7. 異世界ほのぼの日記3 206~210


-206 正体-


 さり気なく「通常モード(こっちで良いんだよな、多分)」に戻ったハイラによる意味不明な発言によりムクルや転生者達は一斉に首を傾げた、顔を見た事すら一度も無いのにもう会っているとはどういう事だろうか。


ムクル「所長、どういうお方なのか存じ上げないのにもう既に私達とお会いした事があるとはどういう事でしょうか。」


 また泣かす訳にはいかないのでじっくりと言葉を選びながら声をかける副所長、再び「泣き虫モード」に戻ってしまうとハッキリ言って厄介なのだ(と言うより買う事になるソフトキャンディーの個数をこれ以上増やしたくない)。


ハイラ「えっとですね、お会いした事があると言うより先程からずっとこの部屋にいらっしゃっているんですけど。」

ムクル「所長、恐れ入りますが我々以外にどなたもいらっしゃらないと思うのですが宜しければどちらにいらっしゃるか教えて頂けませんでしょうか?」


 ムクルの依頼を聞いたハイラは全く人のいない方向を手差しした、所長の手の先には好美達も気になっていたキノコが生えていただけだった。


好美「所長さん、私達の目がおかしいのかも知れませんが誰もいませんよ。」


 好美は決して嘘をついているつもりは無かった、ただその横で頭を悩ませる人物が1人。


結愛「好美、ちょっと待ってくれるか?うーん・・・、何となく身に覚えがあると思うんだよな・・・。」

好美「えっ、どういう事?」


 ただ好美の質問に答えたのは所長だった、ハイラは先程手差ししたキノコへと近づいて軸の上の方を軽く叩いた。


ハイラ「そりゃあ身に覚えがあるはずですよ、だってこの方・・・。」


 ハイラの合図に応じたかのようにすぐ隣に生えていた最も大きなキノコが一気に地中から抜け出してゆっくりと一回転すると軸に顔があったのが分かった、それを見て結愛はある事を一気に思い出した。


結愛「思い出した、最近貝塚警備で雇ったマイコニド達を数人ほどこの収容所に送り込んだんだ。すっかり忘れてたぜ。」

好美「マイコニドってキノコの・・・、でもこの世界にいたの?」

結愛「実は俺も未だに信じ切れてないんだけどさ、どうやらバルファイ王国の小さな村に集団で住んでるらしいんだよ。それでこの前稼ぎ口が欲しいって泣きついて来たもんだから警備の職に就かせていたんだ、それからは支社長に任せていたから忘れていたよ。」


 笑いながら頭を掻く結愛の言葉を聞いたマイコニドは『人化』して綺麗な女性の姿に変身した、別にそのままでも会話を交わす事は出来るらしいのだが相手に対する配慮なのだそうだ。ただよく見たら・・・、泣いてねぇか?


マイコニド「結愛社長~、忘れるだなんてあんまりですぅ~。しかも余計なエピソードまで話さなくて良いじゃないですか~。」

結愛「レイトさんごめんなさい、くそ・・・、いや父による騒動でバタバタしていたものですから面接した事すら今思い出したんですよ。」

レイト「だったら良いですぅ~・・・。」


 レイトというこのマイコニドの従業員は義弘による騒動が発覚した後に雇われた為に勿論今回の事件への関与は無い、何事も無くしっかりと仕事をこなしている様なので結愛は一安心していた。


結愛「今回の事件が解決したら一度マイコニドの方々を呼んで皆さんでお食事をしましょう、ここにいる私の友人がご馳走しますので許して下さい。」

好美「えっ?!ちょ・・・!!」

結愛(小声)「こんな事頼めるのは好美しかいないから頼むよ、金の動きを光明に見られたら何言われるか分からないんだよ。」

好美(小声)「だからって急すぎるよ、イャンダのお兄さんの事もあるのに面倒を持って来ないでくれる?」

結愛(小声)「「面倒」なんて言わないでくれよ、本人に聞こえたらどうするんだよ。」

レイト「社長、今何気に「面倒」って聞こえましたけど・・・。」

結愛「ま・・・、まずい・・・。」


 このパターンって・・・、まさかこいつもなの?


