7. 異世界ほのぼの日記3 151~155


-151 重要な要素-


 「バルフ酒類卸」の端で少し頬を膨らませながらビールをどんどん追加していく好美、何処からどう見ても我慢している人の表情にしか見えないが本人が自分の主義を優先させたいと言う意志が強かった為に誰も止めようとはしなかった。もしも止めようものならまるで両親に躾の一環としてお菓子を禁じられた子供の様に泣きわめくであろうと周囲の全員が想像してしまったからだ、店内にいたバルファイ王国の住民達は誰もそこにいる女の子がネフェテルサ王国で最も大きな高層マンションの大家をしている者だとは想像もしなかっただろう。


守「あの好美さん・・・、決して駄目とは申してはいないのですがいくら何でも多すぎやしませんか?」


 買い物かごいっぱいに入った缶ビールを眺めつつも、後先の事を考慮してじっくりと言葉を選びながら質問した守。もしも目の前で未だに頬を膨らませる恋人に下手な事を言ってしまえば店を出てからの車内が修羅場と化すのが目に見えて仕方が無かった、可能な限り危険を未然に防ぐのが大人の考え方である。

 ただ彼氏の言葉を聞いた好美の反応は周囲の者達の予想からは大きく反する物だった、その見た目からは守が好美を泣かせたのではないかとも思わせてしまう様な雰囲気が醸し出されていたのだ。正直、気遣いが故に守から発せられた敬語がかなりの攻撃力が合った様で・・・。


好美「多く・・・、無いもん・・・、『アイテムボックス』に入れて少しずつ呑もうって思っただけだもん・・・。」

守「そ・・・、そうだよね・・・。折角の旅行なんだから酔い潰れちゃ勿体ないもんね。」

好美「それに独り占めする訳じゃ無いもん、確かに免許は持って無いけどずっと運転してくれてる守と一緒に後で吞みたくて多く買っただけだもん。」


 もしも俺が守の立場だったら好美のその気持ちがとても嬉しかったのだが好美の持つカゴに入っていたビールはまだ未精算だったので先に会計をしてしまおうと提案したいという意見も発したくなってしまっていた、いくら『アイテムボックス』を使っていると言っても流石に転生者達に万引きをさせる訳にはいかないので。


好美「何よ、折角の雰囲気を壊さないでよ!!ちゃんとレジに持って行くに決まってんじゃないのよ!!」


 そ・・・、そんなつもりは・・・、何かすんません・・・。


好美「もう・・・、早く行こうよ。いつまたこいつに茶々入れられるのか分かんないもん。」


 「あいつ」やら「こいつ」やらと・・・、お前ら俺の扱いが物凄く雑じゃ無いか?


守「だってよ、こっちからは全く姿が見えない奴にただただぶつくさ言われるのってあんまり気分が良いもんじゃないんだぞ。」


 まぁ、それもそうだな。取り敢えず会計済ませに行けよ、そろそろ大事な「あれ」を決めないといけないだろ?


好美「「あれ」?あんたは何言ってんの、「あれ」って意味が分かんない。」

守「そうだぞ、行き当たりばったりの旅行なんだから何でも予め決めちゃったら面白くないだろうが。」


 おいおい・・・、マジかよ・・・。「あれ」って言ったら今夜の宿じゃねぇのか?まさかと思うが野宿するつもりじゃなかったんだろうな?勘弁してくれよ、主役クラスの登場人物カップル2人が揃いもそろって道端で寝てるだなんて俺は嫌だぞ。


守「馬鹿な事言うな、流石にそれは無いわ!!」

好美「へぇー・・・、じゃあ良い宿を予約してくれているんだ。」


 顔をニヤつかせる好美を見ながら少し顔を蒼白させる守、まさかと思うが・・・。


守「きっとこういうのは結愛とかが何とかしてくれるかな・・・、って思ったから・・・、ごめんなさい!!」


 結愛はこの卒業旅行自体を知らなかったので宿を探してくれている訳が無い、ただ折角恋人同士で来ているんだから良さげな宿で一晩を過ごして欲しいと願ってしまうのは俺だけだろうか。


