張り込み

 明け方ブルーベリーの茂みに隠れて罠を見張る。警官が実を食べているメイベルを叱った。

「やめてください。木が揺れます」

「ごめんなさい。つい」

(人間は実を取りやすい手で便利だわ)

「後でウチのを採ってあげますよ」

「しっ!静かに!」

 大きい声のジュリアンを注意する。

(お巡りさんの方がうるさいわ)

 実を取るのを止められたメイベルは退屈で自分の長い髪を弄った。三つ編みにし終えて後ろ髪が長いジュリアンの銀髪を見つめ目で訴える。

 ジュリアンはオーバーにどうぞ、と肩を竦めて手を挙げた。ひとの髪は弄りやすいわ、と嬉々として四つ編みにする。どう綺麗でしょう!と鏡でジュリアンに自慢していたら、横目で見ていた警官が慌ててコンパクトを閉じて反射します!と口の形だけの無声で怒った。

 罠を見ていたジュリアンが警官の背中を叩いて指差す。見ると男が罠の位置を直していた。

 取り澄まして出て行き職務質問をする。

「何をしているんですか?」

 制服姿の警官を見るなり男が逃げた。

「「「あっ」」」

 三人で追いかけるがメイベルは病院から借りた松葉杖だ。

「グロッシュラーさんは待っていてください!」

 そうもいかないから「はい!」と返事だけする。片足で飛び跳ねよく知った森を気配を追って先回りして、男が通りかかったところを松葉杖で転ばせた。それをタイミングよく追いついたジュリアンが取り押さえる。

 松葉杖を大きく振り上げて殴ろうとしていたのは見なかったことにしてくれた。

「お二人とも足が速い……」

 警官が息も絶え絶えに公務執行妨害の現行犯で連行した。

 農夫は私を挟んだ罠と指紋が一致して白状したが、遊歩道だと知らなかったと愚痴った。

(ウサギの私がかかった罠は私有地でも、幾つかある罠のうち公道の場所の罠で怪我した人間の私は不運な通行者だ。私は無実、あなたは犯罪者。復讐と恩返し出来たかしら?)

 ジュリアンを見遣ると何やら考え込んでいた。

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