7. 異世界ほのぼの日記3 136~140


-136 奪われた生活や思い出達-


 珍しく俺の言う事を素直に受け入れたのか、2人は早々に浴槽から上がり客室へと戻った。相も変わらず片手にはビールを持っていたが、今は良しとしようではないか。

 先程まで浸かっていた浴槽が見える大きな窓に向かって置かれていたソファに横並びに座った後、何度目か分からない乾杯を交わしビールを一気に煽った。


好美「ねぇ、さっきの続きを聞かせてくれる?1つの学校での事件だったから義弘以外にも悪い奴らがいたんでしょ?」


 守は大株主であった義弘派閥の2人の事や金に目が眩んだ教師達、そして(勿論結愛に味方していた羽田達を除く)黒服達の事を包み隠さず話した。国際指名手配犯が絡んでいた事を話した時には好美の顔はかなり蒼白していた様だ。


好美「そこまでして義弘は何がしたかったの?」

守「俺も結愛から聞いた事なんだけど、兄の海斗を含めた兄妹達の学力の徹底した向上を図っていたらしいんだ。結愛達に奴は「他の生徒達を押し倒してでもやれ」って言ってたって聞いたよ。」

好美「結愛も大変だったんだ、だから学園事業に凄く真面目なんだね。」

守「義弘によって失った信頼を取り戻すんだって必死になってるよな、あいつはあいつなりに十分やってると思うな。」


 父親から全権を奪ってからと言うもの、最悪とされていた学園の環境が一気に改善されたのも結愛の努力があってこそだった。義弘の指示により取り壊された校舎や体育館、そして部室棟が再び建設された時、多くの生徒達が涙を流したという。

 じっくりと守の話を聞いていた好美にはやはり許せない事があった、膝の上で握っていた拳が震えていた事からもその心情がよく読み取れた。


好美「いくら成績が下だからって殺す事無いじゃん、いくら何でも酷過ぎるよ。そこまでする必要があったの?」

守「学園自体の偏差値や摸試の平均点を上げる為だったって、これも結愛から聞いた事だけど。」

好美「他には何をされたの?テレビでは言って無かった事が多いみたいだから良かったら聞かせてよ。」


 守はビールを一口吞んで一息つくと再び話し始めた。


守「まず親に手紙を出して1食も食えなくされちまってな、食堂も購買も閉鎖されてたよ。当然弁当も無かったから腹が減って仕方が無かった、俺もそうしたけどトイレの手洗い場で水を大量に飲んで何とか誤魔化していたのを覚えているよ。それから学校から一切出る事が出来なくされたんだ、教師たちは鍵を持っていたけど俺達は閉じ込められてた。深夜も電灯やカメラが作動していたから寝る事も許されなくてね、毎日の様にバタバタと生徒達が倒れていたんだ。その上で早朝から深夜までの補習を受けさせられてたから堪ったもんじゃ無かったよ、正直結愛がちょこちょこ家から持って来てくれてた食料が本当に有難くて嬉しかったんだ。」


 守の壮絶な過去の話を聞いて耐え切れなくなったのか好美は号泣していた、それを見た守はしてはいけない話をしてしまった様な気分になりその事を反省していた。


好美「義弘・・・、絶対許せない!!」


 守は少し抵抗しながらも話を続ける事にした、義弘により高校時代に経験して出来るはずだった思い出が全て無くなってしまった事が本当に悔しかったらしい。


守「修学旅行や遠足、その他諸々が全て無くなった。文化祭だって、そして体育祭だって全て無くなりまるで塾や予備校に通う浪人生の様な生活を強いられていたんだ。そんな中で毎週摸試を受けさせられていたし定期考査の後も摸試で本当に辛かった、教師たちが本当に殺人鬼に見えた。ただ悪いのは全て義弘で、結愛はそれに必死に対抗しようとしていた。俺達に味方してくれたんだ、結愛本人も奴の事を憎んでいたからな。ずっとパンツスーツ姿なのも実はそう言う理由なんだぜ。」

好美「えっ?どう言う事?」


 守はスマホを取り出して遠い昔の写真を表示させた、まさかの結愛が飛び蹴りで監視カメラを破壊するあのシーンだ。と言うかお前、写メ撮ってたんかい!!


