7. 異世界ほのぼの日記3 211~215


-211 先に言えよ-


 所長の願望を是非とも叶えたいと意気込んでいた転生者達は改めて事件解決への行動を始める事にした(俺個人的には既に始めていると思っていたが)、一先ず結愛は貝塚警備に委託される前の監視カメラの解析等を頼む為に本社にいると思われる光明に連絡を入れに所長室横の給湯室へと向かった。先程はハイラとの会話の流れで断念したがダイヤル式の固定電話をちゃんと使えるのだろうか、正直あまり心配はしていないが。


結愛「お前は所々失礼な奴だな、俺はこれでも社長だぞ!!」


 偉そうに講釈を垂れている様だが結愛が社長になれたのは誰のお陰なんだ、え?!


結愛「筆頭株主の・・・、おば様・・・、です・・・。」


 そうだろ?その「おば様」の息子の前で威張れる立場なのかよ、いくら同級生と言っても「親しき中にも礼儀あり」と言うだろうが。まぁ、守が別に良いなら話は別だが。・・・、ってあれ?噂をすれば影って奴か。


守「おいおい、何か聞こえて来たけど母ちゃんがどうしたってんだよ。」

結愛「いや別に構わねぇよ、悪かったな。」

守「そうか、なら良いんだが何かあったら言えよ?お前と俺の仲なんだから何も気にしなくても良いからな。」

結愛「すまねぇな、恩に着るぜ。」


 あれ?この空気もしかして・・・。


結愛「ほら見ろ、誰かさんと違って俺と守は長い付き合いなんだから問題ないんだよ。」


 よく言うぜ、俺がいなかったら2人の関係は皆無だったのに・・・。もう良いか、早く話を進めなきゃな・・・。

 結愛は改めて受話器を外してダイヤルを回し始めた、どうやらセンスは一人前な様で上手に動かしている様に思われたが・・・?


結愛「あれ?番号2つ目でもう呼び出し音が鳴るんだけどどうなってんだよ・・・。」


 すると大切な事を言い忘れていたハイラが給湯室へと入って来た、ただ時既に遅しだったらしく電話の向こうから女性の声が。


女性(電話)「もしもし?所長さん?あんた何回かけて来るんだい?次いたずら電話したらあんただけ今日のおかず抜きにするよ!!」


 電話の声が漏れていたのか慌てた様子で結愛から受話器を受け取って女性の応対する所長、見た目の様子から本人はかなり焦っていた様で・・・。


ハイラ「おばちゃんごめんなさい!!ボタン押し忘れていただけなんです!!もうしないんで今日のハンバーグは食べさせて下さい!!」


 どうやら外線に繋ぐ為のボタンが別にあった事をハイラが伝え忘れていたらしく、結愛は知らぬ間に収容所の係員が挙って通う食堂へと内線電話を繋いでいたらしい。


女性(内線)「そんなに慌てなくてもそんな事しないよ、それにハイラちゃんのハンバーグは特別にチーズ味にしているからおかず無しにする訳が無いじゃないか。」


 内線の向こうにいた女性はこの強制収容所で最も経歴が長い所員の1人でハイラの事を実の娘の様に可愛がっていた、そのお陰でこの女性の前でもハイラは常に素でいることが出来ているとの事。と言ってもさっきまで素が出ていたっぽいが今は気にしない方が良いのかも知れない。

 女性との会話を終えたハイラは一度電話の受話器を戻して結愛に改めて電話の使い方を説明した、所長が言うにはこの電話はこの強制収容所特有の物で受刑者による外部との接触を防ぐ為に普段は外線ボタンが隠されているとの事。


ハイラ「す・・・、すみません・・・。ちゃんと説明出来ていませんでした。」


 ハイラは辺りを見廻した、受刑者に外線ボタンの場所を知られない様にする為だ。


ハイラ「外線に繋ぐにはダイヤルを回す前にここのボタンを押さないといけないんですよ。」


 そう言うとハイラは元々受話器が置かれていた部分の真ん中の辺りにある小さなスペースを凹ませた、これで外線に繋がる様なので結愛は改めて本社の番号をダイヤルした。


結愛「これで大丈夫のはず・・・、あれ?光明の野郎・・・、話し中か?」


-212 新兵器と護身用兵器-


 社長夫妻がこの世界に転生してから今に至るまでこの様な事は無かった、携帯電話若しくは固定電話関係なく光明は何があっても必ず結愛からの電話に出る様にしていた。ハッキリ言ってこんな事は初めてだ、下手すれば線状降水帯レベルの大雨でも降るのではないか・・・?

