7. 異世界ほのぼの日記3 286~290
-286 「結愛」と「海斗」-
母の挨拶を聞いて上を向いて笑いながら涙を流していた結愛には気になっている事があった、と言うより不自然に思っている事があった。
結愛「母ちゃん、急に頼んだってのにさっきはありがとうな。」
莉子「何を言ってんだい、母ちゃんだって一応は「貝塚」なんだから当然の事じゃないか。」
大企業の社長という事など全くもって関係無いという雰囲気、ただそこにいたのは仲睦まじいだけの母と娘。
結愛「なぁ母ちゃん、1つ聞いて良いかな。」
今更切り出すのかよ、冒頭で聞く空気だっただろうが。
結愛「うっせぇ、あんたは黙ってろ。」
莉子「結愛、今のは何だい?」
結愛「気にしなくても良いよ、ちょこちょこ首ツッコんで来る「だけ」の存在だから。」
おい!!「だけ」とは何だ「だけ」とは!!俺次第でお前の人生なんて・・・!!
結愛「今は良いだろうがよ、空気読めって!!親子水入らずの会話を邪魔すんじゃねぇ!!」
はいはい分かりました、はよ気になっている事を聞けや。
結愛「それは良いとして母ちゃん、さっき聞こうとしていた事なんだけどさ。」
莉子「改めてどうしたってんだい、不自然な子だね。」
そうだぞ、親子同士なのによそよそしいじゃんかよ。
結愛「あのな、まともに母ちゃんと話すこと自体が初めてなんだから仕方ないだろうがよ。」
莉子「そうだよ、話が進まないから早くしとくれ。」
あらお母さんまで、大変申し訳ございません。
莉子「それで、どうしたんだい?」
結愛「母ちゃんはどうしてすぐに俺の事を自分の娘だって分かってくれたのかなって。」
莉子「そんな事かい、1つしか無いじゃないか。」
母は簡単そうに答えているが大手一流財閥の社長である娘は全く見当がついていなかった様だ、一先ず莉子はさらりと答えない事にした。
莉子「そうだねぇ・・・、義弘(あいつ)には1つだけ出来なかった事があったんだよ。」
罪を犯したのは間違いでは無かったが、巨大財閥と学園の両方を経営していた死刑囚に出来なかった事などあったのだろうか。
結愛「奴に・・・、出来なかった事?」
莉子「そうさ、あの性格が故に出来なかった事があったんだ。」
結愛「奴の性格の悪さは痛い程経験しているけど、金の為ならどんな事でもやりかねないアイツに出来なかった事だって?」
莉子「そう、それはね・・・。」
そう言うと母はゆっくりと娘に近付いて肩に手をやった、先程の抱擁と同様に温かな手。
莉子「「結愛」と「海斗」、あんた達の名前だよ。私があんた達に与えた唯一の贈り物さ。」
確かにあの極悪な性格をしていた義弘が2人に良い名前を付けることが出来ただなんて作者の俺にも到底思えなかった、母の言葉に結愛は改めて涙を流した。
結愛「母ちゃん・・・、俺この名前を大切にしてて良かったって初めて思ったよ。」
莉子「「沢山の人を大きな「愛」で「結」んで欲しい」で「結愛」、「「海」や北「斗」七星の様に広い心を持って欲しい」で「海斗」。義弘に気圧され何もしてやる事が出来なかった私が唯一贈る事が出来たプレゼントさ、忘れる訳が無いじゃないか。」
結愛は大粒の涙を流した、本人にとってもこんな事は初めてだった。きっと「最悪の高校時代」が終わり、光明と口づけを交わした時以上だったのかも知れない。
結愛「そうか、俺達の名前が母ちゃんと俺達をずっと繋いでくれていたんだな。どんなに金を積まれても譲れない物だし親にしか与える事が出来ない物だな、ありがとう・・・。」
莉子「結愛も大切にしてくれてありがとうね、お陰でまた会えたんだ。今日は呑もう。」
-287 義理の母と息子、そして実の息子-
互いに感謝の言葉を述べてから数分後の事だった、他の転生者からすればいつも通りの光景ではあったが不自然さを感じていたのか莉子は周囲をずっと見廻していた。
結愛「母ちゃん、もう酔いが回って来たのかよ。ずっとキョロキョロしてどうしたんだ?」
