7. 異世界ほのぼの日記3 216~220


-216 慌てる社長と冷静な犯人-


 転生者達はハイラのいる所長室にいたので無事ではあったのだが、部屋にあった大きな窓から自分達が通って来た城門の悲惨な状況を見て開いた口が塞がらなかった。それと同時に絶対にこの世界で罪を犯さない(どこでも犯すなっての)、そして目の前のエルフを決して敵に回さないと心に誓ったのであった。


好美「ねぇ・・・、まさかと思うけどドーラの魔力も相当な物だったのかな。」

守「確かに、こんな強力な魔法を使っている所なんて見た事もないし普段はただの酒飲みのイメージしか無いから魔力云々を言って良いのかも分からないな。」


 唖然としている恋人達だが何か忘れてはいないだろうか、よく考えてみれば結愛が先程無線を飛ばしてから時間はさほど経っていない様な気がする。


結愛「おい、それよりヤベェんじゃねぇのか?」


 とんでもない事態につい「大人モード」を忘れてしまった結愛、誰だって素(?)に戻るのが自然の流れなのかも知れない。


好美「何がヤバいってのよ。」


 完全に大事な事を忘れてしまっている好美。


結愛「光明だよ!!確か俺が無線を飛ばしてからボートの払い戻しを行ってすぐにこっちに『瞬間移動』してきたはずだから下手すれば巻き込まれているかも知れねぇじゃねぇか。」

守「ホンマや!!」


 気が動転していたのか、つい似非関西弁が出てしまった守・・・、って大切な友人の頃を忘れたらアカンやろ!!


好美「何よ、あんたも完全に忘れてた癖に。」


 お・・・、俺は俺なりに現状を皆さんにお伝えしないと・・・、って俺の事は良いんだよ!!光明を探しに行かなくても良いのか?!


結愛「そうだよ、俺の大事な旦那の事を探さないと。えっと・・・、こういう時はどうすりゃ良いんだ・・・、確か『探知』で・・・、って俺今能力使えないんだった!!畜生、こんな時に限ってどうなってんだよ!!好美達も能力を封じられているのにどうして光明だけは無事なんだよ(※恋人達はほぼ無事なのですが結愛の心中では封印されている事になっているのでもう少し様子を見てみる事にします、一種の悪戯心という奴ですよ)!!」


 結愛が頭を悩ませていると、所長室の大きなドアが音を立てながらゆっくりと開き始めた。いの一番にその音を聞きつけたハイラが小走りで迎えに行ってドアを開けた瞬間、大きな音を立てて男性が倒れ込んで来た。正体は勿論、守が完全に忘れてしまっていた「アイツ」である。


結愛「み・・・、光明!!」

ハイラ「お・・・、お知り合いですか?!物凄くボロボロですけど・・・!!」


 強制収容所に入ってすぐの場所でハイラの魔法の被害を受けた光明は顔の所々から血を流していた、つい最近新調したスーツも穴だらけとなっていた。


守「光明・・・、無事か?!」


 何事も無かったかの様に対応する守、どうやら光明は目の前の友人が自分の事を忘れていた事に気付いていない様だ。まぁ、同じ場所にいた訳ではないので当然と言っても良いのだが。


ハイラ「兎に角、手当をしましょう!!結愛さん、恐れ入りますが冷蔵庫の上にある救急箱を取って頂けませんか?!」


 こちらにも何事も無かったかの様に振舞う者が約1名、ただそこにいた全員が「あんたの所為だろうが」とツッコミを入れようとはしなかった。きっと自分達の身を案じての行動だったのだろう。


結愛「一先ず回復を・・・、って俺今能力を使えないんだった!!どうすりゃ良いんだよ!!」


 相も変わらず結愛が頭を抱える隣で冷静だった好美が光明に『状態異常無効』を『付与』したので事態はどうにか治まった、しかし社長の心中には問題が残っていた様で・・・。


結愛「おい光明!!このスーツどうすんだよ!!それと払戻金は無事なんだろうな!!」


-217 捜査を始めたいんだけど-


 好美により『付与』された『状態異常無効』とハイラによる懸命な治療により光明の傷はみるみるうちに癒えていった、その場にいた全員が所長の魔力の強大さを知っていたが故に皆「あんたが原因だろうが」とツッコミを入れようとはしなかったという(と言うか俺も出来る気がしない)。

