第5話

【無死】:不死

【死合わせ】:永遠に共に


 スキルの解説もついでに見てみた。


 なんか既視感のある説明文だな。


 永遠に共にってなんだよ。歌かよ。

 “幸せ”と間違えてんじゃないの?


「でも他に頼れるモノもないしな」


 とりあえず使ってみるしかないだろう。

 死を合わせてくれるんだから即死系のスキルかもしれん。

 たぶんだけど。


「ニンマリ」


 もう悟り開いたみたいツラしてやがるな、スライムの奴。仏か。満足したのならお帰り願いたいのだが、その兆候はなさそうだ。


 しょうがない。やってみるか……。


「ニマァァァ……うるぁぁぁぁ!!」


 また来た!

 この狂ったサイコパススライムが!

 いい加減にしとけよ!


 くらいやがれ!


「死合わせ!」


 特になにも考えず、右手をかざしてスキル名だけそのまま叫んでしまった俺。

 使い方合ってんの?これ。


「ぁぁぁ……あ?」

「ごっほぁ……ん?」


 胸にいつもの衝撃は確かにあった。

 ただ今回は、俺の内臓なかみにまでスライムの勢いは到達しなかった。


 当たっただけ。ヤツは俺の胸にピッタリと張り付き停止している。


 【死合わせ】って防御系スキルだったのか!ネーミングと効果がまったく違うから頭バグりそうだけど!


 ただ……


 ……チャ〜ンス!


「……ぴぎっ!」

「捕まえたぞ!サイコクソスライムが!」


 俺はこの好機を逃さなかった!

 胸にくっついていたスライムをそのまま力いっぱい抱きしめ、ちょこまかと動き回るウザい行動力を封じてやった!


 もにょもにょと俺の腕の中で必死の抵抗を試みるクソスライム。

 ぜってー離さないからな!

 このままホールドプレスで抱き殺してやろう……


「ん?」


 なんかスライムと胸の接触面が熱い。

 もしかして、身体とか溶かすヘンな液体とか流し込まれちゃってる?


 無駄だ、スライム。

 俺は死なないし、そんなしょうもない攻撃なんか効きません。

 反撃のつもりかもわからんが、その程度で俺がお前を手離すことはない。


 なんせ痛みには、慣れているもんでね!


「あれ?でもなんかスライムの体が急に光だして……」


 いや、胸元を良く見てみると、光ってるのはスライムじゃない。

 


 この、俺だ!!



 キィィィィィン……



 耳をつんざく鋭い金切り音と共に、輝度が増した眩しい収束光が俺の胸に集まる!


 感じていた胸の熱さが、アツアツおでんの感覚から灼熱の業火に変わる!


「ちょちょちょちょ……」


 光の収束が終わり、音が止まった。


 一瞬の静寂。


 そして、次の瞬間



 チュドオオオオオオオオオオン!!!




 ……遠ざかる意識の中で、俺はひとつの答えに辿り着く。


「【死合わせ】って、自爆のことだったんだね……」



◇ ◇ ◇ ◇



「……あれ?ここ、どこだ?」


 爆発の余韻もなく、急に意識を取り戻した俺。

 周りを見渡してみると、そこは見渡す限り白、白、白。

 漂白されたかのようになにもない空間。


 地平は無限の広がりを見せ、どこを向いても同じ。

 明らかに、ここはさっきスライムと戦っていた[ドナルの穴]ではない。


「えっ?まさか俺、死んじゃったの?」


 急な場面転換に最悪の展開を予感する。

 なんだよ。不死じゃなかったのかよ、俺。


「……ここは、狭間の世界ぽよ」

「ん?」


 背後から男だか女だかわからない可愛らしい声がしたので、思わず振り返る。


「お、お前はっ!?」

「まさか自爆するとは思わなかったぽよ。油断したぽよ」


 スライムだった。

 それも台詞から察するに、さっき戦ってたあのサイコクソスライムだ。

 俺の自爆攻撃で一緒に死んだ、のかな?


 てかなんでしゃべってんのコイツ。

 そんな設定あったっけ?


「お前、しゃべれんのかよ」

「現実ではしゃべれないぽよ。狭間の世界だからしゃべれるぽよ」


 意気揚々と話してくるスライム。

 ていうかまず狭間の世界について解説願いたいね。


「頭がハテナになってるようだから説明するぽよ。ここは生と死の狭間の世界ぽよ」

「生と死の、狭間?」

「そうぽよ。三途の川とかデマぽよ」


 三途の川知ってんのかよ、このスライム。

 日本人なの?


「ってことは、半分死んでるってことか、俺たち」

「そういうことぽよ」

「どうやったら現実に戻れるんだ?」


 俺はまだ死にたくない。

 ここに来たということは、なにか現実へ戻る手段ってのがあるはずだ。

 それ教えてくれよ、スライム。


「そんなものはないぽよ」

「はぁ?」

「ここに来たら最後。あとは意識がなくなるのをただ待つしかないぽよ」


 すっげぇ無駄な空間だな、ここ。

 死ぬしかないならとっとと天国なり地獄なり送れってんだよ。

 経費、無駄じゃね?


「てかスライムさ。お前なんでそんな事知ってんの?」

「魔物はみんな知ってるぽよ!なんで知ってるかはわからんぽよ!」


 そういうものだと受け入れるしかないらしい。


「はぁ。なんだってんだよ。まったく……」

「……おじさん」

「なんだよ」

「僕、おじさんと戦えてすごく楽しかったぽよ!」

「なんだよ急に。気持ち悪い」


 俺は全然楽しくなかったわ。

 ずっと胸貫かれてただけだし。

 楽しかったとか言われてもまったく嬉しくない。


「超ベリーハードモードとか誰もやらないから、冒険者はほとんど来なかったぽよ。久しぶりに戦えて、僕はすごく満足したぽよ」

「はいはい。それはよーござんしたね」

「もっと、戦いたかったぽよなぁ……」


 余韻に浸りだすスライム。

 なんで魔物がゲームの設定状況まで知ってんのかわからんが、そういう事情があったんだな。


 まぁだからと言って、あんなドS攻撃を繰り返して相手をいたぶる戦い方は看過できないけど。


「来世で満足いくまで戦って……ん?」

「ぽよ?」

「あれ、なんかまた俺の胸が光だして……」


 スライムと雑談してたらまた俺の胸が光を放ち始めた。

 えっ?また爆発しちゃうの??

 もう半分死んでんだから勘弁してくれよー!


「ぽよぉぉぉぉ!!」


 ピトッ


 スライムがまた、俺の胸に引っ付いた。

 ていうか引き寄せられた。


「な、なにが起きて……」

「ぽよぉぉぉぉぉ!!!」

「!!!」


 そして俺とスライムは再び、まばゆい光に包まれ……

 


『良きかな~』



 何故か温泉に浸って愉悦を貪る仙人みたいな声を脳内に反芻させながら、俺の意識は再び彼方へと遠ざかっていくのであった。

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