守「あいつ、転校したての頃は義弘の趣味でフリフリの洋服ばっかり着せられていたんだぜ、だからずっと憧れてたパンツスーツを着ているんだってさ。」


 余計な事を言ってたら結愛に『察知』されちまうぞ、俺はどうなっても知らないからな。


守「えっ?!えっと・・・、今の無しにならない?」


-137 必需品は土産物屋で-


 旅館で一晩を過ごした恋人達は受付でチェックアウトをする為に浴衣から着替えて客室を後にして1階にある受付へと向かった、客室の物とは別に作られている大浴場と露天風呂で朝風呂を楽しんでいたであろう客達を眺めながらゆっくりと階段を降りていく2人は一先ず折角の記念にと土産物屋へと向かった。


好美「やっぱり温泉饅頭が多いね、日本とまるで変わらないよ。」


 好美がゆっくりと店内を巡る中、守はもう1つ日本と変わらない物を見つけた。何処の旅館の土産物屋でもよく見かける「あれ」を発見した様だ。


守「こっちでもこんなのが売っているんだな、中学校の修学旅行で使って以来だった様な気がするな。」


 店内に並んでいる商品を見て懐かしい思い出に浸っていた守の横にそっと好美が近づいて来た、好美も守と同様に何処か懐かしい気持ちになっていたらしい。


好美「これ、私も使った事あるよ。思い出を残すのに丁度良かったな。」

守「何なら買うか?これから旅行に出かけるんだし。」

好美「良いね、学生に戻ったみたいで楽しいかも。」


 2人は1つずつその商品を買う為にレジへと持って行った、本来は会計を担当するパートがいるみたいなのだがまだ就業時間では無いらしいので来ていない様だから昨日会った受付の女性が代わりを勤めていた。


受付「いらっしゃい、あらま、お土産じゃなくてそれを買うの?」

好美「うん、旅行は今から行くからね。」

受付「好美ってこの世界に来てから働いて吞んでを繰り返してばかりだったから気分転換になって良いじゃない、お土産よろしくね。別にここにあるやつでもいいわよ。」

好美「何でまだ出かけてもいないのにお土産を買うのよ、しかも何気にお店の商品を宣伝して来るなんて。」

受付「えへへ・・・、こっちも商売だからね。」

好美「もう・・・、相も変わらず侮れない人なんだから気が抜けないったらありゃしない。」

受付「でも好美、2人共これ買ってるけどスマホを使えば必要無いんじゃない?」

好美「良いでしょ、こう言ったレトロな物を使うのも味があるってもんよ。」


 早く会計を済ませたいという2人の心中を察した受付は少しだけだが気を遣った。


受付「ねぇ、何なら宿泊料金などと一緒に会計しちゃう?その方が楽でしょ。」

好美「それは助かるけど大丈夫な訳?と言うかそれってここにいる意味ある?」


 この土産物屋にはロビーとは別にレジが設置されていた、流石に何かと誤差が発生して問題になってしまうのではなかろうか。


受付「大丈夫よ、どうせ後で合算しちゃうし私はよくやってる事だから。」

好美「そんなのルイズが勝手に判断しちゃって良いの?」

ルイズ「アーク・エルフを見ないで頂戴、私はここの女将なんだから問題ないわよ。」


 どうやらこの旅館においてルイズは結構上の方の地位に立っている様だ、もしかしたら主人の妻だったりするのだろうか。だからって旅館の裏事情を易々と話して良いもんじゃないはずだが今その話は置いておこう、またもや進行が遅れてしまう・・・。


好美「ただ昨日から何で普段と違って着物なのかと思ってたんだけど女将だったのね、案外似合っているじゃない。」

ルイズ「何よ、女将だから普段は着物なんだけど。」

好美「嘘でしょ!!普段はパンク系の服ばっかり着ているじゃないの!!」


 おいおい・・・、パンク系ファッションを着ているエルフって想像も付かないしその人が旅館の女将って・・・。


ルイズ「待って、それは内緒にしてる事なの!!サービスするからここでは言わないで!!」


 誰しも何かしらの秘密を持ち得ているのはこの世界でも一緒の様だ、ただ先程から気になっているが2人は何を買ったと言うのだろうか。


ルイズ「宿泊代とその他諸々・・・、あとさっきの使い捨てカメラを合わせてえっと・・・、あんた達1晩の内にどれだけ楽しんでたのよ・・・。24万9800円よ、異様じゃない。」