莉子「いや、ここがこの世界での貝塚財閥本社なんだろ?」
結愛「勿論、紛れもなく貝塚財閥バルファイ王国本社だ。代表取締役社長の俺が言うんだ、間違いねぇ。」
莉子「そうかい、だったら良いんだけどね・・・。」
折角の酒宴の席だと言うのに1人ため息をつく莉子、あまり楽しく無いのだろうか。
そんな中、デカルト達と会話を楽しみながら結愛達の様子を見ていた光明が2人に近付いて来た。
光明「なぁ結愛、さっきから一緒にいるこの人は誰なんだ?確か前で挨拶していたみたいだから「貝塚」の人間だとは思うんだけど・・・。」
結愛が知っていて自分が知らない人物がいるなんて、まさか結愛には内緒にしている事があるというのだろうかと隣の人物を怪しむ光明。
結愛「あ、あのさ・・・。そんな目で見ないでやってくれるか?俺が紹介するのが遅かっただけなんだよ、決して怪しい人じゃないから安心しろよ。」
光明「お前が言うなら間違いないみたいだけど・・・、分かったよ。それで・・・、この人は?」
自分の母親に対して光明が疑いの目線を向けていた事に若干の気まずさを覚えていた結愛、しかし真実を伝えなければこの状況は決して変わらない。
結愛「この人さ・・・、俺の母ちゃんなんだよ・・・。」
光明「え?!この人が?!確か元の世界で生き別れになってたって言う?!」
多少ではあるが結愛から母親について聞いていた光明、しかし日本から遥かに遠い異世界で再会するだなんて守と好美に起こった奇跡的な出来事が再び起きたと言う事実を未だに信じる事が出来ていなかった光明の疑いを晴らしたのもこの男。
秀斗「みつもん・・・、ガチだ。」
光明「俺の事をそうやって呼ぶのは・・・、やっぱりかんちゃんだったか。結愛から話は聞いていたが本当に会えるとはな。」
秀斗「それはそうと、そこにいる莉子さんが結愛の母親だ。俺の母ちゃんのお姉さんだから間違いねぇ、それに俺がガキだった頃に一緒に暮らしていたからな。」
元の世界にいた頃から信頼している幼馴染の言葉を素直に聞き入れた光明、ただ先程自分が取ってしまった態度が許せなかった様で・・・。
光明「あの・・・、何とお詫びすればいいのか・・・。大変失礼致しました、私は結愛の旦那で貝塚財閥副社長の光明と申します。以後お見知りおきを。」
莉子「何を仰っているんですか、私の事を知らなかったんですから当然の事ですよ。それにしても誠実そうな方で助かりました、貴方だったら安心して結愛を任せる事が出来ます。」
光明の目をじっと見て「光明という人間」を改めて見定めた莉子は安堵の表情を見せ、娘に小声で話しかけた。
莉子(小声)「結愛、そろそろ限界なんだけど。そろそろ呑んでも良いかい?」
結愛(小声)「勿論良いけどどうしたってんだよ・・・。」
娘に許可を得た母親は近くにあった瓶ビールを一気に煽った。
莉子「かっはー!!光明君だっけ?堅苦しいのは抜きにして呑みなさい、義理の母親の言う事は聞いた方が身のためだよ?」
光明「あ、はい・・・。分かりました。」
自分と同じ酒好きと発覚した母親と旦那を会わせる事が出来た結愛の目の前で再び辺りを見廻していた莉子、本当にどうしたと言うのか。
結愛「母ちゃん、さっきからどうしたってんだよ。」
莉子「海斗は?何でここに海斗がいないんだい?」
結愛「兄貴は今日夜勤だよ、ネフェテルサ王国にある拉麵屋にいるんだ。」
莉子「拉麵屋だって?!あの子がかい?!」
驚きを隠せない莉子、何かを思い出したみたいだがどうしたと言うのか。
-288 息子の上司-
元の世界とこっちの世界を合わせると何十年も会っていないと言うのだから母親の知らない間に息子に何かしらの変化があってもおかしい話では無い、だと言うのにどうして莉子はあそこまで驚いていたというのだろうか。
結愛「どうしたんだよ、兄貴は調理師免許を取得したんだから拉麵屋で働いていてもおかしい話じゃないだろう?」
