7. 異世界ほのぼの日記3 146~150


-146 食・・・、後・・・?-


 流石に特盛の丼物を2つもペロリと平らげ、プリンを17個(売り切れになるまで)も食べた好美の表情は幸福に満ち溢れていた、可能な限り好美の機嫌を損ねたくなかった守は車の中で恋人が幸せそうに眠っていてくれることをただただ願うばかりだった。しかし、守の願望は席を立つ直前に打ち砕かれた様だ。


好美「すみません、お持ち帰りをしたいんですけど。」


 最低でもこの日1日は家に帰るつもりは無かったので守はどうして好美がお持ち帰りを頼んだのか疑問に思ってはいたが、その答えはあっさり判明してしまった。まぁ、俺は今までの流れからして予想は出来ていたんだが・・・。


守「おいおい、予め予想していたなら何で先に言ってくれなかったんだよ。」


 アホかお前は、俺が口出ししたら2人きりの旅行が台無しになっちまうだろうがよ。折角の恋人同士の時間であるこの行き当たりばったりの旅行を楽しんだらどうなんだ?こう言ったトラブル(?)も楽しむのが醍醐味ってやつなんじゃないのか?


好美「珍しく分かってんじゃない、偶には気が利く事言うじゃん。」


 いやー、それ程でも・・・。


守「お前な、人の彼女に褒められて照れてんじゃねぇよ。」


 あのな、8年も彼女がいない男からすれば今のお前らの状況がどれだけ羨ましいか分かってんのかよ。いつも指を咥えながら眺めている方の身にもなりやがれ、この野郎!!


守「お前が勝手に妄想しておいて勝手に指を咥えているだけだろうが、正直今の発言は虚しくないのか?」


 ああ・・・、虚しいさ・・・。でも仕方ないだろうがよ、深夜に働いている人間には出逢いの機会なんて皆無なんだからな。正直言って人生の半分以上を諦めている俺からすればもう何もかもどうでも良い事なんだがやはり羨ましいと思う事はあるんだ、察してくれよ。ため息ばかりの人生にも疲れちまったんだよ、たまには温泉にでも浸かりたいよ。


守「あんたも苦労してんだな、何かごめんな。」


 ああ、気にしなくても良いよ。10代の頃よりは気持ちが楽になったのは真実だからな、それよりも助手席を見なくても良いのかよ。


守「そう言えば・・・、さっきから和風出汁の良い香りがしてんだよな・・・。」


 結構な長丁場だった食事時間を終えてカペンに乗り込んだ守の目に衝撃的な光景が飛び込んで来た、好美が先程店員から受け取って後部座席に置いたばかりであるお持ち帰りの牛丼弁当にもう食らいついていたのだ。


守「おいおい、まだ食うのか?」

好美「まだ腹八分目じゃないもん、この弁当を全部食べてやっと八分目になるんじゃないかなって思うんだけどね。」

守「「全部」・・・?」


 丁度信号待ちで停止していた守は後部座席の方に視線を向けた、目線の先から和風出汁の優しい香りが漂う大きなレジ袋が2つ並んでいた。


守「そう言えばお前って、店を出た時に嬉しそうな顔してあの袋を抱えていたけど・・・。」

好美「何?文句あるの?」

守「いや、文句は無いけどさ・・・。まさか今から全部食うのかな・・・、って思ってさ。」

好美「当たり前じゃん、その為に買ったんだもん。」


 守はため息をつくばかりであった、この旅行の間に何頭分の牛肉を食べるつもりなんだろうかと想像したくはなかった・・・。


守「好美の胃袋ってどうなってんだよ・・・。」

好美「ご飯物だったら無限に食べれる自身があるね、だってご飯に合うものって美味しい物ばかりじゃん。」


 確かに助手席に座る高層マンションの大家の発言は否定出来ない、長年の間異世界で生活していても日本人である好美のご飯好きは変わらない様だ。


守「だからって好美・・・、こんなに食ったら動けなくなるぞ・・・。」


-147 牛丼屋や高層ビル以外に何があるのだろうか-


 ただひたすらに「透け家」で買った牛丼弁当にかぶりつく好美の横でアクセルとクラッチ、そしてギアの操作を繰り返していた守には疑問に思っていた事があった。


守「今更なんだけど・・・、俺達がこうやって2人で旅行に行っている事を誰にも言わなくても良かったのかよ。俺の事は良いとして、流石に好美の事を心配している人はいるはずだぞ。」


