006
無事に? 講義が終わり、今はカフェスペースに来ている。
ここは、併設させている施設の中で最も人気な場所で、安っぽい代用コーヒーなんかでなくちゃんとコーヒー豆から抽出された本格的なコーヒーやお茶類や、ここで調理された軽食など24時間楽しめる探索者のオアシスだ、もちろん探索者のオアシスだけあって装備持ち込みOKだしなんなら装備の整備清掃用の作業台だってある。
そんなオアシスでアイスコーヒーとボリューミーなハンバーガーを楽しんでいる、このハンバーガーは、荒く刻んだ赤身の牛肉を使い肉感たっぷりのパティにどっさりと入ったレタス、オリジナルの奥深くスパイスのキレがいいトマトベースソースが挟まったハンバーガーでどうやらここで人気メニューのようだ。
うまいと声に漏らしつつ、黙々と食す中、見覚えしかない重厚な装備の男が対面の席にドカッと座り勢いが強いためか少しイスから小さな悲鳴を上げるのが聞こえる。
手に持つコーヒーを一口飲み。
「やぁ少年、さっきぶりだね」
「ええ倉守少尉、さっきお世話になりました」
「まぁ、そう固くならずスケアクロウとでも呼んでくれ遠慮はいらんよ」
寛ぎながらコーヒーをすするスケアクロウ。
「ではスケアクロウさん、いきなりですが用は何ですか? 見える通り俺は遅めの昼飯を食べてる最中なんです」
「食べながらでもいいよ、早瀬ちゃんから聞いたよ、鷹野上等兵は17歳で射撃主記章を取った実力者でこの町に来てもダンジョンにうつつを抜かさず探索者の仕事を優先してやってるてね」
「たまたまですよ、ソロでダンジョンなんか自殺志願者か実力が有るって妄想を拗らせた阿呆しかいきませんし、ジシスの実りいい仕事が有ったからですよ」
せっかくのハンバーガーが冷めてきた食べよう。
「そんな少年にいい仕事あるんだけど受けない?何時も一緒のヤツが胃潰瘍になって仕事抜けちゃって空きがあるんだ」
モシャモシャ食べながら首を縦にふる
「依頼は軍と民間に輸送車列の護衛さ、軍の車両に揺られながら二泊三日の簡単なドライブだ、そこでキミは衛生兵の僕の随伴さ簡単でしょ?僕はRPKもってるから他の衛生兵の随伴より楽よどう?」
ハンバーガーを飲みこみコーヒーで口を爽やかにして。
「実力を見込んでくれるのはありがたいですけど、俺は上等兵ですしそれに得物はモシンナガンで取り回し最悪ですよ」
「その点は大丈夫マークスマンなら軍の連中も文句は言わないさ、ここ一年位モンスターの出没が多くてこのような依頼に新人だろうが大歓迎してんだから」
「そうですか、とりあえず日時を教えてくれませんか?」
「明日午前9時から、8時にはここにいてほしいかな」
「は?、明日?」
「そう明日、バカがね昨日の夜に胃潰瘍なったから安静にするワっていいやがってね、困って早瀬ちゃんに聞いたらキミがいいんじゃないって、キミなかなか事務方に新人の中で期待されてるみたいで声かけてみたのよ」
明日!いやや急すぎるだろ、此方にも準備あんのよ二泊三日の護衛よ?
生活必需品から予備弾薬なりをデカイ背嚢に用意しないと、いや燐の分の飯やら家事どうすんだアレ生活力ゼロだぞ、二日いないだけで死なないよな?
