第22話

「へっへっへ。追いつめたぜ」


 ギルドで賞金首扱いされた俺は、咄嗟にその場から踵を返して必死に逃げた。

 が、すぐに追いつかれ、逃げ場を失った。


 路地裏の袋小路のひび割れた壁を背に、俺は今、十数名のあらくれ冒険者たちにジリジリと詰め寄られている。


「な、なんで俺が200万G持ってるコト知ってんだよッ!」

「さぁ、なんでだろうなぁ」


 互いに顔を見合わせ、下卑た笑いを浮かべる冒険者たち。


 さっきギルドで似顔絵がどうとかいってたから、明らかに誰かが俺を指名手配犯みたいな扱いで晒上げていると考えられるが……


 ……まぁ、フランちゃんのオヤジだろうな。


 どうやら彼らは、俺をこのまま黙って家まで帰らせるつもりはなかったらしい。


「てめぇをれば、さらに300万G追加だってよぉ。ホント太っ腹だねぇ、王族ってヤツはよぉ」


 リーダー格っぽい巨漢がナイフを舐めながら、俺に侮蔑の視線を投げつけてくる。


 完全に舐めてやがるな、コイツ。


 まぁ俺見た目的にも完全奴隷商だし、そりゃそうだろうなって感じではあるけど。


「(あー……どうしたもんかなぁ……)」


 敵は完全に俺を仕留めるつもりで構えを取り始めている。俺のクビに300万Gもの懸賞金が追加でかかってるいるのだから、まぁ当然の流れだろう。


 ただ彼らがどう頑張っても俺が死ぬことはない。

 なので適当に隙を見て逃げればいいのだけの話ではある。そう、別に大したピンチを迎えているわけでもないのだ。


 でも、なんていうか……。


 なんか最近、色々な奴らに舐められっぱなしで、実は内心結構腹が立っていたんだよね。奴隷商のおっさんにだって、プライドはある。


「賞金は全員で仲良く山分けだからな!」


 リーダー格の隣で場を仕切り始めるヒョロヒョロのおっさん。まったく強そうには見えないが、彼も一応冒険者らしい。


「あー……もう、いいか」

「あ?」

「俺、本気でやっちゃってもいいかな?」


 全員もう仕事終わった気になってる表情がすげーイラっとする!

 クソが!なめんじゃねーぞ、コラ!


「おぉ~コワッ。奴隷商、本気でヤるってよぉ!」

「ぎゃははは!!」

「ヤれるもんならヤってみろってんだよぉ」

「俺ら一応、全員A級冒険者だぜぇぇ」


 あっそ。でもそんなの関係ねぇ!


 正直、色々面倒なことになりそうだから人間相手に使うつもりなかったけど、もう我慢できねぇ!


「来いよ、ザコ共。全員返り討ちにしてやっから!」

「あ?調子に乗ってんじゃねぇぞ、奴隷商が!」

「行くぞコラぁぁぁ!!」

「500万Gゲットだぜぇぇ!!」


 はは。全員一斉に襲い掛かってきやがったな!


 でも、それは悪手!



 一網打尽だ、クソ冒険者どもが!!



「死合わせぇぇぇ!!!」


 右手をかざし、最強の奥の手を発動させる俺。


 光が収束し、空気が一気に圧縮する!


「ん?」

「へ?」

「や、やべぇぇぇ!!」

「まさか……」

「自爆!?」

「マ、マジ……に、逃げ……」


 逃げられんよ!!

 もう、遅い!!


「I'll be back」


 俺はかざした右手を握りしめ、親指を立てて、マグマに沈む人造人間のような仕草で敵を煽り散らかした!


「うわあああああ!!」


 まったく予想だにしてなかったであろう奴隷商の自爆攻撃。


 彼らに、対応する術など当然、あるはずもない。



◇ ◇ ◇ ◇



 そしてまたやってきた。

 狭間の世界である。


「人間に使ったのは初めてだったけど……」


 なにもない真っ白な空間。

 漂白された無限の世界に、俺は再びやってきた。


「な、なんだここ」

「し、死んだ……のか?俺たち」

「身体の感覚がねぇ……」


 辺りを見渡すと、そこには爆発で肉体を失った哀れな冒険者たちの姿があった。


「ここは狭間の世界。お前たちはもう死んでいる」


 正確にはまだ死んでいないのだけど、秘孔を突いて勝ち誇る筋肉主人公みたいなセリフを狼狽える冒険者たちにむかって浴びせてみた。


 意味は特にない。


「ど、奴隷商……てめぇ、一体何しやがった!」

「いや、だれがどう見ても自爆しただけでしょ」

「自爆しただけっておかしいだろがぁぁぁ!!」


 リーダー格の男が的確なツッコミを入れてくるが、別に気にしない。


「おめぇも死んでんだろが!」

「いや、俺死なないから」

「……はぁ?」

「死ぬのはお前らだけだ」


 明確に事実だけを伝えてやった。

 嘘は言っていない。


「なにをワケのわかんねぇことを……」

「あ、ちなみに人間にこのスキル使ったのは初めてだから、実際のところどうなるかはわかんないんけど……」

「あ?」

「たぶん君たち全員、俺の職業に組み込まれることになると思うから、これからもよろしくね!」


 魔物の仕様と同じなら、そうなるハズ。

 正直気持ち悪いったらありゃしないが、あの状況だと自爆するしか手がなかった。


 俺もこんな萎びたおっさん達と同化なんてしたくなかったけど、しょうがない。


 こうなった以上はありがたく、君たちの力を使わせてもらおうと思う。


「もう全然、意味わかんねぇ……」

「お、おい……」

「身体が……光の粒になって……」

「ああああ!!死にたくねぇよぉぉぉ!!」


 すでに天へのお導きは始まっていた。

 冒険者たちの魂が次々と昇天されていく。


「く、くそがぁぁぁ……」

「アーメン!!」


 リーダー格の男が汚いセリフを残し、消えていった。

 浄化、完了!!


「お、俺もそろそろか」


 自身の身体も光に包まれ、意識が遠ざかっていく。

 再び目を開いた時、また現世に蘇っていることだろう。


「でも身体バラバラだし、元に戻るのに時間かかるなぁ……」


 杞憂で少し頭が痛い。

 そしてもう一つ、備えておかなければならないことがある。


 街中で自爆してしまったから、おそらくかなりの騒ぎになっていることだろう。


 今のうちに、言い訳は色々考えておいた方がよさそうだ。

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モブ転生者の自爆無双〜鬼畜ゲームの奴隷商人に転生したおっさんはシナリオ無死して自由に生きる〜 十森メメ @takechiyo7777

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