7. 異世界ほのぼの日記3 281~285


-281 ナイトマネージャーについて・・・、だよな?-


 貝塚財閥魔獣保護養護施設長で義弘の実姉である貝塚美玖からの突然の『念話』に驚きを隠せない2人、やはりこの世界では下手な事を考えてはいけない様だ。


美玖(念話)「あんたね、やっぱり私のいない所では「ババァ」って呼んでいた訳かい?最近テレビで見かけて少し見直さなきゃと思っていたのにあんたは相変わらずだね。」


 やはりこの世界の住民は貝塚財閥無しでは生きていけない事が多い様で、プライベートまでとは行かないが結愛を中心とした社員たちの活躍はよくテレビのニュース等で放映されているらしい。と言うか結愛、お前って人気者だな、おい。


結愛(念話)「照れんじゃねぇか、褒めても何も出ねぇぞ。」


 ハハハ・・・、今回は褒めた事にしておいて話を進めるか。


結愛(念話)「「今回は」って何だよ!!まぁ良いか・・・、それでおば様、今度そちらのナイトマネージャーは誰がされる予定なんです?」

美玖(念話)「何だい、社長の癖に知らないのかい?あんたと親密な人さね。」


 少人数で回している店舗の全従業員について好美が把握しきれていないと言うのに大企業の社長である結愛は尚更だ、もし支社も含めた全従業員の顔と名前を記憶しているというなら結愛は相当な化け物と言える。


結愛(念話)「すみません、流石に私1人で全従業員についてを把握するのは至難の業ですよ(支社の事なんていちいち知るかよクソババァ)。」


 おいおい、そんな事考えても良いのか?相手は義弘と同じアーク・ワイズマンだぞ?


結愛(念話)「(そうだった・・・)、それで私の親密な人って?」

美玖(念話)「何だい、本当に知らないんだね。こっちの施設については「クソババァ」に押し付けて忘れていても良いって思ってんじゃ無いのかい?」


 ほらね、バレてんじゃん。


結愛(念話)「何を仰いますか、信頼している叔母様だからこそお任せしているのではないですか(畜生、何で分かるんだよ)。」

美玖(念話)「ほら、また本心が出てるよ。別に私は弟みたいにうるさくするつもりは無いから楽にしておきな。」

結愛(念話)「ありがとう、叔母様(クソババァ)!!」

美玖(念話)「またもう、一先ず「クソババァ」は今度の祝杯で待っているからね?例のナイトマネージャーについてはその時だ。」

結愛(念話)「分かったよ、おばちゃん!!」

美玖(念話)「「おばちゃん」か、「クソババァ」よりましだから良しとするかね。」


 『念話』で聞こえて来た「祝杯」と言う言葉に食らいついた好美、流石は酒好き。


好美(念話)「ねぇ、祝杯って何?!」

結愛(念話)「何だよ、テレビ見て無かったのか?」

好美(念話)「何よ、全然検討がつかないじゃない。」


 ネフェテルサ王国に帰ってきてすぐにイャンダやデルアに呼び出された好美は全くもってテレビのニュースを見る事が出来ていなかった、店についての大切な話をしている間に何があったのだろうか。


結愛(念話)「実はな、俺達が強制収容所を出てすぐに再発防止の為か義弘の死刑が執行されて事件が解決したって報道されたんだよ。好美にも迷惑を掛けたからな、悪かった。」


 確かに好美にとって折角の卒業旅行を潰された原因である義弘には迷惑していた、ただ死刑囚と言えど実の父を亡くした結愛自身の心境が気にならないと言えば嘘になる。


好美(念話)「・・・ねぇ、結愛は今どういう気持ちなの?」

結愛(念話)「そうだな、肩の荷が下りたというか胸のつっかえが取れたというか。何となくスッキリとした気分だな、やっと自由になれた気がするぜ。実はアイツの所為で光明との結婚式や新婚(卒業)旅行が出来ていなかったんだ、この世界にいるか分からないけど思い切って母ちゃんを探してみようと思ってな。」

好美(念話)「お母さん?元の世界にいるんじゃないの?」

結愛(念話)「いやな、俺も人伝に聞いただけなんだが俺の数年前に心労が祟って亡くなっちまったらしいんだ。でも見つかったとして顔も覚えていないからどうしようも出来ないんだけどな。」

好美(念話)「そうか・・・、見つかると良いね・・・。」


-282 再会の宴-


 好美達の『念話』から数日後の夜、貝塚財閥本社にある小さめの会議室にて事件解決の祝宴が行われた。貝塚財閥には夜勤で働く者達もいるので「嫌味にならない様に」という社長の気遣いで、比較的迷惑のかからなさそうな場所を選んだとの事だ。


