第22話 おみやげ
「ガァー」
小さい龍は首を僕に伸ばしてほえた。
僕はその顔を固めた空気で殴った。
龍の首は衝撃で横に動いた。
小さい龍は攻撃されて驚いているようだ。
「ブレイクブレット」
水の弾を四十発ほど展開して放った。
弾は龍の体を叩く。だが、傷はつけられない。
小さい龍は「ゴフゴフ」とうめいている。
威力が弱いらしい。
再度、水の弾を展開する。
今度は弾数を減らして威力を上げた。
『そこまでだ』
大きな龍の顔が射線上に入った。
僕は展開した術を解いた。龍の頭には防御膜があり弾かれるのがわかったからだ。
小さい龍は横になっている。死んではいないが起き上がらなかった。
『まだ終わってないぞ』
周りの龍は好き勝手にいって笑っている。
面白い見世物のようだった。
『すまんな。こやつにはよくいっておく。だが、龍族に人族が勝てるとは思わないでくれ』
長はいった。
『ええ。本当なら防御膜だけで弾かれるだけですから』
『ふむ。見えていたか。まあ、幼体の龍に勝っても自慢はできないだろう』
間に入った龍はいった。
『これで話は終わった。小さき子よ。何かきくことはあるか?』
長はいった。
『はい。浮島には観光で来ることは可能ですか?』
僕はこの島を調べたかった。
『この島はわしらの縄張りだ。他種族が遊びに来るのはやめて欲しい。だが、わしらに話があるのなら来るといいだろう。こちらからも使いを出す。……浮島は他にもある。龍族だけでなく、
『そうですか。わかりました』
ごねても機嫌を悪くさせるだけだ。ガマンするしかなかった。
『うむ。土産もなく帰らせるのは許して欲しい』
『いえ。重要なことを教えてもらいました。それだけで結構です。ありがとうございました』
頭を下げると、地面に光るものが目に入った。
『あの……。その光っているのは、何ですか?』
僕は指を指してきいた。
『抜けた龍のうろこだな。これが何か?』
『もらっていいですか。滅多に手にできません。もちろん、王様でも』
『こんなんで良ければ、持っていくといい』
地面に落ちている龍のうろこを手に取った。
表面は黒く汚れているが裏面は虹色に見えた。
ふと地面に落ちていた龍のうろこが浮いた。
念動力だ。龍は手の代わりに魔術を使うようだ。
『箱を出せ。その中に入れてやる』
念動力でうろこを持ち上げた龍はいった。
僕は空間から箱を出した。そして、中身は空間に入れて地面に置いた。
『お願いします』
地面に落ちているうろこは箱の中に入っていく。すぐに満杯になった。
『こんな物でおぬしの長は喜ぶのか?』
空間の倉庫に箱を入れていると長はいった。
『ええ。希少な物です。喜ぶと思います』
『そうか。土産を持たすことができて良しとする。では、さらばだ』
『はい。ありがとうございました』
僕は頭を下げた。
そして、頭を上げると手を振って広場から出ていった。
歩いて浮島をに生えている草や飛び出した鉱石を見ながら来た道を帰った。
そして、浮島に連れて来た龍が見えると走った。
「シオン。ケガはないか?」
導師にいわれた。
「はい。大丈夫です」
「それより、龍の用事は何だったのだ?」
宰相は厳しい顔でいった。
『話は自国でしてくれ。私の仕事を済ませたい』
浮島まで連れて来た龍はいった
『申し訳ない。焦りが出てしまった。申し訳ないが、空を飛べないので運んで欲しい』
宰相は答えた。
『元よりそのためにいる。おぬしの国に返すまではこちらのいうことをきいて欲しい』
『わかっている。道中、頼む』
『もちろん』
そして、僕たちは王都の正門に帰ってきた。
「早速だが、登城して欲しい。これは緊急の案件だから、王もすぐに聞きたいだろう」
宰相は馬車にうながした。
導師と共に馬車に乗る。
席に座ると宰相はすぐに話を聞いてきた。
