7. 異世界ほのぼの日記3 156~160


-156 楽しい思い出-


 好美の目からは真希子の表情が少し困惑している上に寂し気に見えた、酒の席で語れる程の「楽しかった思い出」があまり無かったのか、それとも逆か、好美が後者であって欲しいと強く願っていると真希子は重い口をゆっくりと開いた。


真希子(回想)「楽しかった思い出か・・・、息子が4歳の頃だったと思うんだけどね、パートが休みだった日に2人で近くの公園に遊びに行った事があるんだよ。あの頃、普段は家に籠りっきりだった事が多かったから新鮮に思えたのか知らないけどあの子の表情がキラキラと輝いて見えたのさ。私自身はいつも前を通るだけで見慣れた景色だったけどあの子がその中に入るだけで別物に思えて仕方なかった事を今でも覚えているよ。」


 いつの間にか日本酒からワインにシフトチェンジしていた真希子はゆっくりとグラスを動かしながら香りを楽しんでいた、好美自身がこっちの世界で適当に選んだワインだったが大企業の筆頭株主は相当お気に召したらしい。


好美(回想)「小さい子って遊具とか砂場で遊ぶのが好きですよね、私も昔そうだったな・・・。」


 好美は昔、まだ徳島に住んでいた頃の事を思い出した。県南の方にある大きなダム近くの公園で遊ぶのが大好きだった様だ、特に父・操と一緒にローラー滑り台で何度も何度も昇り降りを繰り返しては疲れて眠くなるまでずっとはしゃいでいたらしい。

 ただ真希子の胸中に思い出として残る公園は好美が考えている物とは違っていた様で、遊具と言えば小さな滑り台とブランコ、そしてジャングルジムだけで生い茂っていた多くの木々の方が目立っていた、どちらかというと森林公園や自然公園と言ったところか。しかし、そんな中でも真希子の瞼の裏に映る守は屈託のない笑顔を見せてずっと楽しそうにしていた。


真希子(回想)「私も一緒にブランコに乗ったりジャングルジムに登ったりしたっけね、息子が「ママ競争しよう」だなんてはしゃいでいたもんさ。天辺に登った後に2人で食べたお握りが何よりもご馳走に思えてね・・・、ただの塩握りだったけど本当に美味しかったよ。」


 家が元米農家の俺もそうなのだが、米の好きな人間には共通して分かる事が有る。いっぱい動き回った後に食べる塩握りは格別に美味い、正直言って具材等が余計(いや邪魔)に思えてしまう位だ。


真希子(回想)「その後ね、友人がやっていた中華居酒屋で友人とその子供と一緒に鍋をつついたものさ。本当はその日の夜も山に行かなきゃいけなかったんだけど珍しく渚が気を利かせてくれて「今日は車(スルサーティー)のエンジンをつけたら「ピー・・・」にするぞ」だなんて言って休ませてくれたんだよ。」


 流暢に思い出を語る真希子の言葉を聞いて黙っていなかったのが勿論この人、と言うかいくら回想シーンだからって問題発言すんな!!


渚(回想)「真希子・・・、「珍しく」って何なのよ、「珍しく」って。それに「「ピー・・・」にするぞ」なんて言った覚え無いんだけどね!!」

光(回想)「ごめんなさい!!お母さん・・・、呑みすぎだよ。明日仕事なんでしょ?」

渚(回想)「何だい、私の屋台の代わりなんていくらでもいるんだよ!!余計な事を言わないでおくれ。」


 好美や真希子以上に顔を赤くする程呑んでいたからか、記憶がかなりあやふやになっていた渚、娘の光が焦りの表情を見せたのも無理は無い。ご存知の方々がいると嬉しいのだが、「暴徒の鱗」屋台を経営しているのは渚以外にはシューゴだけなので欠員が出てしまうとまずい事になる。

 それはさておき、真希子にはもう1つ思い出した事が有った。


真希子(回想)「そう言えば好美ちゃんって「松龍」でバイトしてたんだってね、あそこの娘さんとうちの息子は昔から仲が良かったんだよ。公園に行った日に一緒に鍋をつついたのもその子だったのさ、確か名前は・・・。」

