7. 異世界ほのぼの日記3 51~55
-51 憧れの存在による手厚い歓迎-
呆気ない感じで最適な解決方法を見つけた好美の目の前で、珠洲田は空いた口が塞がらなかった。こんなに自分が頭を抱えていた事を意外にあっさりと解決した様で、正直悔しいが今は気持ちを抑える事しか出来なかった。
珠洲田「好美ちゃん・・・、どうするつもりなんだい?」
下手に出て好美が考え出した方法を聞き出そうとするギルドマスター。
好美「そんなのここにいる美麗に言えば良いじゃん、「中型」持ってるから大丈夫だよ。」
珠洲田「そう言えば見慣れない子だね、ギルドカードはあるかい?」
美麗「いや・・・、この世界に来たばかりで持って無いです。」
美麗の言葉を聞いた好美は「待ってました」と言わんばかりに友人達を連れて冒険者ギルドへと『瞬間移動』した。向かった先では「ギルドの人気受付嬢・ドーラ」ことネフェテルサ王国警察のノーム・林田警部補が転生者達を笑顔で出迎えた。
ドーラ「あら好美ちゃんじゃない、いつものやつ?仕事の依頼?それとも元の世界に置いて来た彼氏の自慢話をしに来たのかしら?」
冗談好きのアーク・エルフの手厚い歓迎により、顔を赤らめる好美。
好美「何言ってんの、そんな事した事無いじゃん。」
ドーラ「え~?!いつもあの席でハイボール片手に語っているじゃない、確か「私の彼氏の・・・、が・・・」って。」
好美「わー!!わー!!わー!!」
ドーラの発言を慌てた様子で必死にかき消そうとする好美、どうやら受付嬢が言っている事は本当らしい。
守「おいおい、そうなのか?」
ジトっとした視線を恋人の方へと向けた守。
好美「何言ってんの、私があんな下ネタ言った訳無いじゃん!!」
ドーラ「下ネタって何の事かな、私はただ好美ちゃんが「私の彼氏の作った料理が凄く美味しい」っていつも語ってたって言おうとしていただけなのにな~。」
好美「もう!!ドーラの意地悪!!」
頬を膨らます好美の様子を見て、遊びはそろそろやめておこうかとそそくさに仕事を再開するドーラ。
ドーラ「ごめんごめん、それで?今日は何か用事でも?」
好美「ついさっきこの世界に転生してきた友達のギルドカードを作ろうと思って来たの。」
好美はついでに、美麗が結愛の会社でこれから働こうとしている事も伝えておいた。
ドーラ「成程、履歴書代わりって事ね。ご友人さん?身分証明書になる物はお持ちですか?」
美麗は自分が呼ばれた事に全く気付いてなかった、何故なら・・・。
美麗「エルフだ・・・、本物のエルフがいるよ・・・。」
そう、元の世界にいた頃からファンタジー系統の漫画や小説を読んでずっと憧れを持っていたエルフが本人の目の前にいたからだ。
好美「美麗!!目輝かせてないで免許証出して!!」
美麗「ご・・・、ごめん。免許証ね、日本で貰ったやつで良いかな・・・。」
不安げになりながら元の世界から持って来た免許証を出した美麗、相も変わらず名前の表記は「松戸メイリー」のままだった。
ドーラ「「松戸メリー」さんね、登録しておきますね。」
美麗「「メイリー」です。あと「美麗」でお願いします、一応こっちが本名なので。」
ドーラ「ごめんなさいね、では「松戸美麗」さんで登録しておきますね。」
元の世界にいた時と何ら変わらない会話を交わしつつ、小刻みに震えていた美麗。
好美「あんた・・・、何かあったの?」
美麗「夢じゃないよね?!私、エルフと話しているんだけど!!」
-52 大切な友達だから-
好美は現実だという事を証明する為に美麗の頬を軽く抓った。
美麗「痛い痛い痛い・・・、分かった!!現実なんだね!!」
それから数分後、美麗のギルドカードが出来上がったので好美達は珠洲田の店へと戻った。すると、美麗の事を聞きつけた結愛が待ち伏せていた。
結愛「おう、久しぶりじゃねぇか。「中型」持ってんだって?助かるよ!!」
美麗「う・・・、うん・・・、これからよろしく・・・。ゆ・・・、いや、社長!!」
結愛「結愛で良いよ、堅苦しいの苦手なんだ。今まで通りにしてくれよ。」
結愛と珠洲田のお陰で仕事を見つけた美麗、後は家探しだ(多分、大丈夫だと思うけど)。
それから数分後の事、いつの間にかチャイナ服に戻っていた美麗が質問した。
美麗「そう言えば好美は何処に住んでんの?まさかだけど、さっきのが家じゃないよね?」
