第二話 煙突の無い家
僕は父を早くに亡くした。小学五年生の頃である。
「これからは節約しないとね。」
父が死んだあと、母は疲れた顔で僕にそう言うので、生活が厳しくなることを悟った。
住んでいた家を売り払い、アパートに引っ越した僕ら。
すると僕は父さんに言われたことを思い出した。
「大きな煙突のある家には、サンタさんがやって来るんだぞ。」
僕の前に住んでいた家には大きな煙突があり、サンタさんが毎年プレゼントを枕元に置いてくれていた。ゆえに幼い頃の僕はそうなんだと目をキラキラさせていたが、小学五年生の僕は父がサンタということを知っているので、煙突が無くなってサンタが来なくなることが無性に切なくなった。
あれから何年の月日が流れただろう?社会人になって、好きな人と結婚して、子供が生まれて、家を建てることになった。このご時世、家を建てるのもお金が掛かって大変だが、僕には夢があった。
その夢の為に家の図面と睨めっこしていると、三歳の息子がトコトコと歩いてやって来た。
「なにしてるの?」
「うん、新しい家に大きな煙突を付けようと思ってね。」
「えんとつ?なんで?」
この時、自然と父の言葉が頭に蘇り、息子にもそれを伝えることにした。
「大きな煙突のある家には、サンタさんがやって来るんだよ。」
これを聞いてキョトンとする息子。暫くするとこう返して来た。
「でも、まえもサンタさんウチにきてくれたよ。」
これには私は苦笑するしかない。そうだよな煙突が無いからって父親がサンタをやらないで良いってことにはならないよな。
いつの間にか、煙突=サンタが来るという概念が頭に出来上がってしまっていた。
良い機会なので、そんな概念を僕に植え付けたサンタさんの墓参りでもしてくるかと、愛しの息子を抱っこしながら考えている。
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