第3章 成人の儀をみんなでクリアするよっ!
第19話 日本一と言えばコレじゃん!
「で、どうしよっか?」
おばあちゃんに三人を認めてもらったのはいいものの、問題は何をやるかである。
苦労して頑張ってみても、ダメと言われれば終わりだ。
条件は四人で一緒に取り組めること。
それができなきゃ、どんなにすごいことでもダメだろう。
条件は日本一。
ぐぅむ、わからん。
何をすればいいんだ。
日本で一番美味しい大福を探すってのはどうかな?
だめ? あ、そう……。
「わかった! 自転車で日本一周をすればいいんだよ! 僕は中学生の時にやったことあるんだ」
まっさきに手を挙げたのは関ケ原先輩だった。
この人の提案は非常に突拍子もない。
今の今まで自転車の話なんか出てきたことがないのに。
「いや、それだと日本一にならないじゃないですか」
「ふふふ、甘いよ、金ヶ森君。日本一周の中には日本一の文字が隠れているじゃないか!」
「なるほど、確かに入ってます……けどそれってあり?」
那由はジャッジを仰ぐように私の顔を見てくる。
いや、私だってわかんないけど。
自転車で日本一周なんて相当な苦労であることがわかる。
それも、4人一緒に自転車で進むのだ。
少なくとも、私はここ最近、自転車に乗ってないし。
「自転車はいいよぉ。太ももの筋肉に効くし。減量にも効果的だし。行く先々で美味しいものを食べられるのも最高だよ」
なるほど、なるほどである。
ダイエットに効果的であるにも関わらず、美味しいものが食べられる。
これって、最高なのでは?
「私、自転車で新聞配達してた時ありましたけど、結構、いい運動になりますよね」
「だろう?」
那由は自転車に乗ることには抵抗なさそうである。
っていうか、新聞配達のバイトをしてたなんて初耳。
彼女の細くてきれいな脚は地道な努力によってつくられていたのだ。
「ちなみに、日本一周ってどのぐらいの期間がかかるんですか?」
「えーとね、僕の場合は北海道から九州までだから、夏休み期間全部だったかなぁ。あ、よく考えたら、縦断してるだけだった! 四国行ってない!」
先輩は事も無げに笑うが、どう考えてもアウトである。
そもそも、私の試練とやらは夏休み以前に解決しなければならないのだ。
それに夏休みずーっと自転車を漕いでるのは私には不可能だと思う。
せっかくの夏だし、海に行きたいし、旅行にもいきたい。
さらに言うと、先輩は日本一周してはいなかったわけで。
「私、夏休み、バイトあるから無理ですっ! 生活費を集中して稼がなきゃいけないので!」
那由からも無理宣言が飛び出す。
彼女は高校生ながらに家計を支える女の子なのだ。
あんまり長期間、拘束するのはよくないよね。
「あ、でも、わかった! ねね子さんちの車で日本一周すればいいんですよ! 運転手さんとかいるんじゃないですか?」
「いないこともないと思うけど、それってどうなの?」
那由が提案したのはすごく快適そうな日本一周の旅だった。
確かにそれなら短期間で終わるし、日本中の美味しいものを楽しむことはできそう。
ダイエットには効果ないだろうけど。
「そ、それってハネムーン!? いや、こ、婚前旅行!?」
香菜は目をキラキラさせるけど、そういう類いのものでもない。
っていうか、香菜よ、あんた意外とむっつりなんだな。
「そんなのダメだよ! ただ車に乗ってるだけじゃないか! 一ミリも筋肉が動いてないよ!」
一方で、これに強く反対するのは関ケ原先輩だ。
考えればわかる話で、負担は運転手さんだけにのしかかっているのだ。
私たちはそりゃ楽しいだろうが、試練って言うのとはちょっと違う。
「えー、せっかく楽できると思ったのに」
「ねね子、ハネムーンはモルディブがいい! バリでもいいけど!」
