第五話 江戸にサンタ
どうもトナカイです。今日はサンタへの愚痴ではなく、我々サンタが日本に初めて来たときの話を簡潔に話したいと思う。
「ジパングの子供達にもプレゼント渡したいなぁ。」
とかサンタのジジイが気まぐれに言い出したのがキッカケで、その年の12月24日の夜、俺達は日本に降り立った。
日本に来て何が困ったって、煙突も無いし、土地勘も無いし、刀怖いしで、もう早く家に帰って、動画見ながらエナドリを見たい気分だった。
いくつかの平屋の家にコッソリ忍び込み、ケンダマや独楽、そして何やら得体の知れない絵が描いてある春画というヤツを子供の枕元に置いて行くサンタ。
今回はサンタの存在を知らない子供たちに配るので、一方的なプレゼントの押し付けでしかない。要するに迷惑になる可能性もあるのである。
だからサンタのしていることは自己満足以外の何ものでも無い。
「よし、ひとしきり配ったぞい。」
「じゃあ帰りますか、ソリに乗って下さい。」
「いや最後に一つ、ブケヤシキってとこに刀届けに行くから。」
白い袋の中から刀を取り出すサンタ。そんな物もプレゼントと一緒に入れてたとかサイコパスかよ。
「オサムライさんの家だからな。やはり刀が喜ばれるじゃろ。ちなみにワシが自作した手作りじゃ。名を三田一文字(さんだいちもんじ)という。」
いやいや、刀作るとかイカれてるだろ?何だよ三田一文字って?
「じゃあ斎藤さんとこのブケヤシキに行くぞ。」
「チッ・・・ハーイ。」
「えっ?今舌打ちしなかった?」
舌打ちの件は黙秘権を貫き通し、斎藤さんの家のブケヤシキに到着した。ブケヤシキは、立派で大きな門、高い塀に360度囲まれており、中の様子も覗えない、結構侵入するのは骨が折れそうである。
「いつも通り俺は門の前で待機してますからね。プレゼント渡したら早く帰って来て下さいよ。」
「ホッホホ♪ちゃんとメリクリしてくるぞい♪」
ウザッ、良い歳したジジイが略すな、気持ち悪い。
こうしてサンタのジジイは先端に金属製のフックの付いたロープを投げて塀の瓦に引っ掛け、慣れた様子で登って、ブケヤシキに潜入した。
流石は不法侵入には定評のあるジジイである。恐れ入った。
ジジイを待つ間、近くにあった揺れる柳の木を見てボンヤリとする俺。時折、提灯を持った人が通るので、その時ばかりは物陰に隠れた。
一時間経ってもサンタが帰って来ないので、イライラして前足での貧乏ゆすりを無意識に始めてしまっている。あのジジイ何をやってるんだ?
もう置き去りにして帰ろうと考えたその時、怒号の様な声が屋敷の中から上がった。
「曲者じゃーーーーーーー‼出あえ‼出あえ‼」
物凄く嫌な予感がする。というかもう予感が外れる気がしない。
案の定、サンタが塀から頭をひょっこり出して、その顔は恐怖に顔を歪めていた。
「トナカイ‼刀は置いて来たから‼早く出るぞ‼」
「分かりました‼早くソリに乗って下さい‼」
俺も焦る。だって巻き添えで死ぬのはごめんである。
サンタが塀から飛び降りてソリに乗った。そうして飛ぼうとすると、大きな門が開いて中からチョンマゲ姿の連中が鬼の形相で刀を構えて出てきたではないか。
「斬首される覚悟は出来ているな?」
チョンマゲの一人がそう言ったが、俺が出来ているわけが無い。剝製になるのはごめんである。
「サンタさん‼捕まってて下さい‼フルスロットルで出ます‼」
「ゴー‼ゴー‼」
こうして俺達は天高く舞い上がり、日本を後にして事なきを得た。
この後、サンタもこれに懲りたのか「江戸には二度と行きたくない」と漏らしていた。
ちなみにサンタの手作りプレゼントの【三田一文字】は歴史好きな成金の手に渡り、テレビの○○鑑定団で3980円の値が付きましたとさ。
めでたしめでたし。
クリスマス・オムニバス タヌキング @kibamusi
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