007 [上]
俺たちのBTRは絶讚小汚いゴブリン共に包囲さられかけている。
ニット帽がトレードマークの車長は
「ゴブリンどもが鉄床戦術なんて生意気だな」
BTRから轟音を放つ14.5mmを扱う砲手は
「車長そんな暢気に話してないで次のベルト寄越して、もうベルト無くなるから」
ハッハハと笑いながら自分の得物であるRPKに手持ちの水筒の中身をぶっかけるアルティン頭は
「グレゴリー、怒られてやんのコウに車長譲ったら?」
「あん?とっとと弾込めて右側面の弾幕張れ」
「テクニカルのバカどもがいたろ、ソイツらどこ行ったんだ、バカだから
「あの玉無しどもとっくに逃げたぞ」
「はぁ?何処逃げんだよ何処かしろ全部糞共まみれじゃん」
車長は狭く轟音の響く車内の弾薬箱から新しい弾薬ベルトを手早く取り出し、砲手に渡しながら
「玉無しどもは林と路側帯の間を無理くり走って先頭車両の方へ逃げた」
上部ハッチで身を乗りだしている俺の隣で、M1カービンを丁寧に教本通りの単連射をし、近付くゴブリンを確実に仕止める青年は
「センパイヤバイ、次のマガジンで最後っす」
「じゃあ今のマガジン撃ちきったら下がってマガジンに弾込めしてろ」
「じゃあセンパイの奴じゃ連射できなくなくてヤバくないすか」
「もうすぐ手持ちの弾無くなるから、サイドでいくわ、たいして弾ねぇから超特急で弾込めて」
スコープ越しに下世話な笑いをするゴブリンに照準つけ撃つ。
モシンナガンから撃ち出された弾丸は正確に胴体のバイタルに撃ち込まれた、その徹甲弾はゴブリン一体では威力は衰えず、その後ろで安全だと思いこむ愚かなゴブリンにも命中し同時に物言わぬ灰となり絶命する。
「てめぇらの顔なんか見たくねんだよ死んでろ、車長まだですか車列が動きだすのはもう余裕ゼロですよ」
「もうすぐ障害物を除去できるってよキバってけ」
GWIIIOOOOO!! GWOOOGWOWO!
14.5mm機関銃の銃声を書き消し、イヤーマフ越しでも震え伝わり身体の芯につたわる獣の咆哮。
イヤーマフが無ければ鉄の塊のBTR80を振るわす咆哮は、相棒をほっぽりだして両手で耳を押さえつけ踞り動けなかっただろう。
これは人間の持つ薄くなった本能を呼び覚まし、逃げろと本能に呼び掛ける。
咆哮と供に咄嗟に車内隠れた後に、慎重に頭をだす
「なんだこれ、ゴブリンが引いていくぞ」
車長は透かさず「被害報告!」と叫び、狼狽える新人操縦主は
「さっきのでエンジンが止まりました再始動試みます!」
「ネイサンこいつはポンコツだから手順通り落ち着いてやれ」
「了解!手順どうり再始動します」
各種計器と機銃を素早く確認する砲手
「車長、砲塔機銃供に異常無し14.5mmはこれで最後、7.7mmはまだあります、残りは床下弾薬庫」
「わかったそこを変われ、きたねぇ声をだしたヤツの顔を拝みてぇわ」
砲手はしょうがないなぁとした顔つきで砲手席を明け渡し、操縦席の横の車長席兼無線主席に座りいじり始め
「おいおい、なんじゃこらぁ」
車長グレゴリーはゴブリンの異様な姿をペリオスコープ越しに覗き見る。
ゴブリンは「GOBU! BOBBI! GOOB!」と合唱かの様に雄叫びを上げ、その手に持つ粗末で雑多な武器を使いこれまた粗末な木盾に叩き付け打楽器の様に扱い、統率を取りながら田畑を踏み荒し後退していく。
300m以上だろうか、大量のゴブリンでも異彩を放つ集団をグレゴリーは発見する。
「鷹野上等兵、あれ見えるか?」
グレゴリーは方位を指で向けながらアキに確認を取る。
アキは手に持つ小型双眼鏡を覗きながら
「あのバカデカイゴブリンですよね?」
「あぁそうだ、あれはゴブリンキングとかいう奴だ初めてみた、あれがこのバカみたいに多いゴブリンの大将だろう」
「アレを殺れと」
手動用の砲塔旋回ハンドルを必死に回しながら
「そうだ話しが早くていい、あっちでタバコ吸いながらNoobの相手してるヤツよりいい」
「Noobじゃない、初実戦でここまで持ったのは凄いですよ悟は」
顔面蒼白で座席の中に縮こまる坪井二等兵に、タバコを吸いながらカップに入れた水を飲ませる倉守少尉。
「悟お前は頑張ったし良くやった、ここまでだ賢いお前ならわかるよな」
ひとしきり落ち着いた坪井二等兵に向かって、倉守少尉は手に持つRPKを坪井二等兵の頭に叩き落とす。
鈍い音と共にバタッと倒れ気絶する坪井二等兵、倉守少尉は自信の大きな背嚢から結束バンドを取り出し手足を締め上げる。
「恐慌状態の相手にはこの手に限る」
「それはそれで不味くないですか?」
アルティン頭はアルティンをガタガタいわせながら
「そんな訳無いだろ、PTSDになって暴れられたり自殺されたらたまらん。
