7. 異世界ほのぼの日記3 196~200


-196 思い出に浸るのも束の間-


 目の前でまさか元の世界における学生時代からの憧れであった自分の愛車が1国の国王や大臣達を相手取って時給の交渉を始めるとは思わなかった中、珍しく素直に俺の言う事を受け入れた渚は少し渋々とした表情をしながらステッカーを貼り付けていた。


渚「「珍しく」って失礼な奴だねぇ、それにしてもこのステッカーってまさか一生剥がれない訳じゃ無いよね。私ゃそうだと絶対嫌だよ、綺麗なままにずっと乗りたいんだからね。」


 やはりこっちの世界に持って来るくらいだからそれなりに思い入れのあるお車だからそう仰ると思いましたよ、でも剥がれますから安心して下さい。


渚「だったら良いんだけどね、ただ私の車だけじゃ宣伝効果が薄い気がするんだけど。」


 大丈夫ですよ、守の車(カペン)にもこっそり貼り付けておきましたから。


渚「それはそれであんた・・・、勝手にやっちゃ駄目なんじゃないかい?」


 問題ありませんって、王城の敷地の中に新しく建設する「暴徒の鱗」の宣伝にもなる上にちゃんと好美ちゃんに許可を貰ってますから(嘘です)。


渚「そうかい・・・、だったら良いんだけどね。」


 「守の車なのにどうして本人ではなく好美に許可取りをしようとしたのか」と聞かれなかったのが幸いだった中、俺自身は恋人達がどうしているのかが気になり始めた。

 ロラーシュ大臣が店主になる(予定)の新店やもうすぐ開店できる様になるであろうランバルの飲食店の事を全てデカルトや渚に任せた(と言うより押し付けた)好美達は再び卒業旅行に戻る事にした、ダンラルタ王国の殆どを占める山の中の道を走りつつ2人は元の世界の事を懐かしみながら守が持参したUSBに入っていた音楽を楽しんでいた。


守「これって俺達が大学に入学したばかりだった頃に流行った曲だったっけ?」


 車内では丁度2人が「松龍」の前で出逢ったばかりの頃に流行っていた曲が流れていた、ただ先程まで馬鹿みたいに酒を吞みまくっていた好美がちゃんと思い出すかどうかが心配だったが・・・。


好美「そうだね、確か守ってあの時揚げ物ばっかりの定食を食べてたんだっけ?」


 どうやら心配は無用だった様だ、守の車の中で好美は呑んだ酒と同量の水をぐびぐびと煽った為に素面に近い状態に戻っていたのでしっかりと懐かしい思い出に浸っていた。


守「そうそう、目の前にいた正や龍さん達がドン引きしてたんだよな。女将さんに至っては俺の顔を見てすぐに冷蔵庫から卵を取り出して割り始めてたから俺の注文聞いて焦ってたよ、その様子を見た美麗が凄く笑ってたんだって。」

好美「そんな裏事情があったんだ、あの親子らしいな・・・。」


 好美は自分が「松龍」でのアルバイトを始める直前のエピソードを聞いて懐かしさと松戸親子の仲の良さを感じながらふと守の左手のすぐ近くを見た、そこにはオーディオの真下にある空間にボールペンが1本転がっていた。


好美「ねぇ、もしかしてこのボールペンって・・・。」

守「うん、俺達が付き合うきっかけになったあのボールペンだよ。こっちの世界で売ってたのを見つけたから思わず買っちゃった。」

好美「「見つけた」って、私が元の世界の物を仕入れてこっちの世界でも販売出来るようにしたからでしょ。結構苦労したんだから感謝してよね。」


 ここだけの話、好美は雑貨屋の店主であるゲオルに相談を持ち掛けただけで全くもって苦労をした訳では・・・。


好美「何?」


 ま、まずい・・・。「鬼の好美」が出かけてる、しかもまだ少し残っている酒の力により圧が増してる様な気がする・・・。


好美「余計な事言わないでよ、守には「敏腕の起業家、そして経営者」で通しておきたいんだから。」


 そっすか・・・、だったらそのままにさせて頂いておきながら取り敢えず話を進めるとしますかね・・・。

 偶然車内に転がっていたボールペンにより折角好美の中に芽生え始めていた「懐かしい」という感情が消えようとしていた中、カーオーディオの音楽がぴたっと止まった。


-197 騒動発覚-


 折角良い雰囲気になりかけていたというのに音楽がピタッと止まってしまったので「故障か?」と思った守は致し方なく路肩に車を止めようとした、すると突然Bluetoothで接続していた電話の着信音が鳴り響いた。オーディオの画面には懐かしい名前が。


