7. 異世界ほのぼの日記3 276~280


-276 赤いトマトと赤い思い出-


 義姉が作ったトマトを1口食べて一目惚れしてしまったデルアの心中を察した渚が足音を殺して近づいて来た、ただデルアは見た目以上に甘みの強いトマトにずっと夢中だった様だ。


渚「どうだい?冷やし中華に使いたくなったろう?」

デルア「・・・、そうっすね・・・。」

渚「何だい、反応が良くないね。」


 多々ある食材の品質を定期的に確認する為に自らの舌でちょこちょこ試食をしていたデルア、拘りで馴染みのある卸業者を通して市場から最高品質の野菜を仕入れる様にしてはいたがこんなに甘みの強いトマトに出会ったのは生まれて初めてだった。是非店に持ち帰ってイャンダやピューアに食べさせてやりたい、正直言ってこれからはこの野菜を使った料理を提供したいという気持ちが沸き上がっていたがこれだとこの場に来た本来の目的からかけ離れてしまっている。やはりバルファイ王国軍にいた時からの望みを叶えたい、どんな形でも良いから兄とお店をやりたい。


デルア「あの・・・、勿論兄貴もこの野菜を使っているんですよね?」

渚「そうだよ、その為にこの場所に店を設けたんだからね。」


 トマト片手に先程から1人考え事をするデルアにそっと近づく光、ただどうやって声をかけるべきかが分からなかったので一先ず母に声をかける事に。


光「お母さん、そう言えば今日は屋台を出さなくても良いの?」

渚「出さない、と言うか出せないんだよね・・・。」

光「その言葉聞き覚えがあるんだけど、あっ!!まさか!!」


 頬をかきながらそっぽを向く渚、それを見て何となく嫌な予感がした光。娘が何を考えているのかが分かってしまった母はわざとらしく下手くそな口笛を吹いていた。


光「お母さん、またなの?」

渚「しょうがないじゃないか、重い荷物を運びながらの坂道発進は難しいんだよ。特にダンラルタ王国は坂道の宝庫じゃないか、クラッチがよく壊れるんだよ。」

光「だから前からシューゴさんと言ってんじゃん、いい加減ATに買い替えろって。」

渚「嫌だね、私は元走り屋だからMTにしか乗るつもりは無いよ。」

光「「元」は余計でしょ、この前だってダンラルタ王国の山で走ってた癖に。デカルトさんが送って来た動画見て恥ずかしくなったんだから、デル君も見てくれる?」


 懐からスマホを取り出して義弟に動画を見せる光、どうやら鳥獣人族の者が撮影した物の様で動画は想像以上に臨場感に溢れていた。


渚「まさか車の真横で撮っていたのが王国軍の人とは思わなくてね、つい調子に乗って走っちゃったのさ。屋台の営業が終わった後ので誰もいなさそうだったから良いかと思ってね、「壁に耳あり障子に目あり」って言葉を改めて実感させられたよ。」

光「もう・・・、デカルトさんは笑顔だったから良いけど本来だったら迷惑行為だったのかも知れないんだよ?」


 ダンラルタ王国における自動車普及率は未だに3国で1番低い、それもあるからなのか興味を持った住民達が物珍しそうに眺めていて良いエンターテイメントになっていた様だ。「終わり良ければ総て良し」と言うか何と言うか・・・、ハハハ・・・。


渚「あんなにコーナーを攻めたくなっちゃう山があったら走りたくなるもんだろ、あんたには分からないのかい?」

光「あのね、確かに私も趣味として峠を攻める時はあるよ?でもよく考えて、同じ赤い車でも私のカフェラッテと違ってお母さんのエボⅢは目立つの。お母さんだってもう孫もいるんだし若く無いの、少し控えめにして貰わなくちゃ。」


 そんな中、光の家の玄関の方向からとても大きな足音が聞こえた。どうやら今日は授業が正午までだったガルナスがメラと遊ぶ時間を確保するためにバス停留所から全速力で帰って来た様だ、これもこの家では日常茶飯事らしく・・・。


光「ガルナス、またあんたは・・・!!土埃が上がるから玄関前は走るなって何回言えば分かるのよ、それに陸上部はどうなってんの?」


 光は可能な限り大きな声で話しかけたがメラと遊ぶ事で頭が一杯だったので相も変わらず娘には聞こえていない無かったみたいだ、いやぁ青春してるねぇ~・・・。


光「そんな呑気な話じゃ無いのよ、まぁ成績は下がって無いから良いんだけど。」


 えっと・・・、何か問題でも?あっ、もしかして「あれ」ですか?


