第19話 来客

 突然、研究室のドアが開いた。

 僕は入り口を見た。

「ご主人。大変です。龍族が攻めてきました」

 ノーラはあわただしげに研究室に入ってきた。

「そうなのか? それで外がうるさいのか?」

 導師は平静のままでいった。

「はい。逃げる準備をしてください」

 ノーラは急がせるが、導師はマイペースだった。

「早くしてください」

 ノーラは落ち着きなく行ったり来たりしている。

「落ち着け。龍族は人族に関わらない。関わる時は龍族にも関わる話がある時だけだ」

「ですが、城壁の外にいるようです」

「それで、何かしたのか?」

「いえ。そんな話はききません。ですが、攻撃してくるのは時間の問題です」

「それはないな。話の分かる国の重要人物を待っているだけだろう。平民に話して意味がないからな」

「ですが……」

 ノーラは落ち着くことはできなかった。


 窓から外を眺めると、何人もの人が荷物を持って走っている。街はパニックに落ちいっているようだ。だが、家の上に登って眺めている人もいる。導師には外に出るなといわれているので、いつでも逃げれるようにダイニングで待機している。

 ノーラは落ち着かず体を揺らしている。だが、導師はゆっくりとお茶を飲んでいた。

 しばらくして玄関の扉をノックされたようだ。ノーラが首から下げている魔道具に反応があった。

「ほれ、客だ。お出迎いに行け」

 導師は今だ落ち着かないノーラに仕事を振った。

「あっ。はい。今、出ます」

 ノーラはバタバタと玄関に向かった。

 ノーラはすぐに帰ってきた。

「ベランジェ・フォン・ボワデフルと名乗る方が来ました。宰相といえばわかると聞きました」

「宰相が直々に来たのか? なぜだ?」

 導師はあごに手をやって考えていた。

「応接室に通しています。お茶を出しますね」

「うむ。頼む。私は客の相手になる。シオンはここで休んでいろ」

「はい」

 僕はうなずいた。


 僕はぼうっとして考えていた。

 まだ、六歳だが一人で生きる方法を考えていた。

 導師の家が気に入らないわけではない。ただ、何かあった時に一人でも生きていける方法を知っていたかった。

 だが、考えはまとまらない。その前にこの世界の知識がなさ過ぎた。

 平民の魔術師は何をしてお金をもらっているか想像できない。やはり、傭兵になるしかないのかと思う。しかし、この歳では誰も雇ってくれないだろう。冒険者ギルドがあるといいと思うが話には聞かなかった。

「シオン。お前も来い」

 導師の声で我に返った。

「はい」

 シオンは導師のもとに走った。

「こら、走るな。そういうところは子供だな」

 久しぶりに導師に怒られた。

「それより、宰相とで話がある。応接間に行くぞ」

「話の内容は何ですか?」

 僕はきいた。

「それは宰相が話す」

 導師はそういうとノーラを呼んだ。

「何でしょうか?」

 ノーラはいった。

「これで、浮遊式のボードを買ってきて欲しい。数は二つだ」

 導師は金貨をノーラに渡した。

「遊戯用のスケートボードですか?」

「ああ。必要になると思うからな。急いで買ってきてくれ」

「……はい。わかりました」

 ノーラには何に使うのかわからないようだ。

 僕も同じでわからない。こんな時におもちゃを買う導師の意図がわからなかった。


 応接間に入ると、城で見た宰相がいた。

「早速だが、話に入りたい。座ってくれ」

 宰相にうながされて、導師と一緒にソファーに座った。

「要点を先に話す。シオンは龍族と一緒に行ってくれ。龍族の長が話があるらしい」

 僕は理解できなかった。いや、頭は疑問だけで埋め尽くされた。

「疑問に思うのはわかる。だが、先方はお前に話があるために、わざわざ王都に来たのだ」

 僕はますます理解ができない。

 龍族ににらまれるようなことはしていない。

 そもそも、龍族は人間のすることに介入することはないと聞いていた。

「私も同行してよろしいですか? シオンはしっかりしていますが、見た目通り子供です。保護者が必要でしょう?」

 導師はいった。

「ああ。だが、その役目は私に任せてもらいたい。国にとっては一大事だから」

 宰相はいった。

「ですが、シオンの異常さに気が付いてません。見た目通り、この子は六歳です」

 宰相は目を見張った。

「体の小さい妖精族ではなかったのか?」

 僕は宰相に下から上へと体を見られた。

「いえ、人族です。ただ、他人より早熟なだけです。前世の記憶がそうさせています」

「確か前世の記憶あるといっていたな? 生まれ変わったというのか?」

「はい。そういっております。それゆえに、大人の知識が半端にあるのです」

「なるほど。それで新しい魔術を作れたのか……。それでは、子供として扱わなければならん。ランプレヒト公爵にも来てもらわんとならんな」

「はい。その覚悟はあります」

「わかった。準備ができ次第、正門に来てくれ。そこで落ち合おう」

「わかりました」

 宰相は席を立って応接室から出ていった。扉の向こうではノーラが送り出すために、宰相の後を付いていった。

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