守「結愛だ・・・、でも何で『念話』じゃなくて電話なんだろう・・・。好美、ちょっと出て良いか?」

好美「うん、勿論良いよ。」


 恋人の許可を得てから一先ずハンドルのボタンを押して社長からの電話に出る事にした守、ただ着信音が鳴るまでの時間差が少し気になったが今はそれ所では無かった。どうしてかと言うと・・・。


守「もしもし・・・。」

結愛(電話)「もしもし、守か?!やっと電話出た・・・、好美は一緒か?!2人共無事か?!」


 そう、電話の向こうにいた旧友がかなり焦っていたのだ。ただこんなに焦った結愛ははっきり言って久方ぶりな様な気がするが何かあったのだろうか・・・。


守「「無事か」って急に何だよ、俺と好美は元の世界で出来なかった卒業旅行をしていただけなんだけど。」


 至って落ち着いていた守とは打って変わっていた様に未だに焦っていた結愛、何となく嫌な予感がしたのは俺だけだろうか・・・。


結愛(電話)「お前、何も知らねぇのかよ!!今すぐテレビかラジオをつけろって!!」

守「分かったよ、分かったからちょっと待てって・・・。」


 結愛との電話を一旦切った守はカーオーディオをラジオに切り替えた、通常ならこの時間は守が豚舎で仕事をしている時にいつも聞いているお気に入りのラジオドラマが再放送されているはずだったがスピーカーから流れたのはニュースの緊急速報だった。しかもその内容が守にとってただ事では無かったらしく、先程の電話で聞いた結愛の口調の理由を物語っていた。


キャスター(ラジオ)「速報です、今日未明にネルパオン強制収容所に収容されていた貝塚義弘死刑囚が脱獄したというニュースが入りました。」


 ニュースによると義弘は数週間前に行われた裁判で元の世界とこちらの世界での素行や犯罪歴を考慮に入れた結果、「情状酌量の余地なし」とみなされ死刑が確定したのだが何者かの手を借りて脱獄して遠くへと逃げて行ったと言うのだ。


好美「結愛に聞いただけだけど確かネルパオン強制収容所ってこのダンラルタ王国から少し離れた孤島にあるんだっけ。」

守「ああ・・・、俺も豚舎で働いていた時にケデール店長に聞いたよ。本人は見学に行ったって言ってたけど、そこの囚人には魔法を使えなくする為に特別な手錠を付けるって話だそうだ。」


 少し呼吸が荒くなった守は自分達にこの知らせを教えてくれた社長(ネクロマンサー)へと電話をかけ直した、兎に角今は自分達が無事だという事等を伝えねばと言う気持ちで頭がいっぱいだった。


結愛(電話)「守か?!ニュース聞いてくれたか?!」

守「ああ・・・、好美と一緒に聞いたよ。確かにまずい事にはなったけど俺達は無事だ、会社の方は大丈夫なのか?!」

結愛(電話)「ああ・・・、一応リンガルス警部と警戒に当たっているけどまだ十分とは言えない。奴は犯罪者ではあるが、警部と同じ「アーク・ワイズマン」だから魔力だけは馬鹿に出来ないからな。」


 「魔力」と言えば最近不審に思っていた事が1つ、特に転生者達に関する事だった。


好美「ねぇ結愛、ちょっと聞いて良い?」

結愛(電話)「勿論だ、俺で良かったら何でも聞いてくれ。」

好美「最近私達の能力ってちょこちょこだけどミスが起こる事が多くなったじゃない?これってこの事件に関係あるのかな・・・?」

結愛(電話)「やっぱり好美も感じていたか・・・、実は俺も以前の様に上手く能力を使えている気がしないんだ。ただ俺1人で断定は出来ない、警部に聞いてみて良いか?」


 数秒後、貝塚学園の入学センター長を兼任する警部が電話に出た。


リンガルス(電話)「社長夫妻だけではなく貴方達もですか、詳しくお聞かせ願えますか?」


-198 「アイツ」の影響?-


 警部の申し出を受け入れた恋人達は折角の卒業旅行を中止せざるを得なかった、手枷足枷を付けられた死刑囚と言っても莫大な魔力を持つアーク・ワイズマンである貝塚財閥前社長が孤島の収容所から脱獄してしまったので事は一刻を争う。


