7. 異世界ほのぼの日記3 171~175


-171 次の予定-


 一応俺の心中で予想はしていたのだが2人は注ぎの予定について何も考えてはいなかった、流石は行き当たりばったりでの旅行と言えるが守には気になっている事があった。


守「なぁ好美、折角バルファイ王国に来たんだから王城にでも顔を出してみないか?ほら、「親しき中にも礼儀あり」って言うだろ?」


 守は王城に住むと思われるパルライの所に挨拶に行くべきだと思っていた、確かに好美と一緒に「暴徒の鱗」を経営している仲ではあったが3国の王の1人だからだ。


好美「行ってもいないと思うよ、城には本人が魔法(片手間)で動かしている鎧しかないもん。」


 好美の言う通りだ、パルライ本人は常に店の味を狂わす事無く守る為に住み込みで働いているので王城に戻ることはよっぽどの事が無い限りはあり得ない話であった。


守「じゃあすぐにでもダンラルタ王国に向かうか?長かった国道ももうすぐ終わるだろうから10分もしない内に国境に着くと思うけど。」


 貝塚財閥(と言うより結愛)による土地開発で3国間の行き来はこの十数年の間でかなり便利になった、はっきり言ってネフェテルサ王国からバルファイ王国、そしてダンラルタ王国までの距離よりも徳島・鳴門から香川・坂出(若しくは丸亀)までの距離の方が長いと思われる(神戸淡路鳴門自動車道等経由)。


好美「そうだね、朝風呂も入ったし美味しいご飯も食べたし・・・。あっ!!「あれ」やってない!!」

守「おいおい、いきなり大声出して何なんだよ。まだやってない事なんてあったか?」


 守の質問に好美は身を乗り出して答えた、正直勢いにドン引きしてしまうレベルだった。


好美「あるじゃん!!温泉旅館に来たら風呂上がりに必ず(?)やる「あれ」!!」


 2人は大抵の事はやったと思われるが強いて言うなら「瓶牛乳一気飲み」だろうか、俺なら「フルーツ牛乳」か「飲むヨーグルト」が良いかなぁ・・・。


好美「馬鹿ね、確かにそれもあるけどもっと重要な事があるでしょ?」


 てめぇ・・・、遂に「馬鹿」って言いやがったな?!あのな・・・、その「馬鹿」が・・・、ってもう言い飽きたから良いか。それで?何を忘れていたって言うんだよ・・・。


好美「卓球よ、私守と旅館に来た時にしたいと思っていたの。憧れてたのよね、浴衣着てゆったりとラリーするの。」


 ああ・・・、そっちか・・・。確かに日本にある大抵の温泉旅館には卓球台があるけどここは異世界だぞ(あくまでイメージ)、そんなのあるのか?


好美「番頭さんか女将さんに聞いてみる。」


 すぐさま内線をフロントに繋いだ好美、何となくだが食事していた時以上に鼻息が荒くなっている様に見えた。


好美「あの・・・、すいません。ここって卓球台ってありますか?はい・・・、はい・・・。あっ、そうなんですか?!ちょっと待って下さいね?」


 好美は内線を繋いだまま受話器を耳から放した、その様子を見て恋人の心中が気になって仕方がなかった守。


守「おい、どうしたって言うんだよ。」

好美「ここ・・・、卓球台無いって言うのよ。」

守「そうか・・・、それは残念だったな・・・。」

好美「でもね・・・。」


 急に笑顔になった好美、その理由とは如何様の物なのだろうか。


守「「でも」って・・・、何だよ。」

好美「ここボーリング場があるんだってさ!!」

守「はい?」


 まさかの「ボーリング場」に開いた口が塞がらなかった守、そう言えばこの2人って元の世界でボーリングなんてした事無かった様な・・・。


-172 無知と伝統-


 内線で番頭から聞いた通りの場所へと向かうと、本当にボーリング場が広がっていた。2人の想像をはるかに超えて広い、チラッと見ただけだがそこには30レーン程が並んでいる様に見えた。それもそのはず、この旅館に繋がっているボーリング場は経営者は一緒なのだが旅館に泊まるお客さん以外にも楽しんで貰える様に一般開放されている様だ。しかも1ゲームまさかの200円(宿泊客は3ゲーム目まで無料)、日本のボーリング場ではありえない位の破格の値段で楽しむ事が出来る様だ。2人はただゆっくりと過ごせたらいいかと思っていただけなので無料の範囲で楽しんでみる事にした(と言うかここでもドケチを発揮するんだな)。

 元の世界(日本)にあるボーリング場と同様に様々な重さのボールを取り揃えていたこのボーリング場は何処からどう見ても日本のボーリング場とは変わらなかった、ただ何故か着物を着た旅館の女将が受付に立っていた以外は・・・、人員不足か?