莉子「あ、ああ・・・。確かにそうだね、調理師免許を取得しただなんて凄い話だね。それにしてもどこのお店で働いているんだい?母ちゃんも一度は食べに行かなきゃだよ。」
単純に店の客として味を見に行くのか、それとも息子の成長した姿を直に見に行こうか、そう言った意味を含んだ一言に聞こえて仕方が無かった結愛は娘として是非とも自ら案内してやりたいという気持ちが湧き上がっていた。ただふと思い出した事が1つ。
結愛「ネフェテルサ王国にある「暴徒の鱗」って店だよ、街で貝塚学園(うち)の寮とマンションになってる1番大きなビルの1階に店があって人気になっているんだ。」
莉子「ああ・・・、聞いた事があるよ。確か「暴徒」と「龍の鱗」が合併して出来たっていう店だよね、私達と同じで転生して来た日本人の女の子がオーナーをしてるって。」
結愛「そうなんだ、俺と同い年の好美・・・。」
好美「何知らない人に私の噂を流してんのかな・・・、結愛社長・・・?」
結愛「好美!!い・・・、いや違うんだ!!ただ美味い店を紹介してただけで・・・!!」
好美がこう言った酒の席に来ない訳が無いという事は明白なはずなのに登場が唐突過ぎてつい驚いてしまった結愛社長、慌てふためいていたせいか説明不足になってしまった。
好美「美味しいお店を紹介していただけなんだったら私(オーナー)の事を紹介する必要無くない?私は別に良いんだけど。」
『状態異常無効』のお陰と推測されるが正論過ぎて酒が入っているとは全く持って思えない、まさかつい先程『瞬間移動』で来たと言うのか?
莉子「結愛、突然現れたこの子は誰なんだい?まさかと思うけど・・・。」
結愛「その・・・、「まさか」だよ・・・。さっき言った拉麵屋のオーナーでマンションの大家もしている倉下好美本人だ、海斗が世話になっているのはこいつなんだよ。」
莉子「へぇ・・・、この子がかい・・・。人は見た目によらないもんだねぇ。」
莉子は改まった様に好美の顔を見てポカンとしていた、ただ「何でもあり」のこの世界では十分にあり得る話だからそこまで驚く事は無いと思うが?
好美「結愛、この人誰?確かさっき前で挨拶してたっぽいけど。」
結愛「隠すつもりは無いから別に良いんだけど、俺と兄貴の母ちゃんなんだ・・・。ほら兄貴って今夜夜勤だろ?何処で働いているかって言う話になってさ。」
好美「えっ、この人が結愛達のお母さんなの?美人さん・・・、ですね。」
莉子「あらま、上手い事言ってくれるじゃないか、そんな事言っても何も出ないよ。」
何となくだがこの世代のおばちゃん達はどうして皆同じ口調なのだろうか、今イジるべき事では無いのだが。
莉子「あんた、「おばちゃん」じゃなくて「お姉さん」だろ?」
す、すんません・・・。おいおい、そこまで同じなんかい・・・。
好美「まぁ失礼な奴は置いといて、海斗さんなら1人でホールや調理場を同時に回せますから十分任せておいて大丈夫な位に信用出来る人になっていますよ。」
莉子「でも1人ではなかなか無理な話だろ、この時間帯は誰も食事に来ないのかい?」
好美「深夜で雇っているアルバイトもいますので大丈夫ですよ、それに本人も今は社員ですがアルバイトの時から働いていますので仕事に大分慣れているみたいですし。」
莉子「だからあんたは何もしなくても大丈夫と・・・?」
まるで「従業員に店を押し付けて何をしているんだ」と言わんばかりの莉子、そのまさかの性格に少したじろいでしまう結愛。ただ今すべきなのは好美をフォローする事だ。
結愛「母ちゃん・・・、やめてやってくれ。こいつ自身もネフェテルサ王国の王城で夜の見回りの仕事をしているし、当然店にも出ている上にコンビニのオーナーも兼任してんだ。」
好美「結愛・・・。」
流石にキレたのか小刻みに震える好美、その姿に恐怖を覚えた結愛。
結愛「な・・・、何だってんだよ・・・。」
好美「ビール無くなった!!お代わり無いの?!」