口を尖らせる那由と、全く別の話題に入っている香菜。
今の香菜はどうやら頭の半分がゼクシィでできてるみたいだ。
「ぐむー、どんな日本一周にすればいいんだ!? 徒歩、スケボー、……竹馬!?」
関ケ原先輩は頭を抱えて悩むが、日本一周という部分から抜け出した方がよさそう。
そもそも、それでOKが出ると決まったわけじゃないし、ちょっと騙しっぽいし。
「そうだ! スカイツリーに登るのはどうだろう? あれは日本で一番高い建物のはず」
「スカイツリー? でも、それだとエレベーターじゃないですか?」
「ふふふ、非常階段があるんだよ! あれに侵入するのさ!」
「却下で!」
関ケ原先輩は目をらんらんと輝かせ、再び突飛なアイデアを出してくる。
スカイツリーの高さは634メートルで確かに日本一だ。
それを階段で登ったならそれなりにすごいことだろう。
でも、不法侵入するのは頂けない。
私たちは普通の女子高生だし、法律を犯すことはできないのである。
「たはは、いいアイデアだと思ったんだけど惜しかったなぁ」
てへぺろをする先輩はそれはそれは愛らしい。
この人って、苦労しなさそうな性格だな、本当に。
ふぅむ、日本一、日本一ねぇ。
他に何か日本一になることはないかな。
「あ、そーだっ! 富士山に登ればいいんじゃん! 日本一高い山なんだし!」
ここで私に神がかり的アイデアが降りてくる。
富士山は毎年7月から8月まで開放されるというし、時期的にもぴったりだ。
日本一の山にみんなで登ってみるというのはアリかもしれない。
「富士山かぁ! 登山はしたことないけど、相手にとって不足なしだよ!」
関ケ原先輩は私の案に満足したのか嬉しそうに手を握ってくる。
この人は体力系のチャレンジだったら何でもやってくれそう。
「へー、高校生でもけっこう、登ってんじゃん。小学生でも登ってる子がいるし、私も大丈夫かなー」
香菜はさっそく高校生の富士登山について調べたらしく、私にスマホの記事を読ませてくれる。
確かに親子連れで富士登山をした人もいるようだ。
なるほど、経験のあるガイドさえいれば小学校高学年からチャレンジできるようだ。
「なになに、富士登山でカップルの絆がより強まる……か、頂上で縁結び祈願。なるほど、うひひひ」
ちなみに香菜は次のページの記事に興味津々の様子。
動機はどうあれ、やる気があるのなら、それでいいと思う。
「わ、私は反対っ! 富士登山なんて苦しいだけだし、あんなの疲れるだけですよ! お金もかかります!」
意外なことに反対意見を出すのが那由だった。
彼女は根性もあるし、賛成してくれると思ったのだが。
「あれれ、なんだか経験者みたいな口ぶりだねぇ。ひょっとして、金ヶ森君は登ったことがあるのかい?」
「……じ、実は中学生の時に学校の行事で登らされて、死にそうだったんですぅう!」
「まじで!?」
那由は富士登山の経験者だった。
彼女いわく、途中までは登ったが高山病っぽいのになって苦しんだ、とのこと。
頭痛と吐き気でフラフラになり、登頂を諦めて山小屋で待機していたらしい。
「大丈夫だよ、今はもう高校生で成長してるし! お尻の筋肉もけっこうついてるじゃないか!」
先輩は無責任にもほどがあるって感じで、あははと笑う。
しかし、私は笑えない。
よくよく考えたら、この中で一番体力がないのは私だろうからだ。
関ケ原先輩はもちろんのこと、香菜も運動神経はいい方だ。
私はそもそも走るのが嫌いだ。走ると胸が痛いから。
「わかった。それじゃ僕と御花畑君とねね子君の三人で登ろうじゃないか。夜には山小屋で友情を確かめ合おう! 寒いと死んじゃうから不可抗力!」
「んなぁああ!?」
戸惑い始めた私の心などいざ知らず、先輩は話をどんどん進める。
しまいにゃ怪しい山小屋での熱い夜プランまで語りだす始末。
