7. 異世界ほのぼの日記3 166~170
-166 酒の肴-
守はゆっくりとビールを呑みながらある事を考えていた、2人の出逢いについてだ。
守「もしもあの時ボールペンが同時に落ちなかったら、いや「松龍」の前で目が合わなかったらどうなっていただろうな・・・。」
好美「多分ずっと赤の他人のままだったと思うよ、若しくはランチを食べる学生と店の店員って感じ?」
確かに好美が言っている事は間違っていない、2人は元々同じ大学だったが全く別の学部学科だったので十分あり得る話だったのだ。
守「きっと正と桃ちゃんが出逢う事も無かったかもな、安物のボールペンだったけど値段以上の価値があったよな。」
好美「「値段以上」って・・・、確かにそうだけど私達の出逢いって決してお金じゃ買えない物だったと思うな。」
おいおい、ビール呑みながら温泉に入ってたから酔っちまったのか?恋人のいない俺をほったらかしにするのはどうかと思うんだが?
好美「ねぇ・・・、キスしない?」
好美な、今更改めて聞く事でも無いだろう?学生時代は他の人がいる前で堂々とディープキスしてただろうが。
守「う・・・、うん・・・。」
何で守も緊張してんだよ、車ん中でもキスしてたくせに顔を赤くしてんじゃねぇ。
好美「好きだよ・・・、守・・・。」
守「俺も・・・。」
本当に始めちゃったよ・・・、もう見とれんわ・・・。まぁ他人が見て良い物でも無いんだがね。長いな・・・、この俺を蔑ろにしてるみたいだけど結構長いな・・・。もう終わったか?・・・って、まだしてんのかい!!と言うか俺ずっと独り言言ってんな、何か虚しくなって来たわ・・・。
好美「何かお湯以上に熱くなっちゃったね、ビールで冷やす?」
守「そうだな、落ち着こうか。」
冷えたビールで改めて熱を冷まそうとした2人、ただ瓶の中はもう既に空だった。
好美「大丈夫大丈夫、『アイテムボックス』から取り出すから。」
そう言えば好美って『アイテムボックス』の中に酒を常備してたんだっけ、こう言う時に能力って役に立つもんだな。全く・・・、羨ましいったらありゃしないぜ。
守「流石だな、しかも冷え冷えのままだよ。」
好美「『アイテムボックス』を舐めちゃ駄目よ、容量が無限ってだけの能力じゃないんだから。」
そう言えばここ異世界だったな、日本の様な旅館に2人が止まっているもんだからすっかり忘れていたわ。
と言うか昔、俺が死んだじいちゃんと飯食いに行った時にばあちゃんのバッグの中に缶ビールを忍ばせてこっそり持ち込んでた事あったっけな・・・(本当はやっちゃ駄目ですよ)。今だから言えるカミングアウトってやつか。
好美「あんたのじいちゃんって結構やんちゃだったのね、もしかしたらあんたも受け継いだんじゃ無いの?」
チィッ・・・、聞こえてたのかよ。受け継いでる訳無いだろう?俺ビビリだからんな事出来るか!!
好美「ねぇ、お酒のつまみにするからおじいちゃんの伝説覚えていたら教えてくれない?」
じいちゃんの伝説ね・・・、そう言えば回転寿司屋で他のテーブルの人が注文してたフライドポテトをレーンに乗ってた状態で1本くすねて食ってた事かな・・・。
好美「それ伝説と言うよりやっちゃ駄目なやつじゃん・・・。」
だからさっきも言っただろ、「今だから言えるカミングアウト」だってよ・・・。
-167 楽しんだ深夜から朝食まで-
散々ビールを楽しんだ後、好美達は1晩の間じっくりと恋人達の時間を楽しんだ。流石にここに介入しては色々と問題があると思われるので俺は知らないフリをする事にした、我ながら懸命な判断と言えるだろう。
翌朝、好美達の客室に内線によるモーニングコールがあった。一般的な視点で考えるとするならすぐに内線を切って起き上がるのだがこの旅館はモーニングコールの時に朝ごはんの希望を尋ねられる事になっていた。
好美「ハァ・・・、ハァ・・・、おはよう・・・、ございます・・・。もう・・・、こんな・・・、時間・・・、なんですか・・・?」
ベルディ(内線)「お・・・、おはようございます・・・。聞いてはいけない事だと思うのですがどうしてそんなに息切れしておられるのですか?」
好美「聞かないで・・・、下さい・・・。ちょっと楽しんだだけなので・・・。」
お前らな、結構お楽しみだった様だが寝不足は健康への影響が大きいんだぞ。今日もこれから旅行の続きに出掛けるんだろ?ちゃんと寝たのかよ・・・。
好美「寝てない・・・、かな・・・。守のお陰(?)で。」
守「何言ってんだよ・・・、好美のお陰(?)・・・、だろ・・・?」
ベルディ(内線)「あの・・・、かなりお楽しみだったと思われますが内線を繋いだままイチャイチャするのはやめて頂けますか?私自信、ネイアとご無沙汰ですので・・・。」
旅館の仕事により溜まった疲労や深夜までかかってしまう事務作業で毎晩すぐ眠りに落ちてしまう番頭と女将はなかなか2人の時間を過ごす事が出来なかったという、「これはきっと「あの人」の出番なんだろうな」と恋人達は一先ず軽く流した。
それはさておき・・・、お前らいい加減そろそろ服着ろや!!いつまで夜の気分でおるつもりじゃ!!