-207 社長として、そして友人として-


 所長室にいた数人がレイトを泣かすまいと必死に宥めようとする中で大企業の社長には不審に思っていた事があった、確かに義弘の脱獄事件を受けたので貝塚警備の支社長を通して目の前のマイコニドを監視カメラの設置役としてこの強制収容所に派遣したのは自分自身だが常駐する様にとは頼んでいない。結愛は飽くまでビジネスとしての話なので「大人モード」で声を話しかける事にした、これは泣き虫(?)のレイトが話しやすくなるようにとの配慮も兼ねてだ。


結愛「レイトさん、恐れ入りますが1つお伺いしても宜しいでしょうか?」

レイト「私なんかに社長さんが聞く事なんてあるんですか?」


 正直今の状況で聞く事が無かったら声をかけないと思うのだが今はそっとしておくのが1番だろう。


結愛「あの・・・、確か貴女にお願いしたのは監視カメラの設置だけだと思うのですがそれはとっくに終わったはずなのにどうしていらっしゃるんですか?」

レイト「えっと・・・、これは私が貝塚警備に就職してすぐの事なんですが支社長に監視カメラを設置してから数日後に必ず調整に行く様にと言われたんですよ。私はその時に聞いただけなんですが最近新しく出来た社則だそうです。」

結愛「そうなんですか・・・、ちょっと支社長に確認しても宜しいですかね?」

レイト「勿論です、その支社長本人に聞いたんですから。」

結愛「別にレイトさんを疑っている訳ではないので大丈夫ですからね、安心して頂けたら助かります。ただ本社の社長としてしっかりと把握しておく義務があると思うんです。」


 優しい眼差しでレイトと話す結愛の姿を見て同級生と自分の間に出来た差を誰よりも感じていた守、何となくだが「悪ガキモード(というより素の状態)」に戻したくて仕方が無かった。


守「お前って意外と従業員思いだよな、義弘と違って。」

結愛「「意外と」って何なんだ「意外と」って、それに比べる対象がおかしいだろうがよ。あのくそ親父と一緒にすんな!!」


 突然素に戻った結愛を見て驚きを隠せなかったレイト、これはまずい雰囲気では無いのかと思ってしまったがどうやらマイコニドの心中には別の理由があった様で・・・。


レイト「お・・・、お父さんの事を「くそ親父」なんて言っちゃ駄目ですぅ~!!」


 最近貝塚警備(いや貝塚財閥)に入社したレイトは勿論義弘と結愛の過去を知る訳が無かった、その上幼少の頃から父親とかなり仲良しだったので結愛自身の「くそ親父」発言をどうしても許す事が出来なかったらしい。


結愛「あのレイトさん・・・、物凄く言いづらいのですが・・・。」


 これ以上レイトの機嫌を損ねる訳にはいかないので再び言葉を選びながら話そうとする結愛、しかし結愛の心中にある「少しでも義弘の事を思い出したくない」という気持ちを与した守が友人として社長の言葉を遮った。


守「待て結愛、これ以上お前が辛い過去を思い出す必要なんてないんだぞ。レイトさんには俺から話す、その間に結愛は支社長さんと話して来い。」


 当然と言って良いのか分からないが、この日守とも初対面のレイトは自分を雇ってくれた本社の社長に対する守の態度が気に食わなかったらしい。


レイト「待って下さい、この人何で社長さんに対して「お前」とか言ってるんですか?何か嫌なんですけど!!」

結愛「ごめんなさい、突然の事ばかりで動揺しちゃいますよね。今レイトさんが仰った事も兼ねてこの者から説明があると思いますので大丈夫ですよ、私は一旦席を外しますが安心してお話を聞いて下さればと思いますのでお願いしますね。」


 結愛は支社長に電話をする為に所長室の隣にある給湯室へと向かった、友人が部屋から出た事を確認した守は結愛と自分の関係や過去を洗いざらい話し始めた。

 元の世界の貝塚学園で2人が友人として出逢い、まさに暴徒と化していた義弘に対抗しながら共に学んだ事やこっちの世界に先に来ていた好美と自分を繋ぐ架け橋となってくれた事などだった。今となっては結愛の夫で貝塚財閥副社長である光明を含めて良い友人である、それが故の態度だった事を守が全て説明するとレイトは涙をぼろぼろと流し始めた。


