第2話 こうなりゃ仕方ない、親友に相談だ!
「うぐぅ、お腹が痛い……」
私の胃は悲鳴を上げていた。
朝ごはんにホテルで食べたコンチネンタルブレックファストのせいではない。
昨日、おばあちゃんに課された試練のせいである。
きょうび、何が試練だ、なんて思ってしまうけれど、
私はできるだけ早く、恋人を、彼氏を見つけなきゃいけないのである。
うわー、どうすんのよこれ。
デッxドラインまで二か月を切ってるし、それだけでもやばい。
おばあちゃんも人が悪いよ、もうちょっと早めに言うべきじゃない?
そもそも、そんな試練があるなんて知ってたら、私も女子高なんかに通わなかったし!
うちの学校には三百六十度、どこを見渡しても女子しかいないのだ。
あちらこちらからフローラルな香りが漂い、あちらこちらから女子特有のけらけらした笑い声が聞こえてくる。
男子の汗のにおいとも、男子の野太い声とも無縁の女の園なのだ、ちきしょう。
この状態でどうやって彼氏を見つけろっていうのだろうか。
実は男の子が女子のふりして学園に紛れてましたーとか? どこの変態だよ、そんな男と付き合えるか。
これから授業が始まるというのに気分の切り替えができず、机に突っ伏す私。
いや、手段がないこともないのを私は知っている。
今をときめくマッチングアプリである。
そういうのを使えば、比較的簡単に男の子に出会える、はず。
私だって花のJKなのだ。
ルックスに自信があるかと言われればないけれど、アプリで盛りまくれば振り向いてくれる人が一人ぐらいいるかも。
そっかぁ、それだよ、盛れば行けるかもしれない。
知り合いのヘアメイクさんにしっかりやってもらってから、カメラマンに写真を撮ってもらい、盛るのが得意な女の子にいじってもらえばいいのだ。
詐欺メイクって言葉があるけど、詐欺できるレベルにまで盛れるからね。
そんで、こういうことが起こるわけだ。
『ねね子ちゃん、君みたいにかわいい子に初めて会ったよ。俺、サッカー部のキャプテンで名門私大に持ち上がりでいく誠実な男なんだけど、君のおばあさんに挨拶に行こう』
私の脳裏には爽やかイケメン(高学歴)と一緒に、おばあちゃんに挨拶にいくところまでが再生される。
……悪くないかもしれん。
よし、一か八か、アプリにお頼み申すとするか。
そんな風に妄想にふけっていた時、とんでもない情報が耳に入って来た。
「でさぁ、アプリで会った男なんだけど、挨拶もそこそこにすぐにやりたがってさぁ。『はぁ?』て思ってぇ」
「あはは、うけるそれ! あいつらやりたがりばっかりだよねー」
「そうそう。どうせ、へたくそのくせにさぁ、回数ばっかりこなそうとかしてくんじゃん? すぐに果てるくせにさぁ」
「わかるー。男ってやることしか考えてないよねー。満足に話もできないし、サルかっての」
恐る恐る振り向くと、ギャルっぽい二人組である。
お嬢様学校であるこの女子高だが、あぁいう子もちらほらいる。
あなたたち、入る高校間違えてない?
それに、「やる」とか大っぴらに話していい内容じゃなくない?