結愛「馬鹿野郎、アイツの事を「前社長」って言ってんじゃねぇよ。奴は貝塚財閥の「汚点」だぞ、今俺や光明が苦労しているのは明らかにアイツの所為だって分かんねぇのかよ。」


 確かに義弘が行って来た鬼畜の所業の数々は誠に許しがたい、その気持ちは元の世界で結愛と共に貝塚学園に通っていた守も同じであった。それが故に理事長兼社長や入学センター長に自分も可能な限り協力したかったが1つ疑問が生じていた、さっきから感じていた「違和感」は何処から来るものなのだろうか。


守「なぁ結愛、さっきから気になっていた事があるんだけどお前に聞いても良いのかな。」

結愛(電話)「何だよ守、余所余所しいな。俺達は高校時代からの友達だろ、何でも気兼ねなく聞けよ。」


 確かに「あの頃」は2人共ただの同級生同士、しかし今守は「肉屋で働く豚の飼育員」で結愛は「大企業の代表取締役社長」なのでそれなりに距離を感じてしまう。しかしネクロマンサーによる気にしなくても良いと言わんばかりの対応と今はそれ所じゃないと言う気持ちの強さから素直に気になっている事を打ち明けてみる事にした、これはきっと助手席に座っている好美も同じだろうと思われた。


守「何でネクロマンサーのお前が『念話』じゃなくて電話にしてんだよ、『念話』の方が手間が省けるから良いんじゃねぇのか?」


 守の言う通りだ、父親程では無いが強大な魔力を得た結愛からすればいちいち機械を操作して電話するよりも『念話』を飛ばす方が数倍マシだと思われるが敢えて能力を使用しなかった理由は何だったのだろうか。


結愛(電話)「あのな、俺だって出来る事なら『念話』を使っていたさ。ただ『念話』どころか『察知』や『探知』も上手く出来なくなってんだよ、だから今回は緊急だから致し方なく電話を使う事にしたんだけどお前たちが携帯を持っていてくれて本当に助かったぜ。」

守「じゃあ・・・、実は俺達が今何処にいるのかも全く分からないって事なのか?」

結愛(電話)「いや、「全く」と言うと嘘になるな。ダンラルタ王国の何処かにいるのだけはぼんやりと分かるんだがそこまでだな、申し訳ないんだけど出来るだけダンラルタ王国から離れた方が良いと思うし詳しく話を聞きたいからうちの本社まで来てくれないか?」


 好美は守に車(カペン)を路肩に止める様にお願いした上で『瞬間移動』で結愛のいる貝塚財閥本社に向かう事にした、しかし・・・。


好美「どうしよう、『察知』と『探知』が上手く行かない!!」


 今更発覚した事なのだが転生者達が受け継いで来た『瞬間移動』は『察知』と『探知』を応用したものだったのだ、しかし両方が上手く行かないとなると元も子もない。


結愛(電話)「バルファイ王国にある貝塚財閥や貝塚学園の場所も分からないか?」

好美「うん・・・、難しいかも・・・。」


 守は出来るだけ発言しない様にした、自分より圧倒的に長い間この世界にいる2人に意見したとしてどうにかなるとは思えなかったのだ。


結愛(電話)「一先ずゆっくりでも良いからこっちに近づいて来てくれ、今は何よりもその場から避難する事を優先するべきだろうからな。」


 決してネクロマンサーが言っている事は間違いでは無い、実は少しづつだが移動していたので丁度国境にいた2人は急ぎつつも安全を保つ形で貝塚財閥本社を目指した。

 十数分後、敷地内に巨大なビル群が並ぶ貝塚財閥本社の前に到着した恋人達を結愛が迎え入れた。


結愛「無事だったんだな、良かった!!さっき電話で話して貰ったリンガルス警部が待っているから一緒について来てくれ!!」


 社長の案内で貝塚学園の入学センターへと向かった2人は入学センター長に振舞われたコーヒーを啜りながらソファに座った、正直ここも安心して良い場所なのか分からないが身近で信頼出来る人間が誰もいないよりは幾分かはマシだ。