-277 母娘(おやこ)-


 いつも以上に勢いよく走るダンピール(ハーフ・ヴァンパイア)の様子をバッチリと見ていた母親は頭を抱えながらため息をついていた、光の心中では嫌な予感が増して行くばかりでどうしようもなかった様だ。


光「参ったな・・・、あの様子だと今夜の夕食をどうすれば良いか分からなくなるのよね。」


 毎晩の様に白飯を何回も何回もお代わりするガルナス、それに伴っておかずもとんでもない量を必要とするので何を作ればいいのか悩まされていたらしい。今日に至っては通常より多くのカロリーを消費しているので余計だと言っても良いのかも知れない、ただこれに関して元黒竜将軍(ブラックドラグーン)は気になる事が1点(ただ返答は想像できると思われるが)。


デルア「こういう時って兄はどうしているんです?」

光「ナルは店があるから手伝える訳が無いのよ、ただ私がパートに行っている時とか定休日だけは代わりに色々とやってくれるから助かるんだけどね。」


 デルアは兄が光の旦那として立派に活躍している事が嬉しかった、やはり仕事のみに集中すべきなのが男としての本来の在り方では無いと考えていたからだ。2人で協力して家事を行う、それが夫婦仲をよくする1番の近道なのでは無いだろうかという気持ちが強かったみたいだ(俺は相変わらず独身だから分からないが)。しかし安心しているばかりでは無かった、このままだと余計に自分の希望を言いづらくなってしまっている。一先ず自分を安心させる為(いや、家族仲についてより一層知る為)に気になる事を切り出してみる事に、もしも返答が「YES」ならきっと例の話を切り出しやすいだろう。


デルア「ガルちゃんや渚さんはお手伝いとかしてくれるんですか、まぁ正直俺が聞いて良いのか分かりませんが。」

光「多少ね、両方共今日は例外で暇そうにしているみたいだけど本来お母さんは屋台の営業があるしガルナスは魔学校の陸上部だから2人共忙しいのよ。」


 言われてみればそうだ、渚は長年に渡り3国間で屋台を乗り回している上にガルナスの健脚を教育支援に力を入れている貝塚学園魔学校の教員達が見逃す訳が無い。


光「それにしてもやけに詮索してくるね、何かあったの?」


 やたらとプライベートに踏み込んで来る義弟の事を怪しく思った光、確かにここまでの質問攻めに合うとそう思うのも仕方が無い。


デルア「すみません、義姉さんの事が心配になっちゃいまして。ただ無理をして欲しくは無いなと思っただけなんですよ、お気になさらないで下さい(余計言い辛くなっちゃったよ)。」

光「そう?だったら良いのよ、こちらこそ気を遣わせてごめんなさいね。でも大丈夫、元の世界にいた頃に比べたら全然無理なんかしてないから。」


 義弟を安心させたくて言ったつもりだったがこれに関して決して黙ってはおけない人物がタイミング悪く『察知』を使用した様だ、喧嘩にならなきゃ良いけど。


一(念話)「光ちゃん、それだと俺が無理させてたって言ってる様な物じゃないか。」


 そう、元の世界にいた頃の光の元上司で叔父の一 一秀(にのまえ かずひで)だ。


光(念話)「叔父さん、聞こえていたの?」

一(念話)「偶々だよ、今日は2号車が出ていないみたいだから何か知らないかと思って聞こうと様子を伺っていたんだ。それにしても俺は光ちゃんに無理をさせたつもりは無かったんだけどな、何かごめんよ?」

光(念話)「気にしてないって、それに営業回りを終えた私達の為にお茶を淹れてくれる上司なんて叔父さんくらいしかいなかったもん。感謝はすれど文句なんか言える訳無いよ。」