猛烈に下品なトークに拒否反応を覚えるが、その実、私は彼女たちの会話に聞き耳を立てていた。
がっつり聞こうとすると耳がぴくぴく動く。
「しかも、やったらやったですぐに馴れ馴れしくしてくんのぉ。まじでだりぃ」
「一回や二回で打ち解けるわけないじゃん、そんなのぉ。フォトナなめんなよなぁ」
ぎゃるちゃん二人の激烈トークはまだまだ続く。
くぅううう、彼女たちの基準では一度やった程度では恋人にはならないらしい。
思い返せば、これはこれで女子高のノリなのである。
赤裸々というか、ぶっちゃけというか、隠し事ナシと言うか、人前でスカートぱたぱたやって涼を取るというか、教室で下着を見せっこするというか。
それにしても、「大人なめんな」とは生々しい。
やっぱりマッチングアプリは大人の世界なんだなぁ。
私には、遠い。
私には、無理だ。
「アプリは……やめとこ」
一つの結論に至ってしまい、スマホの画面をオフにする。
そう、今の私じゃ男の子の性欲を受け止められる自信がない。
しかも、一回や二回しても彼氏にはならないそうだ。それじゃやられ損である。
『はぁ? 一回やっただけで恋人面してくんなよ? やらしてくれる女は他にもいるんだよ? このちんちくりん』
そんなこと先述のイケメンに言われたら、あたしゃ泣く自信がある。
人間不信に陥って、過食症に陥って、ぷくぷくになるに違いない。
そもそも、である。
私はサッカー部のキャプテンを好きになるタイプでもなかった。
あぁいう、いかにも浮気しそうなアルファオスみたいなタイプはごめんだし、自分で自分のことを誠実だとかいうやつは絶対に怪しい。却下だ、却下。
「どうすんべか、まじで」
ぐぬぅううう、振り出しに戻っちゃったよぉ。
素朴な男性(ただしイケメンに限る)が原宿辺りで私の落としたハンカチを拾ってくれないかなぁ。
せめて私に誰もが振り向くようなフェイスとボディがあればなぁ。
何だか私、高校に入ってから丸くなってきてるし。
このままじゃ、普通に恋人ができないまま一生を終えるのでは。
ぐぬぅ。
「おはよー」
私が一人で頭を抱えていると、私の幼馴染、
幼稚舎のころから、ずーっと一緒の腐れ縁の女の子だ。
「香菜ちゃん、インスタみたよー、すっごい可愛かったー」
「この記事の香菜ちゃんも超かわいい! モデルってすごいねー」
香菜の周りにはクラスの女子が集まって、わいわいやり始める。
そう、この女、モデルをやっているのである。
まず、背が高い。170センチ近くある。
少しだけ切れ長で大きな瞳に、ふっくらした唇。
こいつの恐ろしいところは顔が小さくてかわいいことだけじゃない。
バカみたいにウエストがくびれているのだ。大腸と小腸どこ行ったんだよ、仕事しろよ。
さらにはスカートからは信じられないぐらいにまっすぐな脚が伸びている。
胸が大きすぎないっていうのも羨ましい。
ないわけじゃないので水着もきれいだろうし、女子の憧れと言っていいサイズ感。
これが有名な事務所に所属しているモデルの実物である。ちなみにこやつの母親も有名モデルである。
ぐぬぅううう、格差、格差だよ。この世は格差社会だよ。
奴の前では私など丸いタヌキに見えるに違いない。
香菜ぐらいのルックスなら、道を歩くだけで誠実な大富豪(ただしイケメンに限る)にプロポーズされるんだろうなぁ。
「ねね子、何、変顔してんだよ?」
クラスメイトたちとのやり取りがひと段落したらしく、香菜は私の隣の席にやってくる。
「はぁ? 変顔なんかしてないもん。これが素の顔なんですけど? なんか文句あるんすか?」
格差をひしひしと感じ、不貞腐れる私である。
いや、別に面倒くさい女ムーブをかましてるわけではない。
私は普通に自分の顔をしていただけなのだ。
変顔などと言われて黙っていられるだろうか、いられない。
「いや、こんな顔してただろ?」
そういうと香菜は唇を尖らせて頬を膨らませるという、すっごい変な顔をする。
変ではあるが、不細工ではない。
ここが悔しい所ではあるが、もともとの造形が整っているとブスにはならないのだ。
あぁ、目の形がいいなぁとか、まつ毛長いなぁとか細部に目が行くだけで。
「ぷははははっ! 何その顔!」
とはいえ、面白いことに変わりはない。
噴き出した拍子に私の悩みは一瞬にして吹き飛んでしまった。
香菜はかわいくて美人なのにこういうことができるから好きだ。
口調もぶりっ子じゃなくて、男の子っぽくてざっくばらんとしてるし。
そんなこんなで一日が始まる。
明るい気持ちでいれば恋人だってできるよね、きっと!
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