好美「今から着ようとしょったんじゃ、というか何気に我がらの状態がどうなっとるかを言わんとってくれる?」
何で急にお前も阿波弁になるんじゃ、まさか我がのせいか?
好美「ほれ以外に何があるって言うんじゃ、ほれにたまに話しとかんと忘れてまうじゃろうが!!」
ほう言うなら・・・、標準語に戻すか・・・。それで?番頭さんをずっとほったらかしにしてるけど良いのか?
好美「えっ?!嘘でしょ!!」
ベルディ(内線)「好美さん・・・、これは斬新な放置プレイですか?」
好美「いや・・・、そんなつもりは無いんですけど・・・。」
電話の向こうで何とか冷静さを保っていた番頭は自分が電話をかけた本来の目的を思い出して遂行しようとした。
ベルディ(内線)「それはそうと好美さん、朝ごはんはどうされますか?」
好美「えっ・・・、朝ごはんですか?」
この旅館では1階にある大広間でのビュッフェスタイルの朝食か客室での食事を選べる様になっていた、ただ大半の客は前者を選択していた。
ベルディ(内線)「好美さん達の宿泊プランには朝食の料金も含まれておりますがどうされますか?」
恋人達はずっと客室に籠りっきりになるのも嫌だなと思いつつ一応相談の場を設けた、その結果は勿論・・・。
守「ビュッフェでお願いします、その方が好きな組み合わせで楽しめると思ったので。」
ベルディ(内線)「仰る通りです、お時間の許す限りごゆっくりとお楽しみください。」
長々とした内線を切った2人はいそいそと着衣した後に1階の大広間へと向かった、炊き立ての白米や焼きたてのパンを中心とした朝ごはんならではといった面々の良い香りが辺りを包んでいた。
好美「何食べようか、私は洋食の気分だからパンにしようかな・・・。サラダとスープを一緒に摂ったら豪華だよね。」
守「やっぱり俺は和食だな、白飯と味噌汁は外したくないからな・・・。」
景色の良い大広間で2人は自分好みの朝食を組み合わせていた。
-168 何をしていたの?-
2人がゆったりとした朝ごはんの時間を楽しんでいる中でも俺の心中にはとある疑問が浮上していた、正直言って気にしてはいけない(ましてや本人達になど聞いてはいけない)と思ってはいたがその反面で気になって仕方が無いと言う気持ちもあった。
好美「何気にしてんのよ、別にあんたには関係ないでしょ。」
いや・・・、自分が書いている物語の主人公(いや登場人物)達がどうなっているかなんて一番気になる事だろうが。恋人同士での事だから聞いちゃいけないってのは分かるよ?でもこれからの展開を考える為には必要不可欠だと思うんだよね。
守「確かに・・・、コイツ無しでは俺らは存在すらしてなかったから答えた方が良いんじゃないのか?」
守・・・、よく言ってくれたよ・・・。じゃあ、俺の質問に答えてくれるな?
好美「良いけど・・・、質問の内容にもよるじゃ無いの。」
確かにそうだな、誰にだって言いたくない事や答えたくない事だってあるはずだからな。
守「それで?あんたは俺達に何を聞こうとしてたんだ?」
守は温かな味噌汁を啜りながら聞いていた、その様なゆったりとした雰囲気の2人に尋ねて良い内容かどうか俺には分からなかった。
好美「何よ、さっき守が言っていた通り質問の内容にもよるでしょ。早く教えなさいよ。」
分かったよ・・・、相変わらず強情な奴だな・・・。俺はそんなキャラにお前を設定した覚えは無いぞ。
好美「馬鹿言ってんじゃないわよ、どうせ行き当たりばったりでのこじ付け設定でキャラを色々と編集しまくってた癖に適当な事を・・・。」
バレてましたか、でもそれなりに対応してくれてたじゃないですか。今回もお願いしますよ、この通りですから・・・!!
