第8話
「え?えっと、お客様……」
「私は客ではない!」
店に突撃してきていきなり何言ってんだ、このおっさん。いくら貴族だからって、言っていいことと悪いことが……
はっ!
ま、まさかコイツ……
「ウチのバカ息子から詳しい話は聞いている。なんでもこの店は、客に法外な値段を吹っ掛け奴隷売買を行う、極悪商人が切り盛りしている店だというではないか!」
やっぱりそうか。
この間ウチに来たカスハラ豚貴族の父親だ!
マジで親父に密告しやがったんだな、あの野郎……。
でもまさか店に直接押しかけてくるとは思いもしなかった。
えっ?
もしかして本当にこのおっさん、俺の店の営業権剥奪できる位偉い人なの?
「あ、えっと。失礼ですがお名前は……」
「貴様……フォールバール家当主の顔も知らぬのか。この愚か者が」
フォールバール家?
あーなんかそんな名前の貴族、ゲームしてた時、確かにいたような気がするなぁ。
でもあまり記憶にないってことは、どうせしょーもないサブイベ絡みのクソどうでもいいキャラだったんだろうな。
当然、クリアしてないので当主の顔など知らん。
「フォールバール家のご当主様が、いったいどのようなご用件で……」
「ふん!営業免許剥奪の通達に決まっておろうが」
……聞くまでもなかった。
一応言い訳してみるか。
「あの、当店はこれまで一貫して清く正しい商売をしております。悪徳商人などといったご子息様のお話は、何かの間違いではないかと……」
「ほう。この私の前でシラを切ると言うのだな、悪役商人」
悪役じゃねーし。奴隷商だし。
あれ、奴隷商って悪役なの?
「事実を申し上げてるだけなのですが……」
「ならこの商品ラインナップの値付けをどう説明する!」
ドンッとカウンターのテーブルを叩きながら、机上に置かれていたメニュー表のサラダちゃんを指差すフォールバーク家の当主とやら。
商材写真の下には、5億Gと金額が記載されている。
「こんな程度のエルフの小娘が、このような値段で取引されている訳なかろう!貴様、ちゃんと市場価格をチェックしているのか!」
息子と同じようなセリフ吐き散らかしてんじゃねーよ、モブ当主が。
市場価格とか知らねーっつーんだよ。
俺は適正価格、つまりその商品が本来持つ正しい価格で商売してんの。
それを詐欺とか言われちゃ、こっちとしてもたまったもんじゃない。
ただこのおっさんはあの豚野郎と違ってマジモンの権力者。
免許取り消しはさすがに困る。
さて、どうしたものか……
「ご主人様!今日のお昼ご飯は
「サラダちゃん」
奥の部屋から小走りでやってきたサラダちゃんが、接客中の俺に気付き戸惑う。
「……こ、この娘は」
「今ご当主様がメニュー表で指を刺されております、エルフ族のサラダちゃんです」
写真と実物を交互に見比べながら、明らかに表情が変わったモブ当主の様子を俺は見逃さなかった。
やっぱ親子だ。血は争えない。
このおっさん……
サラダちゃんに、一目惚れしやがったな!
「サラダちゃん、ご挨拶」
「あ、初めまして、素敵なイケオジ様!私、エルフ族のサラダって言います!」
満面の笑みをモブ当主へ向け、しっかりと頭を下げて挨拶をするサラダちゃん。
これでも一応、俺は商売人だ。
商品の質の担保に関しては余念がない。
第一印象ってのは大事だからな。
ただあの豚息子のように勘違いしてはいけないぞ、モブ当主。
ウチのエルフちゃん達は、最高級品なんだからな!
「ほ、ほう……君が、この写真の、サラダちゃん……」
「ニッコリ」
笑顔を絶やさないサラダちゃんの全身を舐めるように見回し、凝視するモブ当主。
取り戻したか。男の
「ま、まぁ確かに……良質なエルフであることは、認めよう……ただ5億Gというのはあまりにも……」
「ご当主様はおいくらなら、適正価格と思われますか?」
「ま、まぁそうだな。1000万Gくらいか……」
話にならねぇ。
20万Gとか言ってた息子よりははるかにマシだが。
フォールバール家ってのは貧乏なのか?
「お話になりませんね。お引き取り下さい」
「1500万G……、いや、2000万G出そう!」
「5億G。びた一文、値引きには応じかねます」
くどい!
そんな二束三文で俺がサラダちゃんを手放すことはない!
……あれ?なんか俺、いつの間にか商売してるな。
このおっさんは別にサラダちゃんを購入しに来たワケじゃなかった。
まぁ、このまま有耶無耶になってお引き取り願えればありがたいけど……
「5億Gはムリ……って、違うわ!」
ちっ!
我に返りやがった。
「店が潰れれば、奴隷の身柄は我がフォールバール家が一時的に預かることになっている。あくまで保護預かりだが、その過程で裏から手を回し、内々で所有権を移転する手続きを取れば、サラダちゃんは晴れて私のモノとなる。わざわざ買う必要などないのだ!」
さらっとすごいコト晒してんな、このモブ当主。今までそうやってほしい物はなんでも手に入れてやがったんだな。
まさに小悪党。
腐敗権力の象徴とも言っていい。
……やれやれ。
できれば穏便に済ませたかったんだけど、そうもいかなくなったみたいだ。
「当店は理不尽に屈するつもりは毛頭ありません。たとえ免許がはく奪されても、私はこの場所で商売を続けます」
「そうか……ならば、強制退去といかせてもらうぞ。おい、入ってこい!」
モブ当主は俺たちの前から踵を返し、店の出入口の扉に向かって歩きながら、大きな声で叫んだ。
ギギギギギ……
店の古びた扉が軋み、再びゆっくりと開きだす。
「へっへっへ。仕事ですかい、フォールバールさん」
「ああ。この極悪商人に世間の厳しさを教えてやれ、ドク」
扉のてっぺんで頭をぶつけないように、前かがみの姿勢で店に入ってきたドクと呼ばれた大男。
用心棒か、退去専門の業者かは知らんが、明らかに屈強そうな男だ。
「ご、ご主人様……」
「大丈夫だよ、サラダちゃん。みんなの事は、俺が絶対に守ってあげるからね!」
背が高いからって上から見下してんじゃねーぞ、小汚ねぇツラしたチリチリパーマ野郎が。
そのデカい鼻の穴に指突っ込んで、奥歯ガタガタ言わしてやるから覚悟しとけよ!
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