守「えっと・・・、まずい事言っちゃいましたかね?」

レイト「違うんですぅ・・・、自分が許せないんです。社長達と守さんの間の事を全く知らなかったとは言え、先程の自分の発言は駄目だと思ったんです。」

守「大丈夫ですよレイトさん、自分もちゃんと説明出来てなかったんでお気になさらず。」


-208 対策が弊害に-


 父親の事が大好きで強制収容所の所長と同じくらいに泣き虫のマイコニドを守が必死に宥める中で友人の言葉に甘えた大企業の社長は貝塚警備の支社長に連絡を取る為に隣の給湯室へと向かった、そこでは丁度所長が紅茶を新しく淹れなおしていた最中であった。


ハイラ「どうかされました?もうちょっとで美味しい紅茶が出来上がるんですけど。」

結愛「所長さん、紅茶は楽しみなんですけど一先ず支社に連絡だけしようと思いまして。」

ハイラ「連絡・・・、ですか・・・。出来ますかね・・・。」


 ハイラの言葉の意味が分からなかった結愛は一先ず懐からスマホを取り出した、そして電話帳の画面を開こうとした時に所長の言葉の意味を知る事になった。


結愛「うそ・・・、マジかよ・・・。」


 そう、強制収容所のある孤島には携帯電話の電波が届いていなかったのだ。よく考えてみればこの孤島に来てすぐに会った係員のヂラークもインカムで話していたのはそのためだと思われた。


結愛「畜生・・・、気は乗らねぇがやってみるか・・・。」


 結愛は試しに夫・光明へと『念話』を飛ばしてみたがやはり反応が無い、実は先程以上に自分の魔力が著しく低下している事を感じていたので嫌な予感がしていたのだった。


結愛「何も使えないのかよ・・・、これじゃあ誰とも連絡が取れないじゃんかよ。」


 舌打ちを連発する結愛の横を淹れたばかりの紅茶が入ったポットを抱えた所長が偶然通りかかった、正直何回お茶を淹れに行けば気が済むんだと聞きたいが今はそれ所では無い。


ハイラ「あら、社長さんに言ってませんでしたっけ。」

結愛「所長さん・・・、何かあったんですか?」


 本来の業務上のレイトと同様に結愛もこの強制収容所に常駐していないので知らない事があって当然だ、1人困惑していたネクロマンサーはどうして夫と連絡を取ることが出来ないのか不思議で仕方が無いので所長の言葉に耳を傾ける事にしたのだった。


ハイラ「実は以前監視カメラの設置等を委託してた業者の方が忘れて行ったものだと思うんですけど、収容所内における情報の傍受や漏洩を防ぐ為の対策の1つとして携帯電話の電波を妨害する機器を設置したままになっているんです。ただ係員の間での連絡が取れないと困るからと周波数の違う電波を使用するインカムを用意して頂いたので折角だからそのままにしておこうという意見に纏まったんですよ、それから島の外の方々とは数か所に設置してある固定電話でしか連絡を取らない様になっていたんです。」


 所長の言葉で携帯が使えなくなった理由については十分納得したつもりだったが『念話』を使う事が出来ない今の結愛にとってこれ以上に不便な事はない、一先ず何とか支社や本社に連絡する方法が欲しかったのでハイラに許可を得る事にした。


結愛「所長さん、こちらのお電話をお借りしても宜しいでしょうか。」


 給湯室の壁にかけられていた固定電話を指差した結愛。


ハイラ「勿論です、私共にご協力出来る事があれば何でも仰ってください。」

結愛「助かります、お言葉に甘えさせて頂きます。」


 ハイラから許可を得た結愛はすぐ傍にあった固定電話の受話器を取って本社にいると思われる光明に電話をかけようとした、ただ受話器を外してから次の瞬間に手が止まってしまった。


結愛「あ・・・、あれ?」

ハイラ「あの社長さん、どうしました?」


 きっと誰もが通ると思われる事だと思われたが結愛は今までスマホを使って連絡を取っていた(ましてや『念話』を使っていた)身なので今まで電話番号を押す事が無かったから本社にある自分のデスクの電話番号を覚えていなかった、正直こんな事は元の世界にいた頃以来だったので焦っていたのが誰から見ても分かった。