 ルイズが驚きを隠せずにいる中で好美はさらりと支払いを済ませてしまった、そして買ったばかりのカメラの封を開けて早速『アイテムボックス』に入れた。


-138 重要な要素-


 好美はさらりと支払いを済ませたものの、やはりドケチの血が騒いだ様ですぐさま収入印紙の貼りつけられた領収証兼レシート(明細)を確認した。1人1泊78000円の宿に2人で宿泊したにはどう考えても高すぎる、何をそんなに消費したと言うのだろうか(と言っても大体は想像がついてしまうのだが)。


好美「何よあんた、今失礼な事を考えていなかった?」


 いや、そんな事無いですよ(まずいまずい)。お気になさらないで下さいませ、やはりマンション等の経営者なのでお金に関してはシビアなんでしょう?


好美「でもさ、宿泊代以外に心当たりがないんだよね。露天風呂は客室に標準装備だったからお金はかかって無いはずだし、ビールもそんなに・・・。」


 ほぉ、「そんなに・・・」ですか。守、今すぐ領収証を回収せんかい。


守「確かに2人での宿泊代が15万6000円だから差額の9万3800円が何の料金なんか気になるよな、食事をランクアップさせた訳じゃ無いしずっと客室にいたからカラオケをした訳じゃ無い上に卓球は無料って書いてあったからな・・・。何だろう・・・。」


 守、わざとらしいぞ。「アレ」しか無いだろうがよ、「アレ」しか!!視線を下の方にパーンせんかい、パーン・・・。


守「えっと・・・、下の方ね・・・。」


 守が、目線を明細の下の方にパーンと下げてみると「ビール代」と言う項目が目立っていた。そりゃあそうだ、「ビール代」が93800円なんだからな。と言うかお前ら、レストランで散々呑んだ後なのに旅館中にあったビールを呑みつくすなんて馬鹿じゃねぇの!!


好美「良いじゃないの、守の話を肴にずっと呑んでいたんだから。」


 守の壮絶な過去の話は好美にとって絶好の酒の肴になっていた様だ、守や結愛は結構辛い想いをしたはずなのにまさかのおつまみ扱いとは・・・。いいか好美、お前も泣いてたんだから決して笑い話じゃなかった事を忘れんじゃねぇぞ。


好美「分かってるよ、それより早く行こうよ!!」

守「そうだな、でもここからどうやって行こうか。」


 旅館の玄関前で立ち尽くす2人は旅行に行く事に関して絶対必要な要素となる物を考えていなかった、そう、「移動手段」である。昨日は少し冷ましてから歩いてこの旅館に来たものの、2人共呑んでいた事には変わらない(この世界でも飲酒運転は重罪です)。確か守ってこの世界の車を持って無かったはずな上に好美に至っては免許すら持っていない、と言うかいっその事『瞬間移動』を使えば良いんじゃねぇのか?


好美「駄目だよ、折角の旅行なんだから『瞬間移動』なんて使ったら楽しくないじゃない。」

守「そうだよな、ゆっくり行きたいよな。ちょっと待ってろよ、確か・・・。」


 突然『アイテムボックス』に上半身を突っ込んだ守は必死に何かを引っ張り出そうと苦戦していた、かなりの重量の物を取り出そうとしている様だが何処か見覚えのある光景な気がするのは俺だけだろうか。


好美「ん?何してんの?」

守「ちょっと待ってくれ、確か日本からこれを持って来たはずなんだよ。あったあった、よいしょっと・・・。」


 「ズシーン!!」という音を立てながら守が取り出した物が土埃を上げて地上に降り立った、ただお前も美麗みたいに『転送』で持ってくれば良かったんじゃねぇのか?わざわざ『アイテムボックス』に入れなくても良いじゃねぇか、お前は渚か!!