好美「偶には嬉しい事言うね、さっきとは全然違うじゃん。」


 少し嬉しそうにスマホで宿を探す好美、一先ず安心出来そうだ・・・。


-152 忘れてた-


 無心でただひたすらに運転する守の隣で長い間(何故か2台の)スマホと睨めっこしていた好美、さて今夜の宿は見つかったのだろうか。


好美「え?今夜の宿って何の事?」


 おいおい、さっきから今宵何処で過ごすかを探していたんじゃないのかよ。もしそうだとしたら何を見ていたんだと言うんだ・・・、どれどれ・・・、ってビールの醸造所かよ!!学生時代や元の世界で夜勤をしていた頃から脳内は酒の事でいっぱいなんだな、相も変わらずだぜ。


好美「何人の携帯覗いてんのよ、失礼じゃ無いの?!」


 いや、さっきから守が必死に近辺の2人で泊まる宿を探しながら運転しているというのに自分の為の調べ事をしていたお前の方がよっぽど失礼だと思うが?


好美「仕方ないじゃん、さっきのお店で呑んだビールが美味しかったから何処のやつかきになっていたんだもん・・・。」


 どうやら「バルフ酒類卸」が小売りを始めて数日後より醸造所から樽単位で買っているビールを、お客さんがその場で呑める様にグラスに注いで提供していた物の味に感銘を受けた好美はこのビールを是非「暴徒の鱗ビル下店」で提供したいと思って調べ始めた様だ。ただイャンダやデルア、そして他の経営者達と相談せずに契約を交わして仕入れても良いのかどうかが疑問視されるのだが・・・。


好美「大丈夫よ、「ビル下店」だったら勝手に鮪や野菜を沢山仕入れてもすぐに対応してくれるもん。」


 そう言えば過去にそんな事あった様な気がするな、ただ店側の者達は突然の仕入れに毎度毎度パニックになっていたぞ。


好美「何その言い方、それだとまるで私が店の従業員と敵対しているみたいじゃない。」

守「ハハハ・・・、今までの好美の行動を考慮するとそう言われてもおかしくは無いよな。」

好美「守まであいつを庇うの、酷い・・・。」


 少し寂し気な表情をする好美、それを見て気を利かせた彼氏は最近やっとやり慣れて来た『転送』を使って恋人に手渡した。


守「悪かったよ、ほら、これでも飲みな。」


 自宅の冷蔵庫で冷やしていた麦茶を手渡した守、しかし好美の反応は予想通り。


好美「ビールが良い・・・。」

守「おいおい、昼間っからどんだけ呑むつもりだよ。」

好美「だって、皆私が「暴徒の鱗」のバイヤーだって事認識してくれて無いんだもん。」


 今までギャンブルでの泡銭で買った物は一応バイヤーとしての「仕入れ」だった様だが、今思えばあの拉麵屋にバイヤーなんて役職があったのかが疑問であるが今は2人の旅行の事を(必要かどうか分からないが)内緒にしておくために他の者に尋ねる訳にもいかない。


守「それで・・・、倉下バイヤー(?)。お目当ての醸造所はお見つかりになりましたか?」


 「倉下バイヤー」と言う言葉に対する違和感があったからか、守の恋人に対する質問が何処かおかしく聞こえたのは俺だけだろうか。


好美「守・・・、気持ち悪いからその呼び方やめてよ。酔って無いのに吐き気がするじゃない。」

守「ハハハ・・・、それは悪かったよ。んで?醸造所は見つかったのか?」


 どうやら好美に合わせて行先を醸造所に決めた様だ、ただその道中で今夜の宿が見つかると良いのだが。


好美「今夜の宿・・・、あ!!すっかり忘れてた、ビールの事で頭が一杯になっちゃった。」


 やっぱりか・・・、流石行き当たりばったりの旅だよな・・・。


守「まぁまぁ、俺も見に行ってみたかったから丁度いいよ。後でちゃんと宿を探そうな。」


 守・・・、好美の行動等を必死にフォローしていたみたいだがその間宿を探すのをすっかり忘れていたお前も同罪だからな。


-153 思い出をもう1度-


 2人を乗せた車(カペン)は「バルフ酒類卸」を出てからずっとまっすぐな道を走っていた、ただその道のりは高速道路でも無いのに軽自動車にとってはかなりの距離を言っても過言では無かった様だ。