結愛「大丈夫です、些細な事なんで。」

ハイラ「まさかご自分の会社の番号がお分かりにならないんですか?」


 大企業の代表取締役社長として今の状況はどうなのかと思ってしまうが今はツッコミを入れている場合ではない、しかし結愛は恥ずかしくなりながらスマホの電話帳を見ていた。


-209 所長の本当の姿-


 十数秒経過して結愛はやっとスマホの電話帳から本社にある社長室の電話番号を探し出した、普段は基本的に連絡用として『念話』を使用していたのでこれ位の苦労は想定の範囲内だったはずだが結愛にとってはこっちの世界に来てから何年もの間未経験だったので焦りの表情を隠せずにいた。というより番号を見つけた後の問題の事を考えていなかった様だが・・・。


結愛「やっとだ・・・、やっと社長室の番号を見つける事が出来たぜ・・・。よし、俺だって固定電話の使い方は分かるぜ・・・、ってこれボタンは何処にあるってんだよ!!」


 そう、強制収容所の数か所に設置されていた固定電話は全て昔ながらのダイヤル式だったのだ。結愛が元の世界に住んでた時にはほぼ全ての家電(いえでん)や公衆電話がボタン式になっていたのでダイヤル式の電話に動揺してしまうのは当然の事だったのだろうか。きっと水洗便所やウォシュレットに慣れた現代っ子の目の前に昔ながらの汲み取り式の便所が現れた時も同じ反応になるのだろうなと思ってしまった。


結愛「えっと・・・、これって・・・、下の針の所に数字と同じ穴を合わせるんだったな。俺だって落ち着いてやれば出来るはずの女だ、よく考えてみろ、俺は大企業の貝塚財閥の社長だぞ、出来ない事等何もない。落ち着け・・・、ゆっくりやれば大丈夫だ・・・。」


 するとなかなかダイヤルを回そうとしない結愛を見かねた所長がそっと手を貸そうとした、いつまでも電話の前で立っているだけで指を全く動かそうとしないので我慢の限界が来たのだろう。


ハイラ「あの・・・、社長さん・・・、大丈夫ですか?」


 飽くまで下手に出て結愛が話しやすい様に工夫していた所長、可能な限り結愛に協力しようとしている事がよく表されていた。


結愛「すみません・・・、ガキ・・・、いやこ・・・、子供の頃はダイヤル式の電話を使っていたんですがね。」


 ただこの発言はある意味仇となっていた、ビクター・ラルーから転生者全員に与えられた歳を取らないという便利な機能が故にこの世界の住民はすっかり有名人となっていた結愛に幼少時代自体があったのかどうかを疑ってしまっていた。


ハイラ「あの・・・、それって何百年前の話なんですかね・・・。」

結愛「所長さん、何を仰っているんですか。私は貴女と同じ20代の女子ですよ・・・。」


 ただ結愛の見立ては間違っていたらしい、これはここが異世界だからが故によくある話だと思われるのだが今はそっとしておくのが1番なんだろう・・・。


ハイラ「あの・・・、私が貴女と同じ20代ってどういう意味ですか?」

結愛「いや、そのままの意味なんですけど・・・。」


 ははは・・・、まさかな・・・。


ハイラ「結愛社長・・・、私205歳のエルフなんですけど・・・。」


 そう言うとハイラは長い髪を掻き分け警察帽を取り外して両耳を結愛に見せた、確かに長い笹の様な形をした耳だった。


結愛「そうだったんですか、何かすみません・・・。」

ハイラ「いや別に今頃気にする様な事でも無いので良いんですけど・・・、何なら名刺見ますか?」


 結愛は半信半疑だった、本当にハイラが205歳なのかではなくこの強制収容所の所長をしているのかだ。


結愛「えっと・・・、所長さんが良かったら・・・。でも先程名刺は見せて頂いたんですけど。」

ハイラ「一応名刺は2種類用意しているんですよ、超個人的な理由なんですけど。」


 そう言うとハイラはもう1種類の名刺を差し出した、真ん中に書かれた名前は先程と違ってファミリーネームや生年月日まできっちりと書かれていた。


結愛「「ネルパオン強制収容所 所長 ハイラ・クランデル」さん・・・、クランデルですって?!まさか・・・!!」

ハイラ「そうなんです、わたしバルファイ王国にある貝塚学園魔学校のマイヤ・クランデルの孫娘でノーム(ドーラ)の姉なんです。ただ隠してた理由がちゃんとあるんです・・・。」


