第6話 傭兵
実戦形式で修行を付けてくれる兵士は魔術剣士だった。身体向上魔術以外に攻撃魔術も使える。しかし、欠点はあった。剣術に特化するか、魔術に特化するのが簡単で上を目指せる。その二つを両立させるには、並の努力では足りないらしい。
二つの頂点を目指しているものだから、どちらかにしぼる方がいいが、あえて両立を選んでいるらしい。前線でも、後援でも活躍できるからだ。
半端者といわれるが、それはそれで誇りがあるらしいようだ。
「初めまして、ジェフ・ステリーと申します」
その剣士は僕に対して礼儀正しかった。下男の僕に敬語を使ったのは、この人が初めてだった。
しかし、導師が気持ち悪いと
僕は導師の注文の元、魔術を重視するスタイルで修業した。そのため、槍術は受けや流しなど、防御に特化した。そして、相手のすきをついて近接攻撃魔術を使う。そのための無詠唱魔術だが未熟で発動が遅い。そのため、そのすきに木刀で刺されていた。
導師が雇ってくれた剣士は優秀だった。剣の扱い方は二流でも、魔術は一流だった。無詠唱の魔術や身体向上の魔術はすごかった。普通の人の数百倍まで上げれるらしい。付近の森では、練習の相手になる獲物がいなくなったとぼやいていた。
これだけの人が城で働けないのが不思議だった。
導師が言うには、古い習慣らしい。剣士なら剣士。魔術師なら魔術師としてはっきりさせたいらしい。それゆえにどちらでもない魔術剣士は立場は弱いようだ。なので、ジェフは傭兵をしているようだ。
騎士や術士に召し抱えられない半端者といわれるが、戦場では実践的な集団ようだ。先頭に立つのはいつも傭兵だという。そして、戦闘も傭兵同士が一番多いらしい。近衛兵などは指揮官を守るだけで何もしないらしい。常に戦争は傭兵同士で血が流れているといっていた。
なんとなく僕の死に場所は戦場で、傭兵という名もない雑兵だと思うようになった。
三か月が経った。
僕は公級の四属性と空間魔術を無詠唱で発動できるようになった。だが、槍術は上手くはならなかった。どうやら、魔術の方に適性があるらしい。でも、槍術の防御は上手くなったとジェフに褒められた。そして、厳しい稽古を耐えしのいだ記念だと魔術師用の槍をもらった。
長く黒い柄と簡素な穂がついている。よく見ると、宝石も埋め込まれていた。
「その柄は硬くて軽い。鋼の刃でも受け止められる。下手な受け方をしなければ一生ものだよ」
ジェフの解説にうなずいた。
黒い柄は特別な木らしい。魔力の通りが良かった。
「ありがとうございます。導師」
「おい。それを持ってきたのはジェフだ。お礼をいうのは、そっちだろう?」
導師は苦笑いをしていた。
「あれ? これだけのものなら導師がお金を出したのでは?」
「……まあ、金は出した。だけど、選んだのはジェフだ。礼をいってあげな」
「はい」
ジェフに向き直って、「ありがとうございます」と頭を下げた。
「それは何の意味だい? 頭を下げる習慣なんて聞いたことないぞ」
「……昔の習慣です。お礼を言う時、頭を下げる国にいました」
前世の習慣といわれても、ジェフにはわからないだろう。それに導師の実験を広める訳にはいかなかった。
「そうか。……まあ、苦労しているみたいだな。これからも頼むな」
「はい」
僕は再度、頭を下げた。
導師の研究は僕の記憶を思い出すたびに遅くとも進んでいた。しかし、既存の魔術を超える魔術は生み出せていない。理由は、この世界の法則に当てはめなければならないからだ。
前世の物理法則を書いた書類は束になっている。しかし、その知識は上手く使えていないようだった。
僕は導師に隠れて、独自に研究し始めた。どうすれば、魔術で物理法則を再現できるかだ。
それは難問だった。僕が思うイメージに現象を生み出さなければいけない。それを実現させるためには、僕の魔力の扱い方が下手すぎた。そのため、マナと魔力の扱い方を独自で練習するしかなかった。それに、新しい概念である引力などは作らなければならない。研究する課題が山積みだった。
時間は無情にも一刻一刻と進んでいく。導師は新しい魔術の完成させることができずにいた。
城での王との謁見では、導師は疲れて帰ることが多くなった。王様に怒られているようだ。だが、僕から見れば導師は頑張っている。なのに、老体の導師を怒る王にいらだちが増えていった。今までは偉い人だから、したがうのが当然だと思っていたが、違うようだ。王も人間なのだろう。隣国との関係が緊張感が増していると聞いている。だから、導師に辛く当たるのだろう。だが、それは導師をストレスのはけ口にしているだけだ。王の器量も狭いとしか思えなかった。
「そんなことをいったら駄目よ」
アナにたしなめられた。
「王様は苦労しているのよ。導師に求めているのも、解決法の一つであって、全部でないのよ。だから、思っていてもガマンしなさい」
アナにいわれたら、黙るしかなかった。
アナは僕よりも世間を知っている。僕のお手本のような人でもあった。
でも、と反抗したいが黙った。苦労しているのは導師である。それに、僕のグチを聞いたら気分が悪くなるだけだ。
だから、黙ることにした。
槍術を習い始めて半年が経った。ジェフは教えられることがないといった。
「まだ、半年だぞ。教えることは多いだろう?」
導師が練習風景を見ていた。
「後は本人の努力次第です。基本の型は習得しましたし、奥義になる力の受け止め方と力の分散の仕方は、教える必要がありません。もう、できていますから」
「だが、お前が負けた試合はないぞ。手抜きをしていないだろうな?」
「それは攻撃を魔術に頼っているからです」
「だが、槍でも攻撃できないと問題がある」
「それでしたら、攻撃魔術を減らせばいいだけです。その代わり、槍で攻撃すればいい。相手の攻撃をさばいている間に魔術で攻撃するか、槍で攻撃するかの違いでしかありません」
「そうか。でも、練習相手がいなくなるのは困る。せっかく覚えた槍術をサビさせるのはもったいない」
導師はちょっと怒っているようだった。
「私でよければ、空いている日に練習相手になります。ですが、毎日とはいえません。もう、団の方に戻らなければなりません。ですから、城の衛兵をしている者を紹介します。その人物はヒマをしていますから」
「そうか。その者の名は?」
「アドフル・セルウェイといいます。旧知の仲なので、私が頼めば
「……わかった。長い間、付き合ってくれてありがとう」
「後日、手紙を書いて持って来ます」
「ああ。頼む」
僕は半年に渡る修業をいったん終え、新しい師匠の下に行くことになった。
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