生活力ゼロをあなどっちゃいかん、なんでもかんでも放置したままになるだろう帰ってきたら何時も以上の家事をしないといけない、疲れた状態でそれをやる冗談じゃない。
報酬やらの話もまだだが丁重にお断りしよう、軍の依頼で衛生兵の随伴歩兵なんだから旨味も多い依頼な感じもするがしょうがない、
「この仕事なんですけど...」
「いやーありがたい、欠員が出るとどやされるから助かったよジャヨロシクー此方で分隊の登録しとくから、お礼なんていらよ」
ドタっと立って走っていった
「いやそうじゃなくて」
残りのアイスコーヒーを一気飲みする、氷の冷たさと苦味が染みる。
見事にやらかした、旨い話しにのせられる阿呆の典型だ、えらい授業料になりそうだ。
とりあえず受付にいって詳細を聞こう軍の仕事だから変な仕事じゃ無いはず、未来の自分がどうにかやってくれるだろ。
受付に行って詳細は、やはり陸軍からの依頼で倉守少尉の分隊の指名依頼に参加だそうだ、相方無しになってキャンセルされる危機のピンチヒッターになってしまったようだ、階級差がありすぎるのではと思ったが俺の射撃主記章のおかげで問題無しとなった曰く、偵察兵の真似事もできるのは都合が良いとのこと。
ドタキャンは昇進や事務所での対応に影響出かねない、ましてや指名依頼なんてもっとヤバイ上等兵の俺が余程のことがない限りドタキャンなんて出来ない下手したら干されかねん。
まずここで出来ることを終わらせよう。
此方に来てからは事実上ソロでの仕事で中距離目標にを相手することがなく、スコープを外してライフルマンとして仕事をした。
だが陸軍の部隊の指揮下に入り行動することになり、集団組織としてしっかりしている軍は役割に応じ分業化がされており、ワンマンプレーなんてあり得ない、よって本来の役割であるマークスマンとしての能力で戦うことができる。
家での整備清掃でスコープを付けたりして問題無いか確認しているが設備が整っている射撃場で確認したい。
本日、二度目の射撃場だ。
銃架にモシンナガンを固定し、ショルダーバックからPUスコープの入った革製ポーチと手帳を取り出す、手帳には普段使用してる弾薬の弾道早見表と前回のゼロイン調整時の調整記録が書かれている。
簡単な手持ち工具でスコープを乗せることができ容易いが、俺はこのPUスコープはあまり好きでは無い。
と言うのも販売されているPUスコープの当たり、ハズレが激しいことだ、シンプルな構造ゆえコピー品を含め多数のメーカーや個人によって多数の弾薬に適合した物が生産されている。
製造年シリアルナンバーが刻印されてない、杜撰な製造によるレンズの歪みや曇り酷ければレンズに気泡まで入った物までバリエーション豊かだ。
俺のPUスコープは曇りや歪みの無い良品だがレンズ保護の皮膜によりやや暗く見える、これでも銃砲店などを巡ってやっと見つけたモシンナガン用良品、此と同品質の物はなかなか見付からない、オシャカにしたら終わりだ。
簡単なのがいい、サクッと前回の調整した値にできた。
さて実射してみますか、ストリッパークリップによる装填できなくなったため面倒くさいが一発ずつ装填する。
的の中心を狙い撃つ、銃声が身体に染みるが五発スコープ越しに撃つ銃本体の誤差を含み左上に集団した、まず左右のズレを修正するためスコープのノブを回す、上下の修正はマウントを工具で調整する必要があるため後で修正することにする、また五発装填し射撃する。
地道に射撃し誤差修正を繰り返しながら満足のいく着弾円を描かれるように調整していく。
流石に予備弾薬まで持ってきていないため、途中で普段使いの通常弾が無くなり買いにいくことになるハプニングがあったが、出費が痛いが命を預ける相棒であるから妥協せずやる。
この地味なことは嫌いではない、時間をかけ最高のコンディションにするのはプロとして基本だここを怠る奴は相棒に見捨てられ死ぬだけだ。
一通りの調整を終わらせ二挺の相棒も綺麗にした。
随分射撃場に籠っていたようだが俺は満足だ調子に乗ってスチェッキンも確認してしまった、両方とも異常なし完璧な仕上がり何が出ようと蹴散らしてやる。
帰宅途中と言うより澤辺荘の道路を挟んだ向こうに個人スーパー、サワノベがある澤辺さんは手広くやっている。
"世帯向け"アパート澤辺荘や近隣住民がよく利用する便利なスーパーで護身用銃の弾薬まで置いているため、澤辺さんに俺の使用弾薬を置いてもらっていてたいへん都合がいい。
7.62×54R弾は通常弾は事務所でも売っているが徹甲弾やモンスターコアを使用した特殊弾は、大学などがある中心街の専門店位でしか取り扱いしていないマイナーな弾、ここ焔岸市での弾の安定的に供給先を近場にあるのは安心して仕事ができる。
「あらいらっしゃいアキ君」
「こんにちは澤辺さん、まず31番のタバコ四つと7.62×52の通常弾、60発分ください」
「あらら随分物騒なこってね」
鍵を持ってスタスタと歩いてタバコと弾薬の棚を開けて、タコ糸で縛られた油紙の包み三つと何時もの鳶のが描かれたタバコ箱四つ持ってくる。
「はいよタバコ四つと20発の包み三つだよ」
「今日はまだありますよ、この徹甲弾20発に特殊弾10発ください、俺いるものあるんで取ってきますね」
買い物かごを取って、要る物をぱっぱと放り込んで急ぎ足でレジに戻る。
「これで全部です」
澤辺さんがレジ打ちしながら
「なんかデカイ仕事でも受けたんかい?」
「そう軍の仕事、二日か三日掛かりそうなえらいヤツ受けちゃった、ちょっと後悔してるよ」
「あんた仕事受けるなら確認しなきゃダメだよ、探索者は命あってのモンだよ」
「組むヤツに一杯食わされたよ、次はやらせん、支払いはカードで」
カード支払い機にカードをかざし財布にいまう、弾薬小包をショルダーバックにしまい他はレジ袋を持つ水のボトルも入っててずっしりと手に食い込んでくる。
「どうもね」
やっと帰宅だ、癖でただいまと言ってしまうが反応は無い家には俺以外誰も居ないのだから、反応があったらホラーだ。
燐が帰ってくるまでに家事終わらせますか、一仕事終わってまた仕事ままならんね。
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