-210 何故隠す必要があったのか-


 結愛はまた不可解な疑問に頭を悩ませていた、実の姉妹(家族)なら堂々と「クランデル」と名乗れば良いのにどうして名刺を2枚用意してまで隠す必要があったのだろうか。まさかと思うがエルフ独特の事情でもあったのだろうか、そしてこの疑問に関してハイラに聞いても良いのだろうかという疑念を抱いていた。


ハイラ「やはり気になりますよね、本心では私も苗字を隠した名刺を用意したくは無かったんですがちょっと私の家って複雑だったんですよね。」

結愛「「複雑」・・・、ですか・・・。」


 日本(元の世界)でもよく聞く話だった様な気もするので所長の話の続きを聞く事に関しては何の抵抗も無かった、しかしハイラ本人が話したがるかどうかが問題。


結愛「ハイラさん、その話って私も聞いても良い物なのでしょうか?」


 所長が話しやすくするように言葉を選ぶ社長、こういった技術に関してはもうお手の物といったところか。


ハイラ「少し長いですが、もし結愛さんが宜しければお話ししましょう。」

結愛「ハイラさん側に何の支障も無ければ・・・。」

ハイラ「ではここでは何ですので場所を移しますか、先程の場所で宜しければ参りましょう、新しいお茶をお淹れ致しますので。」


 そう言うとハイラは結愛を連れて好美達のいる所長室へと戻ってきた、長い間退屈していたせいか好美は少し目が虚ろになっていた。


守「お・・・、おい・・・、好美・・・。結愛達が戻って来たぞ。」

好美「え・・・、あらま・・・。結愛だ・・・、電話どうだった?」

結愛「長い間待たせて悪かったんだけどまだなんだ、ちょっと所長さんの話を聞こうと思って戻って来たんだよ。実は俺達の知ってる人の親類だったらしくてさ。」


 眠い目をこする好美の様子を見て機転を利かせた所長、本心ではまったく望んでいないがこうするしか無かったのかも知れない。


ハイラ「宜しければ珈琲に致しましょうか、他にお飲みになる方いらっしゃいますか?」


 すると結愛以外が真っ直ぐに挙手した、それを見て開いた口が塞がらなかった所長。


ハイラ「あの・・・、結愛さんは宜しいんですか?」

結愛「私、珈琲苦手なんでこの美味しいお紅茶で。」

ハイラ「あらま、無理に褒めなくても良いんですけどありがとうございます。」


 人数分の珈琲を用意したハイラはゆっくりとソファに腰を下ろして一息ついた。


ハイラ「ふぅ・・・、それではお話致しましょうかね。これは私が幼少の頃、確か50歳位の時だったと思います。」


 流石は長命種、やはり年齢の感覚が未だに掴めない。


ハイラ「私の両親は父の素行の悪さが原因で離婚しました、私は父に引き取られて当時まだ妹を妊娠していた母は祖父に引き取られたんです。」

好美「妹さんがいらっしゃるんですか?」

結愛「それがさ・・・、ドーラさんらしいんだよ・・・。」

好美・守「えっ?!ドーラさんって警部補と受付嬢してるあのアーク・エルフの?!」

リンガルス「という事は学園長のお孫さんですか?!」


 まさに「燈台下暗し」だ、恋人達とリンガルス警部は揃って目を丸くしていた。


ハイラ「はい、ただ祖父は父のギャンブル癖と借金癖というクズっぷりに愛想を尽かせて私達親子2人を家から追い出してしまったんです。それからというもの、祖父自身が考えを改めたそうで私には何の罪も無いから帰っておいでって言って来ているんですがドーラ自身はずっと一人っ子として育てられたそうなので今更「お姉ちゃんだ」なんて言えないじゃないですか。それで「クランデル」の姓を隠して生活していたんですよ。私個人的にはこの事件が解決して落ち着いたら祖父や妹に会いに行こうと思うんですがね・・・。」


 理由はどうであれ、片方が生まれる前からずっと離れ離れだった姉妹(家族)の話を聞いて是非会わせてあげたいと思った転生者達とアーク・ワイズマン。


結愛・リンガルス「ハイラさん、この事件を解決して・・・。」

守・好美「是非、ご家族に会いに行きましょう!!」

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