守「えっ?!渚おばさんもこんな事してたの、びっくりだな・・・。」

好美「それより、これって・・・。」


 空いた口が塞がらない好美の前に現れたのは守が元の世界で乗っていた「カペン」だった、勿論母・真希子拘りの6MTや走り屋仕様なのはそのまま残っている。ただ、いつの間にかこの世界仕様の「クリスタル」が搭載されていた。しかし、好美の心中には別の疑問が浮上していた。


好美「ねぇ、何でマンションの駐車場に止めないで『アイテムボックス』に入れていた訳?軽だけど結構大きいからやめといた方が良いんじゃないの?」

守「うん、好美に言うの忘れてた。」


-139 人手不足が故のエルフのもう1つの役割-


 大切な要素と言える「移動手段」は確定したものの、2人は全くもって目的地を決めていなかった。大体は旅行雑誌などを読んで目的地や食事等を決める事が多いと思われるが「卒業旅行に行く」事だけしか決めていなかった恋人達は何1つ調べ物をしていなかった、と言うか天界や外界を除いては隣り合った3国しかないので別に決める必要は無いと思われるがどうするつもりなんだろうか・・・。


好美「別に良いんじゃない?「目的」って必要な物なの?」


 確かに1番の目的は「旅行自体を楽しむ」事にあると思われる、目的地や何をしようかなどを予め決める必要は無いのかも知れない。もしかしたら行く場所で何かしらが見つかるとも言えるはずなのでそれに期待しても良いのかも知れない、行き当たりばったりと言う言葉があるのでそれに従ってみても楽しい可能性が無きにしも非ずだ。


守「一先ず出発するか、ずっとここにいても仕方ないんだし。」

好美「そうだね、ずっとこの駐車場にいたらルイズに迷惑を掛けるだけだからね、多分。」

ルイズ「多分じゃないわよ!!」


 おいおい・・・、まさかお前、ずっとそこにいたのかよ・・・。


ルイズ「そんな事どうでも良いでしょ、それより早く行ってくれなきゃ他のお客さんが入れなくて困るでしょうよ。」

好美「分かってるよ、私達お客なのに何でそんな扱いされないといけないのよ・・・。」

ルイズ「「何で」か知りたい・・・?」


 小刻みに体を震わせながら好美達の正面へと振り向き直すルイズ、女将の見た目は昨日とは打って変わって・・・。


好美「あんた・・・、今日は何でそんな格好なの?」

ルイズ「この旅館も人手不足なの、私が仕方なく駐車場の整理や警備を担当してもおかしくないのよ。」


 そう、ルイズは水色の制服に警察官とほぼ同様の服装を身につけていたのだ。何処からどう見ても旅館の女将には見えない、と言うかいくら人手不足だからって女将がそこまでする必要があるのかよ。


ルイズ「うちの仕事はシフト制なの、今日は私が駐車場係な訳で別に仕事が固定されている訳じゃ無いのよ。」

守「ハハハ・・・、こりゃいの一番に相談すべきは1人しかいない様だな・・・。」


 一方、「暴徒の鱗 ビル下店」では・・・。


結愛「ハックション、ハーックション!!うーん・・・、風邪引いちまったかな・・・。」

デルア「おいおい結愛、いくら何でも胡椒のかけすぎじゃねぇのか?」

結愛「無意識にかけてたからな・・・、やらかしちまったわ・・・。」


 結愛のパンツスーツが胡椒やラーメンのスープ、そして少量の涎に塗れる中で場面は旅館の駐車場に戻り・・・。


ルイズ「兎に角、あんた達に出て貰わないと駐車場の入り口の前に車が溜まって仕方ないから早く行きなさい!!」

好美「もう・・・、それがお客に対する態度な訳なの?」

ルイズ「もう会計が終わったんだからあんた達なんて用済みよ、早く行ってくれない?」


 おい待て、何処かで聞いた事がある様な台詞だが権利的な物を考えろ!!