 両親である操と瑠璃がこの世界にいる訳では無かったが、ネフェテルサ王国で好美の事を温かく見守っていた者が沢山いたのは真実なので守が聞きたくなるのも無理は無い。その上、大家やオーナーである好美無しでマンションや「暴徒の鱗ビル下店」の経営が上手くいくとは思えない。王城の夜勤は有給で休んでいるから良いとしても流石に他は一言で大丈夫とは言い切れない。


好美「大丈夫だよ、誰にも頼らずに自分達だけでゆっくりとした時間を過ごしたかったから敢えて2人きりでの行き当たりばったりの旅行に行こうって決めたんだから。」

守「おいおい、「誰にも頼らずに」って今言ったけど内緒で出掛けた時点で他の人に色々と頼っている気がするのは俺だけか?そりゃ、マンションは不動産会社に預けているだろうし拉麵屋には店長と副店長にナイトマネージャーまでいるから問題ないかも知れないけど皆心配するんじゃ無いのか?」

好美「だから敢えて内緒にしているんだよ、言ったら言ったで皆が何言いだすか分からないんだもん。」

守「だからって・・・、無断で全業務を他の人に押し付けるような事して良いとは思えないんだが・・・。」


 守の核心をつく一言に少し焦りの表情を見せる好美、ただ一応は連絡をしていた様なのだが・・・。


好美「ちゃ・・・、ちゃんとメモを残しておいたんだもん・・・。」


 確かに好美は嘘を言っていなかった、いつの間にそうしたのかは知らないが念の為に「暴徒の鱗」の調理場の奥にある事務所(にしている小部屋)に「卒業旅行に行って来ます」と書置きを残していたらしい。ただ「守(男)と」と書いては無かった上にその日は風が強かったらしく、換気の為に窓が開いていたのでその書置き自体が飛んで行ってしまっていたので誰も気づかなかった様だ。


守「まぁ、お前がそう言うなら良いのかも知れないけど。」


 ネフェテルサ王国でそれなりに実力を持つ好美が言うのだから心配は無いかと一応安心していた守の運転するカペンは未だにバルファイ王国の国道を走っていた、暫くすると様々な大きさのトラックが並んでいる建物の前を通りかかった。どうやらここが美麗の新しい職場である「貝塚運送」の様だ、しかし今日は週休なので本人の姿は無かった為に素通りする事にした。


守「この辺りって本当に高層ビルばっかりなのかな、何処かゆっくりと観光して過ごせそうな場所があったら良いんだけど。」


 一言呟きながら運転する守の目にとある標識が見えて来た、どうやら高層ビル以外に何もなかった訳では無かったらしい。


守「好美・・・、「バルファイ植物楽園」ってのがあるけど行ってみるか?」

好美「何それ、初耳なんだけど・・・。」


 確か中学の頃に修学旅行で行った沖縄にそんな感じの場所があったなと思っていた俺を横目に、バルファイ王国にそういった自然豊かな場所があるイメージが無かった好美は守が指差した標識を確認した。たまには植物に囲まれて過ごしてみるのも良いかなと思ったので一先ず行ってみるかと恋人に提案して弁当に戻る、守にとって予想通りの行動を取った好美。


守「それにしてもお前・・・、いつまで食うつもりだよ。」

好美「折角買ったんだから温かい内に食べたいじゃん・・・。」

守「だからって・・・。」


 未だに無くなる事を知らない持ち帰り用の弁当の山を見てドン引きする守は、頭を掻きながら脇道へと逸れてなだらかな上り坂をゆっくりと登って行った。勿論、好美がマイペースで食事を楽しめる様にと気遣ったが故だろう。

 決して多くは無かったが数台ほどの車が止まっている場所が見えて来たので、まだまだ牛丼を口いっぱいに頬張っていた好美は右手で割り箸を握りながら指差していた。


好美「ねぇ、あれじゃない?駐車場っぽい場所が見えて来たよ。」


-148 暑さが故に-


 2人は駐車場に車(カペン)を止めて下車し、出入口らしき建物へと歩き出した。入り口前に置かれたパンフレットには開設してまだ2~3カ月とあった、どうやらまだ結愛達すら足を踏み入れていない「未開の地」の様だがあの社長夫婦の場合は「忙しいから」というのが一番の理由だと言える。