リンガルス「ご足労感謝致します、恐れながら私も社長も今回の事態を不審に思っていたので是非お話をお伺いしたかったんですよ。」

結愛「頼むよ、何でも良いからお前らに話せる事を何でも教えてくれないか?」


-199 過去を思い出して-


 恋人達は貝塚学園の入学センター長を兼任するアーク・ワイズマンのリンガルス警部に話せるだけの事を話した、先程結愛の話を含めた『念話』が上手く行かなくなった事や渚の『転送』により送られた荷物が的外れの場所に届いてしまっていた事等だ。しかしその場にいた転生者達の心中には共通してある疑問が生じていた、今回の義弘脱獄事件に転生者達の能力が関係しているのだろうか。

 一先ず社長達の疑問を解決するためにリンガルスは3国警察の、しかもそのごく一部の者しか知らない重要事項を思い出していた。これが事件解決の糸口になれば・・・、という一心での行動に俺は敬意を表するばかりであった。


リンガルス「それでは皆さんに一つ質問です、ネルパオン強制収容所では貝塚義弘の様な強大な魔力を持つ犯罪者達をどういった方法で幽閉していると思いますか?」


 結愛は以前望まないままに行った父親との面会での事を思い出した、あの時の義弘はどの様な様子だっただろうか。


結愛「確か・・・、手枷と足枷を付けられていた様な。」

リンガルス「そうです、実はあの手枷と足枷はとある国にひっそりと住む少数民族達しか掘削する事が許されていない希少な鉱石を使った特別製でどんな強大な魔力でも封じてしまうというとんでもない物なんです。実は私もその掘削の現場や少数民族の住む国も知りません、ましてやどの様な種族の民族なのかも知りません。ただ今言える事は両方の枷の鍵を持っているのは強制収容所長や選ばれた職員達と今申し上げた少数民族の長のみだという事だけなんです。もしかしたらその中に協力者(裏切者)がいるのかも知れません。」

結愛「ただな・・・、1つ引っ掛かる事があるんだ・・・。」

守・好美「何・・・?」


 結愛は元の世界にいた頃、それも「最悪の高校時代」が幕を下ろしてから数日後の事を思い出していた。


結愛「守・・・、義弘は元の世界にいた頃にどのようにして刑務所を出たか覚えているか?」

守「確か・・・、あの頃は義弘派閥の・・・、あーっ!!」

結愛「思い出したか・・・。」


 同級生として高校時代を過ごした2人の間のみで展開される会話に全くついて行く事が出来なくなってしまっている好美とリンガルスは何となくだが疎外感を感じてならなかった、一体守は何を思い出したのだろうか。


好美「何よ、こんな時に2人だけで盛り上がらないでくれる?」

リンガルス「恐れ入りますが私達にも分かる様にご説明をお願い出来ますでしょうか。」

結愛「悪い、実は俺達は高校時代に会社の緊急株主総会に出席した事があったんだけどさ。」

守「うんうん、あの時は英雄の様にやって来た母ちゃんが格好よかったんだよな・・・。」


 いやいや、思い出すのは良いんだが脱線はしない方が良いんじゃ無いのか?


守「そうだな・・・、えっと・・・、そこで俺達は大株主の中に義弘にペコペコしてた奴らがいたのを見たんだよ。」

結愛「そうそう、まさか学校の先生に紛れているとは思わなかったな。」


 おいおい、結愛まで脱線しようとすんなって・・・。


結愛「チィッ・・・、相も変わらず騒がしい作者だな・・・。」


 こらテメェ、今何つった?!


結愛「何でもねぇよ・・・、はぁ・・・、「義弘派閥」って呼ばれてた今言った奴らの内の1人が逮捕されたばかりの義弘の為に保釈金を払って義弘を連れて逃げちまったんだよ。」

守「結愛は今回もその1人が裏で保釈金を払っていたんじゃ無いかって考えていたんだ。」


 するとその時、天(そら)から聞き覚えのある声が響き渡った。


声「安心しろ、今聞いていたがそれは絶対にあり得ん!!」

転生者達「まさか、その声は・・・。」


 そこにいた全員が窓を開けて外を見ると3人の声に答える様に天から巨大な龍が舞い降りた後に『人化』して見覚えのある男性の姿へと変身した、それを見た3人は堰が崩れたかの様に声をかけた。