一(念話)「だったら良いんだけどね、それで渚さんはどうしているんだい?」

光(念話)「また屋台(クラッチ)を壊しちゃったみたいで出せないって言ってんのよ、それで私の畑で収穫の手伝いを・・・、って!!お母さん、何やってんのよ!!」

渚(念話)「いや、お腹空いちゃってね。」

光(念話)「だからって収穫した胡瓜を全部食べる事無いじゃない、それで冷やし中華を作るんじゃ無かったの?」

渚(念話)「忘れていたよ、あたしったらおっちょこちょいだからね。」

光(念話)「自分で言わないの、それに自覚があるなら直そうとしなきゃ。」


 どうやらこれに関しては母と娘の間で性格が正反対になっている様だ、よっぽど父親の阿久津がしっかり者だった事が伺える。


光(念話)「まぁ良いけど、はぁ~・・・。」


-278 本心(好き)-


 元黒竜将軍がどう考えても渚や光からの遺伝が理由と言えるガルナスの食欲や性格に諦めの表情を見せる一方で「暴徒の鱗 ビル下店」ではオーナーが相も変わらず咀嚼を続けていたが、明らかに不自然な点が1つあった。しかし、従業員の過去や事情を全て知り尽くしている訳ではないので飽くまで自然な形を取って質問してみる事に。


好美「ねぇ、1つ聞いて良い?」

ピューア「あんたね、子供じゃ無いんだから食べるか喋るかどちらかにしなさいよ。」


相も変わらず従業員に呆れた表情をさせる好美、本当にどうしてオーナーとしてやっていけているのかが不思議で仕方が無い。

そんなオーナーが数秒かけて口に入れていた物を咀嚼して飲み込んだのを確認したナイトマネージャーはグラスに水を注ぎながら質問を聞き出す事に、それにしてもどうして未だに帰らなくても平気なのだろうか(俺だったら即座に帰りたくなるのに)。


ピューア「それで?私達に何を聞こうとした訳?」

好美「イャンとピューアってさ、過去に一緒に仕事をしていた事があるの?」

イャンダ「いや、全然。」

ピューア「寧ろあの時が初めましてだよね、本当に緊張したのもそうだけどけどイャンのお陰で調理がしやすかった事を覚えているのよね。」

イャンダ「別に俺は何もしていないよ、それで・・・、それがどうしたの?」


 好美は先程から2人の様子をずっと見ていた、確かに最近守が朝早くに仕事へと向かう事は本当だったが実はこの時間帯に食事をしていたのはこの為でもあったのだ。


好美「いやね、個人的に思っただけなんだけど2人って働いている時間帯が全く逆なのにどうしてそんなに息がピッタリなのかなと思ってね。」

イャンダ「別に特に理由なんて無いよね、と言うかピューちゃんには無理させて申し訳ないと思っていながら余計だよ。」

ピューア「それに関しては別に気にしないでって言ってんじゃん、私自身は「好きでしている」だけだし。」


 先程にもあったがピューアの放ったこの「好きでしている」という言葉、好美が1番怪しいと思っていたのはこれだった。先程もそうだったがどうして顔を赤らめながらだったのだろうか、普通に「仕事が好きだから」と言うのならこんな事にはならないはずだ。まさか・・・、な・・・。


好美「ねぇピューア、お水ばかりで飽きて来ちゃったから奥の部屋でお茶貰っても良い?」

ピューア「何よ、あんたがやれって言ったからこの時間帯はドリンクバーを無料開放しているんでしょ、自分で取りに行けば良いじゃ無いの。」


 朝の時間帯は朝食メニューを中心とした提供を行っているのだが通勤通学などの理由でどうしても飲食店を利用する客は少ない、そこで少しでも気軽に利用してもらおうとソフトドリンクのドリンクバーを無料開放していた、先程ニクシーが言った通りこれは好美の提案であった。


好美「良いから。」

ピューア「まぁ、そう言うなら良いけど。」


 少し重めの雰囲気を醸し出してナイトマネージャーを呼び出したオーナー、只事ではなさそうな空気を感じ取ったピューアは致し方なくついて行く事に。


ピューア「どうしたのよ、珍しくマジな顔しちゃって。」

好美「マジな顔していたのはピューアの方でしょ、さっきから分かってたよ。あんた、イャンの事好きでしょ。」

ピューア「そんな事・・・、無いわよ・・・。」

好美「ほら、またその顔した。何処をどう見ても恋する女の顔をしているじゃない。私には分かるんだから。」


 そう、先程からピューアが「好き」と言っていたのは仕事ではなくイャンダの事だったのだ。そりゃあ顔が赤くなる訳だ。


好美「ねぇ、イャンダに自分の気持ちを言わなくても良いの?」

ピューア「駄目よ、私達人魚族は同じ種族の者同士で結婚するっていうのが昔からの習わしなんだから。」

好美「それってさ、前に聞いたけど別にそうしなきゃいけないって訳じゃ無いし恋愛って自由であるべきだと私は思うけどな。その為にこの店は従業員同士の恋愛を禁止にしていないもん。」