好美(回想)「美麗(みれい)です、松戸美麗(まつどみれい)。」


 確かに正解だったが真希子は中国語読みの方でしか覚えていなかった様で・・・。


真希子(回想)「あれ?美麗(メイリー)ちゃんじゃ無かったかい?そんな名前じゃ無かった様な・・・。」


 もしこの場に美麗がいたらどう返すんだろうか、想像するとぞっとしてしまうのは俺だけだろうか。


好美(回想)「両方大丈夫なんじゃないですか、本人もどっちでも良いって言ってましたし。」

真希子(回想)「何だい、2通りあるだなんて紛らわしい名前だね・・・。」


-157 真面目な睨めっこの理由-


 長々とした回想シーンが笑顔で終わったので一安心した守、自分の見ていない所で先に亡くなった母がこの世界で1人寂しくしていなかったと分かったので少し安心した様だ。


守「本当に母ちゃんも同じ様な事を言ってたんだな、ずっと山で走り回っていた記憶が印象強かったからそんな小さかった時の事なんて覚えて無かったかも。」

好美「母親ってね、子供との思い出ならどんな事でも覚えているものよ。」


 おいおい好美、まだ結婚してもいないお前が何言ってんだよ。


好美「何よ、未だに実家暮らしで独身のあんたに言われたくないんですけど。」


 あ・・・、すんません・・・、って俺の事は良いんだよ!!俺は一生結婚なんてするつもり無いんだ(と言うより出来ると思っていない)から放っておいてくれ!!


守「ハハハ・・・、もしかしたらこうやって卒業旅行をしているのもあいつは指咥えて羨ましがっているんだろうな・・・。」


 おい守、全部聞こえてんぞ!!確かに指咥えてますよ、羨ましいと思っていますよ!!右足の骨折で大学を卒業してから今の会社に入社するまで自宅療養の状態だったんだから仕方ねぇじゃねぇか、もう人生で経験するであろう項目の半分以上を諦めているから常にため息つきながら生きているんだよ。

 それよりお前ら、長々と回想シーンが続いていたけどいい加減見つかったのかよ・・・。


好美「「見つかった」って何の事よ?」


 いやいや・・・、さっきからスマホでずっと今宵の宿を探してたんだろ?えらくマジになってスマホと睨めっこしてたけど、やっぱり守と過ごす宿だから結構拘っていたのか?


好美「ああ・・・、宿ね・・・。」


 おいてめぇ、何で目線を逸らしてんだよ、こっち向きやがれ(※転生者達には俺の姿は見えていません)。


守「確かにずっとスマホ見てたけど、宿を探していないなら何をしてたんだよ。」


 助手席で頭を掻きながらスマホ片手に悩んでいたみたいだけど、現状で宿を探す以外に悩む事なんてあんのかよ。この世界にある宿自体どれだけあるのか分からないのに早くしないと予約で全部屋が埋まってしまうんじゃないのか?折角の旅行なんだからラブホテルに泊まるっていうオチは勘弁してくれよ?


守「流石に俺もそれは嫌だな、ただ好美が何をしていたのか分からん事にはね・・・。」


 先程から引き続いて近辺の宿を虱潰しに探す守の横で好美はスマホの音量を上げた、流れて来たのはスポーツ中継の実況の様だが何となく聞き覚えがある様な・・・。


実況「進入はインコースから!!1番、2(ふた)番、ダッシュ3番、4番、5番、6番!!今ぁぁぁあああ・・・、スタートしました!!」


 ・・・、って、お前ボートレース見てたんかい!!紛らわしいし今する事ちゃうやろ!!