元の世界の同じマンションで一人暮らしをしていた友人が先程までいた広い部屋に住む起業家になっているとは思いもしなかった美麗。
好美「何言ってんの、人の家のプールに落ちて来たくせに。」
美麗「え?!あそこってパーティールームじゃなかったの?」
会食用に場所を借りていたと思っていた美麗は、好美の言葉に驚きを隠せずにいた。
好美「と言うかあのビル全部私のだし。」
平然と話す好美、ただ「あの件」をしていない美麗の表情は驚きから焦りへと変わっていた。
美麗「何馬鹿な事してんの!!あんな莫大な借金、一生かかっても返せる訳無いじゃん!!」
美麗の気迫に押された好美はこの世界に来てからあった事を全て話した、勿論守と同棲生活を始めた事も含めて。
美麗「それで?あのビル(というかマンション)を買って大家さんをしてる訳、じゃあ何で働いてんの?」
好美「いや流石に「世間体」ってものがあるでしょ、先に転生して来た人達が皆働いているのに私だけ何もしない訳にいかないじゃない。」
美麗「それにしても働き過ぎだって、拉麵屋やコンビニに王城で夜勤?!体壊してもおかしくないよ!!」
好美「心配してくれてありがとう、でも大丈夫。店はちょこちょこ手伝う程度だし、夜勤も週3回。私なりにこの世界での生活を楽しんでいるから安心して。」
美麗「うん・・・、好美自身かがそう言うなら良いけど・・・。」
しかし、心中では好美の事が気がかりな美麗。
好美「何暗い顔してんのよ、これからこっちでの生活を楽しもうって時に。」
未だ浮かない表情をする美麗を必死に宥める好美。
美麗「そうだね・・・、じゃあくれぐれも無理だけはしないでね、約束だよ。」
好美「分かったから・・・。ほら、部屋の鍵取りに行くよ。」
何とかその場をやり過ごした好美は美麗を連れて不動産屋へと向かい、今日から新しく入居する友人を紹介した。
不動産屋「そうですか、では良い部屋をご用意しないとですね。」
好美「じゃあ・・・、あの部屋はどうです?」
美麗が来る3カ月前、当時12階に住んでいた住民がバルファイ王国にある実家の団子屋を継ぐ事になったので退居して以来空室になっている部屋があった。
不動産屋「念の為、部屋を見に行きましょう。「いわく付き」では無いので大丈夫だとは思いますがね・・・。」
好美「もう・・・、縁起でもない事を言わないで下さいよ。私が一番焦るじゃないですか。」
不動産屋のキツめのジョークに頭を抱える大家、その横では友人がこれから始まる一人暮らしに胸を躍らせていた。
一行はエレベーターで12階へと上がり、廊下を通って「1205号室」の前に到着した。
-53 驚いてばっかり-
美麗は新居を前にして目を輝かせていた、ずっと実家で住んでいたので密かに一人暮らしに憧れを持っていたのだ。
美麗「好美、早く行こうよ!!」
好美「さっきとは別人みたいになってんじゃん、もう・・・、腕を引っ張らないの!!」
新居になる部屋を前にして、大家である好美の手からカードキーが渡された。
美麗「日本とは差が無いんだね、こりゃ助かるわ。」
部屋に入ると、好美や守にとっては見慣れた光景が広がっていた。内線電話に出前用のタッチパネルがある、もう当たり前となった光景。
美麗「凄いね、ここに住んで良いの?」
初めてだらけの部屋を大層気に入ったのか、美麗は先程以上にドキドキワクワクしていた様だ。
新居に入った美麗が最初に食らいついたのは、1階の「暴徒の鱗」に出前を注文する時に使用するタッチパネルだった。どうやら気を利かせた不動産屋が電源を入れていた様だ。
美麗「ねぇ好美、これ何?中華料理の写真が映ってるけど。」
好美「ほら、さっき言ったじゃない。私がオーナーをしている拉麵屋があるって、そこに出前の注文をする際に使うのよ。」
「拉麵屋」という言葉を聞いてタイミング良く腹の虫が鳴った美麗。
美麗「さっきから何も食べてないからお腹空いちゃったよ。」
好美「じゃあ、ランチついでに味見してくれない?ついでに店長達に美麗を紹介しようと思っているの。」
好美の言葉を『察知』したのか、店の副店長から『念話』が来た。
デルア(念話)「好美ちゃん、イャンダは今日有給休暇だよ。」
好美(念話)「そうだそうだ、今日法事だから実家に帰るって言ってたの忘れてたよ。」