好美「そう言えばレンタルシューズは何処なのかな、それっぽい場所が全く見当たらないんだけど。」


 どうやら守と好美は2人でボーリング場に来たのは初めてだが各々の友人達と何度か通っていた事があったらしい、それが故にボーリング場には必ずレンタルシューズが有る事を知っていたみたいだ。


守「受付にいるのって・・・、女将さんだよな・・・。一先ず聞いてみるか。」


 何処からどう見てもその場にそぐわない恰好で受付に立つ女将の下へと駆け寄った2人、一先ず受付とシューズのレンタルを早く済ませたかった。


好美「ネイアさん、おはようございます。」


 好美は先程までネイアが自分の事を裏で「化け物」と呼んでいた事を知らない。


ネイア「あらお2人さん、おはようございます。昨日はよく眠れましたか?」


 ネイアは2人がとんでもない恰好で1晩ずっとリバーシをしていた事を知らない。


好美「2人で3ゲームだけ利用しようかと思っているんですけど、レーンは空いてますか?」

ネイア「大丈夫ですよ、今日は予約も入っていませんし今はお客様も少なめですから。」


 確かにネイアの言う通り朝一だったからか、客はまだ少な目であった。


ネイア「取り敢えず・・・、私とじゃんけんしますか?」

守「な・・・、何でじゃんけん?」


 全くもって訳が分からなかった2人、一先ず言われるがままに女将とじゃんけんをしてみる事に。ただまさかボーリング場で着物を着たエルフとじゃんけんをする事になるとは、勝ったらどうなるかが想像出来ない。


好美・ネイア「じゃーん、けーん・・・、ほい!!」


 ネイアは気合をかなり入れてじゃんけんに臨んでいたが結果は好美の勝ちであった、ただ勝ったらどうなるかを未だ聞けていない。


ネイア「負けちゃいました、では午前中ですので2ゲーム無料とレンタルシューズ無料。そしてお好きなソフトドリンク1杯ずつ無料とさせて頂きます。」

好美「えっ、良いんですか?!」

ネイア「勿論です、ここにボーリング場を造った時からの伝統ですから。」


 ただ好美達は宿泊客なので合計で5ゲームが無料になるが構わないんだろうか。


守「いくら何でもお得過ぎませんか?」

ネイア「ご心配なく、お客様あっての当館ですので。」


 因みに午後からは無料になるのが1ゲームに減ってしまうが午前中と違ってソフトドリンク以外にもアルコールまでもが1杯無料で提供される様だ、それが故にこの受付に立つ従業員達は責任感が重くのしかかっていた。


好美「何か・・・、勝っちゃってすみません・・・。」


 好美の言葉を聞いた瞬間、一気に表情が暗くなったネイア。そうなるならこんなサービスなんてやめてしまえば良いのに・・・。


ネイア「いえ・・・、お気になさらず・・・。当館の伝統ですから・・・。」


-173 根拠の大切さ-


 好美とのじゃんけんに負けて本気で落胆するネイア、恋人達は今までこの様な表情をするエルフは見た事が無かった。たかがじゃんけんと言いたくなってしまうがこの後ネイアに何かが待っているのだろうか、気になって仕方が無かったが何となく聞きづらかった。

 2人は受付から少し歩いてボールを選ぶ事にした、通常なら自分が投げやすい重さのボールを選ぶべきだと思われるが好美が手にしているのはまさかの「18ポンド」・・・。


守「流石にそれは重過ぎだろ、投げれるのか?」

好美「分からないけど、重いボールの方が倒しやすいって聞いた事が有るのよね。」


 おいおい・・・、何処からの情報だよ。


好美「確か・・・、美麗(メイリー)が言ってた様な・・・。」


 それ信用できんのか?あいつは大学でもボケ担当だったんだぞ、いつものノリで言っちゃっただけなんじゃないのか?


好美「そうかな・・・、あの子私の前ではボケをかました事無かったと思うけど。」

守「いや、美麗ならやりかねないよ。」


 目の前で美麗が友人にボケをかます様子をみかけた守は好美と美麗がボウリング場で遊んでいる所を想像してしまった、おそらく笑いを取りたい一心で重過ぎのボールを使用しようとしていただろう。次の日の筋肉痛は物凄い物だったと推測できる、そんな中・・・。