好美「良いじゃ無いのよ、このレース買い目と思って気になってたんだから。」

守「勘弁してくれよ・・・、こっちが頭痛くなって来たわ。」

好美「でも・・・、でもね?結果次第では今夜の宿が豪華になるかも知れないでしょ?」


 好美・・・、お前まさかと思うけど・・・。


好美「大丈夫だって、宿代には手を付けてないし自身があるんだから。」

守「いやいや、その自信どこから出て来てんだよ・・・。」

好美「だって2番のモーターの勝率高いし、1周タイムの1番時計を叩きだしてたんだよ!!前のレースでも5コースからの2着持ってるからこの2番が勝つのはほぼほぼ必然って思うんだよ・・・、おすすめだって言える位にね・・・。」


 結構出走表を読み込んでたみたいだけど、どう見てもその「おすすめ」が2周目の1マークで4位に後退しているんだが?どう責任を取るつもりなんだ?


好美「え?!嘘?!あり得ない!!2-5に10万も突っ込んだのに!!」

守「おいおい、何処にそんな金があったんだよ・・・。」


 相変わらず転生者達の金銭感覚は理解不能だな、と言うか金使い荒すぎやろ・・・。


-158 やっとですか?-


 好美が結構な高額をボートレースにつぎ込み、中盤で自分の負けが確定したので愕然としていた横で守は地道に宿を探していた。うん、偉い偉い。


守「おいおい、褒められても・・・、嬉しくなる年代じゃ・・・、ねぇぞ。」


 そう言っておいて顔が赤くなってんぞ、素直になったら良いじゃねぇかよ。


好美「もう・・・、人の彼氏をからかわないでよ。あれよ、もう夕方になりかけているから日が傾いてそう見えるだけよ。」


 えっ?!もう夕方なの?!お前らどうすんだよ、まだ泊まる所決まってねぇんだぞ!!


好美「分かってるよ、今度はちゃんと探すから許してよ。」


 分かったよ・・・、こっちも2人きりで行き当たりばったりの旅行なのに言い過ぎて悪かったな。


好美「良いよ、私達の事をずっと気にかけてくれていたんでしょ?1つの優しさとして捉えていたからどっちかと言うと感謝してるし。」

守「それに、お前がいなかったらこうやって好美と旅行になんて行けなかったからな。」


 お前らな・・・、何改まった様に言ってんだよ。取り敢えず早く宿探・・・、そうや・・・。


好美「照れてるね、ちょっと優しさ出して来てんじゃん。」

守「お前も人の事言えない奴だな、素直に喜べや。」


 違うわ、こういうの慣れて無いからどう返せば良いのか分からないだけだよ。


好美「そう言って・・・、照れてるくせに。このこのー。」


 何もない所を人差し指で優しくつんつんと突く仕草をする好美、改めて言うが俺の姿は誰にも見えないので致し方無いのだ。

 俺の事は良いから、宿はどうするんだ?さっきからこればかり言ってるけど、結構重要な問題だからな。一先ず洋風のホテルが良いか、和風の旅館が良いか相談したらどうだ?


守「そうだな・・・、好美はどっちが良い?」

好美「やっぱり疲れた体を癒したいから温泉付きの旅館かな、各部屋に露天風呂付の所があったらそこに行きたい。」


 普段から家にある露天風呂に入っているのに旅行先でも露天風呂に拘るとは、好美は「よっぽど(若しくは超)」が付く程の温泉好きと言える。と言うかお前、酒呑んでボートしてただけだから別に疲れている訳じゃ無いだろ?


好美「誰が私って言ったのよ、ずっと運転してくれてる守の事よ。」


 あらま、これは大変失礼致しました。彼氏想いの良い彼女じゃねぇか、羨ましいぞ。


守「何言ってんだよ、羨ましがっても決して誰にもやらねぇからな。」


 分かってるよ、でも8年も彼女がいない俺の立場からしたらこういった台詞も言いたくなるのお前には分からねぇのか?