結愛「事件解決、お疲れ様でした!!ダンラルタ王国軍や警察の方々、ご協力ありがとうございました!!本日の宴はお礼も兼ねていますので存分にお楽しみください!!」


 ビアジョッキ片手にテンションがハイになっていた結愛は皆の前で注がれていたビールを一気に煽った、その姿からはどれ程この1杯を心待ちにしていたかが伺える。

 スタンド形式となっている今回のパーティーで自分用に充てられたテーブルへと戻ってきた結愛の下に同級生が2名近づいて来た、1人は貝塚財閥で働く仲間だ。


美麗「結愛、楽しそうだね。」

結愛「そりゃそうさ、こんなに美味い酒なんて久々なんだよ。ほら、美麗(メイリー)も遠慮せずに吞めって。」

美麗「もう・・・、誰にだって自分のペースって物があるんだからね。」


 そう言いながらも注がれたビールを瞬時に消し去ってしまう、やはりそこは実家が居酒屋だからなのだろうか。


結愛「それにしてもよ、実は好美の店のナイトマネージャーに美麗を推そうかと思ってたんだぜ。やっぱり美麗と言えば中華だろ?」


 結愛は改めて自分の指示で美麗に制服として着させているチャイナ服を眺めた、やはり未だに元の世界でのイメージが強く根付いている様だ。


美麗「馬鹿言ってんじゃ無いの、人事異動は雰囲気とかで決めて良い物じゃないでしょ?それにやっと貝塚運送の仕事が軌道に乗って来たんだから勘弁してよ。」

結愛「冗談だよ、悪かったって。」


 続いて結愛は美麗が隣に連れている人物に声をかける事に。


結愛「かんちゃん、来てくれて嬉しいぜ。今日は楽しんで行ってくれ。」

秀斗「言われなくてもそのつもりだ、親戚同士だってのに今まであんまり会う事すら許されていなかったからな。今日はその分楽しませて貰うよ。」


 親戚同士で談笑する社長の耳に聞き覚えのある女性の声が。


女性「お楽しみの様だね、やはり私の弟が皆に相当な迷惑をかけたみたいだから謝らなきゃいけないかも知れないね。」

結愛「おばちゃん!!来てくれたんだ!!」


 そう、結愛達のもとにやって来たのはダンラルタ王国で魔獣保護養育施設を経営する叔母の美玖だった。ただ以前と違って雰囲気(と言うより呼び方)が変わっていたので秀斗には違和感があった様だ。


秀斗「結愛、「おばちゃん」なんて呼んで良いのかよ。」

美玖「良いんだよ、この前までは裏で「クソババァ」って呼んでいたんだから。」

秀斗「結愛らしいや、そう言えば隣にいる人ってまさか・・・。」

美玖「そうさ、今日はこの人を結愛ちゃんに紹介しようと思ってね。結愛ちゃん、この人が今度からうちの施設のナイトマネージャーに就任する・・・。」


 美玖が隣の女性を紹介しようとすると、その女性は突然結愛に抱き着いて泣き出した。


女性「今まで辛い想いをさせたね、頑張ったね。ごめんね・・・、結愛・・・。」

結愛「まさか・・・、そんな訳・・・、ねぇじゃんか。待てよ、この人と俺は互いの顔を知らないはずなんだぜ?」


 ただその女性の抱擁には何処か身に覚えがあった、遥か昔に感じた事のある様な気がする温もり。それを裏付けたのはすぐ傍にいた従兄弟だった。


秀斗「いや結愛、その人が莉子さん、お前の母親だよ。」


 どうやら義弘に家を追い出されてから身寄りのなかった莉子は洋子の家で共に一時暮らしていた様だ、幼少の頃に秀斗はよく遊んでもらったりしていたから覚えているらしい。


結愛「本当・・・、なのか・・・?俺の・・・、母ちゃん・・・?」

莉子「そうだよ、ずっと会いに行けなくてごめんね。遠くからあんた達の楽しそうな様子を見ていると出て行けなくてね、急に「母ちゃんだ」って言われても困るだけだろ?」


-283 義弘(金)の力-


 正しく母親の言った通りであった、突然目の前に現れた女性に抱き着かれた結愛は暫くの間呆然と立ち尽くしていた。先程までたっぷりと残っていたグラスビールの泡が無くなってしまった位だ、結愛の脳内は「真っ白」という言葉がぴったりの状態であった。