奉天軒の大将に世話なってるからな、てかグレゴリーは大将にどう説明すんだ廃人になったらヤベェ」
ずっと旋回ハンドルを回し顔に玉の汗かくグレゴリー
「気合いで直してもらうしかない。
やっと回し終わりそうだ、鷹野上等兵お前が先制入れて相手をこっちに釘付けにしろ、それからこいつで仕止める。
案山子何ぼさってしてるお前も掃射すんだよ早くコイ」
吸ってるタバコを握り潰して車外にポイしてRPKを構える
「車長いいとこだけど報告」
「なんだコウちょうどゴブリンを殺る時に」
「いい報告と悪い報告ともっと悪い報告ありますけどどうします?」
「いい報告から順番に」
「1、やっと障害物が取り除けたので離脱できる
2、エンジンが操縦席から始動できないので車外のメンテナンスハッチから始動しないといけない
3、小隊長殿は離脱までにエンジン始動出来ない場合、民間人保護を優先のため、エンジン始動出来ないと落伍兵として扱うだそうで」
「糞小隊長めお前の乗ってるので牽引位できんだろ、ネイサン仕事だ外でて直せ」
ネイサンは顔を真っ青にしながら
「ムリムリ死ぬ!死ぬってムリだって!」
「コウ64持ってネイサンを援護してエンジン始動まで時間稼げ...いや案山子お前もでて守れ」
「えぇ弾あんま入って無いんだけど」
「いいからとっとと出て能力使って安全確保しろ、このままだと置いてかれるぞ、
「へいへいやらぁいいんでしょ、あれやんの疲れるんだよ」
手袋を脱いでRPKを持ち、ハッチを開け走りだす倉守少尉素早くゴブリンの矢を潜り抜けBTR80の後部へ走り。
手を地面にあて、BTRの車体の回りが揺れだし車体後部を囲う土壁が隆起していく。
「なんだこれは?」
真っ青から驚いた表情に変貌したネイサンにグレゴリーは
「これ初めて見るのか、これが案山子の能力で案山子の由来だ、コウ行って介抱してやまたしばらく動けんだろ」
「了解ですほらネイサンいきますよ」
「りょ、了解修理してきます」
軽く乱雑に敬礼をして見送るグレゴリー、ひぃいと情けない悲鳴を上げながら走って行くネイサン。
「さて鷹野上等兵こっちもやるとするか」
「車長、鷹野じゃなくてアキでいいです」
「おう、アキ俺の事も好きに呼びな」
スコープ越しにゴブリンキングは新たな動きを見せる。
「一歩遅かったみたいです」
グレゴリーは慌てて照準機を覗く、貧乏ゆすりをしながら冷や汗をかく。
ゴブリンキングは取り巻きと共にゴブリンの言葉でおぞましき呪文を唱え、濛々と火花が飛び散り直径5m以上の小さな太陽をゴブリンキングの頭上に作りだす。
バババ...と曳光弾混じりの雨がゴブリンキングに降りしきるが、何かに遮られゴブリンキングには効果無い。
「前の連中もやる気だし始めたか、此方もやるか」
「いや待って」
スコープ越しのゴブリンキングに動きがでる。
体長3mは超え何かしらの獣皮の衣類、髑髏の王冠に骨の錫杖と野蛮なゴブリンキングは儀式の成功に喜ぶ。
小賢しい人間たちの物と食糧は我らの物、妬ましい迷宮より産まれし我らにこそ相応しい、多数の同胞の死など構いはしないすぐにまた産まれて増える、自信の獣欲に比べ些細なこと、有難いと思うがいいこの人間たちの物を奪い新たな支配地を得る試金石となるのだ。
ゴブリンはダンジョンから産まれる獣欲の限りに生きる野蛮なモンスター、基本的に自ら物を生み出す事はなく略奪で生きる野党の様なもの、下劣なゴブリンは集団で行動する其処に仲間意識など存在しない、いかに同胞を利用し自信が上位種に成長し欲望を満たす事を重視する。
ゴブリンキングは号令をしその錫杖を降り下ろす、供廻りのゴブリンの神官もまた獣骨と木で作られた杖を降り下ろし声を上げる。
燃えたぎる巨大の火球は先に攻撃を仕掛けた先頭の軍と探索者の装甲車車列に狙いを付け火球は動きだす。
火球は囂々とゴブリンの雄叫びと供にゆっくりと、草を燃やし畑の水分を蒸発させ道中のゴブリンすら消し炭にしながらコンボイ車列に向かってくる。
「ヤバイぞ伏せろ対ショック体勢」
BTRの外から
「バカヤロウとっくに対ショックしてんだよ、最低だこの仕事は!」
「案山子てめぇとの仕事何時もくそだ!......お前やっぱりモンスターに好かれる何か出してるだろ!」
「しらねぇよクソが!そんなん願い下げだ」
火球は前方車列付近で炸裂し巨大な轟音を奏で、不幸な最も近くのテクニカルは車体は一瞬で燃え溶解し搭乗員は即死し煤けた骨だけとなる、離れたとこからだとキノコ雲が発生する程の爆発は、行動不能になる車両が多発し民間車両は混乱の最高潮となる。
探索者暮らし Mistel @-7777-
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