第2話

 おっぱい。

 それは君が持つたわわ。

 僕が見た希望。

 おっぱい。

 それはふれあいの心。

 幸せの白い……


 ゴキャッ!


「はい!首、戻りましたよ!ご主人様!」

「あ、ありがとう。サラダちゃん」


 頭が星雲のようなひと時の幸せを噛み締めていたのも束の間、強烈な衝撃と共に俺の首は元の正常な位置へと戻った。


「いくら死なない身体だからって、あんまり無茶なことしないで下さいね!ご主人様!」


 サラダちゃんは華奢巨乳という奇跡のような体型の持ち主であるにも関わらず、力自体はもの凄く強い。


 レアエルフ特有の能力なのかはわからないが、見た目からは想像も出来ないほど、内には恐ろしいパワーを秘めているのだ。


「ふぅ……。んじゃ俺、早速冒険者ギルド行って来るわ!」

「え?私も行きたいです!」

「いや、冒険者登録してくるだけだから、サラダちゃんは店番してて欲しいな」

「えー……むっすぅ」


 ほっぺをちょっとだけ膨らませる仕草を見せるサラダちゃんがまた可愛い。


 しかも身長差があって見上げて言ってくるもんだから、上目遣いになっている大きな赤い瞳と谷間のコンボがさらに凶悪な性物兵器となって俺の理性をかき乱してくる。


 いかんいかん。

 彼女は大切な店の商品なんだ。

 店主の俺がそんなふしだらで破廉恥な事を考えてはいけない。


「じゃあ、行ってくるね」

「はい!いってらっしゃいませ!ご主人様!あっ、帰りにケーキ買って来てくれたら、パスタちゃんもペンネちゃんも私も喜ぶと思いますっ!」

「はいはい。わかりましたよ〜」


 まったく。おじさん遣いが上手いな。

 ていうか金ないって言ってんのにそれ頼んじゃう?まあ、みんな可愛いからしょうがないか!


 おじさん、奮発しちゃうぞ!


 ちなみにパスタちゃんとペンネちゃんはウチの在庫表に載っている、残り2人のエルフことだ。


 サラダちゃんとは違った魅力を持つ彼女達のことは、登場した時にまた説明しようと思うので乞うご期待!


 あーそれにしても。


 首の違和感がすごいな。

 ちょっとカチンときて無茶なことをした。

 頭に血が昇ると後先考えないのは悪い癖。


 同じ事繰り返さないよう反省しなきゃな。



◇ ◇ ◇ ◇



「たしかこの街の冒険者ギルドはこの辺りに……おっ!あったあった」


 店を出発し、テクテク歩くこと5分少々。

 目的地の冒険者ギルドはすぐ見つかった。


 ちなみに俺が転生してきたこのゲーム世界「ブロス・ザ・チョッパー」は、いわゆるオープンワールドの自由空間を楽しむアクションRPGがウリのゲームだ。


 ただシナリオも割としっかりしていて、物語を追ってもかなり面白い仕様になっている。難易度激高だけど。


 そしては俺は、死ぬ前にこのゲームを死ぬほどやってホントに死んじゃった元社畜のおっさん。なので地理的なことは概ね頭には入っていて、ギルドの位置も大体わかる。


 ただそんな俺でも、実は奴隷商の存在はよく知らなかった。しかも転生元の店主があんな超絶美少女レアエルフたちを商品として抱えているとは思いもしなかった。


 隠しシナリオだったのかもしれない。


 普通にゲームしてたら奴隷商と関わることもなかったし、転生して初めてそういうのもあるんだと知ったくらいだ。


 本当にこのゲームは奥が深い。


「冒険者登録したら、とりあえずダンジョン行ってケーキ代でも稼ごうかな。この[ミルキーの街]から1番近くて易しいダンジョンは……」


 歩きながら少し記憶を辿ってみる。

 ここはゲームを始めて2つ目くらいに来る街なので、近くに比較的攻略が簡単なダンジョンがあった気がする。


 名前は……なんだったかな。

 そうそう。[ドナルの穴]だ。


「あそこなら初心者でも大丈夫だろ」


 いくら死なない身体とはいえ、モンスターを倒せなきゃ意味がない。なんせ俺、奴隷商だからな。


 たぶん能力値的には最弱と思われる。

 いくらゲーム知識を持っているとは言え、ステータスが低すぎたら戦えない。


 とりあえずある程度レベリングして強くならなきゃ探索もできないだろう。


 ……とか考えながら歩いていたら、いつの間にやら冒険者ギルドの扉前。中からはとても賑やかな声が漏れている。


「んじゃサクッと冒険者登録して、その足でダンジョン探索、行ってみるか!」


 そう軽口を叩きながらも少し緊張していた俺は、ゴクリと一回唾を飲み、ギルドの扉をゆっくりと開けた。


「こ、こんにちわぁ……」


 ヒュンヒュンヒュンヒュン……

 ザクッ!!


「んっ?」


 中を覗き込んだ瞬間、何故か俺の額にギルドの奥から飛んできた短剣がブッスリ刺さった。


 ……めっちゃ痛いんですけど。


「てめぇコラぁ!邪魔すんじゃねぇよクソガキがぁ!」

「その子嫌がってるじゃないか。無理矢理はよくないよ」

「無理矢理じゃねぇよ!強くて優しいおじさん達が一緒に冒険してやろうって提案してるだけなんですけどぉー」

「そんな風には見えないな」

「嫌ですって何回も言ってるのに、しつこいんです!この人達!」


 あ、主人公さんとヒロインさんとモブおっさんズだ。


「もう諦めなよ、おじさん」

「てめー!スかしてんじゃねーぞ……ぐはっ!」

「あ、兄貴!てめぇ……ぐへっ!」

「ひっ……ひぃぃぃ……ぶべらっ!」


 これはゲーム最序盤のギルドイベント。

 ヒロインに絡んでいたモブおっさんズに主人公が正義のざまぁをするヤツ!

 

 いやーなんかまさにゲームの世界キターって感じでテンション上がるなぁ!


 でも今の俺には関係ないのでとっとと受付しよっと。


「あの、冒険者登録したいんですけど」

「はい。それではこちらの受付用紙に必要事項を記入し……って、きゃああああ!」


 ん?なんで俺の顔見ていきなり叫んでんの?ギルドのお姉さん。


 失礼しちゃうな!


 そういえばなんかさっきから顔が生暖かくてヌルヌルして視界が悪いな。


 なんだこれ……あっ!

 血か!

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