 一旦所長室に戻った結愛は所長が淹れてくれた紅茶を飲みつつ少し時間を置いて再度電話をかける事にした、個人的にはオレンジジュース(若しくはコーラ)が飲みたかったが決して今は言ってはいけないタイミングだ(と言うより正直に言ってしまえば我儘キャラが根付いてしまうのでそれは困りものになってしまう)。


結愛「光明の奴・・・、いつまで話してるつもりなんだよ。まさか俺という可愛い(?)妻がいるというのに別の女と遊んでいる訳じゃないよな・・・。」


 「最悪の高校時代」から一途に結愛の事を想っていた光明に限ってその様な事は無いと思うのだが、ただ最近の2人は会う度に喧嘩ばかりしているイメージがあったのでもしかしたら・・・。


結愛「てめぇな、この前だって家であれやこれやをしたというのに馬鹿な事を言ってんじゃねえぞ。それとさっきから気になってたが俺の台詞に何で「?(はてな)」が付いてんだよ、何処からどう見ても可愛い女子だろうがよ!!」


 結愛、はっきり言わせて貰うけど「?」でも我慢した方なんだぞ。それとこれは個人的なイメージだけど、可愛い女子はそんな乱暴な口調はしないの!!


結愛「こんなキャラにしたのは誰なんだよ!!俺は生まれてから(そして死んでから)ずっとこれでいるんだから今更キャラを変えろだなんて言われても無理な相談だぞ!!」


 そっすか・・・、だったらそれを貫いて下さいよ・・・。俺なんかと違ってご結婚もされているんでもう何も言わないでおいて話を進める事にします・・・。

 結愛は給湯室の固定電話での連絡を諦めて自分の持っている携帯電話を使用する事にした、でも確かここって電波が通って無いはずだからどうするつもりなんだろうか。


結愛「はぁ~・・・、このタイミングであれを使う事になるとはな・・・。『念話』が使えないなんてな、これ以上不便な事なんてないぜ。」


 社長の一言はかなり大きな独り言だったので隣にいた守達に丸聞こえだった、まさかと思うがこのタイミングで会社の宣伝をしようと考えてはいないか?


結愛「何だよ、流石に俺だって空気をちゃんと読むわ。緊急事態が起きてるってのに宣伝なんてする馬鹿が何処にいるってんだよ。」

守「それより結愛、「あれ」って何なんだよ。気になるじゃねぇか。」


 確かにどうしても周りが気になってしまう独り言の言い方だな、「あれ」が何なのか聞かせてもらおうか。


結愛「そうだよな、悪かった。実は以前『作成』で作った人工衛星を打ち上げたんだけど用途を全く考えずにその場のノリで作ったもんだからちゃんと使えるかどうかを確かめて無いんだよ、一応テストとして俺と光明専用の無線機の電波が出る様にしてんだけどずっとほったらかしだったから正常に作動するかどうか。」

好美「物は試しって言うじゃない、一先ず光明さんに呼びかけてみたら?」

結愛「分かったよ・・・、ちょっと待ってろ・・・。」


 結愛は『アイテムボックス』からバブル時代に流行った肩掛け式の電話を取り出した、貝塚財閥の製品(?)にしては偉く古い物が出て来た気がしたのは俺だけだろうか。


結愛「あ、間違えた。これは今度義弘に会った時使う用としてじいちゃんの物をこっそりパクったやつだ。」

守「おいおい、会長ってそんな時代遅れの物を使ってたのか?」

結愛「いや、今(結愛が死ぬ直前)は俺達と同じ様にスマホを使っているんだぜ。これは俺がガキの時にじいちゃんに貰った思い出の品ってやつなんだ。」

好美「でもその「思い出の品」で何をするつもりだったの・・・?」

結愛「いや・・・、えっと・・・、その・・・。」


 俺は個人的に結愛が何をするつもりだったのか想像したくなかったが、きっと真っ赤な飛沫が飛び散っている悲惨な光景になりそうな・・・。


結愛「使わない事を祈っているがな、飽くまで「護身用」って奴だよ。」


 結愛本人は「護身用」と言ってはいるが持って来る物はもう少し考えるべきだと思うのだが、と言うか勝手に御遺族の物をパクって来んな!!