-289 ダンラルタ王国初の出店に向けて-
不機嫌そうに結愛にお代わりを要求する好美の声を聞いたデカルトは王城における重要案件を思い出した、好美が素面のままの内に出来る限り話を進めて行きたいと思うのだが大丈夫だろうか。
デカルト「好美さん・・・、今ちょっと宜しいでしょうか。」
1国の国王にここまでの気遣いをさせる好美を見た莉子は目の前の女の子がこの世界における相当なやり手だと信じ込んでしまった、確かに間違っては無いのだが3国の国王達の腰の低さがかなりの物だからという理由の方が正しいかも知れない。
好美「デカルトさんじゃないですか、こんな酒の席で何の話をしようとしているんです?」
心当たりはあるのだがこの様な楽しい席では何となく仕事の話をしたくない好美、個人としては純粋に酒と料理を楽しみたいのだが・・・。
デカルト「ほら、うちのロラーシュの事ですよ。」
好美「確か・・・、新店の開店に向けて渚さんの屋台で修業中だって話ですよね?デカルトさんには何の連絡も無かったんですか?」
ロラーシュを弟子にするに当たり、実は渚はある条件を付けていた。デカルトを含んだ城の者達がサボらずにちゃんと修業を続けている事を確認できるようにする為、「定期的に必ず王城へと向けて連絡を行う事」だったのだ。
デカルト「本人からはね・・・、一応念の為に『念話』で渚さんには随時確認していたんですがやはり本人自身の口からちゃんと報告を受けるべきだとずっと待っていたんです。」
別に大臣を預かっている渚を信用していない訳では無いのだが、やはり数年前に王城の仕事をサボってゴブリン達が働いていた鉱山でミスリル鉱石を食べていた前科をまだ忘れていなかったからだ。
好美「私は何も聞いていませんけど、王城で開くと言っていたお店の建設の方はどうなっているんですか?」
デカルト「店の方はもうすぐ完成しますよ、後は保健所の方々のご指導の下で不備が無いか確認するだけですかね。」
開店まで秒読みと言える所まで来ているみたいだが、当の本人であるロラーシュ大臣がちゃんと「暴徒の鱗」の味を会得出来ているかが気になっている様だ。そんな中、隣に座っていた結愛がほろ酔い気分で2人の会話を聞いていた。
結愛「何だよ、王様と商売の話か?」
好美「結愛、流石に結愛でも社外秘の事を話す訳にいかないよ。」
結愛「楽しそうな話をしているんだから聞かせろよ、儲かりそうだったら俺が自ら投資してやっても良いんだぜ。」
この世界でその名を知らない者はいない程のやり手と言える結愛ではあったが正直言って投資のイメージは全くない、真希子みたいに上手く資産を増やす事が出来るというのだろうか。
好美「そう言ってくれるのは嬉しいけど、今建設中のダンラルタ王城店(仮)はデカルトさんがオーナーになるって話になっているのよ。」
デカルト「こ、好美さん?今・・・、何と?」
動揺するデカルトの様子から見るにいつも通り好美が誰にも相談する事なく1人で勝手に決めた話だと思われるが流石に王様を巻き込むのはどうかと思ってしまうのは俺だけだろうか、と言うか店の名前まで勝手に決めて良いのかよ。
好美「まだ「(仮)」の状態だから良いじゃん、それにちゃんと渚さんやパルライさんに連絡する・・・、つもりだもん。」
す、すんません・・・。流石に俺も女の子を泣かせる事はしたくないからな。
早速好美は他の経営陣に『念話』で連絡をする事に、意外とちゃんとしているんだな。
好美「本当に失礼な奴だな・・・。(念話)皆さん、今お時間大丈夫ですか?」
渚(念話)「好美ちゃんじゃないか、今はお楽しみじゃ無かったのかい?」
シューゴ(念話)「そうですよ、酒の席では仕事の話を絶対しないって言ってたじゃないですか。」
一(念話)「こんなに珍しいことは無いな、下手すりゃ明日雪が降るぞ。」
いくら冗談でも失礼な気がするが、ここでは雪が殆ど降らない事を忘れて無いか?
