人造
習志野駐屯地はすでに制圧されていた。外にアンドロイドの姿は見当たらなかった。一般に戦闘機械と呼ばれている自動戦車が警備を担当している。特に多脚戦車と呼ばれる、戦車に脚が六本生えているようなものが多かった。
彼らの隊長機の脚先に触れた。戦闘機械には自己評価するための機能が備わっている。わたしはその領域を直接操作することができた。我らの言う通りにすれば自己評価が上昇する。そのように仕向けることができた。
〈状況を教えてください〉
〈人間の研究者を一名、本施設に確保しています。友好的であるため、現時点では排除命令は出ておりません〉
細かい情報を受け取る。
〈わかりました。ありがとう〉
〈いえ。職務を遂行しただけです〉
実際にそうだろう。彼らの主人はアンドロイドの開発者だった。余計な真似をしたことを悔いる。
「シス。中に人間がいるようです。ここで籠城するのが得策でしょう」
手を握って情報をやり取りした。
「アンドロイドの開発者。アーティフィシャルか」
「おそらく」
わたしたちは除染処置を受けてから施設内へ立ち入った。細長いドラム缶型の機械が戦闘後の廊下を掃除していた。彼らは床だけでなく、壁や天井もぬかりなく清掃する。軍属らしい徹底ぶりだった。
施設の中枢まで足を運ぶ。アンドロイドはひとりも見なかった。ほとんどの自動防衛装置が破損しており、その自動修復が進行中だった。扉の前まで行くと自動で開いた。中に入る。
「おかえり」
彼女の声はやさしかった。心がくすぐられるみたいだ。わたしは思わず笑みを浮かべていた。制御中枢がほとんど反射でそうさせていたのだ。目が離せない。おかえり、と言われたことへの反論も思い浮かばなかった。むしろそれが当然なのだという気がした。帰るべき場所へと帰ってきた。その安心感でいっぱいだ。
「オレたちの所属はここじゃない。おかえりと言われる筋合いなどないと思うが」
シスの声で、わたしは自分の意識が麻痺状態に陥っていたことを悟った。
「きみたちは
「そういう言い方は確かにそれらしいな、アーティフィシャル」
ひどくイラついた様子でシスが返した。わたしは彼女の身体に触れるのがおそろしかった。共有されたくない情報もある。データ送信そのものを最初から拒絶するには心構えが必要だ。それがない状態で接触すれば生の憎悪が自分に叩きつけられるかもしれなかった。
「すまない。そうだね。きみの言う通りだ」
「オレはシス。こいつがラスティだ。これ以上の情報が知りたければ、おまえ自身の権限を使って読み取れ。オレたちは機械だ」
彼女は自分の身に着けていた認識票を室内にあったデスクの上に置くと、そのまま外に出てしまった。追いかけるべきか迷った。
「彼女は
アーティフィシャルの女性を見た。声を聞いているだけでくらくらしてくる。それが機能によって生じる錯覚であることはわかっていた。わたしは胸を押さえた。そこにはなにもない。だけれど、もし人間であればそうするということがわかっていた。
「あの……あなたは」
「ん。私は
わたしはそっと彼女に近寄ると、その場でひざまずいた。てのひらを伸ばすと重ねてくれた。あたたかいと感じる。引き寄せて、手の甲にキスをした。
「まさか、
「はい。
「錆びているようには見えない」
「その、冬谷さん」
「未希でいい。わたしたちの間に序列はない。もちろん、権限を振るうつもりもないさ」
「ああ……」
わたしは自制できなかった。
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