結愛「あんたは・・・、ビクター神様!!」

守「あ・・・、あの時はご馳走様でした!!」

好美「あれ?今日はボート行かないんですか?」


-200 らしさ-


 まるで英雄かの様に格好良く登場したつもりの「全能の神」だったが転生者達による質問によりその場にずっこけてしまった、ただ俺はそれを見て「おいおい空気を読めよ」と言う気持ちも無くもなかったがこのスタイルこそこの物語だなと頷きたくもなった。


ビクター「お前らな・・・、それって今言う事か?特に倉下好美、ボートには行ってたけど緊急事態だと思って致し方なく天界から降りて来たのだ。これを見ろ、私が競艇場を出た直後のレースが15万舟だぞ!!俺だったら絶対取れてたね!!」


 上級古龍が最後に発した言葉は舟券を買ってない奴がよく言う台詞だと思われるが正直言って今はそんな事を話している場合じゃないという事は誰にでも分かっていた、転生者達のお陰でその場の雰囲気が和んだのでビクターは本題に戻る事にしたが正直言って未だに今自分が見ている光景を理解しきれていない者が約1名。


リンガルス「あのすみません・・・、こちらの紳士の方は?」

ビクター「おや、私の事を「紳士」なんて言ってくれるのか。長生きはするものだな。」


 ビクターの言う「長生き」は桁外れな物であるが今掘り下げるのはどうかと思ってしまうのは俺だけだろうか、というか「一柱の神」って結構有名な存在じゃ無いのか?


結愛「警部がこうやって言うのも無理もないさ、ビクター神様はこの世界に降りたり人前に出現する度に姿をコロコロ変える事が多いからな。」


 そう言えばそうだな、確か最初光の前に現れた時は髭を蓄えたおじいさんの姿だったか。


ビクター「悪かった悪かった、本当は古龍の姿のままいるべきだとは思うんだけどそれだと目立つし近隣の住民達の邪魔になるだろう。迷惑をかける訳にはいかないと思っていつも『人化』しているけどどの姿でいるべきか定まらなくてね、いつも迷っているんだよ。」

好美「じゃあいっその事その姿にすれば良いじゃないですか?しっくりするし私は好きですよ。」


 「好美の好み」か・・・、フッ・・・。


好美「ああ!!今鼻で笑ったでしょ、それじゃ私がスベったみたいじゃない。」


 えっ?お前まさか俺がこう言うとウケると思っていたのか?


好美「それは無いけど・・・、別に私の事は良いじゃん!!いつ本題に戻るのよ!!」


 そうだな、すまんすまん。それで?どうして結愛の考えがあり得ないと神様は仰っていたんですか?


ビクター「そうだよ、それを話しに来たんだよ。あのな、確かにお前らが言う「義弘派閥」の重岡という奴がこの世界に来たのは知っているよ?でも義弘程では無かったけど素行が悪かったからそいつにも、実は義弘にも1京円を与えなかったんだ。それに重岡に至ってはこっちの世界で全く働こうとしていなかったから無一文、だから超が付く程の高額である保釈金を払うのは全くもって不可能だという事だ。」


 因みに茂手木は守の元恋人である森田真帆と同様に管轄外の別世界へと飛ばされてしまった様だ、兎に角結愛達はこの後どうするべきかが分かったのでリンガルスの運転する覆面パトカーへと乗り込んだ。


守「まさか何も悪い事していないのにパトカーに乗る事になるなんて・・・。」


 ため息をつく守に結愛は悪戯心たっぷりのジョークをかました。


結愛「何言ってんだよ、お前は好美ちゃんのファーストキスとかを奪った癖にはとこの真帆ちゃんと付き合ってたじゃねぇか。」

リンガルス「ああー、それはいけませんね。ある意味銃刀法違反ですね。」


 何を以って警部が「銃刀法違反」と言ったのかを想像したくはない、ただついついいけない想像をしてしまった好美達は顔を赤くしていた。


好美「結愛・・・、昼間っから何馬鹿な事言ってんのよ。」

結愛「ハハハ・・・、悪かったよ。でも少しは場が和んだだろ?」


 確かに場は和んだ、しかし恋人達の顔は未だに赤いままだった。


結愛「お前らこそ昼間から何を想像してんだよ。」

守「べ・・・、別に何もねぇよ・・・。」

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