第7話 衛兵
新しい師は荒かった。身体能力を極限にまで高めて打ち込んでくる。僕はその攻撃をさばくだけで精一杯だった。
ヒマなのだろう。衛兵が観客として、僕の修業を見て好き勝手にいっていった。
「攻撃魔術なんて頼るな。ズバッと槍で行け」
「さばくだけでは死ぬぞ。スキがあるだろう。それを突けよ」
観客が思い思いにはやし立てた。
アドフルの攻撃が止まった。僕の魔力切れと、体力の限界をわかったのだろう。背中を向けて距離をとった。
「少し休め。回復したら、もう一本行くぞ」
アドフルは
僕は城からふらふらになりながら、導師の家に帰った。
アナが僕の様子を見て駆け寄った。
「どうしたの? 練習ではなかったの?」
「うん。練習だよ」
導師がアナの声を聞いたのか顔を出した。
「こりゃ。徹底的にやられたようだね。通過儀礼だ」
「何ですか? 通過儀礼って?」
アナはきいた。
「初めに覚えさせるのさ。オレの方が強いと。あいつらはなめられたら終わりだからね。だから、最初は情け容赦なくたたかれるのさ」
「だからって、ここまでやりますか?」
「これでも、手を抜いているよ。普通なら立てないほど痛めつけられる。おそらく、私の下男だから手を抜いてくれたのだろう。それに私の奴隷だ。だから、自分の地位を脅かす子供でないとわかっている。まあ、子供なんだ。弱いのはわかっているさ」
アナはわからない顔をしている。
僕は導師の権威は、そんなところまで届いているようだった。
僕は雷の魔術を習得できた。ついでに磁力の魔術も習得できた。二つは親和性があるらしい。
これで、レールガンが撃てる。
その前に、導師に話した。どんな
「それはどれくらいの威力になるんだい?」
導師が夕食のスープをすすりながらいった。
「規模によります。複数の人数なら城壁に穴を開けれるかと」
「ほう。それでは明日は魔術の実験とするかね。一人でもできるんだろう?」
「はい。その代わり、破壊力は小さくなります」
「ふむ。それを見てから考えよう」
そう答える導師の顔は嬉しそうだった。
翌日、導師の魔術で空間転移する。ゲート型ではなく、その場の物質を押し除けて出現する方法だった。そして、出た場所は荒野だった。
「さっそくだが見せてくれ」
導師の言葉にうなずいて、指の先ぐらいの鉄の球を出す。
「それが必要なのか?」
「はい。鉄を磁力で加速させます。ですから、弾は鉄がいいと思います。銅では柔らかいので」
「そういうものかい? まあ、実験を見てから決めるよ。早速だがやっておくれ」
僕は前方に磁力のリングを複数展開させる。もちろん無詠唱だ。理由としては磁力に関する詠唱がない。そのため無詠唱になる。
僕はそのリングに鉄の球を入れた。
あっという間に加速されて鉄の球は飛んでいく。そして、岩に当たって落ちた。
レールガンだが、一人の力では攻撃力はないらしい。
嫌な沈黙がその場を包んでいる。
恐る恐る振り向いて導師の顔を見る。驚いている顔だった。
失敗か、成功か、判断に迷った。
「素晴らしいですねー。これなら王様も納得しますよ」
アナが小さく拍手した。
「アナ。お前は、どういう結果をもたらすかわかっていないだろう?」
「そうですか? 威力をあげれば攻撃魔術としては優秀だと思います」
導師が頭を抱えた。
「こいつがいっていただろう。複数でやる魔術だと。……もし、複数人でできたなら、簡単に城壁に穴を開けれる」
「それは凄いですね。これなら、王様も納得するでしょう?」
「これを使うならな」
導師は疲れたように眉間を押さえた。
「どういう意味でしょう?」
「磁力を魔術として習得する変わり者はいない。だが、この結果を見れば、王自身が命令を出すだろう。磁力を魔術で再現しろと。そうなれば、軍は強化される。しかし、磁力が役に立つと思う魔術師は少ないだろう。磁力が攻撃に使えるなどイメージできないからな。あまり期待はできん」
「それは残念ですね。ですが、研究の進展があったのは確かです。王様にも報告ができます」
「それは、その通りだがな。……その前に、私が習得しなければならない」
導師はため息を吐いた。
「なぜです?」
「下男が使える魔術を主人が使えないなんて、恥でしかない!」
「あっ。そうでしたね。抜けていました」
導師の怒りをアナはおどけてかわした。
「ふう」
導師は溜息を吐く。
「まったく、お前が来てから退屈しないな」
導師はそういうと、苦笑いを浮かべた。
導師が磁力の魔術を習得し、詠唱を作るまで時間が必要だった。
僕は導師にたびたび、助言した。しかし、導師は宮廷魔導士である。文句をいいながらも、無詠唱の魔力の扱い方はすぐに見抜いた。そして、習得は早かった。だが、詠唱で再現しなければならない。まだ、時間がかかった。
僕は導師の研究中は、城にいるアドフルと模擬戦をしていた。
僕の槍術は向上したようだ。アドフルと対等とはいえないが剣をさばいている。時々、発動させる無詠唱の魔術で驚かせることもできた。
いつしか、他の衛兵が訓練に混ざるようになり、訓練が厳しいものとなった。しかし、二十人を相手に体力を持たせられるほど、体力に恵まれていなかった。
骨は折れてはいないが、木刀で何度も打ち込まれた体は悲鳴を上げていた。それでも家に帰らなければならい。城の出入りは厳しく取り締められているからだ。
城下町を歩いて、なんとか導師の家へ向かう。
帰りは、空中に漂うマナを吸収しながら、回復魔術を使うのが日常だった。
この世界での回復魔術は肉体を元の形に戻す方法はない。生命力を強化して新陳代謝を活性化させる。本人の治癒能力を強化しているだけだった。なので、目など、傷ついたら元に戻らない器官は失う。そのため、魔術で作られた義眼や義手などがあった。ちなみに、病気は薬師が担当していた。
「今日もしぼられたようだな」
玄関から入ると、廊下に導師がいた。
「はい。衛兵たちにおもちゃにされてます。ヒマなのか、二十人ぐらい相手をさせられます」
「ふふっ。それでも無事に帰ってくるんだからいい。だけど、気を抜くなよ。一瞬のすきが致命傷になる」
導師の笑った顔が厳しくなった。
導師は過去に痛い目にあったのかもしれない。
「もうすぐ夕食だ」
導師は口を一文字にして僕から目をそらすと、ダイニングへ歩いて行った。
僕は導師の後を追って家の中を歩いた。
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