-213 苦労する女-


 結愛は対父親用の凶器(?)を『アイテムボックス』に入れた後、十数秒程ゴソゴソしてやっと元々取り出そうとしていた無線機を取り出した。恋人達は手のひらサイズの物を想像していたが実際に出て来たのは昔から軍隊などが使って良そうなイメージのあるとても大きな物だった、ただ好美が気になっていたのは別の事の様で・・・。


好美「結愛、結構長い時間探してたみたいだけど定期的に『アイテムボックス』の中を整理していない訳?」

結愛「昔からなんだけど毎日仕事が立て込んでてそんな間なんてねぇよ。」


 本人の言葉を真っ向から否定するつもりはないが結愛って気が付けば酒を呑んでるイメージがあるのは俺だけだろうか。社長と言うよりはただの酒飲みの女と呼べるくらいに、ただ今は何も言わない方が良いのかも知れない。


結愛「おい、聞こえてんぞ。前々から言おうと思っていたがちょこちょこお前って俺に対して失礼だよな、改めて言うけど俺は社長だぞ(シャキーン)。」


 はいはい、すんません。ただ今は取り敢えずご主人に連絡するのが先決なんじゃないですか(と言うか、何だよ今の「シャキーン」はよ)?


結愛「全く・・・、後で覚えてやがれ・・・。」


 軽く舌打ちしながら先程取り出した無線機を操作し始めた結愛、光明が妻を気遣って使いやすいシンプルな作りにしてあったのですぐに連絡を繋げる事が出来た様だ。


結愛「光明ー、光明聞こえっかー?」


 妻の声に反応したのか、それとも口調に反応したのか少し呆れ気味で返答をする光明。


光明(無線)「お前な、これは一応ビジネスで使う物なんだからもう少し考えて声をかけろよな。」

結愛「それ所じゃねぇよ、くそ親父が脱獄したのをお前も知っているだろ?」

光明(無線)「勿論だ、テレビで大々的に報道されてたからな。それがどうしたってんだよ。」

結愛「てめぇ「それがどうした」ってか、それでも副社長かよ。一応貝塚財閥としては迷惑をかけた責任を取らなきゃって思わねぇのかよ。」


 結愛の叱責は社長としてだろうか、それとも妻、いや娘としてだろうか。ただ義弘が起こした脱獄事件と言っても既に親子の縁を切った結愛を含めた会社には関係の無い事だと思うのだが、やはり社長の心中にはまだ父に対する恨みが残っている様だ。


光明(無線)「確かにお前の言ってる事は納得いくけど俺達に何が出来るってんだよ、ネルパオン強制収容所での事だから所内の人達で何とかしてもらえば良いんじゃ無いのか?」

結愛「確かに光明の意見はごもっともだよ、ただその所内の人達が頭を抱えている上に事件後から監視カメラをうちの警備に委託してくれてるから一緒に解決してやりたいと思ってよ。」

光明(無線)「お前は相変わらずだな、住民の方々の為ならどんな事でもやるのは。それで?その正義の味方の結愛社長が俺に何の用だ?」

結愛「取り敢えずこっちに来てくれるか、今の俺とは違ってお前は『探知』や『瞬間移動』も出来るだろ?察しの通り俺は今『念話』も使えねぇから一先ず光明が来てくれないと困るんだよ。」

光明(無線)「そこまで必死になった結愛に頼りにされたのはいつ振りだっけな、分かったからもう少しだけ待っててくれ。」

結愛「おいおい、急ぎなんだぞ。何をやってんだよ。」


 すると光明が無線機を切り忘れたのか周囲の音が鮮明に聞こえ始めた、よく考えればそこにいる全員が聞き慣れた電子音声が・・・。


電子音声(無線)「ネフェテルサ第6レースの払い戻しを開始しました、ネフェテルサ第6レースの結果と払い戻し金額をお知らせいたします。2連単④-⑤ 3680円、3連単④-⑤-② 43800円・・・。」