っていうか、寒いと死んじゃうって程、山小屋は寒くないと思うのだが、七月だし。
「お泊まりだなんて、これはもう、しょ、しょ、初夜……!? わ、私、ハネムーンランジェリー買わなきゃ」
香菜は顔を両手で覆って机に突っ伏している。
頼りになると思ってたのに、この子が一番、当てにならない。
乙女脳すぎるし、むっつりだし。
「わかったわ! いけばええんやろ、いけば! あんたらみたいな変態とねね子さんを一緒にさせてたまるかいな! うちがねね子さんを守る!」
関ケ原先輩の言葉に気を悪くしたのか、那由が関西弁でまくしたてる。
売り言葉に買い言葉みたいになったが、彼女も富士登山に参加すると決意表明。
っていうか、香菜よ、あんたも変態サイドに入れられてるぞ。
しかし、こうなると困るのが私である。
今さらやっぱりやめようとは言えない雰囲気だ。
うへぇ、嫌だなぁ、どうしよう。
冷静に考えると、山に登るのって苦しいだけで何もいいことないよなぁ。
登っても降りるだけだし、それってプラマイゼロだし。
登山って、実質、無駄じゃない?
「あのぉ、みんな盛り上がってるところ悪いけど、富士山に登るのは、やっぱりやめ」
手遅れになる前に私は切り出すことにした。
何のメリットもないし、富士山に登るのは止めようと。
日本で一番、来場者の多いTDLのアトラクションを一日で全部回るとか、そういうのはどうだろうかと。
「ねね子、見てこれ、山小屋グルメだって! 富士山の山小屋ごとに色んな名物があるんだってさ。ほら、カップルで登った人にはこのメニューがおすすめって書いてある」
「やまごやぐるめ!?」
香菜が私に見せてくれたのは、珠玉の山小屋メニューだった。
富士山カレー、ラーメン、あんぱんにクリームぱん、どれもこれも美味しそうだ。
そもそも、山小屋グルメという響きだけで食欲がそそられる。
富士山には富士山なりの食べ物があるのだ。
私の食欲がむくむくと起き上がり始める。
危険だって理性では分かってるんだけど、本能が、それを邪魔をする。
「空腹は最大の調味料っていうからね。登山中に食べる食事は格別だろうな」
「ですよねぇ」
関ケ原先輩の声を受けて、私は想像を膨らませる。
山頂で達成感に包まれながらの食事は何にもまして美味しいだろうと。
ここ数カ月、私の暮らしは満ち足りていた。
しかし、薄々感じていていたのだ、何かが足りないと。
今ならわかる、私に必要なのは空腹だったのだ。
四六時中食べてるから、どうしてもご飯を美味しく食べられないのである。
体が丸くなってきたのもそのせいなんだな。知ってたけど!
それに、登山ってハードな運動だから、何を食べても問題ないよね。
登山中はカロリーとか糖質と脂質とか考えなくて済むんだよ。
これってすごいことでは!?
「ねね子、普段から何も考えてないだろ?」
「か、考えてるもん! 野菜多めを心がけてるもん」
香菜が冷静な声でツッコミを入れてくるので猛反論しておく。
私だって女子である。
野菜として芋を多めに食べたりするのだ、マックとかバーガーキングで!
「みんな、頑張ろう! 私たちは日本一、高い所にいこう!」
と、いうわけで私は拳をあげる。
目標は四人で富士山に登ること!
残る時間はあと一か月。
まずは……富士山グルメを頭の中に叩き込まなきゃ!
そんな時である。
私のスマホにメッセージが入る。
送信者はおばあちゃんで、こう書いてあった。
『試験で赤点取ったら、そこで一人暮らし終了ですよ』
「ほぎゃああああ!?」
私は今日イチかわいくない声で叫んでしまうのだった。
せっかく、チャレンジ内容が決まったのにぃ!
【お嬢さまの体重】
マイナス200g
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます