第7話

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名前 名無しの鬼頭タカヒロ

職業 奴隷商 ▼

レベル 1


HP  0/0

MP  0/0


腕力  5

体力  5

敏捷  2

精神  1

魔力  0


デスP 101/999


スキル 

 【無死】

 【死合わせ】

―――――――――――


 ステータス画面の職業項目欄横に▼の表示が追加されてたので、もしかしてプルダウン式のカーソルなんじゃないかと思い、タッチして操作したら、元の[奴隷商]に職業が戻った。


「俺はイケメンだ!」


 職業[スライム]ではなくなったので、語尾チェックをするため、とりあえず適当に純然たる事実を叫ぶ俺。


 ……どうやら、無意識ぽよは出てこなくなったようだ。


 ただ、念には念を。

 もう一回チェックしてみよう。


「俺は、イケメンだぁぁぁぁ!!」


 よし!問題なさそうだ!


「えぇ~。ご主人様のぽよ語、可愛かったのにぃ~」


 サラダちゃんが残念そうに頬を膨らませて俺を見ている。

 ちゃんと認識してたんだね、語尾ぽよ。

 パスタちゃんには不評だったが、サラダちゃんの心には案外響いていたようだ。


「で、結局何があったのよ?[ドナルの穴]で」


 元に戻ったステータス画面を眺めながら疑念や不安を抱いていた俺に、ペンネちゃんがさっきの話を振ってきた。


「あ~実はかくかくしかじかで、あんなことやこんなことが……」


 若干記憶が曖昧な部分もあったが、ちょっとずつ思い出しながら、冒険者登録をして[ドナルの穴]で自爆するまでの経緯を簡単に説明してあげた。


「へぇ~!よくわかんねーけど、冒険者ってなんか楽しそうだな!」


 今の話を聞いて楽しそうと思えるパスタちゃんの思考は変わってると思う。

 てかたぶん、この子は冒険者のこととか何も知らないんだろうな。


「いや絶対普通じゃないでしょ、それ。もともと死なないって時点でおかしいんだけど、さらにスキルが自爆で相手の能力まるまる取り込んじゃうとか、あり得ないよ」


 こういう話をしたのは初めてだったので意外だったけど、ペンネちゃんにはある程度冒険者に対する理解や見識があるようだ。


 的外れな事を言っていない。俺もまったく同じ感想を持っている。


「デスPって……なんか少し、心配です……」


 サラダちゃんが直感的に指摘してくれた点は、実は俺も一番気にしているところ。


 ここまでの経験から、おそらく死の回数が加算式で分子の数字に直結していることはなんとなくわかる。ただ分母999ってのが意味不明だ。


 果たして、このまま死に続けて分子の数値を999まで到達させていいものだろうか、どうだろうか。


 もしかしたら本当に死んでしまうラインかもしれないので、迂闊に死ぬのは避けたほうがいい気がしてる。


 【死合わせ】なんていうトンデモスキルを使えば魔物なんて簡単に一掃できそうだけど、今後は万が一という時以外、使わない方が賢明なのかもしれない。


「冒険者にはなれたけど、これからは死なないように注意するよ」


 あまりエルフちゃん達に余計な心配かけたくないし、遺体回収もできればさせたくない。とにかく死なないという前提は忘れて、明日からは普通に冒険者をしようと思っている。


「あたしも冒険者になりてぇ!」

「奇遇ねパスタ。私もよ」

「えっ?ペンネちゃんとパスタちゃんがなるなら、私もなりたい!」

「……」


 あのさ。


 キミたち、一応まだウチの商品なんだから、冒険者とかなれないよ?

 そもそもあんな危険な場所に、キミ達を連れて行くなんて到底できない。


 もちろん、一緒に戦ってくれたらとても心強いんだけど……

 

 今のところ、そのつもりはないからね。


「さっ!この話はもう終わり!みんなお腹すいたでしょ?そろそろ夜ご飯の支度するから、キミ達は適当に休んでて」

「あっ、ご主人様!」

「ん?どうしたのサラダちゃん」


 お、もしかして食事の準備、手伝ってくれるのかな?

 やっぱサラダちゃんは健気でやさしい素直ないい子……


「ケーキ、買ってきてください!!」


 ……ではなかった。



◇ ◇ ◇ ◇



翌日。



「暇」


 俺は店の天井を見上げながら、開店してから2時間は経っているのにお客さんが0という状況を嘆いていた。いや、いつものことなんですけどね。


「はぁ。それにしても……」


 昨日の夜は大変だった。


 サラダちゃんがわがまま言うもんだから、高速で夕食の支度をし、彼女たちが食べてる間にケーキを買いに走りましたよ。


 なんとなく夜でもやってるケーキ屋さんを思い出したから、ミッションは無事達成できたけど、できればそういうのは昼間だけのお願いにしてほしい。


 おじさんはそれほど体力がない。

 もう少し労わってくれてもいいと思う。


「今日もお客さん来なさそうだし、午後からまた出稼ぎにでも……」



 ギギギギ……



「あ、いらっしゃいませ」



 午後の予定を考え始めていたところ、古びた店の扉をゆっくりと開け、ひとりの老紳士が入店してきた。


 年の頃は60代くらいだろうか。


 服飾の感じとまとう雰囲気の質から、かなり高位の貴族であることがうかがい知れる。


「……君が、この店のマスターか?」

「はい、そうですが……」


 店に入るなり一直線で俺の座るカウンターまで迫ってきた老紳士が、とても厳しい表情でいきなり睨みつけてきた。


 なに?クレーム??


「この店は……今日限りで閉店だぁぁぁ!」

「……はい?」


 なんで??

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