カペン「お2人はん、雰囲気から察するにお楽しみの様ですので水を差す様で申し訳ないんですけど少し退屈して来ましたわ。」

守「いやいや、『アイテムボックス』の中にずっといるままよりは断然マシだろう。」


 確かに守の言葉には一理ある様に思われた、しかしカペン本人(?)からの目線からすればそれ以上に今の状況を退屈だと思ってしまう理由があった様だ。


カペン「守はん、昔みたいに峠を走ったりしませんのかいな。ほら、真希子はんと一緒に走っていた時みたいに。」


 カペンの言動から察するに、元の世界にいた頃の真希子との記憶が強く根付いたと推測された。きっと走り屋の、いや「紫武者(パープルナイト)」の仲間の一員として峠を攻めていた記憶が蘇ったのだろう。


守「安心しろって、この旅行が終わったら嫌と言ってしまう位に母ちゃんと走らせてやるからよ。」


 ただ1つだけだが守は愛車に伝えなければならない事があった、元々母が「紫武者」と呼ばれていた最大の理由だ。


守「ただな・・・。」


 一瞬真実を告げるべきか迷った守、久々の愛車とのドライブ中にそんな宣告をしていいのか正直分からなかった。


カペン「「ただ」・・・、何でっか?何か言いにくい理由でもあるんでっか?」

守「特に理由は無いけど・・・、なぁ・・・。」

好美「「理由は無いけど」何よ、ちゃんと言ってあげないとカペンちゃんが可哀想じゃない。」


 本心からカペンをフォローをしているのか、それともただただ守を責めたいのかが分からない言葉を発する好美。しかし、カペンは好美の言動が嬉しかった様で・・・。


カペン「よく言ってくれましたわ、好美はんがそう言ってくれたら守はんもちゃんと理由を話してくれるはずですわ。」


 カペンの口調は何処か嬉しそうと言うか、楽しそうと言うか・・・。


守「別に言いづらい訳じゃ無いんだけど・・・、実は母ちゃんがスルサーティーから乗り替えたんだよね・・・。」

カペン「えっ・・・?!」


 別に守がブレーキを踏んだ訳では無かったのだがその場で急ブレーキをかけて止まったカペン、持ち主により伝えられた事実に驚きを隠せなかったらしい。


カペン「それは・・・、ほんまでっか・・・?」

守「本当だけど、急に止まったら後ろの車に迷惑だろ。」


 確かに突然道の真ん中で突然止まったカペンの後ろでは数台の車が列をなしていた、皆かなりご立腹との事でクラクションが鳴り響いていた。


カペン「すんまへん・・・、一先ず発車しますわ。」


 カペンは自らの意志でその場から発車した、後続車に謝罪の意を示す為に守が数秒程ハザードを点滅させていた。

 数秒後、気持ちを落ち着かせたカペンは聞き間違いだと良いと願いながらもう一度守に確認しなおした。


カペン「あの・・・、ホンマに真希子はんはもうスルサーティーに乗ってないでっか?」

守「さっきも言った通り母ちゃん本人は別の車種に乗り替えたけど、スルサーティー自体は弟子のピューアさんが乗ってるはずだよ。」

好美「そうだよ、うちのマンションの駐車場に止めて大切に乗ってるのを私知ってるもん。」

守「でも母ちゃんが車を替えたからってお前に何か問題があるのか?」

カペン「い・・・、いや・・・、別に・・・。」


 どうしてカペンは躊躇いを持っていたのだろうか・・・。


-154 学生時代の裏側-


 カペンの心中を未だに理解出来ない2人は本人(?)が話しやすい様にじわじわと会話を運んで行く事にした、直接的に聞いてもきっと理由を聞く事など出来ない事は最初から分かっていたからだ。一先ず懐かしい思い出を語る事でカペンが重い口を開く(?)きっかけになってくれれば・・・、なんて思ったりもしていた。

 おいおい、そんなに世の中甘くないと思うぞ。そんな作戦での誘導尋問が上手く行くとでも思っているのか?


