ほんとうにすきなもの

凛々サイ

ほんとうにすきなもの

 ぼくたちは夜空を見上げ、決して手の届かない満天の星々を見つめていた。

 その星空は言葉に出来ないほどに美しく輝いていて、ぼくも、他の子供たちも、全員がその夜空へ向かって必死に手を伸ばしていた。誰もが憧れを抱いていた。


「ぼく、あの星空へ行ってくる」


 誰かが言った。それに続いて「ぼくも!」「わたしも!」と大勢から手が上がった。


「では、ひとりずつ順番に行きましょう」


 近くにいた女神さまが言った。みんなは大はしゃぎしてとても喜んだ。「一番に行く!」とそれぞれに手を上げた。僕もその一人だった。そのときの誰かが、女神さまへ質問をした。


「好きなもの、ひとつだけ持っていってもいいですか?」


 女神さまはにっこりと微笑んだ。


「ええ、もちろん。この地球でみんなが大好きだったもの、一つだけ持って行きましょう。さぁ選んで」


 それぞれに好きなものを思い浮かべると、すぐにみんなの手の中にあらわれた。


「僕はパパがくれたこのマンガ本!」

「オレはおばあちゃんに買ってもらった自転車!」

「私はママに買ってもらったネックレス!」


 それぞれが大好きなものを得意気に見せた。「こんなに大好きで素敵なものを持っている自分があの星空へ一番に行ける」とそれぞれ主張した。だけど、ぼくも全然負けていないと思う。だからぼくもみんなに見せた。大好きなものを。


「ぼくはこのロケットランチャー!」


 みんなは僕を見て、きょとんとした。そしてすぐに、こわいおばけでも見つけたような顔になった。


「そんなもの危ないよ。だってそれは戦争の道具でしょ?」

「そんなこわいもの、キレイなお空に持って行かないでよ」

「もっと他にはないの? 思い出のものとかさ」


 ぼくはみんなの言葉を聞いて心がしぼんだ。涙まで出てきそうになった。ぼくが選んだものは何かおかしいの? ぼくはこれがほんとうに好きなんだ。かっこいいとずっと思っていたんだ。ほんとうにすきなものを選んじゃいけないの?


 そのとき、はずんだ声がひびきわたった。


「あら、いいじゃない! とってもステキ! だって、それがあなたにとって、ほんとうに大好きなものなんでしょ?」


 女神さまだった。さっきと変わらず、にっこりとぼくに笑いかけている。するとみんながそれぞれ顔を見合せ、次第に様子を変え始めた。


「持って行きなよ」


 近くにいた男の子がぼそりと言った。僕がとまどっていると近くの女の子もその子に続いた。


「だって、あなたは何にもしばられてないんでしょ?」


 首をかしげるぼくに、また別の男の子が言った。


「僕たちはここが戦場だから」


 その言葉でみんなが顔をふせた。その子は続けた。


「君はここで戦っていない。僕たちは思い出をここで必死に作ったから、手放せないんだ。だけど、いいんだ。幸せだから」


 その子はにぎっていたマンガ本をぎゅっと抱き寄せて、ぼくを見つめた。


「君が誰よりも一番にあの星空へ行くべきだ」


 隣の女神さまはにこにこと微笑んだままだった。

 みんなはぼくを笑顔で送り出しくれた。

 だからぼくは、みんなに負けないほどに笑って、きれいな星空を誰よりも一番にかけた。

 

 ほんとうにすきなものと一緒に。

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