結愛「待ってくれ、一先ず離れてくれるか?」


 莉子がゆっくりと離れると結愛はその場でしゃがみ込んで頭を抱えていた、普段は社長として可能な限り冷静に物事を考える様にはしていたがこの問題に関しては本人自体経験が無いのでどうするべきか分からなかったのだ。


結愛「悪かったよ、ただ本当に俺の母ちゃんなら教えて欲しい事があるんだ。」


 今の今まで「もしも母親に再会したら是非聞こう」と思っていた事が多々あったはずだが、いざその瞬間を迎えて涙を流す社長の口から出て来たのはこういったシーンでよくある質問だった。


結愛「教えてくれ、どうして俺と海斗をすぐに迎えに来なかったんだ。」

莉子「だろうね、やっぱりそう来ると思ったよ。」


 莉子は娘に嘘偽りなく真実を話す覚悟をしていた、そうでないともう娘達に一生会えなくなってしまうと思ったからだ。


莉子「仕事の合間を縫って何度も迎えに行こうとしたよ、でも義弘が門番の黒服達に厳重注意していた様でね。皆私の顔を見かけた瞬間に銃を構えて来たんだ、「親権を持って無い癖に何を考えている、赤の他人は早く帰りやがれ」と罵声も浴びせられたよ。」


 自分はどうなっても良い、ただ腹を痛めて産んだ子供達の顔を一目でも見たかっただけだというのに罵声を浴びせられた莉子は生きる価値を失くした気持ちで一杯だった。しかし莉子に対してドメスティックバイオレンス等を行っていたのは義弘の方だったはずなのにどうして親権を独り占め出来たのだろうか、ただ悔しく思いながら莉子はテレビ画面に映る子供達の顔を見る事しか出来なかったそうだ。


莉子「特に元の世界での事が印象に残っているんだよ、あんたが義弘から会社の全権を奪取したってニュースで見かけた時は「よくやった」って涙が出て来た。その時を覚えているかい?」


 勿論忘れる訳が無い、今までの人生の中で最悪の日々だったからだ。


結愛「思い出したくも無いがその記憶は頭から離れようとしてくれない、俺と海斗は2人共周りの同級生と同じような普通の高校時代を楽しみたかっただけなのに勝手に物事を進めた義弘の所為で滅茶苦茶だったからな。」

莉子「実はあんた達に会えなかったのもその義弘が原因だったんだよ、ほら、警察の人間等に圧力をかけたり贈収賄を繰り返していたって話があっただろ?」

結愛「ああ、義弘派閥の株主や細部に至るまでありとあらゆる人間に金を渡してたって聞いた時は何度も舌打ちをしまくったもんな。」


 あの時は本当に筆頭株主達に感謝するしか出来なかった、「神様・仏様・真希子様」と叫んでしまった位だ。緊急株主総会の後に食べた真希子のカレーがどれ程美味しかった事か、そして全てが終わったあの日に光明と初めて交わしたキスがどれ程印象深かったか。そう言えばあれが現社長夫婦の始まりだった様な。


莉子「私が親権を得る事が出来なかった1番の理由というのが、実は事前に義弘が裁判長を買収していたからだったんだよ。何でもかんでも金でどうこうしようとする義弘の顔をニュースで見る度に手を痛める位に拳を握ったもんね、私も相当頭に来ていたもんさ。」


 ずっと母親に会えていなかった、そして顔を知らなかった理由が義弘による贈収賄だった事を知って悔しくて仕方が無かった結愛。ただ今は折角の酒宴の席、それに会えると思っていなかった母親との再会の席。辛かった話ばかりでは雰囲気が悪くなる一方だし酒が不味くなってしまう、気を利かせた結愛は実は悪い事ばかりでは無いと莉子に伝える事にした。


結愛「なぁ、本当に「母ちゃん」って呼んでも良いんだよな?」

莉子「何だい、今更何の確認なんだい。勿論良いに決まっているじゃないか。」


 今の質問に「No」と答える母親が何処にいるのだろうか、しかも今現在の莉子と結愛の境遇だったら尚更だと思われる。


結愛「じゃあ、母ちゃん・・・。お、俺さ。結婚したんだよ、高校時代の同級生と。」

莉子「それは良い事じゃないか、旦那さんとも是非盃を交わさないとね。」


-284 意外な活躍者-


 結愛が生き別れた(いや「死に別れた」の方が正しいか?)母・莉子との感動的な再会を果たしていた時、光明は少し離れた所で絶対に忘れてはいけない要人の対応に追われていた。ダンラルタ王国軍の者達と共に招待されたダンラルタ国王・デカルトである、とは言っても今回はビジネスではなく折角の酒宴の席なのでかなり緩めの対応となっていた様だが(まぁ、3国の国王は堅苦しいのが苦手なのでいつも緩めなイメージが強いのだが)。