 そんな中で完治した(と言って良いのか分からない)光明を含めた転生者達は早速事件解決に向けて捜査を開始する事にした、どうやら「最悪の高校時代」等で得た経験から作戦の実行はリンガルス警部が驚く程に早かったらしい。一先ず結愛と守、そして光明はハイラの案内で義弘が捕まっていたという牢獄へと向かった。貝塚財閥前社長のいた牢獄は強制収容所内に蜘蛛の巣の様に巡らされた廊下の一番奥にある海沿いの部屋だった、ただそこには外から鍵をかけておける出入口のドアと日光を取り入れる用の窓があったのだがそれには格子も付けられていた上に景色が全く見えない程に小さかったのでとてもでは無いが人が通れる様なスペースがあったとは言えなかった。隅っこに水洗式の便所があった部屋で真ん中へと向けて伸びていた鎖の先には足枷が付いていて当時の義弘の様子が手に取る様に伺えた。

 リンガルス警部に依頼されたハイラやムクル、そしてヂラーク達所員により義弘が脱獄した当時のままを維持されたその部屋で唯一変わった事と言うとレイト等の貝塚警備の者達による新しいカメラが設置されていた位かと思われた。


結愛「所長さん、あれが当社による監視カメラですか?」


 改めて確認をした結愛、もしかしたら別の警備会社も同型のカメラを使用していた可能性があったからだ。貝塚警備の使用している監視カメラは貝塚財閥が独自に開発した物だったが見た目は他社の物とは変わらなかったので絶対と言っても良い位に確認を怠らない様にしていた、義弘により失われた信用を少しでも取り戻す為に必死だったからだ。


ハイラ「はい勿論、私達のいる目の前で作業を行って頂いたので確認済みです。」

結愛「くそ・・・、いや父が脱獄した時もカメラ位置と角度はこうだったんですか?」


 結愛本人は気が付いていなかったと思われるが少しだけ素が出始めていたので守と好美、そしてリンガルスは物凄く焦っていた。3人の様子から隣にいた光明は先程の巨大な球体がハイラの魔法によるものだという事を知って同様に焦り始めた、先程の事件の再来は正直言って勘弁して欲しい。


ハイラ「結愛さん、今「くそ」って言いました?」


 今は何よりも捜査を優先させたいがハイラがこのまま泣き出してしまうと捜査が難しくなってしまうので所長を宥める事に必死になっていた結愛、どうするつもりなのだろうか。


結愛「ハ・・・、ハイラさん・・・。冗談ですよ、ソフトキャンディー買ってあげますから許して下さいって。」


 副所長と同じ手を使おうとする結愛、しかし先程の様にいかない事は目に見えていた。


ハイラ「そんなにソフトキャンディーばっかりいらないです。」


 もう既に2個以上手に入る手筈になっているので、所長は正直他のお菓子が欲しかったのだがソフトキャンディー以外の好みを知らなかった結愛は貝塚財閥の社長として出来る限りの手を尽くす為にある思いつきをした。


結愛「分かりました、このソフトキャンディーを製造する工場に友人がいますので見学させて貰える様に聞いてみますよ。」


 嘘だ、たとえ結愛と言えどもお菓子の製造工場に友人がいるとは限らない上にこれは後で分かる事なのだが子供達に人気のこのソフトキャンディーの製法は門外不出となっていたので見学させて貰えるかどうかは不明だ。


ハイラ「約束です、嘘ついたら即座にお家を爆発させます。」


 結愛は先程城門で起きた爆発事件を思い出してぞっとした、結愛の家(つまりバルファイ王国にある貝塚財閥本社)が爆発すると国を巻き込む大騒動だと言っても過言では無い。


結愛「わ・・・、分かりましたって!!事件が解決したら製造工場に問い合わせてみますから許して下さいって!!」


 社長の言葉により所長の怒りは静まった、一先ず本格的な捜査を始めて行きたいが終わった後の事を想像したく無い事は変わらない。


結愛「取り敢えず1つ教えて頂けますかね、あのカメラの位置等は当時と同じですか?」

ハイラ「はい、寸分違わず以前と同じにして頂いています。何なら証拠写真を見ますか?」


-218 確実な捜査の為に-


 目視可能な証拠を提出する為に所長はその場を離れる事にした、ただ転生者達が今いる牢獄から所長室までの距離を考えるとあまり徒歩での移動を勧めたくは無いと思っていた。本来の自分達ならすぐさま『瞬間移動』で向かうのだがここにいるメンバーの中で最も強力な魔力を持つネクロマンサーの結愛でさえ能力を上手く使えないので今は地道な捜査を行うか唯一(?)無事な光明を頼るかの2択であった、ただ光明には可能な限り監視カメラの解析に集中して欲しいので前者の方法を取るしかないかもなと頭を抱えるばかりであった。しかし今よく考えれば魔力を持ってるのって転生者達だけじゃ無かったよな、最も頼りがいのあるリンガルス入試センター長がいるんだぞ。