 好美の言葉には説得力があった、しかし本当に昔からの習わしが理由なのだろうか。


-279 人魚も人も-


 双方の意見は確かに意表を突いていた気がする、しかし1番大切なのはそこではない。誰もが聞いてもそう思うだろう、最低でも俺はそうだった。


ピューア「でも無理よ、もうすぐイャンはここからいなくなっちゃうじゃない。イャンには・・・、気持ちを楽にして新しい店舗に行って欲しいのよ。」


 ニクシーの言葉に好美は多少の抵抗感を覚えていた、この抵抗感が本心からの言葉では無い事は明らかだという事を表している気がしたのは俺だけだろうか。


好美「本当にそう思ってる?ピューアには悪いけど長年一緒に働いているから私には分かるんだよ、怒らないから本当の気持ちを教えてくれない?」


 好美が優しく話しかけるとナイトマネージャーは涙ながらに震えだした、きっとピューアの本心と共に隠れていた「女」の部分が表に出て来たと思われる。と言うかこの場面に俺はいるべきでは無い様な、何か参ったな・・・。


好美「馬鹿ね、そんな事言いながらも結局は覗き見るんでしょ。」


 すみません、一応作者なので許して下さい。それで?そちらにいらっしゃる人魚様の本音は如何なんですか?


好美「分かったわよ、女を急かすもんじゃ無いの。嫌われるよ?」


 すんません、ただ俺は話を進行させたかっただけなのでお許し頂ければと思うのですが。


好美「はいはい・・・、馬鹿な作者がごめんね。何か持って来るからゆっくりしてて?」


 ドリンクバーの方向へと向かいお茶を片手に戻って来た好美、やはりこう言った話は女同士でするのが1番だという事なのだろうか。


ピューア「ありがとう、少し落ち着いたわ。」

好美「良かった、そっちのタイミングで話してくれたら良いからね。私は待っているつもりだから。」


 その時の好美はオーナーとしての顔では無く、いち友人としての顔をしていた。この良い雰囲気が働きやすい環境を作っているのだろう、そんな中でピューアはやっと重い口を開きだした。


ピューア「やっぱりあんたには嘘をつけないね、好美ちゃんが察した通り私も一緒に行きたいよ。好きな人と一緒にいたいのは誰だってそうでしょ、好美ちゃんにとって守君がそうなら私にとってはイャンなの。何を捨てても私はイャンと一緒にいたい。」

好美「そうか・・・、じゃあちょっと待ってね・・・。」


 それから数分の間目を閉じて全く動かなかった好美、何処からどう見ても不自然だとしか言えない。


ピューア「何やってんのよ、さっきから何も言わないで。」

好美「ごめんごめん、悪かった。あのね、ピューアが良かったらなんだけどイャンと一緒に行けば?」

ピューア「私は一緒に行きたいよ、でもそんなの勝手に決めても良い訳?」


 ニクシーのこの言葉を待っていたのか、突如何処かに『念話』を飛ばした好美。


好美(念話)「シューゴさんも勿論良いですよね、イャンダと同時に人事異動を発令するんでしょ?」

シューゴ(念話)「もう好美ちゃんはいつも独断で何もかも決めようとするんだから、でも今回は私に言ってくれたから良しとしますかね。えっと・・・、ピューアさんが良かったらなんですけど新店でイャンダさんの事を支えてあげて下さいますか?」


 そう、好美が先程『念話』を飛ばしたのは屋台の1号車を経営しているシューゴだった。


ピューア(念話)「私は・・・、私は・・・。」

好美(念話)「ピューア、自分に正直になって良いんだよ?」


 好美の言葉が何よりも嬉しかったピューア、どうやらニクシーの決意は固まった様だ。


ピューア(念話)「私は・・・、イャンと一緒に行きたいです!!」

シューゴ(念話)「分かりました、でもナイトマネージャーの方は大丈夫なんですか?」

好美(念話)「あ・・・、忘れてた・・・。」


-280 後任と「ババァ」-


 ピューアを新店舗へと異動させる事に際してまず初めに最も考えなければならない事を忘れていた好美、正直いち店舗のオーナーとして過去にも様々な決断をして来たと思われるが将来に関わる事なのでしっかりと状況を見つめ直してから発言すべきだと思われたが今はもう後の祭り。一先ずシューゴが足らなくなった時の足しにする為に醤油ダレの仕込みに入ると申し出たので好美は一旦『念話』を切る事に、ただ「暴徒の鱗」全体の人事を任されている者としては後ほど吉報を知らせに連絡してくれると信じたい様だが・・・。