美麗「くしゅん!!はぁ・・・、風邪引いたかな。」


 ほぼ同刻、制服姿の従業員達に囲まれて働いていた美麗は大きく嚏をした。勿論、今日も結愛から支給された青いチャイナ服を身につけている。ハッキリ言って場違い。


従業員①「主任、彼氏さんに噂されてんじゃないですか?」

美麗「何言ってんの、昨日もちゃんとデートしたもん!!」


 直属の部下の発言に頬を膨らます美麗、ただ「昨日デートをした」という事は何の根拠にもならない。


従業員②「じゃあ、あれですか?「さっきまで会っていたのにまた会いたくなっちゃった」的なやつ。」

美麗「もう・・・、上司をからかっている暇があるなら早く運んじゃいなさいよ。」

従業員①「へーい・・・、(小声で)どうせまた今夜もデート行くんだろうな。」

美麗「ちょっと・・・、聞こえているんだからね。」

従業員②「はぁ・・・、どうして主任はこうも地獄耳なんだろうね・・・。」


 美麗が小言を言う従業員達を睨みつけている中、好美達は早速1ゲーム目を始める事にした。ただ好美にとって流石に18ポンドのボールが重すぎたからか、まるで幼稚園に通う子供の様な両手投げを披露していた。しかし、その結果・・・。


守「嘘だろ?!1投目からストライクかよ!!」


 まさかの奇跡に開いた口が塞がらなかった守、流石に上手く投げる事が出来ずに即ガターになると予想していたのだが・・・。


好美「何?私ずっとこの投げ方でしてたんだけど。まさかと思うけど私の事舐めてた訳?」

守「それは・・・、無いです・・・。」


 嘘だ、守は好美が1投目からガターになったのを見て思いっきり笑う準備をしていた。


好美「私こう見えて最高スコア「267」だからね、しかも全フレームこの投げ方で。」


 そう、美麗は好美のこの投げ方を見たので「重いボールにしてみたら?」と提案していたのだった。決してボケや冗談のつもりで言った訳では無くちゃんとした根拠があったから出来た発言だったのだ、先程の「昨日もちゃんとデートしたもん」という発言と違って。


守「まずいな・・・、俺下手な事出来ないじゃんか。」


 守はただの遊びのつもりで来ただけたったので少しふざけてカーブをかけてみようかと思っていた様だ、今まで全くした事無いので出来る自信は全く無かったのだが。


守「仕方ないな、ここはいつも通り真っ直ぐ投げてみるか・・・。」


 ただ緊張で手元が狂ったのか、それとも汗で滑ったのか、ボールは即座にガターへ・・・。


-174 向き不向きと男女-


 何故か好美が圧倒的に有利なままゲームは進行していき、遂に5ゲーム目を迎えた。周囲の者達がクスクスと笑っている中で好美は一度でも投げ方を変える事をせずに現状を保っていた、守はただただ悔しくて仕方が無かった。


守「どう言う事だよ、今まで俺が連れとして来た事は何だったんだよ・・・。」


 どんな人にだって向き不向きと言う物がある、きっとこれは好美にだって言える事だ。好美に向いたプレイの方法を最初に見出した美麗はかなり凄い人物、これが分かった今言える事はただ1つ。そう、守は心の中で美麗に謝るべきだという事である。


好美「凄いでしょ、私に勝てるとでも思ったの?」


 踏ん反りがえっているがまだこの5ゲーム目においては勝負がついた訳では無い、今現在「(好美)203-199(守)」で十分逆転は可能と思われたがよく考えればもう既に最終フレームだった。


好美「守、諦めて負けを認める事ね。そして私にパフェをご馳走しなさい。」


 そのままの流れで何気にデザートを要求したが罰ゲームなんて設定してなかった気がするのは俺だけだろうか、と言うより多分自らの勝ちがほぼほぼ確定したからそれを利用した様に思われたが・・・。


守「お前、さっきまでアホみたいに食ってたのにまだ食うってのかよ。」

好美「ボーリングしている内にお腹が空いてきちゃったの、デザートを食べなきゃ落ち着かないもん!!」

守「もう俺の負けが確定したみたいに言わないでくれるか、「勝負は下駄をはくまで分からない」って言うだろう。」


 その上、デザートを要求されたくない理由はもう1つ存在した。


守「それにお前、このテーブルの上の物全部食いながらプレイしてたじゃねぇか。」


 そう、好美はプレイ中にちょこちょこ自動販売機などへと向かいずっと買い食いしていた。それでもまだ腹が減った、デザートを食わせろと言うのか。全く・・・、我儘な大食い娘だな・・・。誰がそうさせたんだよ、徳島にいる父親の操か?それとも「暴徒の鱗」にいる元竜騎士(ドラグーン)達か?