好美「あんたの姿なんて見えてないから意味無いじゃ無いのよ、まぁ良いか。何を聞こうとしてたか教えて貰おうかな。」
えっとですね・・・、番頭(ベルディ)さんも気になっていたみたいなんですが深夜に何をされておられたのかな・・・、なんて・・・。
好美「馬鹿・・、女の子に何聞いてんのよ・・・。」
守「別に良いじゃ無いか、恥ずかしい事をしていた訳じゃ無いんだし。」
へっ?そうなんですか?
好美「確かに恥ずかしい事じゃないけどさ・・・。」
守「答えてやれよ、アイツの前で今更何を恥ずかしく思うって言うのさ。」
確かに2人が今までしてきた恥ずかしい行為を散々見て来たがそれ以上の事柄なのか?
守「そこまでの大それた行為じゃないから良いと思うんだけどな。」
じゃあ聞いて良いんだろ?何をしていたって言うんだよ。
好美「り・・・、リバーシをしてたのよ・・・。」
リバーシ?1晩中か?
好美「そうよ、ずっと守が四隅を取っちゃうんだもん!!悔しくて仕方ないじゃない!!」
いや・・・、リバーシってそれも戦略の1つだと言えるゲームだろ・・・。
守「常に隅がガバガバだから狙い放題だったんだよな、お陰でもうずっと俺が連勝!!」
えっと・・・、君らが深夜に何をしてたかは分かったよ?でも服を脱ぐ必要は無かったんじゃないのか(※色々とあるので画像では水着を着用しています)?
好美「元々砂漠地帯のバルファイ王国よ?暑かったから脱いでいたに決まってんじゃん。」
-169 暑すぎたけど-
これは飽くまで俺のイメージの中での事なのだが、大抵の砂漠地帯は寒暖差が激しく夜中の気温が極端に低い事が多い。しかしこれはどうやら現実世界(元の世界)での事らしく、バルファイ王国の大半を含むこの異世界の砂漠地帯は1日中気温が高いが故に住民は毎晩寝苦しさと戦っている様だ。
だからか・・・、あんたら2人が1晩中ずっとリバーシをしていたのは。
好美「そうよ、暑くて仕方なかったんだから一睡も出来なかったの。」
だったら住民達の様にエアコンや扇風機を使って寝れば良かったんじゃ無いか?
好美「あのね・・・、あんたはずっと実家暮らしだから分からないかも知れないけどエアコンって待機電力をも考えると電気代が馬鹿みたいにかかるのよ、無暗に使う訳にもいかないじゃないの。」
確かに同様の理由で冷却シートや氷枕を使う等して家電の使用を抑える住民もいるけど、自分の家じゃないのにドケチ魂を発揮してんじゃねぇ!!
好美「何言ってんの、そんな事してたら癖がついて家でもそうしちゃうのよ。こういう時だからこそしっかりしなくちゃ。」
う~ん・・・、気持ちは分かった。だからってあんな格好(と呼んで良いか分からん状態)でリバーシをするやつがいるかよ、風邪引いたり何かしらを疑われたりしても仕方無いんだぞ。
好美「仕方ないでしょ、暑さ対策しながらだとゲームに集中出来なかったんだから。」
好美な・・・、あんたも女の子なんだから少しは恥じらいを持てよ。こんな事何回も何回も言わせんじゃねぇ。
好美「余計なお世話よ、彼氏の前だから別に構わないじゃない。」
はいはい・・・、そうですか・・・、もう何も言えねぇから話を続ける事にするわ。
朝食を終えた2人は大広間を出て客室に戻ろうとしていた、先程の回想の間もずっと食事をしていた訳だから結構な時間を過ごしていたと言えるのでは無かろうか。
好美「こういう時はね、美味しく食べるのも大事だけど元を取る事を最優先しておかないといけないの。」
あのさ、1つ聞いても良いか?好美って年齢を鯖読みしてね?
好美「失礼ね、私の事をババァだって言いたい訳?」
守「それにこれから先何があるか分からないんだから食える時に食っとかねぇと駄目だろ。」
確かに言っている事はごもっともだが、この世の中「腹八分目」って言うだろう?腹パンパンになるまで食っちまうとなると、動けなくなっちまうのが目に見えねぇのか?
好美「仕方ないでしょ、私って元の世界にいた頃から大食いなんだから。」
忘れてたわ・・・、何か・・・、スンマセン・・・。
守「ただこれはどうなんだ?ビュッフェで出ていた殆どの料理を食い尽くしちまうだなんて・・・。」
正しく「前代未聞」という奴だな、他のお客さんの分だって置いとかなきゃ迷惑だろうがよ。
好美「大丈夫よ、どんどん追加の料理が出て来ていたから問題無いんじゃない?別に時間制限がある訳じゃ無いんだし。」
確かに「時間無制限で好きなだけ食べ放題」ではあるらしいな・・・。あら、そんな事言ってたら追加の料理が出て来たぞ、あれは焼きビーフンか?!