「何の話をしてきたか簡潔に教えてくれ」
宰相は身を乗り出した。
よほど、気になるらしい。
「僕がこれから作る魔道具に、人類を滅ぼすかもしれない物ができるといわれました。それは、龍の長に未来視で見たと教えられました」
宰相の顔はくもった。
「それで?」
宰相は続きをうながした。
「龍族は人族が滅びても問題ないが、その魔道具を作って欲しくないようです」
「その魔道具とは何なんだ?」
「魔力を貯蔵する魔道具です。それはここの王都を焦土に変えるほど強い爆発物になると教わりました」
「ふむ。君は知らないようだが、昔から魔力を貯蔵する道具は使ってはならないと禁止されている。それがその答えなのか?」
宰相の目は鋭かった。
「たぶん。魔力のかたまりは爆弾でしかなかったようです」
「爆弾とはブレイクブレットが戦略級の爆弾になるという認識でいいかな?」
「そうですね。僕の想像では、人間ほどの大きさで魔力がぎちぎちに詰まっているという魔道具になります」
「……なるほど。そんなものが作られたら戦争は滅ぼし合いになるな」
「はい。龍族はそれを気にしているようです」
「龍族は何でそこまで介入する? 龍族はその爆弾が恐ろしいのか?」
「いえ。一生懸命に生きている生物を応援しているだけです。ですので、人間の愚かさで滅びても、それは人間のせいでしかないようです」
「そうか、お節介を焼かれたということか。理解した。……それで、作れる見込みはあるのか?」
「ないです。まだ、頭に浮かびません」
僕はウソをいった。
本当なら、自分のように腹に魔力をためて人間爆弾にすればいい。そして、人間でダメなら他の生物に仕込めばいいと考えていた。
「そうか。わかった。王にはそう報告するが、謁見の間でも同じように話して欲しい」
「はい。わかりました」
宰相は身を乗り出していた体を戻した。
「それで、何をしてきた?」
導師はいった。
言葉にトゲがある気がした。
「話し合いですよ」
「ほう。それで龍が
導師にはウソがつけないようだ。
「ちょっと、幼い龍と争いました」
「はあっ。君は何をしている。龍族と戦争する気か?」
宰相は驚いていた。
「あっちから申し込まれたんです。それに龍族の長の許しもありました。おまけに手加減するようにいわれました」
「それでその勝負は、どうなった?」
「咆哮した顔を空気の塊で殴って、ブレイクブレットの魔術で攻撃したら立たなくなりました。三十歳の幼い龍なので、防御膜がありませんでした」
「そうか、龍でも子供では弱いか」
導師は感心していた。
「ランプレヒト公爵。感心しないで欲しい。外交では問題だ」
宰相は怒っていた。
「売られたケンカを買っただけです。それに龍族の長も了承している。問題はないと思いますが?」
「その幼い龍が根に持っていたら、どうするんだ? 将来、復讐に来るかもしれない。その時は、人間では敵わないほど成長していると思わないのか?」
「まあ、その時はその時です。しても意味がない心配をする必要はないでしょう。……それより、もっと土産話はないのか?」
導師は僕を見た。
「あ、龍のうろこをもらいました」
僕は答えた。
空間から箱を出す。その箱にはうろこが盛られていた。
「ほう。希少品ではないか。半分は王に献上しよう」
導師はうろこを手に取って見ている。
「半分もいらんよ。三十枚ほどあればいい。それで兜は作れるだろう」
宰相は空間から箱を出した。
導師はうろこを見比べながら良いうろこを宰相の箱の中に入れていた。
その後はそのまま馬車に乗って城内に入る。そして、謁見の間で宰相と話した会話と同じように王に報告した。
王は納得したのかうなずくだけで、何もいわなかった。
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