好美「他の誰でもなくあんたじゃないの、私だけじゃなくて光さんも大食いキャラにしたくせに。」


 あ・・・、俺の所為って事になってるのね・・・。何か・・・、すんません・・・。


好美「分かっているならそれで良いの、さてと・・・。」


 気を取り直した様に好美はもうお馴染みと言える「あのフォーム」で5ゲーム目の第10フレームを始めた、相も変わらず幼稚な投げ方・・・。まるで女を捨てた様にも見える。


好美「何よ、全然捨ててないもん!!」


 そうか?確かこの前牛乳を何にも注がずにパックから直接飲んでいたじゃ無いか。


好美「あれは・・・、お風呂から出たばかりだったから早く飲みたかったの。」


 気持ちは分からなくもない、風呂で温まった後の牛乳程気分を良くしてくれるものは無い・・・、と思う。


好美「ほらね?あんただって飲むヨーグルトをパックから直接飲んでいるじゃない。」


 あ・・・、あれは直接飲みやすいデザインだからそうしたかったんだよ。それにキャップが付いてるから冷蔵庫の中での保存が・・・、って俺は男だぞ!!それに直接飲んでも文句言われる筋合い無ぇわ!!


好美「あっそ・・・、もう良いわ。言い争いしてたらゲームがいつまでも終わらないし。」


 おいおい、至って冷静じゃないか。やはり凄腕の経営者は違うね。


好美「分かってるじゃない、でも褒めても何も出ないんだからね。」

守「あ・・・、良かったらこちらをどうぞ。」

好美「それ私のビール!!姿が見えない奴に何あげてんのよ!!」


-175 兄弟-


 ハッキリ言って既に分かっていた事なのだが5ゲーム目も好美の圧勝で終わった、正直言って守は今すぐ元の世界にいた頃の友人達に縋りたくなっていたが決して叶う事の無い夢だ。ただ守が好美に負けたという事実は変わらない、この流れのままだと守は好美にデザートをご馳走しなければならないが何となく認めたくなかった。


守「待てよ、罰ゲームなんて突然言い出した癖に何の証拠も無い状態でデザートを奢れってのかよ!!確かに俺が負けたのは事実だが少し横暴すぎやしないか?!」


 意地でも負けを認めようとしない守、ただこの様な一方的に攻められている状況でどうやって逃げ道を作るべきか分からなかった。しかし、好美には自らの勝利を証拠づける最適な方法があった。そう、何処のボーリング場でも得る事が出来る「あれ」だ。


好美「守、まだ私から逃げるつもり?罰ゲームの執行を避けるつもり?」


 何処からどう考えても負けを認めるしかなかった守、その様な状況にも関わらずしっかりとした証拠を突きつけようと必死だった好美。2人がプレイしていたレーンに備え付けられていたテレビ画面の表示によるとどう見ても勝負は決していたのだが・・・。


好美「女将さん、「あれ」をお願いします。」


 俺からすれば「あれ」と言う程大袈裟な物では無いと思うのだが、と言うか会計の時に大抵貰える物だから要求しなくても良いのではと感じてしまう。


ネイア「はい!!姐さん、こちらをお納めください!!」


 おいおい、この世界の住民は皆ノリが良い事は知っているがそこまでしなくても良いだろう。ましてや長命種であるエルフが普通の人間に「姐さん」だなんて、自分達の年齢を考えろよな。


好美「言いたい事は分かるんだけどさ・・・、実はね・・・。」

ネイア「はい・・・、姐さん・・・。」


 いやいや、あんたら2人だけでそんな雰囲気出されても話の流れが分かる訳が無いだろうがよ。分かった、第三者の意見を聞こうじゃ無いか!!番頭さんを呼ばんかい!!


好美「良いよ、でも結果は一緒だと思うけどね。」


 何、結果は一緒だと?!よし、話の進めてみようじゃないか。

 ネイアが旅館の受付に内線を繋いでから数分経過した後、番頭であるベルディが走ってやって来た。


ベルディ「姐さん!!お待たせしました!!」


 何でだよ!!いつの間にあんたらはそんな関係になったってんだよ!!


好美「あの・・・。」

ベルディ「姐さん、俺に説明させてくれまへんか?」


 おう、聞こうじゃねぇかよ。ただそろそろその極道っぽい口調を何とかしてくれへんか?


ベルディ「俺らに文句でもあんのか、コラ!!」


 ねぇよ!!ねぇけど取り敢えずその口調をやめろ、それにどう言った経緯でそうなったか説明しろや!!


好美「いやね・・・、この前「「暴徒の鱗」の支店をこの旅館に出してくれないか?」って話が上がったじゃない?」


 確かにな、でもその話はあんたの独断では決まる事が出来ない事だから保留にして一旦持ち帰る事になっていたじゃなぇかよ。


好美「ただね、私の知らない所で話が進んでいたみたいでいつの間にか契約への話が進んでいたみたいなのよ。」


 でも夫婦の口調には何の関係も無いだろう?


好美「それが・・・。」

ベルディ「いや、やはり人情に語り掛けるならこれが1番かと・・・。」

守「いや・・・、兄弟の意味が違うと思うけど・・・。」

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