好美「そう言えば守は日本にいた時、私が松龍でのバイトで会えない時はどうしてたの?」


 大学で毎日の様に会っていたのは良いが、やはりお互いが違う学部学科に通っていたが故に授業の時間割やバイトのシフトの関係で会えない時があってもおかしくはなかった。ただ当時の好美は心から守の事を信用していたので問題となる行動はしないだろうとあまり詮索しない様にしていたのだが、自分と会っていない時に何をしていたのかを全く気にしていなかった訳では無かった様だ。今日この日をいい機会だと踏んだ好美は時間だけはたっぷりあると思ったので思い切って尋ねてみる事にした。


守「そりゃあ・・・、バイトしてたよ。」

好美「でもさ、私がバイトしてた時間帯全てに守もバイトしてたとは限らないでしょ。」


 確かに好美の台詞は意表を突いていた、好美が午前授業だけで昼からバイトに入っていた時に守がランチを食べに行っていた事があった上によっぽど金に困ったフリーターでなければそこまでかつかつにシフトに入る事は無かったはずだ。

これは微かな記憶だが2人が付き合い始めた当時、好美へのプレゼント代や自動車教習所代等を稼ぐ為にバイトに励んではいたが好美との時間をちゃんと取ろうと努力はしていた様だ。


守「正と学内の図書館で勉強してたんだよ、やっぱりそれなりに余復習してなかったら大学の授業について行けなかったらな。」


 確かに高校時代までの物と違ってより専門的な内容となった大学の授業について行くには結構大変なものだ、それなりにノートをまとめたり配られた資料を見やすくするのも至難の業だったと言っても過言では無い。その事は友人の鹿野瀬 桃を通じて好美も聞いていたと思われるが・・・?


好美「で・・・、でも私からしたら授業やバイトが無い時は暇そうにしていた印象があったもん。でないとあんなに大盛りのランチを食べれる程の時間の余裕なんて無かったはずだったはずだよ。」

守「そこはやりくりして何とかしてたんだよ、でないとずっと動いているとストレスが溜まって授業どころじゃなくなっちゃうからな。」


 「人生最大の夏休み」とも言われる学生時代、やはり守も本人なりに楽しむ時間が欲しかったのだろう。

守のその気持ちは分からなくも無いがずっとバイトや授業に明け暮れてた訳じゃ無いだろ、好美はきっと自分の知らなかった所でお前が何をしてたのかを聞きたいんだと思うぞ。


守「分かったよ・・・、別に黙っているつもりも無かったしいずれは好美にも言わないといけないと思っていたからな。でも・・・。」

好美「「でも」・・・、何?」


 守には好美にどうしても話し辛い理由があった、元の世界で聞いた好美のとある台詞を思い出したからだ。


守「俺も母ちゃんと・・・、山で走ってたからさ・・・。」

好美「・・・!?」


 守は転生前、自宅横の駐車場(にしていた空き地)での好美の発言を忘れた訳では無かった。一応好美がスルサーティーに乗って走り出した真希子を目撃した直後に事情を暴露したが、やはり目の前の事実を受け止めきれていなかったという気持ちが心の片隅にあったのではないかと察していたので全てを話す事に抵抗があった様だ。

 先程の台詞を言った時、守は少し困惑していた。きっと無理矢理車から降りて逃げられてしまう、目の前から好美がいなくなってしまう・・・。

 守は兎に角怖かった、また好美と離れ離れになるのが怖かった。この世界には真帆がいる訳でも無い、また1人になるのではないかと怖くなってしまった。

 不安になる守をよそに、好美の答えは意外な物だった。


好美「何だ、そんな事?真希子さんもこっちにいるのに私が知らないとでも思ったの?」

守「えっ・・・?」


 そう、実は好美は守の転生前に真希子から息子(守)との思い出話を聞いていたのだ。


-155 親子-


 自分の質問に対する恋人の返答を軽く流しつつも、好美は心の中でとある会話を思い出していた。先程自らの台詞の中で名前を出した守の母・真希子である。当時この世界で出逢った(いや再会した?)ばかりの2人は元の世界で顔をチラリとしか見えていなかったので面識はあったものの(原因は勿論真希子)、互いを守の母親、そして恋人として上手く認識する事が出来ていなかった。