 ただ2人はあまり良い予感がしていなかった、元の世界にいた頃に小説や漫画、そしてアニメに出て来ていた異世界の植物と言えばやはり「マンドラゴラ(マンドレーク)」など少し奇妙さのあるものばかりだと思っていたので「植物楽園」のイメージが全くもって無かったのだ。


好美「ねぇ・・・、何か入るの怖くない?他のお客さん少ないみたいだからそんなに人気じゃ無いんじゃないかな。」

守「いや・・・、そうじゃないだろ。平日だから少ないんじゃないかな。」


 確かに2人がここに来た今日は火曜日、大抵の住民が忙しく働いているはずだ。特にバルファイ王国は国土の殆どがビジネス街と化しているので皆慌ただしく動いていると思われる。

 一先ず恋人達は券売機で入場券を購入して中に入る事にした、元々この世界は比較的温暖な気候であったがその中でもバルファイ王国は元々砂漠地帯だったので気温が高く住民達の水分が奪われやすくなっており、どの店や施設の前にも自販機や給茶機が設置されている事が多かった。


好美「ああー・・・、暑い!!ここは沖縄なの(行った事無いけど)?!」

守「汗が全然止まらないな、バスタオルを使っても足らない位じゃ無いのか?」


 よくよく考えれば先程も言ったようにこの国は元々砂漠地帯、これは飽くまで推測だが水等を求めた先住民達がここに住み着いてオアシスを中心として都市開発を行っていたが故に元々少なかった木々を伐採等で皆無にしてしまったので他の2国に比べて現状の様に気温が高い日々が続いていると思われる。その上オフィスビルにあるエアコンの室外機から排出されるガスや行き交う車から出る物もその原因の1つだと言えよう、きっとパルライが今一番考えるべきなのはラーメンの新味のスープ開発ではなく環境問題と言いたいのは俺だけだろうか。

 兎に角涼を得たかった2人は給茶機でありったけの水を飲み干して中に入る事にした、どうやら出来るだけ外に出たくなかったのは施設の係員も同じだった様で出入口には自動改札機が設置されていた(徳島に全くないあれだな、此畜生め・・・)。

 改札を通り中に入ると冷水で満たされた大きな円形の池を中心に左右に道が分かれていた、この植物楽園は空気の入れ替えを常に行える様にと全体網上のドームで囲んでいて植物の側には中央の池からいつでも水をやれる様に小さな水路が張り巡らされていた。きっとこれは可能な限り涼し気な気分で植物を楽しんで欲しいというデザイナーならではの気配りと言えよう。

 そんな中、左側の通路を選んだ2人は時計回りに施設内を見て回る事にした。2人の想像に反してそこにあったのはまさかの・・・。


好美「これ・・・、もしかしてハイビスカスってやつ?」

守「ああ・・・、そうらしいな。」


 どうやら他の2国に比べて気温が高いという特性を活かして暑い場所で良く育つ植物が中心として栽培されていた様だ、それが故に通路の途中にあった2台の屋台で売られていたのもまさかの「アレ」だった。


守「バ・・・、バナナだね・・・。」

好美「隣はチョコバナナなんだ・・・。」


 どうせなら1つの屋台で売れよと言いたいが、売り子の2人が仲違いしたので別々に販売しているのだそうだ。ただ売れていたのが日本のお祭りなどでよく好まれる食べ物・・・。


好美「こっちは胡瓜の1本漬けなんだね・・・。」

守「かき氷もあったら完璧に日本だな・・・。」


 頬をヒクヒクさせる2人の目線の先には予想通りかき氷の屋台もあった、やはりこの国の者達が何よりも求めているのは「涼」しかない様だ。もういっその事上から水でもぶっかけちまえと言いたくもなってしまう、ただ俺も暑がりなので気持ちは分からなくもない。

 一通り植物を見て回り、ただただ涼しくなりたい住民達の要望に応える為だけに設置された冷たいメニューばかりの屋台飯を腹に押し込んだ2人は取り敢えず土産物屋へと入った。出入口の自動ドアを通った恋人達の目に真っ先に飛び込んで来たのはまさかの・・・。


守「ちんすこうか・・・、もう完璧に沖縄じゃんかよ。と言うか逆に喉乾くわ・・・。」

好美「駄目でしょ、思っていてもそんな事言っちゃ。」


 ・・・って、そう言ってるという事はお前も思ってたんかい!!