 電子音声を聞いて結愛は怒り心頭となっていた、自分が必死に働いている時になんて事をしているんだと言わんばかりに。


結愛「てめぇ・・・、光明!!」


 そりゃ誰だってキレるわな、旦那だけこっそり遊びに行っているんだもん。


結愛「今のレース取ったのか?!今夜の飯はどうなるか言いやがれ!!」

リンガルス「社長、気になっているのそこですか・・・。」


-214 ババアだって?-


 バルファイ王国にある競艇場でネフェテルサ第6レースの場外販売で万舟券を取った光明はウハウハになりながら妻の待つネルパオン強制収容所へと向かう事にした、結愛とは違い通常通り能力が使えるので強制収容所のある孤島までは『瞬間移動』ですぐに行けた。俺としてはだったら結愛のいる所長室へと直接向かえば良いのでは無いかと思ってしまうが行きたくても行けない理由が光明にはあった様だ、それも超個人的な。


光明「こんなニヤケついた顔で結愛の場所へと行ける訳が無いよな、あんなに切羽詰まった感じで連絡して来てたからただ事じゃ無いって事が分かるから少し気を引き締めるために歩いて向かおうと思うんだ。」


 光明は収容所の前にいる係員・ヂラークに声を掛けた、ただ光明自身がここに来るのは初めてだった様で・・・。


光明「すみません、うちの妻がこちらにお邪魔していると思うのですが所長室はどちらでしょうか?」

ヂラーク「あの・・・、恐れ入りますがうちの所長は205歳で未だに独身なんですが・・・。」


 どうやらヂラークは目の前にいるスーツ姿の男性がハイラの旦那(?)だと勘違いしている様だ、ただ係員の発言に光明が黙っている訳がなかった。


光明「205歳ですって?!俺がそんなババアの旦那に見えますかね?!俺も妻も20代なんですけど!!」


 覚えて下さっている方がいれば嬉しいのだがハイラはアーク・エルフ、つまり長命種なので205歳と言っても見た目はババアからは程遠い姿だ。


ヂラーク「ババアだなんて本人が聞いたら大泣きしますよ、所長に話を通してから貴方を所長室にご案内致しますが絶対にそんな事言わないで下さいね。」

光明「ちょっと待って下さい、205年も生きている良い大人過ぎる人がおかしいでしょ。大体、200年も生きる人間が何処にいるって言うんですか!!」

ヂラーク「私だってそんな人がいたらビックリしますよ・・・、ってあれ?ちょっと待って頂けます?」


 ここでやっと話が食い違っている事に気付いたヂラークは光明の耳を確認した、所長の様に長くはない。どちらかと言うと自分の物に近い様な・・・。


ヂラーク「あの・・・、貴方はエルフやドワーフなのではなく?」

光明「何を言っているんですか、何処からどう見てもただの人間でしょ。」


 やっと自分の勘違いに気付いたヂラークは顔を赤くした、いつの間に所長が結婚しちゃったのかとヒヤヒヤした位だ。


ヂラーク「因みにですが、奥様のお名前は?」

光明「貝塚ですよ、貝塚結愛。」


 これでやっと話が合致した、目の前の男性が205歳をババアと言ったり自分達の事を20代だと主張する訳だ。


ヂラーク「そうでしたか、大変失礼致しました。すぐに所長に話を通しますので少々お待ち頂けますか?」


 そう言うとヂラークは無線機のスイッチを入れようとしたがたずっとスイッチが入りっぱなしの状態だったらしく、2人の会話は丸聞こえだった様で・・・。


ハイラ(無線)「私・・・、ババアなんですか?」


 無線機の向こうでハイラは泣きかけていた、これはまずい事になってしまったかも知れない。


ヂラーク「何を仰っているんですか、所長はとても綺麗な女性じゃないですか。所内の皆が惚れちゃうくらいですよ、自信を持って下さい。」

ハイラ(無線)「でも205歳はババアだって・・・。」

ヂラーク「所長はエルフだから人間とは違うでしょ、皆所長に憧れているんですよ。だから元気出して下さいよ・・・。」


 ただハイラの機嫌を直して元気を取り戻すにはタダでは済まなかった、そう、やはり「あれ」が必要なのだ。


ハイラ(無線)「ヂラークさん、ソフトキャンディー買ってくれなきゃ許さないです。」


-215 所長の任を任されている理由-


 やっとの思いで205歳の泣き虫を説得した強制収容所の係員は、収容所の出入口横にある係員室のチェアに座って煙草を燻らせる事にした。深く一息を突いた後、個人的に少し前から不安に思っていた事を思い出していた。


