られんよ。そればかりか、下手な服を着ていたら笑われる。作るしかないのさ」

 導師はノーラをなぐさめていた。

「シオン君。今度、出世するのは十年後にしてください」

 無茶なノーラのお願いに、僕は苦笑いしかできなかった。

 僕が求めた地位ではない。あちらが押し付けた地位なのだ。嬉しくはなかった。


 叙任式では王が僕の肩に杖を当てた。

「我、汝を術士に任命す。謙虚であれ、誠実であれ、裏切ることなく、欺くことなく、民を守る盾となれ」

 以前のように王は威厳ある声でいった。

「はい。誓います」

 そうして叙任式が終わった。

 だが、本番はこれからだった。

 祝宴で貴族にあいさつ回りをしなければならない。これは導師でも苦痛らしい。だが、今回も導師の後をついて回った。

 まだ、幼い僕は後見人の導師の保護下にあった。

 そのため、導師を通してから話しかけられなかった。

「やあ。久しぶりだね。おかげで事業が上手くいっている」

 ジスラン・ラ・ヴィアルドー公爵は元気そうだった。

 横にいるカリーヌはスカートの端を持って礼をした。

 僕も答えるように胸に手を当てて貴族の礼をした。

「それは良かったな。こちらはこのざまだ。居心地が悪い」

 導師は苦笑いをしていた。

 本心では喜んでいないようだ。

「それは仕方ないよ。この子は嫌でも目立つ。男爵だってなるべくしてなったと思うよ」

「そうか? ちょっと変わった子供なだけだろう?」

「その認識は改めた方がいい。この子はもっと大きなこともできるよ。それだけの知恵はある」

 ジスランが持ち上げるが僕にはむずがゆい。

 僕は前世の記憶でズルをしているだけだ。それに、戦略級魔術を最後に何も思いつかなかった。

 カリーヌは僕に微笑んだ。

 僕は顔が熱くなるのを感じた。

 何か恥ずかしい。

「カリーヌ。貴族のたしなみを教えてあげなさい。シオン君には何もわからないからね」

 ジスランはカリーヌにいった。

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