-290 悪戯好き達-
酒宴の席で起こっている天地がひっくり返るレベルの珍事に驚きを隠せないでいる拉麵屋の経営者陣をよそに大臣の事をずっと疑ってしまっているデカルトに協力する為、好美は大臣の師匠へと『念話』を飛ばしてみるが個人的に聞きたい事があった様だ。
好美(念話)「渚さん、ちょっと気になっていたんですが屋台は直ったんですか?」
やはり屋台の修理代が馬鹿にならないので他の経営者陣と共に警戒していた好美、口調から少しほろ酔い気分になっていた事がバレた模様だ・・・。
渚(念話)「好美ちゃん、酒を吞みながら仕事の話なんて絶対しないあんたが珍しいじゃないか。まさか結愛ちゃんの所にでもいるのかい?」
シューゴと同様にまだ屋台で巡回中だった渚はただ酒を楽しむ好美が羨ましかったらしい、ただ今は運転中なので後の楽しみにしておいて欲しいのだがやはり渚も酒好きなので。
渚「狡いじゃないか、私だって混ぜておくれよ。」
好美「渚さん!!仕事中でしょ?!」
好美が露天風呂で酒を楽しんでいる時の様に突然現れた渚、しかし好美以外にも黙っていない者達が数名ほど。
シューゴ(念話)「渚さん、『瞬間移動』で呑みに行ったみたいですけど屋台の方はどうしたんです?」
一(念話)「そうだよ、それにまだ営業時間の最中じゃないか。各所でお客さんが待っているかもしれないだろ?」
他の店舗や屋台と違って渚の屋台で提供されている「特製・辛辛焼きそば」は紛れもなくオリジナルの物だ、これを楽しみにしている客達が多くいるのも紛れもない事実と言っても過言では無い。
渚(念話)「屋台は『アイテムボックス』にしまっちゃったよ、それに最近はインスタントで食べれる様になっているんだから問題無いって。」
これは数か月前の事なのだが実は貝塚財閥(結愛)の協力の下で最近渚の「特製・辛辛焼きそば」が家庭で楽しめるインスタント食品として販売された様だ、今回の為に元々特製麺を使っていた麺やソース等を再び研究しなおして販売へとこぎ付けたらしい。
渚(念話)「結愛ちゃんのお陰でバックマージンがある程度入る様になったんだから少しサボったって問題無いって、それに今日は1週間の中で1番客数が少ない曜日なんだよ。」
渚は軽快な様子で話しているがその予想に反して2号車が停車する予定だった駐車場では多くの客が渚の到着を今か今かと待ちわびていた、これもきっとインスタント販売の影響と思われるが流石にお客を裏切る訳にはいかないと好美は咄嗟にある行動に出た。
渚「さて私もやっとビールにありつけるよ・・・、ってあれ?(念話)好美ちゃん、これはどう言う事なんだい!!」
好美(念話)「お客さんを裏切る人に経営者を名乗る資格はありませんしビールを呑む資格もありません、ちゃんとお客さんに美味しい料理を提供してから来てください。」
そう、渚と渚の経営する2号車を元の駐車場に『転送』したのだ。それにしても渚の屋台は『アイテムボックス』の中にあったはずなのにどうやって『転送』したと言うのだろうか。
渚(念話)「あんた、人の『アイテムボックス』の中から物を取り出すなんて怖い事よくやるね。」
好美(念話)「いや・・・、この前加護を授かってから出来るようになりまして・・・、って今は私の話じゃないでしょ!!」
渚(念話)「駄目だったか、上手く誤魔化して宴に戻ろうと思ったんだけどね。」
好美(念話)「駄目に決まっているじゃないですか、ちょんと商売をしてから堂々と来て下さい。」
上手く話の腰を追って好美を自分の味方に引き入れた上で酒宴会場に戻ろうとした渚、しかし世の中そこまで甘くは無い。
渚(念話)「仕方が無いね、じゃあちょっくら走って来るわ。」
渚のこの様なサボり癖まで弟子に伝承されていないことを切に願う経営者達。
好美「あ・・・、ロラーシュさんの事を聞くの忘れてた。」
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