ヂラーク「本当に・・・、あんな人が所長でこの収容所はやっていけるのだろうか・・・。実際に脱獄事件が起こっているから3国の住民の方々からの信頼度合いはかなり下がっていると思うんだけど、正直誰がアイツを所長にしようって言い出したんだよ。俺は個人的に納得出来ないんだけどな。」


 ヂラークは気が緩んでいた時の独り言として今の発言をしたつもりだったのだが迂闊だった1つ、そう、先程と同様に無線機のスイッチを入れたままにしていたのだ。誰にも聞かれていなかったら良いがと願っていたが時既に遅し。


ハイラ(無線)「ヂラークさん、やっぱり私の事を信用出来ませんか?」


 無線機の向こうで再び泣きかけている所長、これはソフトキャンディー1つでは済まされない事態になって来た気がする。


ヂラーク「では所長、私を納得させて頂けませんかね。」


 本当はこんな発言をしたくは無かったが、今は何となく譲れない気持ちが無いと言えば嘘になる。


ハイラ(無線)「分かりました、ちょっと待って下さい。」

ヂラーク「へ?何をするおつもりで?」

ハイラ(無線)「貴方の私に対する信頼を取り戻して見せます。」


 ハイラが無線機のスイッチを切るとヂラークはすぐ傍にある椅子に座って何事も無かったかのように再び煙草を燻らせながら外の風景を眺め始めた、いつもと変わらず海が一面に広がるゆったりとした景色を楽しんでいると海上に突然大きな黒い球状の物体が出現した。所々から稲妻の様な物がビリビりと鳴っているその物体はどんどん大きくなり始め、周囲の生物を傷つけながら飲み込み始めていた。何となくヤバい気がして来たのはヂラークでなくても分かったのだが、どうすれば良いのか分からなかったので一先ず無線を使って所長に連絡をする事にした。


ヂラーク「所長!!城門の前に正体不明の球体が出現したんですけど何とかして頂けませんか?!」


 ハイラはすぐに無線に応答したが、未だにぐずっているのが誰から見ても分かった。


ハイラ(無線)「えぐっ・・・、えぐっ・・・。これで・・・、私の魔力の強さを・・・、証明して見せます・・・。建物もろとも・・・、消えて・・・、下さい・・・。」


 そう、謎の球体を出現させたのはハイラ本人だった。すると横から無線を聞いてヂラークの身を案じた副所長が焦った様に横入りして来た、ムクルの様子から見てどうやらかなりの緊急事態になってしまったらしい。


ムクル(無線)「ヂラーク、お前は所長に何を言ったんだよ!!このままだと命が無くなっちまうぞ!!ちゃんと言っただろう、あんまり泣かせるなって!!」

ヂラーク「そう言われてもこうなるなんて誰も思わないじゃないですか!!」

ムクル(無線)「あのな、エルフの魔力を舐めんなって母ちゃんに言われなかったのかよ。それより早く逃げろ、死ぬぞ!!」


 ヂラークは副所長に言われた通りにその場を急いで離れた、すると次の瞬間にハイラが出現させた球体がより一層周囲を飲み込みながら大きくなり始めた。


ムクル(無線)「ハイラさん、落ち着いて下さい!!ソフトキャンディー買ってあげますから・・・、ね・・・?」

ハイラ(無線)「嫌です、ヂラークさんに私の実力を証明して見せるんです。」

ムクル(無線)「十分ですって、十分証明出来てますから魔法を消して下さい!!15年前、同じ魔法で貴女が城門を壊した時にどれだけ怒られたか忘れたんですか!!」

ハイラ(無線)「そんなの良いです、また怒られても構わないです。と言うかもう遅いです、我慢できません、とりゃぁー!!」


 城門周辺の土地を全て飲み込んで大きくなった正体不明の球体は爆発した、係員室に至っては跡形もない。副所長のお陰で寸前に逃げていたヂラークは何とか無事だったが周囲は悲惨な状況となっていた、ハッキリ言って転生者でも無ければ修復出来ない位だ。


ムクル(無線)「あーあ、やっちゃった。ヂラーク、お前が責任とれよな・・・。」

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