第21話
城の正門を出て少し南に歩けば、かなり大きなフランベルクの城下街があることはわかっていた。
「とりあえずフランベルクの城下街で馬車を拾って、それに乗って帰ろう。2週間かけて歩いて帰るなんてのは無理ゲー過ぎる」
慰謝料はしっかりもらったから金はたんまりある。馬車を使えば1,2日でミルキーの街には帰れるし、わざわざ歩いて帰ることもないだろう。
……いや、ちょっと待てよ。
ここに来た時のように、転移系アイテム【キメルーラの翅】を使えば家まですぐ帰れるじゃん。
フランベルクの城下街は交易も盛んだから、もしかしたらアイテムショップを巡れば買えるかもしれない。
レアアイテムだし、値は張りそうだけど。
それにせっかく大きな街に来たんだ。エルフちゃん達にお土産のひとつも買って帰らないとバチが当たるってもんだろ。
「よし!買い物だ!」
俺は一人意気揚々と、フランベルクの城下街を練り歩くことにした。
◇ ◇ ◇ ◇
「悪いね、にぃちゃん。【キメルーラの翅】は品切れだ」
「はぁ。やっぱそう簡単には買えないよなぁ……」
城下街にあるアイテムショップは全て巡って、最後にこの店を訪れたが、お目当ての商品を手に入れることはできなかった。
「レアアイテムだし、元々の流通量も少なねぇからな、あの翅は。ただどうしても手に入れてぇってんなら、この街の冒険者ギルドに寄ってみたらどうだ?」
「冒険者ギルド……あ、なるほどね」
店主の提案は俺の脳裏にひらめきを与えてくれた。彼が言わんとしたことはすぐに理解した。
「冒険者なら誰か持ってるだろ。相対で直接取引するほうが早いと思うぞ」
「おっしゃる通りだ!ありがとう店主!」
この街の冒険者ギルドなら上級の冒険者もわんさかいるはず!さすがに【キメルーラの翅】の1枚や2枚、誰か持ってるだろ。
金はあるんだし、多少高く売られても構わない。瞬間家に帰れるほうが、今の俺には大事なことだ。
「いやいや。礼には及ばんよ」
「なにも買わないのも悪いんで、コレもらえますか?」
「わざわざ無理して買わなくてもいいっての」
「いやコレ、かわいいじゃないっすか」
俺は店主が立つカウンター横にぶら下がっていた魔除けグッズを3つ手に取り、テーブルの上に並べて置いた。
まるで爆発に巻き込まれたかのようなボサボサの白髪と、くり抜いたかのようにくぼんで目がない老婆を
呪われそうな見た目をしているが、キーホルダーサイズの小さい人形なので、案外シュールで可愛らしく見える。
「趣味わりぃな、にぃちゃん」
「そうかな?」
「3つで1000Gだ」
「ほい」
「まいどあり」
会計を済ませ、店主が安物の小さな紙袋に商品を入れて渡してくれた。受け取り、店を後にしようと出口に進む俺。
「冒険者ギルドの場所はわかるか?」
「あ、大丈夫!いろいろ気を遣ってくれてありがとう!」
「またのお越しを」
大きな街のショップは全般的にドライな対応をしてくるのかと思ったが、全然そんなことはなくて、意外にも優しい人が多かった。
むしろ田舎のほうがダメだな。
やっぱ店がたくさんあって競争も激しいから、自然と客対応もよくなっていくのかな。俺も同じ商売人として、見習わなくちゃいけないな。
「あ、そういや今、ステータスってどうなってんだっけ?」
ギルドへ向かい歩きだしていた最中、急に俺の口からそんな独り言が飛び出してきた。
そういえば、フランちゃんと荒野でゴロツキ冒険者とやり合ってから今に至るまで、ステータスを確認するという行為を疎かにしていた。
「ギルド入る前にチェックしておくか……」
ステータスオープンと念じ、空中画面に現在値を映し出す。
―――――――――――
名前 名無しの鬼頭タカヒロ
職業 ゴブリン ▼
レベル 35
HP 5/256
MP 0/0
腕力 346
体力 231
敏捷 101
精神 133
魔力 0
スキル
【カウンター】
【ぶん殴る】
―――――――――――
ありゃ。ゴブリンモード解除してなかったみたいだな。
てか現在HP5って。瀕死もいいところだな。まぁ死んでないだけマシか。
レベルが上がった形跡はない。結構頑張って戦ったんだけどな。
「通常モードはどうなってんのかな」
画面上の▼をタップし、俺モードのステータスを確認する。
―――――――――――
名前 名無しの鬼頭タカヒロ
職業 奴隷商 ▼
レベル 1
HP 0/0
MP 0/0
腕力 5
体力 5
敏捷 2
精神 1
魔力 0
デスP 162/999
スキル
【無死】
【死合わせ】
―――――――――――
……いや、ちょっと待てや。
またデスPの増え方が尋常ではない。いつそんな死んだよ?
俺の記憶では、前に確認したときは確かデスPは112だったはず。そこから今に至るまでで死んだ回数はせいぜい2、3回だろう。
普通に考えたらデスPの現在値は114か115。なのに160越えって。
どうカウントしたら50回もプラスされるんだ?意味がわからない。
「そうは言っても、コレばっかりはどうしようもないしな……。とにかく死なないように気を付けるしか……」
などとぼやいていると、すぐにギルドの入り口前に到着した。
当然のことながら、ミルキーの街にある田舎の冒険者ギルドとは建物の存在感が桁違いだ。扉もバカでかい。
「……毎回ギルドの入り口で死んでるしな。マジで慎重に行こう」
360度警戒を怠ってはいけない。俺がこのゲーム世界にやってきてから現在に至るまで、ギルド入り口での致死率は100%だ。
辺りをキョロキョロ見渡し、今回は外から俺を狙っている気配がないことを十二分に確認してから、しゃがみながらゆっくりとギルドの大扉を押した。
「こ、こんにちわぁ……」
『……あ?』
「……えっ?」
短剣が飛んで来ることはなかった。
なかったのだが……
俺がギルドに入った瞬間、中でワイワイやっていた冒険者が一瞬で無言となり、そしてとんでもない怒りの表情を作り上げ、全員で俺を睨みつけてきたのだ!
「え、えーっと……」
「おい」
「ああ。似顔絵の男で間違いない。アイツは……」
「テメェ、奴隷商コラぁぁぁ!200万Gよこしやがれぇぇ!!」
ぎゃああああ!!
みんなで一斉に襲い掛かってきたぁぁ!!
な、なんでそのこと知ってんだよぉぉ!!
に、逃げるしかない!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます