003


今日の俺の命の値段は一万五千円プラス弾薬費保証五千円だ。

 弾薬費保証を含めれれば、俺の階級相場上限の割りのいい仕事、さすがJHCSU(ジシス)金あるねぇ、羽振りの良いのは大好きだ。


 ジシスは、JAPAN HEAVY CHEMICALS SCIENCE UNION略してJHCSU(ジシス)、化学系財閥で焔岸市に拠点を置き、燐が入学する私立大学もジシスが最大出資者だ、何なら焔岸市は、ジシス財閥の傘下企業によって独占的に開発され、独占禁止法無視は公然の秘密だ。

 ジシスのばら蒔き依頼を此処数日、受けている。


斜面に生える雑木林の中。

 木に体を預けながら息を殺しながら、相棒モシンナガンを構える。

 犬型二体とインプ型一体さっき俺が発見し、報告した数と同じのようだ。

 オープンサイト越しに見えるのは、犬型と言いながら似ても似つかない異形、同じなのは四足歩行で低いシルエットだけだ。

 顔と思われるところに淡い光りを放つ感覚器官に頭には刃のような鋭い角、体に毛などはなく血管を彷彿させる赤い筋。

 

まだモンスター共は俺を気が付いていない、後方で流れている獣避け兼俺たちの迷子防止の大音量ラジオに釣られているようだ。

 だいたい八十メートル位一般的な交戦か、セオリーどうりに脚の早い犬型から狙いを定める、

 息を整え、力を抜き、息を止め静に引きがねを引く。


雑木林に炸裂音が響く、やはり犬型には過剰火力だったか胴体に一撃で灰になって死んだ、まぁ拳銃弾でも倒しやすい相手だ。

 直ぐにボルトを動かし次弾を装填し構える。

 味方が撃たれてやっとこさ、俺に気が付き走って来る、だが此処は斜面で足場が悪く犬型の脚力を持ってしても、平地のような俊敏で不規則な動きはできず真っ直ぐに俺に目掛け走って来る。

 俊敏でない犬型など怖く無い直ちに発泡する。

 同じどおりに灰になり死んだ。


残りはインプ型だけ何だが、今殺した犬型の後方をノシノシと此方に来ているが、体に対し頭が明らかに大きく、これまた大きい斧持っているためアンバランスで歩きにくい様子。

 侮ってはいけない大きい斧をとんでもない速度で降れるし、デカイ頭に付く嘲笑するような、クソッタレの口から炎を吐いてくる。

 頭が大きくココを狙ってくれと言わんばかりだが、頭は弱点では無いむしろ最も防御力が高いため弾の種類によっては跳弾してしまうから、焦っている時には要注意だ。

 ヤツの細い胴を狙う、ヤツの動きのリズムを掴み引きがね引く。

 何とか命中し死んだようだ。

 やはり能力無しの精密射撃は難しい、俺の能力は蜻蛉の目と言われる、複数個の目標に対しピント合わせられる、此方を単一目標に使うと相手の動作を隈無く視る事ができ、相手の動きを予想しやすくなる。

 じいちゃんは口が酸っぱくなるほど言った、「能力ありきの強さなど弱い、地力あっての能力、能力に使われ自惚れてはならない」まったくそのとうりだと思う、腕を上げなければ。

 思い出に浸って報告を忘れそうになった。


「γよりα、βへ目標撃破」


「αよりγへ戦果確認し周辺確認した後、持ち場に戻れ」


「γ了解、戦果確認に行きます」


「αよりβへ異常はあるか」


「βよりαへ異常無し哨戒続行する」


無線越しに話すがどうも、素っ気ない全てが事務的、無機質に感じうすら寒い雰囲気だ。

 企業所属の探索者は皆こんなのか?軍人ですらもっと愛想がいい、こんなんのに成りたく無い。


空薬莢を拾うが一つどっかに逃げられてしまった。

 空薬莢が無ければ弾薬費保証が付かなくなり出費が増えてしまう。

 弾を込めて、ゆっくりと灰となった亡骸に近付くこのタイミングが一番怖い、不意にモンスターが現れたらこんな場所だと対処が厳しい。


ジシスの依頼受けて毎回戦闘が起こる。

 北海道にいた時はこんな頻度で戦闘は起きなかった、北海道の方が探索者の哨戒漏れが起き易いはずなのに、更にモンスターの混成ときた余程多い集団でもなければまず無い、小集団で初めて見た。

