第4話 滅霊刀に「力」を乗せて

「『封』と『滅』の見極めが4級のポイントだからね〜。自分の実力を見極めて『滅』まで持っていくか『封』で手を打つかの判断力が見られるよ〜」


 北村はのんびりと説明する。拓海と遠藤も5月合格組に合流して、ぞろぞろと夜のキャンパスを徘徊する。化大バケダイのキャンパスは山と接しており、動物霊が多い。


「ほら! 潮田!」


 北村がタヌキの霊を指し、拓海を指名する。


「滅!!」


 拓海は白い霊体に手のひらを向け、叫んだ。霊は抵抗するようにぐねぐねとうごめき、金属が擦れるような叫び声を上げたが、しゅるしゅるとしぼんで消えた。


「うーん。今のはギリだったね〜。『封』でよかったんじゃないかな。受験のときは『封』を選んでね〜」

「はい……」


 自分が勇み足になりがちだとは拓海も自覚している。だが、血気盛んな性分が拓海を勝負に駆り立てるのだ。


 除霊師4級の試験は、部に審査員を招いて道場で行われた。グループ受験のため9月に行われ、8月に5級に合格したばかりの拓海もとんとん拍子に昇級することができた。




 4級に合格すると、滅霊刀めつれいとうの使用が認められる。手渡された刀の重みに、拓海ははやる心を押さえきれずに笑みをこぼした。ついにここまで来たんだ。


 滅霊刀は日本刀より短く、大きさはバトルナイフに近い。鋼の刀身は両刃の形状だが鋭い刃は備えていない。

 滅霊刀は刃を必要としない。必要とするのは、使い手の実力のみ。力のある使い手が振るうとき、その刃は霊「のみ」を切り裂き、滅する。

 ついに、拓海は除霊の現場に出ることを認められたのだ。


 第一志望落ちからの就活無双、してやるよ!!




 気合十分で滅霊刀の打ち合いをしているとき、気づいた。霧島先輩は、よく道場を抜け出している。

 用事があって鍛錬を抜け、道場の離れを通りかかったら明かりが点いていた。不審者か、と覗き込むと、資料室で黒髪を結った男が古い書物をめくっていた。霧島だった。


「……先輩、サボりですか」


 受験期間に散々に言われたお返しに、と嫌味な口調で声をかける。


「おれには必要ないだけだ」


 振り向いた霧島の瞳は、どこか寂しげに曇っていた。だが拓海は、最初からライバル視していたこの男とやり合うことしか頭になかった。


「へえ……手合わせ願いますよ」


 拓海が腰のホルスターから滅霊刀を抜くと、眉をひそめて霧島がゆらりと立ち上がった。霧島は拓海を左手で制しながら裏庭に出た。そこで霧島の滅霊刀がすらりと抜き放たれた。


 二本の鋼がぶつかり合い、鋭い音を立てる。拓海は霧島のがら空きの足を払ったが、霧島は驚くべき身のこなしで上からの二撃目を受け止め、拓海の刀を受けたままじりじりと立ち上がり、再び睨み合いに持ち込んだ。

 拓海はこの男のパワーとテクニックに圧倒されていた。それは恐怖心ではなく、戦闘本能を刺激される興奮だった。ぎりりと霧島の目を睨む。


 その瞳には、拍子抜けするような空虚があった。手合わせの前にちらりと覗いた寂しげな色がそのまま瞳に浮かんでいた。

 おれはこの人を悲しませているのだろうか? 拓海が動揺した瞬間、するりと霧島の刀が拮抗から抜け出し、拓海の首筋にひたりと当てられた。


「お前ら〜! 道場の外はやめろ! 職員にバレたらどうすんだ〜!」


 北村がドタドタと走ってきて、二人の打ち合いは終わりになった。

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