好美「え?!焼きビーフン?!守、ちょっと待って!!あれ食べてから行くから!!」
喜び勇んで大きな皿を手にした好美は新しい料理へと突進して行った、きっとあれを「猪突猛進」と呼ぶのだろう。好美の取った大量の焼きビーフンを見た守は、早く帰る事を諦めて水を取りに行った。何か・・・、可哀想・・・。
守「まだ食うのかよ・・・、っておいおい山盛りじゃねぇか・・・。」
-170 化け物-
ほぼほぼ満腹だったので正直体が水しか受け付けなかった守からすると、先程まで大量に食事したはずの恋人が山盛り(推定5kg)の焼きビーフンを完食したという事実を信じたくなくても受け入れるしかなかった。
守「好美・・・、よっぽど腹減ってたんだな。気付いてやれなくてごめんよ。」
好美「良いって事よ、「これでもか」と言う位に食べてやったから問題無いって。」
それもそのはず、もう大広間の隣にある調理場内の冷蔵庫には殆ど食材が残っていなかったのだ。実は、最後の料理としてビュッフェに出て来た「焼きビーフン」は元々従業員の食べる予定だった「賄い料理」だったのだが何も知らなかった好美が全て食べ尽くしてしまったので厨房の担当者達は全員顔が蒼ざめていた。
担当者①「あのお客さん・・・、化け物かよ。」
担当者②「し~っ・・・、そんな事言っちゃ駄目でしょ。」
担当者③「そうだよ、今解決すべき問題は俺達の食べる物が全くない上に「焼きビーフンが出来ない」って女将さんにバレたらどうするかという事じゃないか?!」
3人の担当者達は顔をより一層蒼ざめさせながら想像を膨らませてしまった、そう「焼きビーフン」は女将であるネイアの大好物で当の本人は今日の賄いを誰よりも楽しみにしていたという。「5kgあるから十分残るだろう」という軽い気持ちで料理を運んでいた時も馬鹿食いしてた好美の前に出すべきではなかったと全員落胆していた。
担当者②「どうするの?今からでも走って食材を調達しなきゃ全員クビじゃ済まないわよ。」
これは俺の自論ではあるが、食事を楽しみにワクワクしながら折角大広間まで足を運んで下さったお客様を「在庫がありません」と追い返してしまう方がクビでは済まないレベルだと思われる。しかし3人はパニックになってしまっていた為に思考がおかしくなっていた。
担当者③「どうするよ・・・、いつもの店はまだ開店時間では無いぞ。」
時計は午前7:30を示していた、この旅館は数か月ほど前から酒類を含めた食材系統を全て「バルフ酒類卸」に委託注文しているのだが等の卸業者が店を開けるのは午前9:30だった上に従業員が誰も来ていない時間なのでまだ電話にも応じてもらえないというのだ。しかし、「賄いが作れません」と諦める訳にも行かないと思った3人は急ぎコックコートを脱ぎ捨てて近くのスーパー(午前7:00開店)へと走って行った、正直十分な食材があれば良いのだが3人に出来るのは「ただただ祈りつつ走る事」だけだった。
そんな事を全く知らない「化け物」改め好美は守を連れて客室へと戻った、流石に大量の食事をした後は部屋の何処かに座り込むかと思われたが好美はすぐさま脱衣して露天風呂に向かってしまった。その光景をチラッと見た守は何故か疲れていたので露天風呂に近いスペースに適当に座っていた。
好美「あれ?守は入らないの?折角だから入って行こうよ。」
ゆっくりと体を起こしながら水を一口飲んだ守は再び好美のいる方向を見て尋ねた。
守「今動けそうも無いから後で入るよ、それにしてもその体の何処にあんな量が入るんだ?周囲の人に「化け物」って言われてもおかしくないぞ。」
正しくご名答である、実際好美は厨房や掃除担当者、そしてネイアに裏で「化け物」と呼ばれていた。
好美「あれ?「私の胃袋はブラックホールだよ」って昔言わなかったっけ?」
何処かで聞いた覚えがあるが好美からではない気がするのは俺だけ(と言うより権利的に大丈夫か)?
守「ああ・・・、今その言葉を実感してるよ。御見それしました。」
守は恋人の「大食い」を抵抗しながらも認めざるを得なかった、ただ体が少し楽になって来たので一先ず露天風呂へと入る事に。
守「はぁ~・・・、朝に入る風呂も悪くは無いかもな・・・。」
好美「そうだよ、折角備え付けになっているのに勿体ないじゃない。」
東から昇ったばかりの朝日が優しく辺りを照らし始めたのを眺めながら入る露天風呂は確かに格別だった、きっと守はこの機を逃すと結構な後悔をしたと思われる。
守「好美・・・、次何処行こうか・・・。」
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