結愛「別に忘れてた訳じゃねぇよ、ずっと隣にいたんだからな。」


 じゃあなんで時折その場にいない様な素振りを見せてたんだよ、誰だって疎外感を感じたら寂しくなるもんだろうがよ。


結愛「そうか・・・、言ってなかったな・・・。俺もつい最近知った事なんだけどリンガルスさんは偶に1人で色々と考えたい時があるらしいんだ、その時は出来るだけ声を掛けない様にしてたんだよ。今回も事件の解決への切り口が見いだせるかもしれんから邪魔したら悪いと思ってな。」


 そう言う事か、本人に対して気を遣っていたって事なんだな。それは失敬失敬。


結愛「それとな、今はバルファイ警察の警部として来てもらってんだよ。あと「入試センター長」じゃなくて「入学センター長」な、お前が間違ってどうすんだよ!!」


 仕方ねぇだろ、偶にしか出てこないキャラなんだから忘れがちになっちゃうんだよ。


結愛「いや出てる時は結構ガッツリ出てるから、・・・って今はそんなのどうでも良いんだよ。ハイラに『瞬間移動』を『付与』した方が良いんじゃねぇのか?」


 確かに言える事だけどお前は今何も出来んだろ?だからリンガルス入学・・・、いや優秀なリンガルス警部に頼むんだろうが。全くキリがねぇな、取り敢えず話を進めるぞ。


ハイラ「あの・・・、以前の監視カメラの写真持って来ましたけど。」


 あらま、俺と結愛が話し込んでいる間に徒歩で取りに行っちゃったみたいだな。何か色々と・・・、すんません。


守「今は別に良いじゃ無いか結愛、折角取りに行って下さったんだから。それより所長さんにお聞きしたい事があるんですが宜しいですか?」

ハイラ「私にですか?私で宜しければ何でもお答えいたしますが。」

守「大したことじゃないんですけどどうして以前の監視カメラの写真を撮影していたんですか?」

ハイラ「至って簡単な話ですよ、貝塚警備の方々に次の監視カメラを設置する際の参考になればと思いまして。画角とかが違うと色々と後から面倒じゃないですか、余計な死角が出来たりするんで。」


 以前にも同じ様な失敗をした事があったのだろうか、所長は監視カメラ設置にかなり真剣に取り組んでいた様だ。


光明「あの所長さん、俺からも1つお伺いしても?」

ハイラ「勿論です、あと別に私の事は「ハイラ」で構いませんから。」


 やたらと来客に対して腰が低いハイラ、きっと強制収容所内である事と強大過ぎる魔力を見せてしまった自分に対する緊張感を解して欲しいという気持ちからの工夫だったのだろう。


光明「ではハイラさん、俺の方からも質問して宜しいでしょうか。」


 まだ緊張が解れていないのか、就職面接や記者会見の様に話し出す光明。


光明「以前の監視カメラの映像は残っていますか?」

ハイラ「勿論です、ここの規則で過去5年分を保管する事になっていますので。念の為に音声付きで残す様にしています、それがどうされたんですか?」


 良い知らせだ、捜査を行うに当たって光明にとってこれ以上に嬉しいことは無い。


光明「今現在の映像と義弘が脱獄する直前の映像を見比べても宜しいでしょうか。」

ハイラ「構いませんが、そんな事をしてどうするんです?」

光明「何となく・・・、嫌な予感がするんですよ・・・。」


-219 夜勤明けの人物が握る重要な情報(?)-


 ハイラの案内で転生者達は一旦義弘のいた牢獄を離れて所長室から程近い所内の事務室へと向かった、事務室と言っても監視カメラの映像の確認等を行う事がメインなので至ってシンプルな作りとなっていた。後は牢獄を中心に各部屋の鍵が厳重に管理されている位の様だが大抵この部屋で仕事をしている所員は面会者の受け入れやモニターとのにらめっこをしている事が多いのでこれ位で十分なのだと言う、強いて言うなら水分補給の為の冷蔵庫がちょこんと置かれている様だ(ハイラは個人的に自分が淹れた紅茶を飲んで欲しい様なので納得いってないみたいだが)。