先程から直立不動の友人を不審そうな目で見る美麗。
美麗「好美・・・、さっきからどうしたの?何やってんの?」
好美「うーん・・・、口で説明するより実際に見せた方が良いかも。」
好美は持っている能力を全て美麗に『付与』して、その後友人に『念話』を飛ばした。
好美(念話)「美麗?私の声、聞こえる?」
美麗「何これ・・・!!好美の声が直接脳内に流れ込んで来るんだけど!!」
好美「美麗も私に届かせるイメージで声をかけてみて?」
美麗「こう・・・、かな・・・。(念話)どう?聞こえてる?」
好美(念話)「うん、初めてにしては上出来だよ。ちょっと待ってね、デルア!!聞こえてるんでしょ?」
デルア(念話)「聞こえてるけど・・・、店にはいつ来るんだい?」
聞き覚えのない男性の声が聞こえて来たので少し焦りだす美麗。
美麗「好美!!この人、誰なの?!不審者?!」
好美「安心してよ、今から行く拉麵屋の副店長のデルア。一先ず、会いに行ってみようか。」
美麗「じゃあエレベーターに乗らなきゃだね・・・、って・・・、えっ?!」
好美「えっとね・・・。もう・・・、着いたんだけど・・・。」
そう、会話をしている最中に好美が『瞬間移動』したので速攻で到着した事に再び焦る美麗。焦り過ぎたのか派手に着地に失敗した様で大いにずっこけてしまった、しかし好美が『全身強化』を『付与』していたので怪我は無かった。
服の汚れを気にする美麗の前にデルアが現れた、先程の会話を『察知』していた様で・・・。
デルア「はぁ・・・、まさか返事をしただけで「不審者」とはな・・・。」
美麗「す・・・、すみません。『念話』自体初めてなので焦っちゃいまして・・・。」
デルア「大丈夫だよ、一先ず食事にするんだろ?2人共中に入りなよ。」
副店長の案内で席に着いてメニューに目を通した美麗はある料理に自分の目を疑った。
美麗「これ・・・、ここで食べれるの?何で・・・、これがあるの?!」
-54 憧れの親子-
美麗はメニュー内の1品を見て震えていた、ただその表情は感動で嬉しそうに見えた。
美麗「何で?!何でこれがここにあるの?!」
好美「それは確か・・・、まだここが屋台だけだった時に・・・。」
すると、2人の会話に割り込んで来た女性が1人。
女性「私が売り始めたんだよ。」
美麗「その声は・・・、まさか!!」
美麗は声の方に振り向くと口を押えて涙を流し始めた。
美麗「赤姉さん!!」
声の正体は屋台の2号車を経営する赤江 渚、その人だった。
渚「その呼び方をするって事はあんた、美麗ちゃんだね。大きくなったね・・・、私も歳を取る訳だ。」
巷で「赤鬼」と呼ばれていた渚に憧れていた美麗は敬意を表してずっと「赤姉さん」と呼んでいた。
デルア「渚さん、屋台の方は良いのかい?」
渚「それがね、開店どころじゃないんだよ。オイルタンクに穴が開いちまったもんだから今スーさんの所で直してもらってんだよ、もう・・・、先月の売り上げがパーさね。」
デルア「どうせ渚さんの事だから、ガタガタの山道を無理矢理走ったんじゃないの?」
好美「そうですよ、2号車だけで何台買い換えたと思うんですか・・・。」
好美の言葉についタジタジになってしまう渚。
渚「えっと・・・、今ので確か・・・。」
指を折って台数を思い出そうとする渚、ただ大分サバを読んでいた様で・・・。
渚「えっと・・・、8台かな・・・。」
好美「17台です!!もう・・・、こっちの苦労も分かって下さい!!」
2人の様子を見ていたデルアが何処か楽しそうに見えたのは気の所為だろうか。
デルア「ハハハ・・・、そう言って実はあれじゃないの?ダンラルタ辺りによくいるバイク野郎たちと一緒に走ってたとか。」
渚「馬鹿だね、何失礼な事を言っているんだい。あんな奴らと一緒にしないでおくれ。エボⅢで走っていた訳じゃあるまいし。」
渚が副店長の言葉に焦りの表情をしていると、母の場所を『探知』した光が必死の形相で『瞬間移動』してきた。
光「お母さん!!やっぱりここにいた、もう・・・、何サボってんの!!「車が駄目になったから仕事が出来ない」って言ってたのお母さんでしょ?!店長が探してたよ!!」
渚「ごめんごめん、忘れてたよ。」
好美「光さん、どういう事ですか?」
