第8話 考察

「何を作っている?」

 魔術の向上と研究のために義手を作っていると、導師に尋ねられた。

「義手ですが?」

「いや。そうではない。何で作れるんだ。そんな術は教えていないぞ?」

「はい。本を読んで作ってみました」

 この屋敷には書庫がある。導師がいない間は、出入りは自由なため、自由に本が読めた。

「本が読めるのか?」

 導師が不思議なことを言った。

「昔、本の読み方を教えてくれましたよ。忘れたんですか?」

「専門書を解読できるほど、難解な言葉は教えていない。いつから読めるようになった?」

「もう一人の僕と会った頃ですね。なぜか読めるようになりました」

「前世は異世界だ。言葉が違うだろう。読める理由にはならない」

「ですが、その頃ですから、何とも……」

 導師が眉間を押さえる。

「まったく、お前には驚かされることばっかりだ」

 導師のいう通りなのだろう。だが、僕にとってそれは普通のことだった。


 磁力魔術の詠唱の呪文が完成した。これで、導師は堂々と王に報告できるだろう。

 しかし、この研究は戦争で使われるものだ。僕の前世の記憶が、戦争の悲惨さを思い出させる。死ぬのは、一般庶民と軍の下級兵だ。どちらも国にとって重要性は低い。僕程度の能力ならいくらでも代わりがいるからだ。だが、戦争を指揮する者は厳重に守られる。理由は国の有力者であり能力やコネがあるからだろう。だが、死んでも代わりがいるのは同じだが、命がけで守られている。その者の死が士気に影響するかららしい。僕は底辺にいるため、そんな理不尽は認めたくなかった。

 王は隣国との争いのために強力な魔術を欲しがっている。いまさらながら、導師に教えるべきではなかったかもしれない。でも、導師の苦労を考えれば、隠し通すのも気が引けた。

 後日、導師が登城して研究の報告をすると、王にほめられたようだった。

 帰ってきてからも、導師は満足げに笑っていた。そして、その日の夕食はぜいたくな食事を振る舞われた。

「大人数での大規模魔術にしたからな。個人では使えない。あんなものが個人で使えたら剣士がいらなくなる」

 導師はワインを飲みながらいった。

「どういうことですか?」

 アナは導師に尋ねた。

「戦争なったら、長距離から指先程度の鉄の球を撃てばいい。術者の力量によっては鎧も貫通するからな。個人で使えるようになったら戦術が変わる」

「そういうものですか? 想像できませんよ」

「まあ、アナがそういっている内は安全だ。本当の脅威きょういをわかっておらんからな。その前に、個人でそれだけの威力を出せる魔術師はいないだろう」

「そうなんですか?」

 アナは導師のいった意味が分からないのか、上を向いて考えていた。

 だが、僕も同じ意見だ。何より、古くからある魔術の方が汎用性が高く強力だった。

 基本であり、最初に覚えるブレイクブレット《破弾》という攻撃魔術は優秀だった。風、火、水、土と基本の四属性に共通して存在している。この魔術は火なら、前世の知識でいうファイアーボールというところだろう。当たれば爆発してダメージを負わせる。風も水も土も同じだ。風なら凝縮した空気が破裂して爆風で破壊する。水も同じように破裂して水の粒によって破壊される。土も同じだ。土の球が破裂して飛び散った土で壊す。

 何より、複数展開できるし、一撃で家も破壊できるほど一つの弾に威力を持たせられる。それゆえ、汎用性が高い。それに込める魔力の量によって威力が段違いに変わった。もし、この魔術を極限まで極めれば、大魔術に匹敵する。燃え盛る隕石を落とすのと同じことができるからだ。

 これだけの潜在能力があるのに、初心者の技として伝わっている。偉い魔導士たちは、価値に気づいていないのかと不思議と思う。それとも、わざと隠しているのかと疑った。


 将来、傭兵になるとしたら、魔術も槍術も必要だが、一番に必要なのは修復技術だと思う。

 戦いは肉体を壊すことを目的にしていると考えている。だから、肉体の修復は必須な技術だと思う。手足を失っても、元に戻せる魔術が必要だった。だが、そんな便利な魔術はない。自分の思い通りに動かせる義手はあっても、元の戻せる魔術はなかった。

 だから、前世の記憶に頼った。その中では、仙道という魔術があった。不老不死を目的とする魔術だ。その中で、肉体を玄気を練って作った陽神という体に、魂を移して永遠の命を得る技術があった。こちらの世界では玄気とはマナであり魔力になるだろう。マナを凝縮して疑似的な肉体を作る。マナを通しやすい特殊な木を削って作る義手より完璧な義手ができる。

 これを応用すれば全身の器官をマナで代用できる。だが、問題があった。自分の体で試すには危険があった。陽神という疑似的な肉体を作っても、魂を移して生きられるかわからなかった。それに義手を作ってもちゃんと動くか試さないとわからない。

 だが、やらない理由はなかった。肉体を削る傭兵になるには必須な技術だからだ。

 それから、僕は研究に没頭した。やることはマナの操作の向上だ。そして、マナから魔力に。そして魔力を練って物質とする。

 肉体を再現するには扱い方たが違った。技術の確立には長期間の時間が必要のようだ。

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