守「分かるかよ、俺には好美がいるもん。」

好美「えへへ・・・。」


 くぅーっ・・・、いくら俺の妄想内の世界だという事を良い事に好き勝手しやがって・・・。


守「まぁ、悔しがっている奴は放っといてあそこにあるのはどうだ?」


 運転しながら数百メートル先にあるこじゃれた旅館らしき建物を指差した守、MT車だってのによくやるよ。


好美「良いじゃん、ちょっと調べてみるね。建物の名前分かる?」


 バルファイ王国(と言うよりこの世界)に和風の旅館があるとは想像もしていなかったのでそれらしき建物を見つけて少し驚愕する恋人達、果たして探している宿なのだろうか。


守「名前ね・・・、「竜騎士の館」だってさ・・・。」

好美「あれ?何処かで聞いた事が有る様な・・・、ちょっと調べてみるね。」


-159 するなよ?-


 もう夕方だと言うのに相も変わらずと言える程異常な気温の高さが故に喉が渇いたとの事で守が近くにあった公園の駐車場に車(カペン)を止めて自販機の方向へと向かった事を確認した好美は懐からスマホを取り出した、頼むから今度はちゃんと調べてくれよ。敢えて言っておくけど、「ボートなんかするなよ」。


好美「分かってるよ、流石に10万負けた直後だから舟券を買う気なんて失せたに決まってんじゃん。」


 俺は好美の言葉に何となく「ホッ」とした、一先ず2人の様子を静かに見守る事に。


好美「「竜騎士」ねぇ・・・、何となく身近にそんな人たちが約2名いた様な気がするんだよな・・・。」


 こんな事を考えながら「ぽややーん」とした表情をしていた好美は、検索サイトに「竜騎士の館」と打ち込むとすぐに様々なサイトやSNSのページが現れた。その中から一番上に出て来ていたサイトにジャンプしてみるとそこには館内のロビーや客室の様子がよく分かる写真が掲載されていた、やはり建物の外観と同様に純和風の風景が広がっていた。


好美「雰囲気も良いし、食事も美味しそうだな・・・。あ、各部屋に露天風呂が付いてる!!料金も思ったよりお手頃みたいだからここにしたい!!」


 好美が目をキラキラと輝かせていると守が買ったばかりの冷え冷えのコーラを飲みながら運転席に戻ってきた、水分を渇望していた本人の顔は恍惚に満ち溢れていた。


守「どう?あの旅館は良さそう?」

好美「凄いよ!!凄すぎるよ!!私が旅館に欲しい物が全部詰まってるよ!!」

守「ほう・・・、そうなん?」


 少し興味が湧いて来たのか、守は好美のスマホの端を摘まんで横から覗き込もうとした。その時・・・。


守「好美、また競艇見てたんかい!!」

好美「買って無いもん、見てるだけだもん。」


 俺の「フリ」を忘れる事無くしっかりとこなしていた好美、流石分かっておられる。


好美「えへへ・・・、守が興味を持ってスマホを覗き込もうと工夫するのが重要なのよ。」

守「全くもう・・・、やってくれるな・・・。」


 好美はちゃんと笑いを取った後(ただ誰に向けてかは分からないが)、再び先程のサイトへと戻った。ただ、部屋等の雰囲気が良さげという事は予約で満室になっているのではないかと少し危機感を覚えてしまった俺。


守「確かに館内の雰囲気とか食事は気に入ったけど部屋は空いてるのか?」

好美「ちょっと見てみるね・・・。」


 ほぼ飛び込みと一緒だといっても過言では無い位である直前の予約に対応できるほど部屋が空いているとは正直思えない、ただこの「竜騎士の館」を逃すと他に宿があるのだろうかという疑問が2人の不安を煽ってしまっていた。


好美「「空室状況はコチラ」ってある、ここ見たら良いのかな。」


 正直良い結果を期待する事が出来ない状況の中、好美は何かを覚悟した様子で「空室状況はコチラ」のページを開いてみた。すると・・・。


好美「守!!2部屋空いてるみたい!!予約しよっか!!」


 奇跡的にも空室を見つけたので今までに無い位にテンションが上がっていた好美、これが嫌でも「No」とは言えない状況だという事は誰にでも分かってしまう。


守「「善は急げ」だ、早く予約しよう!!」


 すぐ傍にある旅館ではあるがちゃんと予約をしてから入るべきだと思った好美が「空室状況はコチラ」のページ内にあった「ご予約はコチラからどうぞ」のリンクを押すと、電話番号が表示されてすぐに通話ができる状態になった。よくみるとその番号はフリーダイヤルらしいので早速掛けてみる事に、数回程コール音が鳴った後で男性が電話に出た。


