第4話

 世界最狂の鬼畜ゲー「ブロス・ザ・チョッパー」。世界で最も狂ってる鬼難易度が売りの大人気アクションRPGゲーム。いわゆるソウルライクゲームというやつだ。


 転生前はこのゲームを社畜しながら徹夜でずっと攻略してたけど、とてもじゃないがクリアできる気はまったくしなかった。


 攻略配信とか色々視聴しながら頑張っていたものの、3ヵ月死ぬ気でやって全ストーリーの半分もクリアできてなかったと思う。


 雑魚敵が強すぎるんだよね。油断したらすぐ死んでたし。


 操作の技術、攻略必須アイテムの所有、装備の充実、敵攻撃パターンの把握など、全てを万全にしていかないと基本攻略できない仕様だった。


 ただそれでも、序盤は比較的易しかった。

 ある程度脳筋プレーでもなんとか進むことくらいは出来た。


 、はね。



◇ ◇ ◇ ◇



「うーん……」


 胸に95回目のスライム穴を開けられたので、一回考えることにした。このままただ闇雲に戦っても恐らく勝機はない。


 いくら穴が空いてもすぐ塞がるとはいえ、もういい加減勘弁してほしい。

 毎回痛いんですよ。俺Mじゃないし。


 ていうかさ


 スライムってこんなに強かったっけ??

 最弱モンスターさんですよね、キミ??

 動き早すぎて全然攻撃できないんだけど。


「ニチャァァァァ……」


 笑い方の粘度が徐々に増してやがる。

 このスライムはマジモンのドSだ。

 俺が死なないのをいいことに、いたぶって遊んでやがるんだな。


 腹立つけど、でもここは一回落ち着こう。


 ヤツの攻撃はワンパターンだ。

 俺の胸に突進して貫くだけ。

 ただスピードが尋常じゃないので毎回やられる。

 

 手を前にかざしたり、しゃがんでみたり、うつ伏せに寝てみたり色々してみたんだけど、全て徒労だった。どう態勢を変えても的確に胸を捉えてくる。


「一か八か、カウンター狙ってみるか」


 避けてから攻撃という後の先でアイツは倒せない。ならもういっそのこと動いた瞬間に短剣を振って、あとは運に任せてみよう。


 剛速球投手の投げる球を打つ感覚だな。


 よし、次はそれに賭けてみよう。


「……うるああぁぁぁ!!」


 ここだ!


「おおおうりゃああ!!!」


 狙ってる箇所はわかってる!

 もう96回目だからさすがに学習したぞ!

 タイミングはバッチリのはず!


 バッサリ半分に斬り落として死ぬほど踏みつけてやる……


「なにっ!」


 スライムの直進軌道と俺の剣閃は確かに一致していた。捉えたと思った。


 だが


「フォーク、だと!?」


 真っすぐしか進めないと思っていたが、違った。スライムは俺の短剣と交わる瞬間、鋭く落ちた。


「おっふ!」


 サイン交換を間違えたキャッチャーが捕球し損ねたかのように、今度は俺の腹にスライムの突撃が炸裂し、俺のおへそ付近が綺麗に貫かれていた。

 

「ごふっ!く、くっそー……」


 膝をつき、もはやイキってるようにしか見えないスライムを一瞥する俺。

 ヤツのニヤリ度がマックスになっていて半端なくむかつく。


 ただ……お化けフォーク持ちとは恐れ入ったよ。火の玉ストレートだけじゃなかったんだな。


「ふぅ。かれこれ30分くらい戦ってるのに戦果ゼロかよ。ちょっと勝てそうにないし、一回帰ろうかな」


 敵前逃亡は本意ではないが、このまま続けてても埒があかない。どうやら俺が転生してきたゲームの難易度設定は超ベリーハードっぽい。


 転生前はノーマルモードしか遊んだことなかったから知らなかったが、まさか超激ムズモードがここまで規格外な難易度調整をしているとは思わなかった。


 これは相当準備してかからないと最序盤でも詰んでしまうということだな。


「まぁ、逃げられるかどうかもわかんないけどね……」


 あのドSスライムが黙って見過ごしてくれる保証はない。


 多分アイツ、暇だったんだろうな。

 いい玩具見つけて戯れてる感じだもんな。

 もし逃げられなかったら俺、一生ここにいなきゃいけないの?


 そいつは本当に勘弁してほしい。



 テッテレッテレ、テッテレッテレ、テレッテテレレレ、テッテッテ



「えっ?なんだこの某電車ゲームみたいなふざけたメロディーは……!?」


 なんの前触れもなく、突然洞窟内に気の抜けたBGMが流れた。


「100回も死んでしまうとは情けないのぉ」


 後光とともに、空中に白髭もじゃもじゃじいさんがあらわれた。


「えっと……どちら様でしょうか?」

「そんな雑魚モブのお主にプレゼントじゃ、ほれ」


 えっ?こっちの質問は無視ですか。

 あんた誰やねん。

 プレゼントってなに?なんかくれんの?


 パァァァァァ


 ……いや、ちょっとじいさんの後光加減が増しただけでじゃねぇか。俺の手になにかアイテム的なものが渡されたわけではない。


「えっ?なんかくれたの?なんももらってないんですけど……」

「もうスライムごときに舐めプされるでないぞ。ほな」


 また無視か。聞けよじじい。


 ……あ、消えた。

 いったい何だったんだよ、今の。


「(ステータスを確認するのじゃ!)」


 幻聴かもしれないが、さっきのじいさんのアドバイスが聞こえた気がした。


 ステータス、だと?

 もしかして……


 新スキル!?


―――――――――――

名前 名無しの鬼頭タカヒロ

職業 奴隷商

レベル 1


HP  0/0

MP  0/0


腕力  5

体力  5

敏捷  2

精神  1

魔力  0


デスP 100/999


スキル 

 【無死】

 【死合わせ】new

―――――――――――


 死、合わせ?

 幸せ??

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