 そんな中、好美の家のバルコニー行われた食事会(と言うか呑み会)中に例の会話は行われた。


好美(回想)「あ・・・、あの・・・。」

真希子(回想)「ん?どうかしたのかい?」


 何故かいつもと違って人見知りを発揮してしまった好美、話しかけるときのたどたどしさがそれを何より物語っていた。


好美(回想)「真希子さんでしたっけ、お子さんはいらっしゃったんですか?」

真希子(回想)「私かい?元の世界に一人息子を置いてきちゃった身なんだよ、丁度貴女位の歳だったと思うけどね。」


 2人共顔を赤くしていたからか、今は何でも聞けそうな気がしていた。


好美(回想)「息子さんがお1人で・・・、じゃあ真希子さんだけこっちに来ちゃっているから寂しくしているんじゃないですか?」


 日本酒の入ったグラスを片手にしていた真希子の表情が少し暗くなったと感じた好美、今まで誰にも言えなかった裏事情でもあったのだろうか。それともまずい事を言ってしまったのだろうか、もし後者なら早いうちに謝罪をしておかなければならない。


好美(回想)「あ・・・、あの・・・、ごめんなさい。」

真希子(回想)「え?ああ・・・、良いんだ。こっちこそすまないね、少しだけだけど息子がまだ小さかった頃の事を思い出したんだよ。」

好美(回想)「お子さんとの思い出・・・、ですか。」


 ため息をついてグラスの日本酒を一気に煽った真希子は、再び深く息を吐いて語り始めた。少し酒臭かったが好美は全く気にならなかったという。


真希子(回想)「あの子が生まれたばかりの頃ね、今となっては正体を明かしているけど貝塚財閥の筆頭株主である事を隠していたシングルマザーだった私はスーパーでのパートや渚の手伝いで大忙しだったんだ。そうだったからあまり息子に構ってやれなくてね、パートから家に帰る度に決して広いとは言えなかった居間で1人遊んでいたのを見て涙をぽろぽろ流していたんだよ。それに金持ちって思われたくなかったから子供服は全部古着だったしおもちゃもろくに買ってやれなかったから本当に申し訳ない事をしていたと思うよ。その上渚の手伝いで山を走っていたもんだから、夕飯を終えるとすぐに出る事が多くて寝る前の読み聞かせもちゃんとしてやれなかった・・・。私は自分の事を母親失格で息子に恨まれて当然だと思ったね、でも気にしないでと言わんばかりに息子は笑顔ですくすくと育ってくれた、久々に会えたら何てお礼を言えば良いか・・・。」


 涙ぐむ真希子の両肩に手を乗せて優しく声をかけた好美。


好美(回想)「きっと・・・、感謝しているのは息子さんの方だと思いますよ。」


 昔、同様の話を守から聞いた事が有る気がした好美は守が決して母親を恨む事はせず、寧ろ「ありがとう」と言いたがっていた事を思い出した。


好美(回想)「女手1つで立派に育ててくれたお母さんの事を何で恨むんですか?貴女が必死に頑張っていた事はきっと息子さんに伝わっていると思います。」

真希子(回想)「そうかい?だったら嬉しいね。」


 今までの行いが全て報われた気がしてならなかった真希子、何となく目の前の女の子が女神に見えて仕方なかった。


好美(回想)「そう言えば・・・、息子さんとの楽しかった思い出は無いんですか?」


 場の雰囲気を変えようと咄嗟に質問した好美。


真希子(回想)「そうさね・・・、あの子が大学の頃に一緒に山で走っていた事かね・・・。」


 幼少の頃等に遊んだ思い出では無くまさかの学生時代に山を走った(攻めた)話、それが故にこの会話の事を好美はよく覚えていたという。「最悪の高校時代」は例外として他に2人が仲良く過ごした時はなかったのだろうか・・・。

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