第20話
「お父様ッ!」
「おお、フランじゃないか!久しぶりだな!」
自室で重要書類の押印作業に勤しんでいたフランちゃんの父上様(皇帝)は、フランちゃんが扉を開けて中に入るなり顔を上げ、満面の笑みで彼女を出迎えた。
勇み足で父親に駆け寄り手を握り合うフランちゃんと父上様をよそに、俺は開いた扉の陰からコッソリ部屋の様子を伺っていた。
いきなり一緒に入って不届き者扱いされても困るし。一応様子見ということで。
ちなみにこの国の皇帝、フランベルク4世のご尊顔については俺もゲーム知識ですでに存じ上げている。端的に言うなら、とっても怖い顔をした細身の老紳士。
笑顔で再会を喜んでいる様子だが、それでも目つきの鋭さが消えてなくて震える。
正直、二人はまったく似ていない。
フランちゃんはお母さん似なのかな?
「すこぶる元気ですよ、お父様!それよりお父様。私、実は今日お願いがあってここに立ち寄らせてもらったんですけど……」
「さっきからコソコソと扉の陰からこちらを覗いている、後ろの怪しい男のことか?」
当然気付いていたようだ。父上様は物凄い形相でこちらを睨みつけている。
……めっちゃ怖いんですけど。
チビりそう。
もしかして、俺の事彼氏かなんかと勘違いしてないですかね?結婚したい人を連れて来たました!みたいなノリで来たとか思ってない?
「そうなんです!あの実は……」
「認めんぞ。お父さんは絶対に認めんぞ、あんな輩。おっさんではないか」
フランちゃん。もう少しうまいこと話し始めてもらわないと。そりゃそんな話し方だと勘違いするほうが普通だと思うよ。
やれやれ。
ちゃんと事実をしっかり伝えないとな。
「いや、俺はただ慰謝料を……」
「なっ!貴様!ワシの可愛いフランちゃんにナニをしたぁぁ!!」
いや、俺もらうほうなんだけど。話は最後まで聞いてほしい。いきなり慰謝料って言ったのがよくなかったのか。
俺も人の事は言えないな。反省。
「もう!お父様ったらなにワケわかんないこと言ってるんですかぁ。慰謝料を払うのは私のほうですよ?」
「な、なにぃぃ!!ま、まさかフランお前……不倫バレしてアイツの妻から慰謝料を請求されているのかぁぁぁ!!」
何暴走してんの?このじじい。
いちいち先走って妄想炸裂させすぎでしょ。
そんな浅慮で皇帝やってて、本当にこの国は大丈夫なんでしょうか。このゲームに出てくる偉い人たちにはロクな奴がいないようだ。
「あ、いや。そういう事ではないんですけど……」
「ゼルビ」
俺の言い分を軽く無視するかのように、父上様は部屋の隅に立っていた執事の男、ゼルビとやらに指示を出した。すると彼はスーッと俺の前へと静かに近づくと、懐に手を突っ込んで結構分厚めの封筒を差し出し、俺の手に握らせてきた。
「200万G入ってます。手切金としては破格の金額かと思います。正直、細かい事実関係などどうでもいいのです。貴殿には今後一切、この金銭の収受をもってフラン様との関わりを断っていただきたい」
……不倫とか慰謝料とか、そういうことじゃないんだな。
これは、お前みたいな底辺が誉れ高き王侯貴族と関わるんじゃないという、脅しのお金。握らせて、強制的に仲を絶つという強硬手段だ。
……舐められたものだな、俺も
たかが200万Gごときで、この俺がそんな強権に屈するハズが……
屈するはずが……
「お父様!私とおじさんはそんな関係じゃないですって!」
「フランちゃん……」
「おじさんも黙ってないでちゃんと説明してください!」
「今日までありがとう。おじさん、キミと出会えた奇跡を忘れないよ」
「……はぁ??」
「フランちゃんには幸せになってもらいたいんだ。悔しいけど、キミとはここでお別れだ」
屈しました!!
200万G、ありがたく頂戴致します!!
いやーこれでしばらく生活費は安泰だなぁ!久々にエルフちゃん達連れて、温泉でも行っちゃおっかなぁ!
「ちょっ!そんな別れ方ってあります??」
「人生ってそんなもんだよ、フランちゃん」
俺は封筒の中身を1枚1枚丁寧に数えながら、フランちゃんに人生の儚さについて教えてあげた。
そう。人生とは、お金である。
「というよりフランよ。いい加減冒険者など辞めて花嫁修業を始めてくれないか。同盟国からお前を妻にしたいという申し出が後を絶たんで困っとる」
「嫌ッ!絶対に嫌ッ!どうせどこぞのボンクラ王子ばっかりなんでしょ?私、弱い男は嫌いなのッ!!」
「まったく……いつからそんなじゃじゃ馬娘に育ってしまったのやら……」
……198、199、200!
確かに200万G、いただきました!
てかフランちゃんって結構モテるんだね。
まぁ確かに、顔は結構可愛いもんな。
でももうそんな御家事情は俺には関係がない。キッチリ200万G払っていただけたので、とっととこの場はおさらばさせてもらおうと思う!
「それじゃ、俺にはもう用はないと思いますんで、さっさと帰らせてもらいますね!出口は確か、こっちでしたよね?」
「いや、あっちだ」
「失礼しました」
なんとなく連れられて来ただけだったから、方向感覚がおかしかったようだ。
「えっ?おじさん、ホントにもう帰っちゃうんですか?」
「フランちゃん。キミ、皇女様なんだから、俺みたいな底辺のおじさんとこんな気軽に絡んでちゃダメだよ」
「……」
「冒険者もほどほどにしときなよ!それじゃね!」
なんでかすごい哀しそうな顔してるな、フランちゃん。もしかして、名残惜しいのかな?
まぁ一時的とはいえ一緒に戦った仲だもんね。俺もまったく悲しい気持ちがないかって言われるとそうでもない。やっぱり少しは寂しさはある。
でもしょうがないよ。身分が違いすぎる。深くかかわってもいいことなんてない。
だってそうだろう?
転生者とはいえ、俺はただのモブの奴隷商人なんだから。
◇ ◇ ◇ ◇
「ゼルビ」
「はい」
「わかっているな?」
「はい、フランベルク様。準備はすでに整えてございます」
「このまますんなり家まで帰れると思うなよ、下郎が。皇族の根回しを甘く見るなよ」
転生後最大の危機が、モブ奴隷商に迫る。
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