男性(電話)「お電話ありがとうございます、「竜騎士の館」でございます。」

好美「あの・・・、2名で予約したいんですけど1部屋大丈夫ですか?」


-160 お疲れ様-


 ネットで空室が有る事を事前に知っていたので予約を取れるという事は既に知っていたのだが好美は少し不安になっていた、もしかしたらサイトの更新が遅くなっていただけで実際はもう既に満室になっていたのではないかと。だから言っただろ、ボートなんてやってる間があるならはよ予約取れやって。


好美「仕方無いじゃ無いのよ、どうしても自信のあるレースだったんだから。」


 自信があるからって外れたら意味が無いだろう、それに10万って・・・。


好美「何よ、過ぎた事をごちゃごちゃ言わないでよ。もう過去の話として水に流したんだからさ。」


 電話の向こうの男性は好美が何をしているのかが全くもって分からなかった、見えている訳じゃ無いから当然の事だ。


男性(電話)「あの・・・、よろしいでしょうか。」

好美「あ・・・、ごめんなさい。何の話をしてたんでしたっけ。」


 男性は改まった様に一息ついて予約の確認をする事に。


男性(電話)「ご予約のご確認です、この後17:00に2名様でのご予約で大丈夫ですね?」

好美「はい、間違いありません。」


 電話の向こうから聞こえる音声のみで男性が名簿に必要項目を書き込んでいる事が伺える中、男性は一番大切な事を聞き忘れていたのを思い出した。


男性(電話)「あの・・・、今更で恐れ入りますがお客様のお名前をお伺いしても宜しいでしょうか。」


 1番に忘れてはならない項目、どうして飛ばしてしまったのかを聞きたくなってしまうのは俺だけだろうか。


好美「「宝田」です、宝田でお願いします。」

男性(電話)「恐れ入ります、虚偽等での予約間違いを防ぐ為に下のお名前もお願い出来ますでしょうか。」


 男性のお願いに少し怖気付きながらも言われた通りにする好美。


好美「宝田・・・、好美です。宝田好美。」


 まさかの答えにより運転席で顔を赤らめる守、まぁそうなってもおかしくはないか。


守「お・・・、おい・・・。俺達まだ・・・。」

好美「守まで赤くなっちゃって何よ、文句でもある訳?」

守「べ・・・、別に何でも無いです。」


 ただ「何でも無い」事を即座に知ったのは暫くの間静かにしていたアイツだった。


カペン「守はん、動揺しすぎでっせ。今さっきやってエンストしかけてましたやろ。」

守「お前な・・・、何ハッキリと言ってくれてんだよ。」


 守が照れている事を良い事に少しからかってやろうと考えた好美。


好美「嬉しいんでしょ?素直に言ってみなよ。」

守「ば・・・、馬鹿・・・、運転に支障をきたすだろうがよ。」


 支障をきたすも何も、もう既に旅館の駐車場にいるじゃねぇかよ。


好美「そうだよ、守自身が白線の内側にキッチリとカペンちゃんを止めていたじゃない。」

カペン「ホンマでっせ、真希子はんでもあんなに何度も切り返ししてまへんでしたわ。」


 白線内のど真ん中を意識しすぎて何度も何度も前進と後退を繰り返していた守、そりゃあ運転されている車としても溜まった物では無い。


好美「取り敢えずエンジン切ったら?カペンちゃんも休ませてあげないと。」

守「うん・・・、そうだな。」


 守が好美に言われた通りカペンのエンジンを切ると好美は助手席から「運転お疲れさまと」言わんばかりに体を寄せ、両手を彼氏の首に添えた後に深くキスをした。

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