光明「王様、今回は大袈裟な親子喧嘩にお付き合い頂き有難うございます。」

デカルト「何を仰っているんですか、私はただ国民を守るために動いただけですよ。お気になさらないで下さい、それに活躍していたのは私ではなくハイラ所長や結愛さん達じゃないですか。」

光明「そう仰って頂けて助かります、ただ結愛は我武者羅にやっていただけですので勿体ないお言葉ですよ。」


 光明、そう言った言葉は結愛本人が言うべきであってお前が言って良い訳じゃ無いんだぞ。まぁ、さっきも言った様に折角の酒宴の席だから今は気にしない事にして話を進めますかね。

 光明にはデカルトが強制収容所に到着した時から気になっていた事があった、あの時は大騒動が起こっていたというのにやたらと冷静沈着だった様な・・・。でも1国の王としては冷静に状況判断するのも当然の事かと思っていたがやはりそれなりの理由があるはずだと聞かない訳にはいかなかった様だ。


光明「王様、恐れ入りますが1つお伺いしても宜しいでしょうか。」

デカルト「光明さん、「デカルト」で構いませんよ(と言うより名前で呼んで欲しい)。それとお気軽に何でも聞いて下さい、私で宜しければ可能な限りお答えしますから。」

光明「そういう訳にはいきませんよ、やはり王様に対してはそれなりの礼儀を尽くさないといけないじゃないですか。」

デカルト「当の本人である私が良いと言っているんですから是非、それに堅苦しい事が苦手ですのでフランクに行きましょう。」


 異世界の、しかも鳥獣(コッカトリス)からどうすれば「フランク」と言う言葉が出るのだろうか。やはりこれもビクターの仕業なのかと傍観していただけの俺は少し動揺していたが何でもありの世界だから気にしない方が正解なのかも知れない、どんな事にも冷静に(?)対応している転生者達が何となく凄い人達に見えて来た。この世界での生活が長いからもう何があっても驚かない様になってしまったのかもと言う見解もあり得るがいちいち深く考え込んでいたら話が進まない、取り敢えず再び2人の会話に耳を傾けてみますかね。


デカルト「それにしても光明さん、先程から私に何を聞こうとしていたんです?」


 ご丁寧にも国王の方から切り出して貰えるとは、羨ましい限りだと言える光明。


光明「国・・・、いやデカルトさん。実は何となく気になっていたんですが、デカルトさん達が強制収容所に来る前からやたらと状況に詳しくないかと思っていたんです。可能な限りで構いませんのでどうしてなのか教えて頂けませんか?」


 きっとハイラ達強制収容所の所員達から逐一連絡が言っていたのが答えの第一候補だと思っていたのだが、国王の口から出た答えは意外な物だった。


デカルト「古い友人の娘さんが私に状況をずっと教えてくれていたんですよ、光明さんもお会いした事があると思いますが改めて紹介させていただきま・・・、ってお待ちなさい!!」


 デカルトが目を丸くして呼び止めたのは貝塚財閥の従業員だった。


デカルト「間に合った・・・、それを持って行ってどうするおつもりだったんです?」

従業員①「いや・・・、そろそろ追加の肴を作ろうかと思っていたんですが。」


 参加者には酒飲みや大食いの者達も多くいたので料理が足らなくなってきたと判断した従業員達は丁度すぐ傍にあった食材(?)を料理して招待客に振舞おうとしていた様だ、悪気があった訳では無かったがそれが仇となってしまった。


従業員②「バター炒めにしようかと思ったんですがどうされたんです?」

デカルト「バター炒めなんてとんでもない、ほら、君も早く『人化』しなさい。その姿でいるからこうなるんだよ。」


 すると従業員の持っていた「食材になりかけていた物(?)」はピクピクと動いた後に『人化』して光明も会った事のある、と言うより関係者である女性の姿になった。


デカルト「レイトちゃん、今は『人化』していないとまずいって言ったじゃないか。」

レイト「しょうがないじゃん、恥ずかしかっただけだもん。光明副社長、お疲れ様です。」


-285 雰囲気で決まった人事-


 まさか嫁の親子喧嘩終結(したと判断しても良いんだよな?)にまさか最近入ったばかりの新入社員が活躍していたとは寸分たりとも思っていなかった光明、しかも知らない内にその英雄を食べてしまいそうになっていたとはと思うと申し訳なさで心がいっぱいになってしまってもいたと言う。