-149 ここは異世界のはずなのだが-


 土産物屋で好美達はありったけのちんすこう、紅芋タルト、そしてサーターアンダギーの素を買い尽くした(完全に沖縄じゃねぇか)、好美の事だから「暴徒の鱗」や「コノミーマート(相変わらずセンスの無いネーミングだな)」の商品として売る為の仕入れでもしているのでは無いかと思われたが別の可能性を示唆している人物がいた。この日はお客自体が少ないと見込んでいた為、多くの従業員を休みにしていたので偶然レジを打っていたこの店の店長だった。


店長「あの・・・、誠に失礼である事を承知の上でお伺いするのですが、まさか最近はやりの「転売ヤー」とかいうやつですか?」


 1年程前からこの世界でも店で買い込んだ商品をネットのフリマサイトやオークションサイトで高値で売り捌くと言う行為が目立っていた様だ、確かに1度に多くの商品を買い込んでいたら疑われても仕方が無い。


好美「いえ、実は知り合いに大食いのハーフ・ヴァンパイアとマーメイドがいるんです。」


 俺としてもあまりに信じがたい話だったがこの世界での事実なので仕方が無い、料理上手の姉を持つメラは兎も角、ガルナスに至っては完璧に母親(光)からの遺伝と言っても過言では無い。多分だが吸血鬼として血を吸う事が無くなった分大量に食事を摂取する様になったのだろう(特に白米)、2人がそんな事を考えていると店長はとある方向を指差していた。


店長「もしかして・・・、ガルナスさんとメラさんの事ですか?」


 何故店長が2人の名前を知っているのかと疑問に思いながら2人は店長の指差した方向へと視線を向けた、その先には小さなテレビが1台。


店長「貝塚学園の生徒対抗で行われている大食い大会を見ていたんですよ、ペア部門に私の娘も出ているんですがお2人が圧倒的に強かったんで見入っちゃいましてね。」


 どうやら都合がつかずに生徒の様子を見に行ったり応援しに行くことが出来ない保護者の為に校内で行われるイベントを中心としてテレビ放送を行っている様だ、それにしてもアイツは何ていうイベントを主催しているんだよ・・・。


好美「ハハハ・・・、だったら説明する必要無いみたいですね。」

守「こちらとしては手間が省けて良かったです・・・。」


 会計を済ませて店を後にした2人は大きなビニール袋を両手いっぱいに持って車(カペン)の方へと向かった、そう言えばコイツって「好きなだけ喋らせて貰う」って言っておきながら移動中はほぼ無言だった様な・・・。


カペン「しゃあないでっしゃろ、こんな暑さは日本でも経験せんかったんですから。」


 一応オープンカーの状態から元にもどしてはいたものの、室内温度の急激な上昇を防ぐ為にほんの少しだが窓を透かしていたのにも関わらずにこんな事をほざいてやがる。何て我儘な人・・・、いや車なんだ全く・・・。


カペン「何言ってまんねん、車内と社外は別物って考えてもらわな困りますわ!!それよりお2人さん、そないにようけ買われてもワイは軽やさかいに載せれまへんで。」


 おいおい、今まで自分が何処にいたのか忘れたのかよ。


守「大丈夫だよ、『アイテムボックス』に入れておくから安心しなって。」

カペン「良かったですわ、こんなくそ暑い中で重い荷物運ぶのって正に拷問ですんでね。」


 だったら炎天下での仕事に携わる工事用車両はどうなるんだよとツッコミたくなった2人、しかしこの暑さでそんな気はすっかり失せてしまった様だ。


好美「かき氷とかいっぱい食べたのにもう暑くなって来ちゃった。」

守「こんなに暑いんだから仕方ないよ、と言うか何で結愛達はずっと長袖なんだ?」


 「社長らしく振舞う為に」と本人は答えると思われるが、正直な気持ちを聞きたいのは俺の方である。夏期のクールビズも勧められている世の中だと言うのにこの暑さの下で上下共に長袖と長パンツはハッキリ言って自殺行為だ、俺は決して真似できない。