ピューア「好美ちゃん、私は別に構わないんだけどシューゴさんが言った通り私が抜けた後のナイトマネージャーはどうする訳?まさかと思うけどあんたがする訳じゃ無いよね?」

好美「流石に無理だよ、私だって週3だけど王城で夜勤をしているもん。」

ピューア「本当にあんたね・・・、前から聞こうと思っていたけどどれだけ稼ぐつもり?」


 転生者特典で得た1京円もまだ十分に残っているはずなのに未だに金銭欲に塗れている好美、何となく怖くなってきたが今はそれ所では無い。

 それから数秒程考え込んだ(?)好美はこの世界におけるビジネスの先輩へと相談をしてみる事に、以前から気になっていることがあったのでそれも兼ねてだ。


好美「う~ん・・・、何も思い浮かばないからあの人に聞いてみて良い?」

ピューア「良いけど、「あの人」って?」

好美「ピューアも知っている人だからすぐ分かるはずだよ。(念話)結愛、ちょっと良い?」

結愛(念話)「おーう、別に構わないけどちょっと待ってく・・・、ああああああああ!!」


 どうやら結愛が社長室に大量の私物を持ち込んでいた事を見兼ねた光明が率先して大掃除を始めたらしいが、その際に過去数年分を纏めた書類入れの棚が崩れ去り雪崩が起こってしまった様だ。


好美(念話)「大丈夫な訳?ネクロマンサーでも苦戦する事ってあるのね。」

結愛(念話)「俺はガキの頃から掃除が苦手なんだよ、ネクロマンサーとか関係なくな・・・、ってああああああ!!」


 今度は光明が結愛の隠れた趣味の1つであるラジコンを捨てようとしたので焦ってしまった様だ、まるでただの子供にしか見えないこいつが本当に社長とは・・・。

 数分後、ある程度の片づけを済ませた結愛は改めて好美に『念話』を送る事に。


結愛(念話)「悪い、待たせたな。それで、どうしたってんだよ?」

好美(念話)「実はね・・・。」


 ピューアに代わるナイトマネージャーにピッタリの人物はいないかと聞いては見たが、この世界にある貝塚財閥には人材派遣を専門とした支社が無かった。ただ、「ナイト」と聞いた結愛はある人物について思い出していた。


結愛(念話)「そう言えばさ、俺の兄貴がそっちでバイトしているだろ?そろそろ正社員としてもしっかりと働ける人材になって来たと思うんだがどうだ?」


 巨大財閥の社長が思い出したのは調理師免許を取得していたシスコンの兄・海斗の事だった、しかし海斗にはもう既に決まった将来があった様な気がする好美。


好美(念話)「イャンやピューアも言ってたけど、確かに調理の腕はピカ一だったし接客の技術も申し分ないみたいだよ。でも確か海斗さんって魔獣保護養育施設でナイトマネージャーをするって話じゃ無かったの?」


 最初にバイトの1人として海斗を任された好美はいつかきっと結愛がそろそろ兄を戻して欲しいと言ってくるのではないかと思っていた、しかしこの流れだと話が変わってきているがどう言う事なのだろうか。


結愛(念話)「確かに元々はそうする予定だったんだけどよ、その施設長をやってるババァが「海斗にはまだ外で社会について勉強させるべきなのでは」と言って来てんだ。それにそこのナイトマネージャーになる人物は既に見つけてあるから今度紹介するってよ。」

好美(念話)「結愛、私の方は助かるから別に良いんだけど今言った人って確か身内の人じゃ無かったの?「ババァ」なんて言って大丈夫?」

結愛(念話)「大丈夫だよ、こんな会話聞いてねぇって。」

女性(念話)「誰が「ババァ」だって?!」

好美(念話)「だ・・・、誰?!」


 好美は突然脳内に流れ込んで来た声に驚きを隠せない好美、それにしても相も変わらず「ババァ」って言葉にすぐ反応する人だなぁ・・・。


結愛(念話)「お、叔母様、とんでもないですよ。高田馬場と間違えたのでは?」

美玖(念話)「何言ってんだい、ここは異世界だよ?何で東京の地名が出るんだい。」

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