ルイズ「何言ってんのあんた、訳分かんない・・・。」


 まぁ、良い事にしておくか・・・。取り敢えず2人共、今は旅館の迷惑にならない様に早く出てやれ。


好美「あんたもなの・・・、そこまで言わなくても良いじゃないのよ。」

守「取り敢えず車に乗ろう、ずっとここにいても時間が無駄になるだけだよ。」

好美「守がそう言うなら・・・、うん・・・。」


 少し抵抗していた好美と共に車に乗り込んだ守、一先ずクリスタルに魔力を流し込んでエンジンを起動した後にギアを「2」に入れた(実は作者もこうしています)。


好美「ねぇ、細かい事だけど何で「1」じゃなくて「2」に入れたの?」

守「うーん・・・、母ちゃんがそうしてたから・・・。」


-140 暫く見ない間の変化-


 少し嫌嫌な雰囲気を醸し出していた好美を含めた恋人達が渋々車に乗り込んだ後、守は旅館の駐車場から出ようと元の世界にいた頃の記憶と感覚を頼りにギアを「2」に入れてエンジンを蒸かした。『アイテムボックス』内でほったらかしにして久しく乗っていなかったからか、少々興奮気味になっていた事で母・真希子が持つ走り屋の血が騒いでいたのが見て取れた。


好美「ちょ・・・、ちょっと・・・。大丈夫な訳?」

守「当たり前だろ、これは俺の車だぞ。」


 好美は元の世界にいた頃のデートで何度もこの車に乗って出かけていたが故に大丈夫だと信じたかったが、やはりブランクが大きいからか多少ではあるが不安な気持ちがあった様で本当にこのまま卒業旅行などに出掛けても良いのだろうかと心配になってしまうのは俺も同感であった。それにしても守、久々のMT車だからって蒸かし過ぎじゃねぇのか?


守「これ位で無いと発進に失敗するかも知れないだろうがよ、お前だって分かるだろ?」


 確かに気持ちは分からなくもない、俺も家の軽トラ等に乗る際には多少強めに蒸かして自分を安心させていたからだ。ただ、守の愛車(?)は大丈夫なのだろうか・・・。


守「バ・・・、馬鹿野郎!!(?)を付けんじゃねぇよ、れっきとした俺の愛車だっちゅうの!!」


 お前な、「だっちゅうの」なんて久しぶりに聞いたぞ。それにそいつを愛車って言うなら早く発車させろって。


守「分かってるよ、うっせぇな・・・。」


 久々に起動するエンジンを温める為か、改めて強くアクセルを踏み込んだ守。


エンジン「ブオンブオンブオン、ブオーーーーン!!ブオーーーーン!!」


 守の愛車はけたたましい排気音を奏でた後、持ち主がクラッチを上げた瞬間・・・。


エンジン「プスン・・・。」


 そう、MT車ではよくある事だが半クラッチに失敗してエンストしたのだ。何ともかっこ悪くて気まずい状況で俺が守の立場なら耐え切れない、CVT車を買って正解だったと俺は胸を撫でおろすばかりであった。


好美「もう・・・、先が思いやられるよ・・・。」

守「大丈夫だって、久々だからそうなっただけで問題無いから。」


 ため息をつく恋人の隣で焦りの表情を隠せない守を更に追い込む様に何処からか声が飛び込んで来た、車内には2人しかいなかったはずだが・・・?


声「ホンマでっせ、あんた免許取り直した方がええんとちゃいまっか?」

好美「守、今の声何よ!!」


 突然の声に焦っているのは好美だけでは無かった様だ、持ち主の守がより一層焦りの表情を見せていたのだ。


守「俺も知るかよ、カーナビの音声っぽくは無かったし何で似非関西弁なんだよ!!きっと気の所為だ、早く行こう。」

声「「似非関西弁」でも「気の所為」でもありまへんで、今までせまっ苦しい所におらされてた分好きなだけ喋らせて貰いますからな。」

守「こっちの声が聞こえているのかよ、どうなってんだよ!!」

声「ほらほうでっしゃろ、ワイの中におるんやさかいに聞こえて当然ですわ!!」

好美「「この人」の中に・・・?まさか・・・。」


 その「まさか」である、嫌な予感がした守は何となくで質問してみた。


守「お前、まさかカペンか?!」

カペン「今更何を言ってまんねん、ずっとアピールしてまっしゃろ!!」


 守の嫌な予感が的中した様だ、流石なんでもありの世界だ。ただ、どうして・・・?


好美「守、「この人」をこの世界仕様にする為に誰の元へ持って行ったの?」

守「ちゃんと珠洲田自動車に持って行ったよ、光姉さんと一緒に。」

好美「だからか、プルちゃんと同じ似非関西弁を話している訳ね・・・。」

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