光「理由はさっき言った通りなんだけどね、私が店長に頼み込んでレジ打ちの仕事をさせてあげてたのよ。いつまでも休憩から戻って来ないから店の中がパニックになってて。」
渚「分かったよ、戻るから許しておくれ・・・。」
光「本当だね?」
光は睨みを利かせながら母の頬を抓った、正直どちらが親なのか分からない。
美麗「光さんだよね?!今の光さんだよね?!」
好美「あんた・・・、興奮し過ぎでしょ。」
鼻息を荒げる友人に少し引き気味の好美、ただその傍らでデルアが痺れをきらしていた。
デルア「それで・・・、ご注文は?」
美麗「じゃあ・・・、炒飯と杏仁豆腐で。」
デルア「いや、「辛辛焼きそば」とちゃうんかい!!何処からどう考えてもその空気やったやろ!!」
何故か関西弁で突っ込むデルア、ただ美麗のボケ癖は学生時代から変わっていない様だ。
-55 元の世界からずっと引きずっていた恋心-
デルアによる関西弁での突っ込みから数分後、美麗は注文した料理2品が到着したので炒飯を一口、すると・・・。
美麗「これ・・・、まさか・・・。」
初めて食べたのに、何故か懐かしさを感じた美麗。
好美「分かった?実はね・・・、この「ビル下店」の料理の一部は「松龍」の味を基に私が監修したのよ。」
美麗「うん・・・、パパの味だ!!パパ・・・!!」
2度と味わえないと思っていた父親の作る炒飯の味に再会出来たが故に、嬉しさの余り泣き出してしまった美麗の肩に手を乗せながら杏仁豆腐を勧めた好美。
好美「ほら・・・、これも試してみてよ。」
美麗は手渡されたデザートを口に流し込んだ、やはりこれも・・・。
美麗「あの味だ・・・、ママが作ってくれたあの味だよ!!」
好美「私も好きだったから再現してみたのよ、どう?上手く出来てるかな?」
美麗「嬉しい・・・、ありがとう好美!!」
それから数分程、辺りがほっこりとした雰囲気に包まれている中で拉麵屋のオーナーはある事を思い出した。
好美「そう言えば明日ってバレンタインデーだけど美麗は誰かにチョコをあげるの?」
思ってもいない事態が起こっていたのでチョコの事などすっかり忘れてしまっていた美麗、好美の発言でやっと今日が2月13日だという事を思い出した様だ。
美麗「いつもだったらチョコを持ってかんちゃんのお墓に行くんだけどね、私自身も死んじゃったから出来なくなっちゃった。」
好美「じゃあピューア達も誘って一緒に友チョコを交換しあわない?」
美麗「良いね、その案を採用しよう。」
守「あ・・・、俺ちょっとトイレ。」
元の世界にいた時と同様に楽しく過ごせそうな予感がする中、守が女性2人に気を遣って席を離れた数秒後に予約客が店の出入口にやって来たらしいがバイトは注文を取りに出払っているので厨房にいたデルアが出迎えに向かった。
デルア「いらっしゃいませ、4名様でご予約の金上様ですね?こちらへどうぞ。」
「金上」という苗字を偶然耳にした美麗の心臓が一瞬鼓動を打ったが、気のせいだと思って会話に戻った。
美麗「気のせいだよね・・・、そんな訳無いもんね。」
好美「どうした?何かあったの?」
好美の言葉に我に返る美麗。
美麗「ううん・・・、何でも無い。とりあえず食べ終わったら材料の買い物に連れてってよ、この街を案内して欲しいし。」
予約客「その声もしかして・・・、美麗・・・、いや、「みぃちゃん」か・・・?」
聞き覚えのある声に全身から嬉しさが込み上げて来た美麗、しかし顔を見てみないと確証を得る事は出来ないのでゆっくりと振り向いてみた。
美麗「嘘でしょ?かん・・・、ちゃん・・・?本当にかんちゃん?嘘とは思いたくないけど嘘だと言ってよ、冗談だよね、かんちゃん!!」
奇跡が起きた、目の前にいたのは美麗の目の前でひき逃げ事故に遭ったあの金上秀斗だったのだ。秀斗は美麗の前からいなくなった時のままの姿でその場に立っていた。
秀斗「俺の心臓で生きているはずの美麗がどうして・・・?」
美麗は全てを話した、元の世界であった事やこの世界に来たきっかけを含めて。
美麗「かんちゃん・・・、会えると思って無かった。私、やっぱりかんちゃんが好き。」
秀斗「みぃちゃん、いや美麗。俺も会いたかった・・・、好きだ!!俺達、戻ろう!!」
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