好美「取り敢えず次も涼しくなる所に行こうよ、このままじゃ死んじゃうよ。」

守「そうだな・・・、一先ず水分補給できるような物を買いに行こうか。」


 一応転生者達は不老不死だが、今はそんな事言っている場合では無い。


-150 好美にとってのオアシス-


 恋人達は植物楽園の駐車場を後にして再びまっすぐな道を何も考える事無く走り始めた、と言っても「暑い」という一言はずっと脳内に残ってはいたのだが。


好美「取り敢えず飲み水があれば助かるね、念の為に多めに買っておかない?」

守「賛成だな、こんなに暑いとどれだけあっても足りないかもしれないからな。」


 猛暑の中でひたすらに店を探していた2人、ネフェテルサ王国(と言うより2人が住むマンション)の様にすぐ近くにコンビニが有る訳では無かったのでかなり苦労したが楽しいドライブの時間が延びたと思えば難なく耐える事が出来た。

 5分程走ると2人の目線の先にある店が見え始めた、暑さだからかどんな場所でも良いと思い始めた守は何も考える事無く駐車場にカペンを止めた。


カペン「またワイをこんな暑い所に放置するつもりでっか?」

守「「放置」だなんて人聞きの悪い事言うんじゃねぇよ、駐車場以外に何処に止めろって言うんだよ。」


 確かに双方の言い分は分からなくもない、ただ店用の駐車場があると言うのに路上駐車をする者などいるのだろうか。


好美「すぐに戻って来るから待っててね、お利口さんにしてたら後で冷たいお水をかけてあげるからさ。」


 好美の一言を聞いてから数秒程沈黙したカペン、何かあったのだろうか。


カペン「ま・・・、まぁ・・・、待たないとは一言も言ってませんし・・・。」

守「お前、暑さでどうにかなったんじゃないのか?」

カペン「何を言っているんでっか、無事に目的地に向かえる様に持ち主を待ち構えるのも車としての使命の1つですわ。」


 ボディ自体はシルバー1色なのだが、ほんの少しヘッドライトの真下辺りが赤くなった様に見えたのは気のせいだろうか。


守「お前・・・、まさか・・・。」

カペン「ワイはただの車でっせ、持ち主の恋人に惚れる訳が無いですやんか!!」

守「俺・・・、まだ何も言って無いけど自分から全部吐いてくれたから助かるわ・・・、って好美に惚れたのか?!」


 どうやら元の世界にいた頃から好美と再会したかったのは守だけでは無かった様だ、ただ人間が車に惚れこむ事案はよく聞いた話であったが逆があるとは思いもしなかったな。


好美「ヘヘヘ・・・、私もモテるもんだね。いっその事カペンちゃんと付き合っちゃおうかな。」

カペン「カペンちゃんだなんて照れるやないですか、そんなん言われたの初めてですわ。」

守「好美!!」


 誰も乗っていないのに勝手に少し動いた様に見えたのは守や俺だけだろうか、いくら意志があるからってサイドブレーキをしっかり上げている車に動かれるのは困りものだ。


守「全く・・・。兎に角ずっと話していても暑いだけだから店に入ろうよ、店がすぐ傍にあるのに冷たい飲み物含めて全てが遠く感じちゃうよ。」

好美「そうだね、カペンちゃんはちょっと待っててね。」

守「何でもありだからって勘弁してくれ・・・。」


 恋人達は駐車場から数歩程歩いて店に入った、店の看板等をよく見ずに入ったので今頃気付いた事なのだがこの店は好美の好物の「あれ」で満たされていた。


好美「ここ・・・、酒屋さんだね。」


 どうやら2人は知らぬ間にナルリスが贔屓にしている「バルフ酒類卸」に来ていた様だ、店にはアルコールは勿論だが隅でソフトドリンクやお菓子も揃っていた。


守「取り敢えず冷たい飲み物を買おう、こういう時はスポーツドリンクが一番良いよな。」


 ただ守は少し離れた所にいる好美が片手に持っていた物を凝視していた、店に入った時からある程度予感はしていたのだが何処からどう見ても缶ビールだ。


守「好美・・・、気持ちは分からなくも無いが今呑むと逆に水分が無くなるぞ。」

好美「良いじゃん、私は基本的に好きな物を決して我慢しない主義なの!!」

守「あ・・・、そっすか・・・。」

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