 全員が事務室に到着した頃、時刻は午前11:30になろうとしていた。ただその部屋に入った時、所長はある異変に気付いたので底にいた係員に声をかけてみる事にした。


ハイラ「おはようございます、かなり眠そうですが昨日は遅かったんですか?」

係員「ああ所長、おはようございます。自分は今日夜勤だったんで本当はもう帰れるんですが交代するはずだった早番の奴がなかなか来ないので引継ぎが出来ないので仕方なくここにいるんですよ。」

ハイラ「そうでしたか、確か出勤は22:00からでしたよね?それからずっとですか?」

係員「そうですね、一応1時間の休憩を挟みましたのでもうかれこれ残業が4時間以上になろうとしている所です。」

ハイラ「確か夜勤は2名で行っていたはずですけどもうお一方はどうされたんですか?」

係員「用事があるとかで先に帰りました、定時での上がりだったと思います。」

ハイラ「分かりました、今日はもう良いですので上がって下さい。お体は大丈夫ですか?」

係員「お心遣いありがとうございます。問題ありませんよ、次の出勤は明後日の遅番なので今夜はゆっくり寝れそうですから。ただ・・・、ここはどうされるんです?遅番の奴が来るまで誰もいない状態ですが。」

ハイラ「私が代わりに見ておきますからご心配なく。あ、そうだ・・・。」


 何かを思い出したかのように制服のポケットをごそごそし始めた所長、それを見て何か嫌な書類でも渡されるのかと思った係員は少し表情が硬くなっていた。まぁ、俺からすれば他にも理由があったと思うのだが。


ハイラ「どうしたんですか、ただこれをお渡ししようと思っただけですよ。」


 ハイラのポケットから出て来た物を見て係員は硬くなっていた表情を少し柔らかくした、よく見てみるとそこにあったのは「あの大好物」であった。


係員「ありがとうございます、丁度甘い物が欲しかったんですよ。でも良いんですか?いつも頂いてばかりで何処か悪い気がして来たんですが。」

ハイラ「良いんですよ、好きでやっている事ですから。私もこのソフトキャンディーが好きですし、個包装になっているので色んな方々シェア出来て楽しいじゃないですか。」


 どうやら所長が副所長にやたらとソフトキャンディーを要求していたのただ自分だけで楽しむ為では無くこの様な理由があった様だ、目の前のエルフが所長として所員達に慕われているのも納得がいく。

 転生者達と一緒に手を振りながら係員を見送ったハイラは改めて監視カメラの映像を管理する大型モニターの前に座り込んで所長含めた数人の所員しか知らない暗証番号を手元にあるキーボードで打ち込んだ、すると今現在の監視カメラの映像と日付上で義弘の脱獄が発覚する前日の映像が並んで映っていた。ただ何処からどう見ても義弘の姿は映っていない、ずっと女性の姿ばかりが映りこんでいた。


好美「ハイラさん、これ何処の映像なんですか?」


 モニターには目をくれずにずっとキーボードを凝視していたハイラは慌てた様に大型モニターを見た、一瞬にして顔を赤くした所長は慌ててキーボードでの入力をし直していた。


ハイラ「すみません、所内にある女性用のトレーニングジムのカメラでした。私本当は機械音痴なんで殆ど自分では操作しないんですよ。」

守「慌てなくても構いませんから・・・、ね?」


 優しい様な、それともただ圧を掛けられている様な気持ちにさせる言葉だったが今事務所にいる面子でこの機械を操作できるのはハイラだけなので本人を頼るしか無かったから仕方が無かった。改めて深呼吸をしたエルフは機械の操作を正確にやり直した、やはり一番大事なのは「落ち着く」事なのだろうか。

 モニター上に義弘のいた牢獄の映像が映し出されるとそこにいた全員は息を飲みながら凝視していた、過去の映像では中心で義弘が体育座りで刑を受けている様子が映し出されていたが何となく違和感があった。


