第20話 会合

「導師。話が見えません。何で龍族が僕に用があるのですか?」

 僕は導師にきいた。

「わからん。だが、龍族が動くほど重要な話なのだろう。それは推測はできても想像でしかない。行って話すしかないのだ。それに断ることはできない。国にとって大事だからな。すまんが、腹をくくってくれ」

 僕は不満だが、行くしかないようだ。

 応接室を出ると、玄関でノーラと門番は話していた。

 浮遊式のスケートボードを門番が買ってきたらしい。小脇にボードを抱えていた。

「導師様。スケートボードが届きました」

「すまんな。急に無茶をいって」

 導師は門番にいった。

「いえ。これもお役目です」

 門番には当たり前のようだった。

「ありがたく使わせてもらう。それと、正門まで馬車を出してくれ」

 門番は了解すると下がった。

 導師は研究室の方に歩いていった。

「導師。何に使うのですか?」

「ああ。龍族は空の浮島にいる。だから、そこから落ちた時のための保険だ。リミッターを外せば、高所からでも降りられる」

 スケートボードは落下傘代わりらしい。

 だが、一つ足りない。それはどうするのだろう?

「宰相の分はないな。宰相は存在自体を知らんから、私が何とかする。だから、緊急時まで自分の倉庫に隠してくれ。今、リミッターを外す」

 研究室に入った導師はテーブルにボードを置く。そして、機関部のふたを外して魔法陣を削った。

 魔法陣の規則性は僕にはわからない。今は導師に頼るだけだが、早い内に基礎は覚えないとならないと思った。

 機関部のふたを閉めるとボードを渡された。

 これは命綱になるだろう。空間魔術で自分の倉庫にしまった。

 導師は自分のボードを改造すると空間魔法の倉庫にしまった。そして、あわただしく動いた。

 必要になりそうなものは倉庫にしまう。そして、玄関に向かった。

 僕はいつでも用意ができている。いや、持ち物が少ないだけだった。

「シオン。いいか?」

 導師は玄関に着くといった。

「はい」

 僕は答えた。

「ノーラ。後は頼む」

 そういうと玄関の扉を開いた。

「行ってらっしゃいませ」

 そうノーラにいわれて、送り出してもらった。


 馬車の中で導師は注意事項をいう。

 何でも、龍族はプライドが高いらしい。下手なことをいうと、話がこじれるようだ。だから、会話は導師か宰相に任せるようにいわれた。

 正門に馬車が着いた。

 馬車から降りると、人はいなかった。その代り震える門番と龍の足が見えた。

 龍はとても大きいらしい。顔は城壁にさえぎられて見えなかった。

「よく来た。こっちだ」

 宰相にいわれ、門番の待機室に入った。

「これより、龍の手に捕まれて浮島に行くことになる。一切の武器は出すな。もちろん、魔術もだ。攻撃の意思がなくても魔術を発動するのは危険だ。だから、大人しく運ばれてくれ。いいな」

 導師がうなずいたので、僕もうなずいた。

「作戦はない。出たとこ勝負だ。心して任務にあたるように」

「わかりました」

 導師はいった。

「はい」

 僕も導師を見らなって答えた。


 待機室から出て正門をくぐった。

 そこには龍がいた。西洋の龍が三頭も並んで立っている。

 どっしりした足に細い腕。背後には羽が生えている。そして、首は長く、顔はカッコよかった。

 東洋の龍でなく西洋の龍。ワイバーンとは違って魔獣ではない。それに、意志ある目で見られた。

『その者が例の者か』

 先頭に立つ龍の言葉が頭に流れた。

 コールという魔術だ。遠く離れた人に連絡する魔術である。

 宰相は返事を返しているようだ。

 龍はうなずいていた。

『わかった。では、運ぶのでこちらに来い』

 龍は前かがみになった。

 導師が宰相を抜いて龍の前に立った。

 僕も続いて龍の前に行った。

 龍は導師と僕を手で包むようにつかんだ。

 龍の手には空きがない。だから、宰相は他の龍が連れて行くみたいだ。

 宰相が龍の手に包まれると龍は飛んだ。

 大きな翼で羽ばたいている。しかし、翼だけで飛べるほど龍の胴体は重そうだった。

 おそらく、無意識に魔術を使っていると思った。


 浮島にはすぐに着いた。

 それだけ、龍の飛ぶ速度は速いということだ。

 浮島の地面に立たせられた。

 ここでは普通に立つことができるらしい。

 浮島がどういう原理で浮いているか疑問に思った。だが、それを解消してくれる人はいないと感じた。

 導師は興味深げに周囲を見ている。導師らしく知的欲求を刺激するものばかりのようだ。

「行くぞ」

 宰相は龍が歩くのを見て、僕たちをうながした。

 導師は我に返って宰相の後に続いた。

 僕も遅れないように導師の後に続いた。

 浮島を歩いていると、結晶した石が多いのに気が付いた。地上では見られない鉱石だ。だが、無駄話をする機会はないようだ。二人とも黙って歩いているからだ。

 ふと、龍は止まった。

『ここから先は小さき子だけで行ってもらう。用があるのは、その子供だけだから』

 龍のコールが聞こえた。

 宰相は何かを伝えている。だが、顔をゆがめた。

 交渉は失敗したのかもしれない。

『小さき子よ。この先に長がいる。そこまで一人で行ってくれ。連れはなしだ』

 僕は導師と宰相を見た。

「力がなくて申し訳ない。一人で行ってくれ」

 宰相はいった。

「すまない。私も立ち会いたかったが、無理そうだ」

 導師はいった。

「ん-。僕の問題でもありそうなので、責任を感じないでください。では、行ってきます」

 僕は歩を進めた。


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