 企業の連中は「良くある事」だの一点張りだし。

 緊張状態が続いてナーバスになっているかもしれない。

 とっととモンスターコアを回収して持ち場に戻ろう。


あぁ、やっぱりか野良の小型モンスターのコアは小さい、知っていることだがやっぱり悲しい弾代にもならん。

 しょんぼりとした気持ちを持ちながら、持ち場に戻る最中に、パンパンと乾いた音が聞こえる。

姿勢を低くし、相棒を構えながら周りを改めて確認する。

 戦闘頻度が高すぎる職場なこったクソが、愚痴も言いたくなる。


「βよりα、γへ遭遇戦となったが全て撃破した」


「α了解、βは任務を続行せよ」


「β了解」


βからの戦闘報告だ、同じ企業所属の癖にαは気にかけやしない、仲間を思いやる気持ちをどっかに忘れてきてしまったのだろう。

 俺はもうこのサイボーグ人間どもの相手は疲れた、早く帰って燐と飯でも食いに行きたい、次回は絶対別の仕事にする、こんなの仲間がいるのに仲間がいないみたいだ。


 改めて持ち場に戻りながら、タクティカルジャケットのポーチから鳶の書かれた箱とライターを取り出し、箱を軽く降り飛び出した一本を加え火を付ける。

 紫煙を吐きながら、何だかんだ重いと言いながら此方に来て此ばかり吸っている、今時珍しい両切りタバコで一本で吸った気になれていい、家では吸えんから余計にだ。

 残りの時間を時たまタバコ吸いながら時間を潰しやっと終了時間が近いた。


「αからβ、γへ任務終了だ集合」


「β了解」


「γ了解!」


やっとお呼びだしだ。

 さて集合場所へずらかろう。


ジシスのロゴの書かれた鉄帽に目出し帽と、パッと見怪しく同じ装備の連中ことαとβと合流し、撤収作業中の林業者が仕事終わりを待ち。

 終わったの確認しジープの後部座席に乗り込み、後は事務所まで揺られるだけだ。

 道中は特になにも無く、三十分程で事務所に到着した。

 事務所の窓口に向かうが案の定混んでいる。

 なかなか皆装備も違い面白い、斜め向かいにいる同年代位の彼女は、刀に拳銃とは漢だ。

 前に並んでいる人はもっと面白い、溶接面のようなヘルメットに赤十字が描かれ、とても重装甲なボディーアーマーには赤十字腕章から衛生兵で有ることが解り、重そうなリュックの横にはドラムマガジンが刺さったRPK軽機関銃が架かっている、間違いなくこの中で最も異彩を放っているだろう、衛生兵で機関銃手で重装甲なんだから。

 前の衛生兵が喜びながら精算を終わらせ、あの重装備でスキップしながら窓口をあとにし、次は俺の番だ。


「仕事の報酬と弾薬保証のための空薬莢持って来ました」


ポーチから空薬莢三つをトレーにだす、最後の一つは暇な時間に捜索して救助したものだ。

 窓口のおじさんはサッと回収し弾薬の種類を調べ、素早く現金をトレーに置き此方に出してくる。


「此方が報酬の\15000-と7.62×54mmR弾三発分の\360-になりますご確認ください」


受け取り「どうも」と答え立ち去る、窓口渋滞は更に悪化の一途をたどっていた。

 もう少し遅かったらアレに並ぶ嵌めになったと思うと良かった、帰って飯にしよう。


バスに乗り澤辺荘へもう慣れた道のりだ。

 部屋の前に付きドアを開け「ただいま」と言いながら中へ入っていく。

 トタトタと燐がやって来て「おかえり!」と元気に言ってくるが燐に嬉しそうなイヌミミと尻尾が幻視したが、疲れてたのだろう。


「リン今日は外で飯にしないか?」


目を輝かせ「行く」と即決する燐。

 やたらデカイTシャツ着てワンピースみたいにして、警戒心ゼロで俺の事を完全に男として見ていないリンに、


「また、そんな格好し...」


シャツをバッとたくしあげる燐に素早く顔を反らす。


「おや~アキ君、ナニを想像したのかな~」


プププッとにへらとした燐は、引きしまったクビレの下にはホットパンツがあった。


「ボクはちゃんと着ているよ~、ムッツリアキだね」


「俺はこれを置きに行くから、ちょっと避けて」


玄関の前に突っ立っている燐を他所に、俺の物置兼寝室に行こうとするが。


「あれれ~ムッツリなの否定しないんだー」


煽る燐にムッとして「やっぱ飯なし」ざまぁ、煽るのが悪いんだ。


「だーめアキが外でご飯って言ったでしょ、美味しそうなお店見つけたからいこ」


腕を引っ張り俺の寝室に向けて行く燐。


傍若無人な燐だが、コイツの笑顔を見ると毒気が抜かれ嫌な仕事でも頑張れてしまうのかもしれない。


「どうしたのアキ?ぼーっとして早く行こうよ」


「あぁ、すまん考え事してた」


無い胸を張り、「ココに、イケメンな良い女がいるから話してみ」キメ顔をする燐。

 キョロキョロと周りを見ながら「良い女ってどこだ~」


「ボクだよボク、失礼だなもぅ置いてっちゃうよ」


「わかったわかった置いてくな」


「分かればよろしい」


やっぱり自由なやつだなコイツは。




用語解説


ダンジョン   [全てのモンスターの故郷はダンジョンにあり。

ダンジョンの最奥にあるコアを破壊すると、二度とそのダンジョンでモンスターは生まれなくなる]


野良モンスター [ダンジョンから出て徘徊するモンスターたちの総称。

ダンジョンの中のモンスターと比べ総じてモンスターが小さい、野生動物や人間を襲い成長しようとする。]


小型モンスター [体長50cm以上2m未満のモンスター。]

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