結愛「なぁ光明、画面の「アイツ」全然動かなくね?」

守「奴がその場で長い間じっとしている様な性格だとは思えないし。」

光明「やっぱり2人もそう思ったか、どうやら俺の嫌な予感が当たったっぽいな・・・。」

好美「何よ3人だけで、私を仲間外れにしないでくれる?」


-220 社長と副社長の視点-


 以前設置されていた監視カメラの映像を眺めていた副社長はずっと親指の先を軽く噛んでいた、どうやら本人が先程から言っていた「嫌な予感」が本当に当たってしまった様だ。


光明「義弘め・・・、ずっと同じ映像が流れる様に監視カメラをいじくってやがったか。」


 妻が気付いた通りに画面の中にいた義弘が動かずにいた事も根拠として言えるのだが光明は別の視点からの根拠を見つけていた、一見単純な物だと思われるが久々に見た義弘の姿に震えが止まらなくなっていたので気付かなかった様だ。大企業の社長と言ってもやはり人間、小さな見落としも十分にあり得る。


結愛「死んだ様にずっと動いてないから俺も「まさか」と思っていたが光明もそう思うか?」

光明「ああ、それに端に映っている窓を見てくれるか?」

結愛「窓だって?!」


 結愛達は光明が指差した方向へと目線を動かした、それから数秒後・・・。


守「ん?!そ・・・、そうか!!」


 1人で何かに気付いた守の袖をぐっと掴みながら訳が分からなくなっている好美はせがむ様に彼氏が気付いた事を聞き出す事にした。


好美「何、何が「そうか!!」なの?」

守「ほら、映像に映っている時間帯表示を照らし合わせながら端に映る窓を見てみろよ。」


 恋人に言われた通りにする好美・・・、右下に表示されている時間帯表示は午後8時を示していたが窓の景色は変わらず牢獄全体も昼間の様に明るいままだった。


好美「あれ?このカメラって時間帯表示が壊れているのかな、ずっと昼間みたい。」

光明「そうなんだ、早送りだが正確に映っている時間帯表示はちゃんと動いているのにも関わらずずっと牢獄の中には日光が差し込んでいるんだ、この事から義弘がずっと同じ映像が録画されていく様にカメラ自体をいじくったという事が分かるんだよ。」


 光明の推理を聞いて結愛は少し違和感を感じていた、本当は嫌だったが元の世界にいた頃の父親の姿を少し思い出していた。


結愛「でもよ・・・、光明には悪いけど何となくそうとは思えないんだよ。」

光明「あくまで推理というか推測だから構わないよ、それよりどういう事か教えてくれないか?」

結愛「光明じゃあるまいし、義弘の奴がカメラをいじれると思えないんだが。」


 基本的に機械のセッティング等は黒服達を中心とした周囲の人間に任せっきりだったので機械に改造を施せるほどの技術を持っているとは思えなかったのだ、そこで光明は監視カメラ自体を直に見てみる事にした。


光明「ハイラさん、当社の機械に交換する前の監視カメラは保管されていますか?」

ハイラ「はい、所長室の奥にある隠し金庫の中で厳重に保管しています。」

光明「そこまでですか?ただのカメラですよ、少し大袈裟過ぎやしませんか?」


 光明の意見は分からなくもない、しかし「たかがカメラ」ではなく「されどカメラ」だった様だ。ハイラに大型モニターを元の映像に戻して貰った一同は一先ず事務所を離れて所長室へと戻る事にした、自室へと入った所長は部屋の隅で壁の一部を取り外して中から金庫を取り出した。ダイヤル式のロックで厳重に管理されている様に見受けられるのが一目瞭然であったのは言うまでもない、ただ問題が一つ。


好美「ハイラさん、いちいちメモを見ないと回せないんですか?長い間所長をされているんですよね?」


 確かにそうだ、先程の副所長の言葉から最低でも15年以上ここの所長を務めている事が分かっている。


ハイラ「私自身忘れやすい性格なんでメモを見ながらでないと安心して回せないんですよ、3回外したら大騒動になってしまいますので。」


 これはこれで大袈裟ではないかと思う一同、しかし全員の心中の察したのか後から所長室に入って来た副所長が横入りして簡単に説明した。


ムクル「ハイラさんに代わって私が説明致しましょう、その金庫なんですが3回ダイヤルを間違えてしまうと暫くの間鍵が開かなくなってしまう上にいじけて出て来なくなっちゃうんですよ。」

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