001


この焔岸市ホノオキシシ来て数日経つ。


「そんじゃ、行って来るわ」


「いってら~」とまだ寝惚けてそうな、燐を後にし玄関を出る


「一仕事行ってくっか」


春の木漏れ陽の入る穏やかな日だった。



時を遡り2月28日

北海道オホーツク海側、アキの実家



「アキも家出るのよね」


普段忙しく、珍しく家にいる母が再度尋ねる。


「ああ、リンがちゃんと焔岸に行けるか心配だし。

 探索者にとって彼処は稼ぎ場所で、良いスキルアップが出来そうだなって思っているから少し見にいくよ」


母は鼻を鳴らし。


「此方であんたの家用意したわ」


「は?」


鳩が豆鉄砲で射たれたような顔してると。


「あんたの考えなんて丸解りよ、リンちゃんが焔岸に行くついでの研修旅行って言ってるけど、リンちゃんが生活力ゼロだから近くに住むつもりでしょ」


母のドヤ顔が大変腹が立つが、俺の予定バレてる。

 母が見慣れない預金通帳を持ってきポイと投げ渡してくる。


「ジジイにお礼言いなさいよ、私の時こんなの無かったんだから」


見ると俺の名義だった。


「千.万..じゅ....百万も、大金じゃんどうしたんだよコレ!」


「どうしたもこうしたない、ジジイの部屋へGO」


トタトタと小走りで祖父の部屋へ向かう、「入るよー」と声をかけ部屋に入る。

 定位置の一人掛けソファに腰を掛け、何時ものタバコを咥えている、そして待ってましたって顔をしている。

 「なにこれ」前のめりになりながら、通帳を持ち上げてぶんぶんと降りながら説明求むとアピールする。


「まぁ、吸って落ち着け」


通帳をテーブルに置いて、祖父の前にある鳶の絵が書かれたタバコ箱とマッチを取り、一本拝借し火をつけゆっくり吸い、紫煙を吐きながらドシンっとソファに座る。


「じいちゃんやっぱこのタバコ、重いよ」


「そこが良いだろ、お前の吸い方がへたくそなだけだ」


灰皿を寄せ灰を落とす、一体どう聞いたら良いのか、煙を転がしながら思考する。

 俺の困ったの見越したのか。


「それはお前の軍資金よ、たかがソコソコの射撃主の金なんて大した事ない、お前蓄えなんて直ぐに無くなり、化物どもの糞になるのが良いとこだ」


「大人しく受け取れ、たかがババアとオレのヘソクリだ」


静にうなずく、確かに俺の蓄えは多くは無い。

 じいちゃんなどの退役軍人等との、探索者としての仕事の報酬はほとんど手を着けてはいないが、新人の報酬はたかが知れていた。


「分かったならとっとと準備しろ」


タバコを潰しそそくさと退散する、部屋を出るときに「装備をケチるな、都会に行けば五万と良い装備がある」とでかい声言い、「分かったありがとう」返し部屋をでる。


後に爺と婆の大戦争が勃発するのはまた別の話。


その頃、燐の実家


私が暖かい居間で宿題をやる中だった。


「リンいい加減、焔岸に行く荷造りしなさい」


眉間に皺を寄せ鬼の様相なママに、ソファを占拠しマンガを読んで、ママのことなど知らぬ存ぜぬを決め込むおバカなお姉ちゃん。


「まあまあ明日行くわけで無いんだからいいじゃん」


「良いわけ無いべや、部屋小汚ないんだからいらんもん投げないと綺麗にならないじゃない」


「ボクの部屋は小汚なくないよ、先週掃除したし取りたい物直ぐに取れる合理的な部屋だよ」


ドヤ顔をしているお姉ちゃんを余所に、青筋まで浮かべるママ、見なかった事にしようと心に決め宿題をやる。


ママはお姉ちゃんの足をがっちり掴み引っ張って廊下へ歩いてゆく、「ママ!ボクはモップじゃないよはなしてー」 「あら、ここにイイモップがあるじゃない、コレで誰かさん部屋を掃除したら綺麗になるかしら」 私やパパに助けを求める声が聴こえる気がするが無視する事にかぎる、 「ママッ流石に階段までこのままとか許してちゃんと荷造りするから!」 断末魔が聴こえるが何時もの事だ、現役の探索者のママに勝てない事を何時になったら分かるのだろうか?


私はお風呂に入ってすっかりリラックスモードだ、するとお姉ちゃんがフラフラとゾンビのような足どりで食卓にぐてーっとのびる。


「レ~ン、ボク疲れちゃったよ」


ふてくされながら、何でボクを助けてくれなかったのと非難の目を向けるがスルーする。

 そんなに目をうるうるさせたって私には効かないよ、学校の人だったら効いたかもね、あとパパもか。


「お姉ちゃんが普段から掃除しないからだよ」


ボソッっと「アキみたいなこと言わないで」と言う、アキ兄さんのこと一言も言って無いだけどなぁ。

 普段のアレで付き合って無いんだよね、なんか隠してそうだし鎌をかけてみるか。


「ねえ、お姉ちゃんやっぱりアキ兄さんと居られなくなるの嫌だか荷造りしないの?」


ピンっと姿勢正しジロッとこっちを見るお姉ちゃん。


「違うしー大学生活ナンテヨユー過ぎてチョット忘れてたダケダシー」


全然余裕が無い事は分かる。


「アキ兄さんに何か言わなくていいの?」


「アキは、お・さ・な・な・じ・みだからイイノ」


ふんすと鼻息を荒らすお姉ちゃん。


「私も幼馴染みよ?」


「レンはおまけだし、アキはボクの幼馴染みだし、アキはボクの物なんだから!」


私のお姉ちゃんながら勝手な事を言う、アキ兄さんは物じゃないでしょ、言ったら話が拗れそうだから言わないが。


「私にもチャンスが有るかな、恋人じゃないみたいだし」、「ダメ、アキはボクの」ニヤニヤしながら「幼馴染みなんでしょ?」、「ダメったらダメ」ぷんすかさせて逃げてしまった。

 やっぱりまだ付き合って無さそう、二人揃ってヘタレなようだと安心した。

 そんなんじゃ私が取っちゃうよお姉ちゃん♪


後にママからのある発表で衝撃で、石化してしまうのはまだ先のこと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る