モブ転生者の自爆無双〜鬼畜ゲームの奴隷商人に転生したおっさんはシナリオ無死して自由に生きる〜

十森メメ

第1話

 貴族なんだから気前よく現金一括でパアッと払えってんだよ。


「いや5億Gとかありえないでしょ。おじさん、ふざけてるの?」

「適正価格かと思いますが……」

「おじさんさぁ……相場とかちゃんとチェックしてる?こんな程度のエルフの小娘だったら、20万Gもしないよ?」


 相場?そんなもん知ったことか。

 ウチの可愛い奴隷エルフのサラダちゃんがそんなに安いワケないだろ。


 豚みてーな顔した放漫貴族が。

 お前の物差しで語ってんじゃねーぞ。

 どうせ買ってもロクな扱い方しねーだろ。


 いいとこ性奴隷にして飽きたらポイッ。

 20万Gだと?ふざけんな。

 整形してから出直してこい。

 


「はぁ……そういうものなんですかねぇ……」

「まったく!こんなぼったくり奴隷商やってたら、パパにお願いして商売の資格、はく奪してもらっちゃうんだからねっ!」


 鼻息荒くまくし立ててくる若い豚貴族。

 親の威光でイきり散らかすこの世界のゴミであることは間違いない。


 マジでうっとうしい。気に入らないならとっととお帰り下さい。


「それは困りましたね……。ただ当店は値引きなどは絶対にしないという理念で経営をしておりますので、金額がお気に召さないようであればお引き取りいただいて……」

「やだっ!サラダちゃんは20万Gで買うの!断ったらパパに言いつけてやるんだからなっ!」


 地団駄踏んで駄々をこね始める豚ガキ。

 サラダちゃんのことめっちゃ気に入ってんじゃねーか。

 見る目があることだけは認めてやろう。


 それにしても困ったヤツだな。

 なんで5億Gの価値(俺評価)がある希少レアエルフ(たぶん)のサラダちゃんを4億9980万Gも値引せにゃならんのだ。


 ていうか、転生者でチートスキル【無死むし】を持つオトナの俺が、そんな脅しに屈する訳ないだろ?


「あまり理不尽な要求されるのは困ります」

「いや理不尽なのはそっち……」

「そんな我儘ばかり言っていると……」

「ああん!?」


 バキィィ!!


「……こうなりますよ?」

「あっ、ひっ、ひぃぃぃやぁぁ!!」


 俺は思いっきり首を捻じ曲げてわからせてやった。


 


「誉高き貴族の息子様が市井のか弱い商売人を手にかけたとあっては、家の名に傷がつきますね」


 その場で尻餅をつき慌てふためく豚ガキ。

 大人、舐めんじゃねーぞ。


 それにしても……


 首をへし折るのは止めておけばよかった。

 90度傾くと、視線が定まらないのでどこに向かってしゃべればいいかわからん。


 短剣で自分の心臓をひと突きしたほうがよかったかな。


 いや、それはそれで血が噴き出して店内が大変なことになって後処理がめんどくさいからダメだな。


「自殺じゃん!僕、なんにもしてないし!」

「世間はそう思ってくれるかな?」


 傾いた頭のまま、俺は豚貴族に向かってニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


 すると……


「う、う、うわああああん!!ママぁぁぁ!!!」


 ドタドタと逃げるように俺の店を走って去っていった。良い子はママのおっぱいでもしゃぶってねんねしてな!


「ふぅ。まったく、この店は毎度のことながらロクな客が来ないな……」

「あの、ご主人様……大丈夫、ですか?」


 店の奥。暖簾の隙間からこっそり顔を出し、恐る恐る俺を覗く人影がいた。

 いや、エルフ影か。


「あっ!サラダちゃん!見てたの?」

「は、はい!あの、その……私を買ってくれる、新しいご主人様が、ついに見つかってしまったのかなって、不安になって……」

「いいや、今日のお客さんもダメだったよ」

「あっ!ホントですか?良かったぁ!」


 小さなお口から安堵の大きなため息を吐き、心底ほっとした表情を見せる希少レアエルフのサラダちゃん。


 まぁそりゃそうだよな。

 あんな豚に買われるくらいなら、俺のところに一生いたほうがいいよな。


 俺としては、君を買ってくれる新しいご主人様は、強くて優しくてイケメンで大金持ちで一生面倒を見てくれる、そんな素敵なスパダリ様みたいなヤツじゃないと絶対に売りたくない。


 君の本当の価値がわかる、一流の男じゃなければ俺が君を手放すことはない。


「でも、ご主人様。私達が売れないと……」

「……」

「やっぱり。お金、厳しいんですよね?」

「い、いや!まだ貯金あるし!」

「ご主人様、嘘はいけません。お金がなさ過ぎて首が折れ曲がってますよ」


 それは俺が自分でやったことなんで関係ないけど、お金がないのは事実だ。


 うちには3人奴隷エルフがいるけど、俺がこのモブ奴隷商に転生してから、実はまだ1人も売れていない。


 貯金がある程度あったから今のところなんとかなっているが、それも近々限界を迎えそうなのだ。


 俺も含めて4人も一緒に暮らしていれば当然食費や家賃、光熱費、福利厚生費やら接待交際費やら色々経費がかかる。


 このまま彼女達が売れなければ、この店は潰れて皆路頭に迷うことになってしまうのだ。


「私、働きましょうか?」

「ば、バカな事言っちゃいけないよ、サラダちゃん!商品である君たちを働かせるなんて、そんな事できる訳ないよ!大丈夫!俺にも一応考えてる事があるから……」

「考えてるコト、ですか?」

「ああ!俺、生活費を稼ぐために冒険者登録しようと思ってるんだ!」

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