第6話 おれが連れ戻す
「青さんは、霊の怨念を聞いてやって、満足させて除霊してるんですか」
デビュー戦祝いと称して入った喫茶店の席で、拓海は霧島の目を見据えて訊ねた。
「……そう」
「でも、怨念を引き受けた青さんが悲しくなるだけじゃないですか。今だって」
「今?」
「悲しい声を、してますよ」
「……そうか?」
「気づいてないんですか!? 青さんのやり方は無茶ですよ!」
「……でも、おれは、心を保てるぎりぎりまで『読んで』やりたい」
「ぎりぎりなんて簡単に踏み越えそうです」
「霊だって、泣いて、悲しんで、苦しんだ、人間だったんだ。誰かに『読んで』ほしがってる。おれにはそれができる。だから『読む』。……拓海は?」
一瞬間が空いて、自分が除霊をやっている理由を訊かれたのだと気づいた。
「おれは……青さんに比べたらちっぽけですけど、最強のガクチカが欲しいんです」
「『学生時代に力を入れたこと』が……除霊??」
「……はい」
霧島に比べて自分の望みはあまりにちっぽけだった。霧島に軽蔑されると思った。怒鳴られても仕方ないと思った。もうこの喫茶店を駆け出して二度と部活に戻りたくないくらいだった。
「拓海はなんで『最強のガクチカ』が欲しいんだよ」
「それは……」
「あ、いや、悪い」
霧島は拓海を制するように右手を振った。
「え?」
「拓海も今、悲しい声をしてるから」
「……!」
「夢があるんだろ。詳細は訊かないけど、頑張れよ」
「……ありがとうございます」
「それならおれとは組まない方がいい。拓海の出番が少ないからな。おれから北村さんに言っとく。いいよな?」
「はい。ありがとうございます」
消えてしまいそうな声でしか、返事ができなかった。
帰宅後、母からの「お正月は帰省するでしょ?」という連絡に深いため息をついた。ベッドに腰かけて、うなだれる。そんな大層な夢なんかない。兄貴に勝ちたいだけ。
兄貴の名前は「潮田
いつも兄貴が褒められて、おれは二番手だった。
5歳上の兄が就活に苦労するさまを見て、拓海は大学合格が人生のゴールではないことを知った。兄が失敗すればいいと思った。そして自分は5年後に、悠々と兄よりいい会社の内定をゲットしてやる。
兄は第一志望に落ちた。拓海はそこに入社するために、ガクチカに力を注ぐと決めたのだった。
くだらない
恥ずかしい。
そのとき部活のグループ通話の通知が鳴った。青さんが発信者だ!
「青さん!?」
「拓海か?
「分かりました!」
ハキハキと答えながら、指示通りメッセージを送り、さっき脱ぎ捨てたブルゾンに片腕を通しながら家を出た。腰の滅霊刀を確かめて、ふうっと大きく息を吐く。やるぞ。
凍える指で自転車の鍵を開け、全速力の立ち漕ぎで大化橋に向かう。大学の近くの橋だ。青さんも近くに住んでいるから、偶然見つけたんだろう。
おれは、あの人がヤバくなったら連れ戻す。
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