第四話 黒猫のクリスマス

小生の名はクロベ―。黒猫の子猫である。

小生、母猫が亡くなって一匹で生きて行くことを余儀なくされ、程なく空腹により倒れたのだが、一人の少女に拾われて飼い猫になった次第。

他の猫は知らないが、小生この少女に一生付き従うと決めた忠犬ならぬ忠猫である。


「ただいま、クロベ―♪」


「ニャー♪」


幼稚園から家に帰って来るなり小生を抱き締める、我が主ことミサキ様。ミサキ様に抱き締められている時は小生にとって至福の時である。


「ミサキ、手を洗ってクリスマスの準備手伝って。」


「はーい、分かったー。」


ママさんからそう言われてミサキ様は手洗い場に向かわれた。

それにしても今日はやたら【クリスマス】という単語を聞くのだが、それは一体何の事なのだろう?ママさんも朝から慌ただしいし、何かのお祭りか?

手洗いから今にやって来たミサキ様は、折り紙をハサミで切って、何やら色とりどりの輪っかを繋げた飾りを作り始めた。


「クロベ―、こうやってね作るんだよ♪」


「ニャー。」


教えて頂きありがとうございます。けれどこの猫の手では飾りを作ることは叶いません。せめてもの応援でミサキ様の膝を、自慢の肉球でフミフミして差し上げます。


「クロベ―可愛い♪」


いえいえどうも。可愛いだけが取り柄の子猫ゆえに。

こうして飾りつけは進み、社畜と言われるパパさんも今日は早く帰ってきました。


「うわー、いっぱい飾り付けたね。」


ミサキ様とママさんが飾り付けた居間をぐるりと見て回るパパさん。するとミサキ様が何かをパパさんに持って来られた。


「はいパパ。モミの木のテッペンに星さんを付けて♪」


「そうだったね、それはパパの仕事だ。」


仕事?今日は早く帰れたというのに、パパさんはまだ仕事をすると言うのか?

と小生は心配したのだが、何やら飾り付けられたモミの木の上に星形の飾りを飾るだけの仕事だったので安堵した。

この後、テーブルにママさんの運び込まれた料理が並べられ、クリスマスパーティとやらが始まった。


「見て見てクロベ―♪サンタさんの格好してるんだよ♪」


赤い衣装をクルクルと小生に見せつけてくるミサキ様。正直【サンタ】さんというのは存じ上げないが、ミサキ様は何を着ても可愛いので見入ってしまった。

小生のご飯はいつもと変わらないカリカリだったが、カリカリを食べた後チュールも食べさせてくれたので感無量であった。

ミサキ様もケーキという白くて苺が乗った菓子を食べながら至福の表情をしておられた。


「じゃあ、そろそろ寝ましょうね。」


「えーもう?」


「早く寝ないとサンタさん来てくれないよ。」


「はっ、分かった早く寝る。」


寝るのを渋っていたミサキ様もママさんから【サンタ】というワードを聞くと素直になった。一体サンタというのは何者なのだろう?


「クロベ―、一緒に寝よう。」


「ニャッ。」


許しも出たので、ミサキ様の寝ているベッドに潜り込む小生。ミサキ様は小生を抱き枕代わりにして寝るのだが、そうすると拙者の寝つきも良くなるから不思議なモノである。


「サンタさん、来てくれるかなぁ?」


そう言って数秒後には寝息を立て始めたミサキ様。可愛い、本当に天使の様である。

そうして小生も寝始めたのだが、ここである物音が聞こえて目が覚めた。


“ギシッ、ギシッ”


部屋の前の廊下をゆっくりと歩いている時になる音だ。

小生はベッドから抜け出して警戒を高めた。もしかしたらこの家に泥棒でも入って、ミサキ様の身が危ないかもしれない。忠猫としてありとあらゆる危険からミサキ様を守らねばならぬ。


“ギッ、ギィイイイイイイ”


扉がゆっくりと開いて現れたのは、赤い帽子に赤い衣装を着た白髭の不審人物だった。


「シャアアアアアアアアア‼」


精一杯の威嚇をする小生。小さいからといって舐めるなよ。事と次第によっては刺し違えてでも・・・。


「わっ、クロベ―。大きな声出さないで、僕だよ僕。」


白髭の人物はそう言って髭を取って素顔を晒した。その顔は、まごうことなきパパさんであった。だが何故パパさんがこの様な面妖な格好をしているのだろうか?


「スース―・・・Zzz。」


「ホッ、良かった。ミサキはまだ寝てるみたいだ。とにかくクロベ―警戒しなくて良いから。でもいつもミサキを守ろうとしてくれてありがとうね。」


優しく小生を撫でるパパさん。パパさんの大きな手は威圧感があるが、手付きは本人の優しさが滲み出ており、これまた至福の時である。


「プレゼントの中には君のも入ってるから、明日の朝楽しみにしておいてね。メリークリスマス♪」


そう言ってパパさんはミサキ様の枕元に何か大きな箱を置いて帰って行った。

箱の中身は気になるが、小生はとりあえず再びベッドに戻り、再び寝ることにした。

そうして朝になり、朝日が部屋に差し込んで来て小生が起きると、ミサキ様も一緒のタイミングで起きた。

そうしてすぐにパパさんが置いた箱に気が付いて目をキラキラさせた。


「ク、クリスマスプレゼントだ‼サンタさん来てくれたんだ‼」


「ニャッ?」


目を輝かせるミサキ様だが、来たのは【サンタ】さんではなくパパさんである。間違いを訂正したいが人の言葉は話せぬしな。

ミサキ様は箱の包装を破いてから箱を開け、中から大きなクマのぬいぐるみを取り出した。そうしてクマのぬいぐるみを嬉しそうに抱き締める。


「サンタさんありがとう♪」


むぅぅ、パパさんめ。私のライバルをミサキ様にプレゼントするとは、小生の嫉妬の炎がメラメラと燃えてくるではないか。抱き締められるのは私の仕事である。


「あっ、箱の中にまだ何か入ってる。これクロベ―のだって。」


ミサキ様は箱の中から、今度は小さなクマのぬいぐるみを取り出し、小生に差し出して来た。

これが小生の物?よく分からないが、とりあえずミサキ様のやっている様に、そのクマのぬいぐるみを抱き締めてみた。なるほど、悪くはない。今日からコイツを小生の弟子にしてやろう。

と、まぁ結局クリスマスというモノの全貌はよく分からなかったが、一応言わせて貰おう。

メリークリスマス。


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