光明「レイトさんもお疲れ様です、まさか君が王・・・、いやデカルトさんに連絡してくれていたとはね。それなのに俺達はその優秀な社員の人生を終わらせようとしていただなんて恥ずかしくて仕方が無いよ。」


 何気ない従業員達の行動に対してちゃんと指導を行っていなかった自分に責任があると反省していた副社長、これに関してはレイトの自業自得だと言うのに社員を守ろうとする気持ちが相も変わらず強い奴だな。


レイト「お気になさらないで下さい、ただ私が恥ずかしがり屋なだけだったんです。この性格をいつか直さないといけないなとずっと思っていたんですが方法が見つからなくて。」


 後頭部を掻きながら頬を赤くする新入社員(マイコニド)、しかし過去にそう言う経験があるので人の性格はなかなか変わらない(直せない)ものだと俺個人は思っていた。


光明「大丈夫ですよ、ご自身の特徴や良点を活かして活躍してくれたんですからずっと変わらないでいた方が良いと俺自身は思いますけどね。そうだ・・・!!ネルパオン強制収容所での活躍を結愛にも知らせてレイトさんをチーフに昇格させましょう、これからはリーダーとして他の方々を引っ張って行って下さい。」

レイト「そんな・・・、私大した事してないですぅ~・・・。」


 より一層顔を赤らめるレイトの頭上から胞子の様な物が若干飛んでいた様に思えた光明、まさかマイコニド全員が恥ずかしがり屋な性格で顔がある程度以上に赤くなったら『人化』していた状態でも頭上から胞子を出してしまうのだろうかと疑問を抱いてしまった様だ。しかし流石に本人にこれに関してを質問する訳にいかない、それに英雄にも宴を楽しんで欲しいと思った光明は新入社員改め(まだ正式には決まっていないが)貝塚警備のチーフにグラスを手渡してビールを注いだ。するとまだ呑んでいる訳でも無いのにレイトは再び顔を赤くしていた、まさかな・・・。


レイト「そんな・・・、副社長にお酌して頂けるなんてこのビールはお家に持ち帰って宝物にしますぅ~・・・。」

光明「何言ってんの、勿体ないからこの場で呑んで。ほら、改めて乾杯しないか?」


 副社長が自分の持っていたグラスを空にすると隣にいた国王も同様の行動をした、きっと友人の娘の昇格を自分もお祝いしようという気持ちの表れだろう。おいおい、確認させて貰うけどまだ正式に決まった訳じゃ無いんだよな?


光明「いや、1国の王が公認してくれているんだからこれはもう正式な決定としても良いと思うんだよ。後は結愛に言うだけなんだけど・・・、あららぁ~・・・。」


 国王が絡んだ人事についてちゃんと妻に話そうとした光明が結愛のいる方向を見ると、社長はもう既に仕事を忘れて酒を楽しみまくっている様だ。


光明「デカルトさん、申し訳ないんですが結愛が既にお楽しみの様なので正式な決定は本人が素面に戻ってからでもいいですかね・・・。」

デカルト「これはこれは結愛さんったら、相も変わらずな人ですね。しかしこれに関してはちゃんとした証拠を残しておくべきでしょう、宜しければ私が一筆致しましょうか。」


 まさか今回の人事異動が国王直筆のサイン付きで決まってしまうとは、これは会社の副社長としての責任が重大になって来てしまった様だ。勿論軽い冗談で言ったつもりは無かったが後に戻れなくなった光明は先程の自分の発言を反省し始めた、これでもしも結愛が首を横に振ったら終わってしまうと思っていると知らぬ間に隣に噂の妻が・・・。


結愛「何だよ光明、俺の知らない所でコソコソやってんじゃねぇぞ。お前も貝塚の人間として前で挨拶しろや。」

光明「社長のお前がやったんだから俺は別に構わないだろ、それより大事な話があるんだ。」

結愛「誰が「貝塚財閥」って言ったんだよ、「貝塚」としか言ってねぇだろうが。」


 結愛の言った「貝塚」とはこの場にいる「貝塚家」の事、社長も副社長も関係無いので家を追い出されていた莉子も涙ながらに挨拶を行っていた。


莉子「えっと・・・、私は家を追い出された身ではありますがここにおります結愛や兄である海斗の母親である事を今でも誇りに思っています。立派に活躍している娘の姿をいつもの様にテレビ越しではなく直接見る事が出来て幸せです、これ程嬉しい事はありません。」

結愛「母ちゃん・・・、ハハハ・・・、俺は幸せ者だな。」

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