第21話 爆弾

 やがて、龍族が集まっているのが見えた。

 数では二十を超すだろう。だが、僕を待つようにぽっかりと中心は空いていた。

 僕は開いたところに進んだ。

『ようこそ、龍族の島へ』

 目の前の白い龍のコールが届いた。

『初めまして。シオンといいます』

 僕は答えた。

『小さき子よ。今回、君を呼んだのは他でもない。人族の滅びの危機が近づいていることを警告するためだ』

『話が見えません。どういうことでしょうか?』

『過去、人族は自分自身が作った魔術によって滅びかけた。その魔術を君は作っている。それゆえに君を呼んだ』

『レールガンのことでしょうか?』

『違う。もう何年か前に作られている』

 僕には思い当たる節はない。だが、龍は断定的に話している。知らぬ間に何か物騒なものを作ったのかもしれない。

『すいません。心当たりがありません。教えていただけませんか?』

『うむ。君の腹の中に作られている。そういえばわかるかね?』

 腹の中といえば、仙道の要領で作った魔力の貯蔵庫だ。だが、それが危険だとは思えなかった。

『腹の中には魔力をためています。ですが、魔力の貯蔵量なら龍族であるあなたの方が多いと思います』

 僕は答えた。

『ふむ。認識が違うようだね。私たちは魔力を貯蔵しない。普段は自然体で魔力をまとっている。魔力が必要ならマナを吸い込んで魔力に変える。だが、魔力として無理やり体内に貯蔵しない。わかるかな?』

『はい。普段は魔力を自然体で持っているんですよね。でも、魔力を必要とする時にマナを吸い込んで魔力する。ですが、僕の考えでは、普段から魔力を体内にためて持っている方が、いざという時に対応できると思います』

『それが間違えだ』

 白い龍でなく脇にいた龍が話に入った。

『よせ。この子はわかっていない。だが、理性はある』

 脇にいた龍は不満そうに顔を背けた。

『我々が事前に魔力をためない理由がある。それは魔力が爆発物と同じで危険だからだ。マナを油に例えれば、魔力は揮発した燃焼ガスと同じだ。着火すれば爆発を起こす。だが、君はガスのまま体内にためて持っている。それは人間爆弾と同じだ』

 シオンは意外な言葉に言葉が出てこなかった。

『今の君を殺せば、魔力が暴走して爆発を起こす。それは君の住む街を飲み込んで焦土に帰すだろう』

 僕が死ぬと爆発する。理解ができない。

『君はこの世界の住人ではなかったから、本能が危険信号を出さなかったようだ。だが、君のしていることは危険なのだ』

 僕が危険?

 僕は危険を避けて生きてきたつもりだ。

『君は体が魔力に染まっている。それは龍族を越えるほど魔力に染まっている。だが、その小さい体にためているのは危険なのだ』

『……では、どうすればいいのですか?』

 僕はきいた。

『君が死ななければいいだけだ』

『死ぬと爆発するんですか?』

『する』

『でも、魔力を放出すればいいだけでは?』

『それは無理だ。君の体が自然と魔力を求めてしまう。だから、意味はない』

 僕の頭には疑問しかなかった。

『だが、他にも方法はある。爆発しないように体内で固めればいい。今は、気体の状態だが、固体にすれば、死んだ時に爆発はしない』

 僕は解決策を聞いて顔を上げた。

『それなら、普通の生活に戻れますか?』

『できるだろう。だが、本題はこれからだ』

 僕はわからず首をひねった。

『遠からず、君は魔力の貯蔵装置を作る。それは今の君のように爆弾になる。もちろん威力も同じだ。いや、それよりも強いだろう。だから、君に忠告しに呼んだのだ』

『それは予知ですか?』

『予知ではなく未来視だ。その力でわかった。だから、発明しても作らんで欲しい。滅んだ前の文明と同じ道を歩いて欲しくない』

『人族は滅んだんですか?』

『厳密には違う。少数は生き残った。そして、今は地に満ちて新しい文明を作っている』

『同じてつを踏むのでしょうか?』

『人族が聡明そうめいなら繫栄するだろう。しかし、おろかなら滅びる。人類の未来は私にもわからん。ただ、人族には未来があって欲しいと思っているだけだ』

『なぜ、肩入れをしてくれるのでしょうか?』

『うむ。それはわからん。ただ、一生懸命に生きる命には、生きて欲しいという願望があるだけだ。特別視はしていない』

『それは特別視ですよ』

『ふむ。そうなのか?』

 周りざわめいた。

 長がぼけたと騒いでいる。龍たちは騒いでいる。だが、笑い声が多かった。

『長よ。この者を殺せば済む話ではないですか』

 一頭の一番小さい龍が前に出た。

 また、ざわざわとうるさくなった。

 龍たちは楽しそうに好き勝手にいっている。

『この者を殺せば爆発して島が消えるぞ』

 長はいった。

『その爆発ごと吹き飛ばして見せます』

『おぬしにはできんぞ』

『できます』

 周りは笑っている。

 前に出た小さい龍ははやし立てられて、後に引けないようだ。

『小さき子よ。すまんが遊び相手をしてくれ。こやつは戦いの経験がないのだ』

 長は僕にいった。

『龍族に人族が勝てますか?』

『普通は無理だな。だが、こやつは幼い。まだ、満足に魔法も使えんのだ』

『長。私は使えています。何年生きたと思っているんでしょうか?』

 前に出た龍はいった。

『三十年だな。まだまだ、幼い。龍族は五百年生きて成人だ』

 計算すると人族では一歳ぐらいだ。

 だが、人間の一歳と比べると知能は高い。人間と比べるのは間違いのようだ。

『人族よ。長の許しが出た。死んでもらう』

 小さい龍は前に出てきた。

『小さき子よ。殺さないように手加減してくれ』

 長はいった。

 もう、戦い以外に道はないようだ。

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